『G』の日記   作:アゴン

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今回ややとばしめ。



その74

 

 

 

/月*日

 

ネオ・ジオンの総帥、シャア=アズナブル。UCWで起こった一年戦争では当時ジオン軍で、アムロ大尉と何度も激戦を繰り広げた、赤い彗星の異名を持つパイロット。

 

破界事変と再世戦争、二つの大きな戦争で何度か同じ戦場に立った事はあるが、それはあくまで彼がクワトロ=バジーナを名乗っていた頃の話だ。シャア=アズナブルとして、しかもネオ・ジオンの総帥として、モニター越しとは言え自分と相対する彼に、自分は少なからず驚いていた。

 

そもそもどうして自分があの宙域にいる事を知っていたのか。最初にその事を彼に尋ねて見ると、何でもトライア博士が自分ならここに来るだろうという話を聞いていたらしいのだ。

 

トライア博士はロボット工学とエネルギー工学の権威であり、更には超時空物理学の第一人者だ。確かにスフィアを使ったクロウさんの機体を作り上げた彼女なら、グランゾンがどういうモノなのかある程度理解出来るだろうし、それに伴って自分がどのポイントに現れるか見当も付くだろう。

 

しかし、トライア博士とシャア=アズナブルの間に何故繋がりがあるのだろう。当然その事も聞いてみたのだが、それは話せないとキッパリと断られてしまった。

 

で、そこから話は本題に進もうとした時、彼は自分に単刀直入に訊ねて来た。自分ならあの時の牢獄は破壊できるのかと。

 

結論を言えば可能だ。今はまだ時の流れの差異がそんなに激しくないし、進行も緩やかな為に、今なら通常形態のグランゾンでも充分に対応可能だ。

 

その事を伝えるとシャア総帥は両腕を組み、暫く考えに耽っていた。時間的には一分も経過していない僅かな時間だったが、相手が相手なだけにその時の自分の時間の流れは最高潮に達し、緊張感の所為で途轍もなく遅く感じた。

 

そしてその後、シャア総帥は自分に時の牢獄の破壊は待って欲しいという頼み込みをしてきたのだ。当然自分は反対した。何故人類の未来を閉ざすような牢獄をみすみす見逃さなければならないのか、時が止まると言う事は子供はその成長を止め、永遠に子供として生きていき、お腹に赤子を孕んだ妊婦は一生自分の子供を見ることなく死んでいくのだ。

 

ネバーランド処の話ではない。時の牢獄が完成した時、地球はその名の通り地獄と化す。劇的な変化や見た目が変わる訳ではないから自覚はないかもしれないが、それはもはや死んでいないというだけの話だ。そんな未来が後一年もしない内に迫ってきている。

 

この時の俺は内心怒りでどうにかなりそうだった。折角再び動き出したリモネシアの皆をこんな形で終わらせようとする誰かに、そしてそんな未来を知った上で待てと言ってくる目の前の男に。俺は突っかかる事を堪えるだけで精一杯だった。

 

けれど、そんな怒りもその直後に萎える事になる。何せ、モニター越しとはいえ組織のトップとも言える男が自分に頭を下げているのだ。頼むと、深々と頭を下げてそう言ってくるシャア=アズナブルに、自分は何も言えなくなってしまっていた。

 

自分の知るクワトロ=バジーナは戦いだけでなく頭もキレてZEXISの皆が頼れる頭脳担当の人だった。しかもその後の話で知ったのだが、なんでも破界事変や再世戦争では一時期トレーズさんの所でお世話になっていたらしく、あの人から色々学ばせて貰っていたと聞いた。

 

そんな人がネオ・ジオンの総帥という立場に立っているのはきっと相当深い理由があるのだろう。これでまたどこかの誰かさんの様にライバルと決着を着けたいとか抜かしたらBHCをブッパする所だが、彼の様子を見る限りその様子はなさそうだ。

 

きっと、彼の目的もこの時の牢獄に関する事なのだろう。彼の真意を汲むことで納得する事にした自分は、いよいよという時になったら容赦なく時の牢獄を破壊すると、条件付きで承諾する事にした。

 

で、その後自分とシャア総帥はそれぞれ新世時空振動による情報を交換していたのだけれど、この時に面白い情報を彼からもたらされた。

 

“クロノ”何だか聞く限り怪しく思えるその組織は、どうやら地球連邦の深い所に根を降ろしているらしく、しかもソイツ等は地球至上主義の連中を裏で糸を引いている可能性がかなり高いというのだ。

 

ネオ・ジオンが連邦と小競り合いを続けるのは、そのクロノという連中を表に引きずり出して叩く事が理由の一つらしい。

 

けど、そろそろ小競り合いなんて規模じゃなくなるかもしれない。最近の様子を聞く限りじゃ、どうもこの人そろそろ本格的に地球連邦と対立するつもりのようだ。

 

個人的には地球至上主義の連中がどうなろうと知った事じゃないが、流石に知り合いが戦争を起こそうというのはちょっとアレなので無駄を承知で止めようとしたのだが……これまたそれは出来ないと断られてしまった。

 

今の彼はどことなくトレーズさんと似ているが、あの時とは状況が違う。だからといって戦争をする奴を見逃す理由にはならないが、今のシャア=アズナブルにはそこまで頑なになる理由があるのかもしれない。

 

どちらにしても今の自分ではどうする事も出来ない。このままネオ・ジオンに乗り込んで先手必勝とばかりに叩くのもアリと言えばアリかもしれないが、それでは今後の行動に大きく支障をきたす恐れがある。

 

まぁ、もしシャア=アズナブルが地球連邦に対し宣戦布告をするのならその時に自分に出来る事をするしかないだろう。取り敢えずこれから行く先で連邦とネオ・ジオンが戦闘していたら、取り敢えず両成敗って事でどちらも叩いておく事にしよう。

 

その後も自分とシャア総帥の情報交換は続き、取り敢えずお互いの立場は敵対する事にはならない事になった。自分も見知った顔とやり合うのは気が引けるし、なにより赤い彗星と戦うのは実力的な意味でも気が引ける。

 

さて、そんなこんなで一応互いの事ははっきりさせた事だし、当分の間はネオ・ジオンの事は静観してもいいだろう。シャア総帥も自分がエルガン氏から知らされたサイデリアルについて調べるつもりだし、取り敢えず彼等に関してはこれで終わりにしてもいいだろう。

 

ただ、通信が終わる際向こうの扉から覗かせた、あの仮面の男が少し気になった。何だか雰囲気がシャア総帥に似ていたし、もしかしたら彼に双子の弟とかいたりするのだろうか? もしくはクローンとか。

 

……やめておこう。今のは流石に不謹慎過ぎる。隣の部屋にはナナイ女史がいる事だし、今日はこれで大人しくしておこう。

 

 

 

Π月(`・ω・´)日

 

ナナイ女史の案内のもと、地球圏へ戻ってきた自分はグランゾンを駆って日本の南、即ち沖縄へと来ていた。降り立ったポイントが偶然にもここに近かったし、ここの所気を張りつめていたから休憩も兼ねて、沖縄の街並みを散策していた。

 

沖縄はリモネシアと同じ南の島だから何となく似た雰囲気を感じる。ラトロワさんやシオさん達は元気かなと考え事をしていると、意外な人物と遭遇した。

 

カミシロ=ヒビキ君。再世戦争の頃にお世話になったカミシロ一家の長男で、とても前向きで負けず嫌いな将来有望の若者。どうやら修学旅行で沖縄に来ているらしく、今は部活動のゴミ拾いをしているのだそうだ。

 

沖縄に来てまでゴミ拾いとか、相変わらず面白い子だ。……ただ、前とは違って何だか元気が無いように見えたのが少し気になった。自分と話をする時は以前と変わらない様子だったが、何だか辛い事を我慢しているみたいだった。

 

本人に尋ねて見ても何でもないの一言で終わらせてしまう。まぁ、嫌がる事を無理に聞くのもアレだし、仕方ないと言えば仕方ない。

 

しかし、オジサンと姐さんには自分も世話になったし、自分からしたら放っておけないのもまた事実。今後またどこかで顔を合わせる事もあるだろうし、その時は気軽に声を掛けて前みたいに組み手をしてもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……シュウジさん、元気そうだったな。良かった」

 

「どうしたヒビキ、不審な人物でも見かけたか?」

 

シュウジとの別れを告げ、学友の所へと戻るヒビキ。同じ学友の相良宗介からの言葉に苦笑いを浮かべながら、違うと答えた。

 

「ちょっと昔の知り合いと出逢ってな。少し話し込んで来ただけだ」

 

「ヒビキの知り合いか。お前ってジークンドーとかいう武術を親父さんから学んでるんだよな? もしかしてそれ関連?」

 

「まぁな、その人は空手の達人でな。何度か手合わせした事があるんだけど、それはもう凄い人だった」

 

「へー、お前がそこまで言うなんてな。本当に凄い人なんだな」

 

「あぁ、一度も勝てなかったからな。俺をあそこまで叩きのめせる人なんて父さん以外知らなかった」

 

ヒビキの珍しい昔語りにボランティア部の面々は興味深そうに聞いている。そんな時、教育実習生の女性が早く来なさいと声を掛ける。

 

「やっべ、スズネ先生がお冠だ! 早く戻ろうぜ」

 

「分かった」

 

自分達の名前を呼んでいる教師見習いの下へ急ぐ面々、そんな中ヒビキは一度だけ振り返り。

 

「シュウジさん。また、会えるかな?」

 

嘗て知り合った自分の兄貴分の事を思い出し、再び皆の所へ駆けていくのだった。

 

蒼き魔人と禁忌に触れた少年、二人の再会は……近い。

 

 

 

 




ボッチ対ムッツリ、勝つのはどっちだ!?


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