────そう言えば、あの同人弾幕ゲーって新作出たのかな? 目の前に広がる弾丸の壁を回避しながら、俺はトールギスⅡのコックピットでそんな考えが一瞬脳裏を掠めた。
眼前に迫る弾を最小限の動きで回避し、地上へと着地する。その際に周囲の敵の数を軽く索敵してみたのだが……いやぁ、いるわいるわ。同じ機体のあまりの数にちょっと気持ち悪くなってきた。
マリーメイア軍が使用しているのは“サーペント”その形状からトロワ君のヘビーアームズを彷彿とさせる機体で、武装はダブルガトリングといった重火器を主にしている。
グランゾンで出れば時間も掛からず直ぐに殲滅出来るが、今自分が乗っているのはトレーズさんの形見の一つでもあるトールギスⅡだ。いつもの様に突出して敵を粉砕するのではなく、頭を使って戦うべきだろう。
───尤も。
「この程度の相手に遅れを取るつもりはないがな」
接敵したサーペントの弾幕を潜り抜け、地面を這いながら詰め寄った所に一閃。ビームサーベルを抜いた自分はサーペントの足を切り裂き、行動不能に陥らせた。
今の自分は確かにグランゾンに乗ってはいないし、実際機体性能ではトールギスⅡがグランゾンに勝っている部分は少ないだろう。だが、それがトールギスⅡが戦いに於いて不利な条件だと思うのは間違いである。
「戦いに於いて常に有利に進められるのは兵の数を費やした者……しかし」
背後から押し寄せてくるサーペントの群をそれぞれドーバーガンで頭部や手足を撃ち抜き、機体を行動不能にする。
確かに戦争は数だ。それだけで戦局は有利になるし、勝率もグンと跳ね上がる事だろう。だけど忘れてはならない。戦うのはあくまでパイロット、自ら思考し、行動し、実行する人間だ。戦いという極限の状況に追い詰められた人間は必ず何処かでミスをして、隙と呼ばれる瞬間を生み出す。そこを突けば、戦いは一瞬の合間に終わる時もある。
特に、今の自分はトールギスⅡに乗っている為に動揺している兵士は多く、今倒した二機も、トレーズさんに自分達が否定されていると思って動揺したのだろう。
少々卑怯なやり方に思えるが、相手は大軍を引き連れているのだ。この程度の搦め手は見逃して欲しい所である。
……つーか、コイツ等の背後って絶対何かいるよね? バートンって財団はかなり大きい所みたいだけど、一つの都市にこれほどの数のサーペントを配置させるのはちょっと考えられない。
「まぁ、今は余計な詮索をするよりも、目の前の敵を何とかする所から始めようか」
スラスターに火を灯し、再びトールギスⅡを走らせる。すれ違いざまに何機かサーペントを落とした自分は、リリーナさんやナナリーちゃん達のいる施設へと向かうのだった。
◇
「バカな、何故あの機体がここに!? アレは再世戦争の際に破壊されたと聞いたぞ!」
目の前に映し出されている光景にデキム=バートンは激しく狼狽し、動揺していた。額に滲み出てくる冷や汗を拭う事もせず、ただモニターに映し出される自軍の機体が破壊される様を目にしていた。
トールギスⅡ、それは再世戦争の際OZの総帥だったトレーズが人類最後の戦いを飾る為に用意した機体。たった一機で当時地球最強の部隊であるZEXISを翻弄し、対等に渡り合ってみせたという逸話は、今も彼の部下だった兵士達が嬉々として語り継いでいる。
そんな機体を最初に見たとき、当然デキムはあの機体を偽物だと判断した。どこかの誰かも知らない輩がトレーズの名を騙っているだけの、ただの虚仮威しだと。
しかし、そんなデキムの予想とは裏腹にトールギスⅡは此方の対空砲撃を一度も掠る事なく回避し、此方の領域に侵入してきた。それだけでも驚愕すべき事実だというのに、トールギスⅡはそのまま加速を止める事なく吶喊し、立ちはだかるサーペントを悉く破壊していく。
しかもパイロットを殺す事なく、戦闘不能にしている事から戦線の士気はがた落ちし、倒された兵士達は立ち上がる事なく、皆散り散りに逃げていく。
だが、それはある意味当然とも言えた。マリーメイアを旗印に集まった兵士の多くはトレーズを信奉する者達だ。自分達が敬愛していた人物が乗っている機体が敵対し、自分達を否定していると知れば、その戦意は根刮ぎ奪われる事だろう。
……メチャクチャだ。たった一機を相手にここまで翻弄されては、最早戦線を立て直すのは難しいだろう。仮にあの機体が偽物で乗っている者がトレーズではないというのなら、一体誰がそれを証明出来るというのだ。
再世戦争ではたった一機でありながらZEXISに引けを取らなかったとされるトールギスⅡ、その機体に今また一瞬で三機撃破された事実を前にデキムは歯を食いしばり、動揺を隠そうとするだけで精一杯だった。
そんな中、ふと隣を見ると、そこにはモニターをデキム以上に食い入るように見ていたマリーメイアの姿があった。その表情にはデキムのような焦りの色は無く、ただ目の前で戦う父の機体を眺めていた。
「……これが、父のモビルスーツ」
一体、また一体と次々にサーペントを撃破していくトールギスⅡ。多対一という圧倒的不利な状況の中、一歩も引かずに……寧ろ押し返していく父の機体にマリーメイアは目を丸くさせてその様を見つめていた。
「……貴方の父、トレーズ=クシュリナーダは戦いこそが人間を彩らせると語っていました。戦いに於ける一瞬の刹那、その瞬間にこそ人という種は輝き、散り様は何物にも勝る美しさを持つと、当然その考えには多くの人達が反対し、批判し、拒絶しました」
そんな誰もがトールギスⅡに視線が奪われる中、リリーナ=ドーリアンはマリーメイアに語り聞かせていた。
「けれど同時に彼は平和の尊さを理解していました。何故戦いを肯定する彼が平和を理解出来るのか、それは平和が戦いの上に成り立っているからです。だからこそ彼は戦いの正当性を説き、そして戦いの悲惨さを伝えたかったのです」
トレーズ=クシュリナーダは望んだ、自分は敗者になりたいと。それは戦いの悲惨さを自らが体現し、証明とし、それが人々の平和の礎になりたいという彼の想いの現れ、即ち───愛だ。
彼は戦いを肯定し、戦いの中で生まれる散り様の兵士を慈しみ、そして人類を愛した。いつか自分の愛する人類がシンカを迎える事を信じて。
「彼はやり方を間違えた。彼は先を急ぎすぎた。私は今でも彼を否定しています。けれど、彼の人類に対する愛は紛れもなく本物だった」
「な、なにを……」
「マリーメイア=クシュリナーダ!」
「っ!?」
「貴方はそんな父の愛に胸を張れますか! トレーズ=クシュリナーダの想いに応えられると断言できますか!?」
「あ、あぁ……」
「黙れ小娘がぁぁっ!」
リリーナの語りにマリーメイアは遂に押し黙る。父の大きすぎる愛に、そして深い想いに、マリーメイアは立っている事すら出来ず、その場に座り込んでしまった。
そんな彼女の前にデキム=バートンが立ち、リリーナに向けて銃口を突きつける。
「思い上がるなよピースクラフトの亡霊が! 人質として大人しくしておれば良いものを!」
「……人質、ですか?」
人質として大人しくしろ。憔悴した表情で銃口を向けるデキムとは対照的に、銃を突きつけられたリリーナは自らの命の危機の前に、不敵に笑って見せた。
何が可笑しい! そういきり立つデキム、ならば今すぐその綺麗な顔に風穴空けてやると引き金を指を乗せたその時、司令部に通信受信の音が鳴り響く。
何だと思い部下の兵士が回線を開くと、リリーナに馴染みのある声が聞こえてきた。
『こちらヒイロ=ユイ、マリーメイア軍に通達する。シェルターの防御は完璧か?』
「なんっ……!?」
それは今マリーメイア軍が総力を挙げて戦っている部隊、Z-BLUEのメンバーの一人であるヒイロからの通信であった。敵である筈の彼が一体何の為に通信を寄越してきたのか、疑問と動揺に返信が鈍るデキム、そんな時彼の声を耳にしていたリリーナが代わりに応えた。
「ヒイロ、私はここにいます! 貴方のやり方で貴方の思う形で世界に示しなさい! トレーズ=クシュリナーダが何故あの戦いを起こしたのかを!」
「何を!?」
『────任務、了解』
───瞬間、司令部に凄まじい衝撃が襲ってくる。地中にいる筈なのに、その激しい振動によってデキム達の足場が激しく揺れる。まるで大きい地震に巻き込まれている錯覚に陥りながら、デキムはモニターに映る映像に振り返る。
外の様子が映し出されている映像、黒の夜空が空を覆う中、一つの光が星の様に瞬いていた。光を抱いて空に浮かぶのは白い翼を持ったモビルスーツ、ウイングガンダムゼロのカスタム機だった。
今の衝撃はあの機体の持つ大出力の粒子砲によるモノだろう。戦略クラスの兵器でも耐えられる防御壁が揺さぶられるのは驚きだが、それでも障壁が破られる事はないと安堵したのか、デキムの表情に余裕が生まれ始める。
「は、ははは! バカめ! 今更そんな兵器でここが突破できると思ったか!」
デキムが乾いた笑みを浮かべるのも束の間、直後に襲われる第二射による衝撃に、再びその表情が焦りに変わる。
「シェルター直撃! 次弾来ます!」
「無駄なことを!」
そう、デキム=バートンの言うように空に浮かぶガンダムは全て無駄、徒労に終わる。度重なる戦闘と二回続けて放つバスターライフルの反動によって既に機体はボロボロ、更に地上からの弾幕に晒された事により、ウイングガンダムゼロは撃墜寸前のスクラップと化している。
そんな彼の姿にデキムは声を上げて笑い出す。滑稽だと、無様だと、そう蔑む彼の顔は酷く歪んでいた。
だが、次に聞かされる部下からの報せによりその表情に陰りが生まれる。それはこの街に向かって大勢の市民が押し寄せてくるという報告だった。
それは、例え困難に晒されようと戦おうとするZ-BLUEと、無駄だと分かっていながら挑み続ける空に佇むガンダムによる“戦う姿勢”そのものに共感したモノだった。
人は、生きているだけで戦っているのだ。それに負けず、未来へ向けての歩みを止めず、突き進む。それこそがトレーズが人類に伝えたかったモノ。
小賢しい。押し寄せてくる市民を鬱陶しいと罵倒するデキムだが次の瞬間、三度目の衝撃が司令部を襲った。
「しぇ、シェルター破損! 突破されます!」
「やめろぉ! ここにはリリーナがいるんだぞ!」
破れかける自慢のシェルターにデキムの表情が再び焦りに彩られる。ここには人質であるリリーナやナナリーがいる。それでも攻撃を止めようとしないヒイロに、デキムは再びリリーナに銃口を突きつける。
「止めさせろ! 今すぐ奴に攻撃を止めさせろ!」
「………」
デキムの必死な命令にリリーナは応える事無く目を伏せる。けれど巻き込んでしまったナナリーにリリーナは済まないと目で語りかけた。申し訳ないと謝罪の意を示してくるリリーナにナナリーは優しく微笑んだ後、気にするなと首を横に振る。
既に覚悟を決めた二人、これからの世界の為に既に命を捧げる事を決意した彼女達に最早デキムの脅しは通用しなかった。ならば望み通り殺してやるとデキムが引き金に掛けた指を動かそうとした……次の瞬間。
「──だめぇッ!」
「っ!? この、ガキがぁっ!」
「マリーメイア!」
幼い少女がデキムに銃を撃たせないと掴み掛かる。その事に一瞬面食らうデキムだが、次の瞬間憤怒の顔を浮かべ、マリーメイアを力任せに振り解いた。
初老とはいえ成人男性であるデキムの力に幼いマリーメイアが抗える筈もなく、彼女は壁に叩きつけられ、力なく床に倒れ伏す。
彼女を助けようにも既にマリーメイアには銃が向けられている。此方が一歩でも動こうとしたら即座に彼女を撃つ事だろう。幼い少女に銃口を向けるデキムに侮蔑の念を抱くリリーナ。
「ドイツもコイツも、ワシに逆らいおって、今まで育ててやった恩を仇で返すかマリーメイア!」
「あ、あぅぅ………」
既に、彼女の意識は朧気だった。破壊された筈のトールギスⅡの乱入、リリーナによって知らされた亡き父トレーズの愛の大きさ、そして今自分が起こした矛盾な行動、これらにより生まれた頃から施されてきた洗脳という名の英才教育に縛られた精神が悲鳴を上げ、彼女は既に限界まで追い詰められていた。
そんな彼女を見下ろしながらデキムはほくそ笑む。
「……まぁいい。所詮貴様はワシの木偶、代わりは直ぐに用意出来る」
「────私は、代わり」
「───死ね」
突きつけられる代替品という言葉にマリーメイアはその目に涙を滲ませる。涙を流すなんていつ以来だろう、そんな考えが脳裏に浮かんだ時。
“─────脚破・捻り貫手”
頭上から蒼いナニカが両者の間に落ちてきた。混沌とした司令部、何事かと叫ぶデキムの声が遠くに聞こえる中。
(……父……様?)
立ち上がった白のコートを見てマリーメイアは父の背中を幻視し、気を失った。
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
そしてもう一つ先に謝っておきます。
ゼロ&スザク君、ごめん。