戦国†恋姫~忘却せし鬼滅の剣士~   作:誤峠うとご

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第3話「剣丞隊結成と再会」

 

 

 兄との出会いにより、記憶が徐々に思い出してきた耳飾りの剣士、時任縁壱は戸惑っていた。

 

「この柴田権六壬月勝家は感動した! 寝泊まり出来る場所が決まるまで家に住め!」

 

 そう声高らかに言ったのは、織田家随一の家老である壬月からの提案もとい強制であった。

 闘気乱れ、剣気によって切断された木々を横目に、壬月は同じ武辺者として、武者として、その強さの道程に感涙を流した。

 その険しく厳しい酷道であったであろう剣の道を、この巌勝(みちかつ)は見事、トラウマであろう弟に打ち勝ったのだ。

 弟に勝ったのではない、弟に怯えた己に勝ったのだ。

 数年前にぶらりと現れ、幼少の久遠を助けたその不明(わからず)者の剣士を迎え入れた時は大変喧嘩し合った仲でもあり、今では背中を預けるほどに信頼している酔いどれ男、時任巌勝。

 そんな巌勝から、どのような経緯でこの地に着いたのか。

 どんな苦労を得て、現実から逃れるように酒に溺れていたのか、訳を聞いていた壬月や麦穂は、胸が張り裂けそうなほどに感情が激しくなっていた。

 それはあの場に立っていた者なら、肌で感じていたものだった。

 その身全てを賭けた一刀。

 命の取り合い。

 兄弟の想い。

 

「よかったなぁ、巌勝」

 

 潤んだ瞳を浮かばせながら、酒を煽る壬月。

 今は柴田家で巌勝と縁壱を寝かせている。

 

「凄い試合でしたね」

孺子(こぞう)を確かめる為のものだったんだがな。凄いものを見れた」

「……あれは、武の境地でしょうか」

「さぁな、しかしあれほどの決闘は人生で見たことはない、血が騒ぐ以前に泣いていたわ」

「わたしもです……」

 

 一緒に酒を飲んでいる麦穂も、感動の余韻を浸っていた。

 三若でもある佐々成政(わかな)滝川一益(ひな)前田利家(わんこ)も泣いていた。

 一握りしか至れない、剣の至高の領域を見た。

 

「……まったく、鬼柴田と呼ばれた我が身は一体何なのか分からんな」

「きっと、比べてはいけないものです」

 

 戦場に立ち、死線を越え、武の道に少しでも歩んだ者がいれば、あれは感動せずにはいられない領域だった。

 強き者が見るだけでも、その壁の高さを知り、そこまでの距離に絶望しながらも、もがき足掻いた結果の剣。

 掠っただけだったかもしれない、しかし、届いたことに満足そうにして笑った男、巌勝に二人は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、剣の腕は確かなことが分かった上で、記憶が少し戻ったこともあり、織田家剣術指南役・時任巌勝と共にいることを久遠から命じられる。

 苦い顔をしながらもそれを受け入れる。

 縁壱と名前が分かった耳飾りの剣士は、兄の巌勝を覚えており、巌勝の案内をされて、遠い親戚で顔も会わせたこともない時任家にやってきた縁壱。

 人里離れた距離を呼吸を使って、常人より早い歩法で山に着いた二人は、杣人(そまびと)として生計を立てている時任家に着いた。

 

「あ、酔いどれが帰ってきたよ。父さん」

「そんな言い方はダメだよ兄さん、本当のことだけど」

 

 可憐な少女にも、儚い少年にも見える中性的な黒髪長髪の双子が切った木材を運びながら、親戚の巌勝に厳しい言葉を投げ掛けるが、それを父が嗜める。

 

「おい、有一郎に無一郎、師に向かってなんだその口は」

「なら薪割りやらやってくれよ」

「もうここまで来るのに疲れた。今度やる」

「ふざけろ」

「兄さん口が悪いよ」

「も、申し訳ない巌勝! これ! 有一郎!」

 

 『本当のことだよ父さん』と辛辣な言葉を投げ掛ける有一郎に困り果てた父だったが、巌勝は笑う。

 

「あれぐらいの気概で充分充分。有無太(うむた)もそんなに困るな。俺は気にしてない」

「いやぁ、すみません」

「奥方は?」

「もう夕飯の支度をしてます」

「追加で二人頼めるか、弟の分も」

「なんと!?」

 

 有一郎と無一郎の父、有無太が驚き、巌勝の後ろで無表情のままたっている剣士に言われて気付く。

 額の痣が特徴的で、両耳には日輪を象った耳飾りをしている男。

 

「では、縁壱さん……」

「あぁ、そうだ」

 

 巌勝からも話を聞いていたのだろう。有無太は巌勝が絶望し、そして挫折した原因でもある縁壱を見て冷や汗を流す。

 兄弟気まずい空気を撒き散らしながら夕飯を食べるのには少し気疲れしそうな心配をするが、巌勝は『もう大丈夫だ』と有無太の肩を叩く。

 それを聞き入れ、巌勝と縁壱を入れて家族で夕飯を食べれば、子供特有の興味持ち始めると質問攻めをする流れとなり、巌勝による昔話をして、どういった経緯で巌勝がこの時任家に流れ着いたのかを説明した。

 笑いながらも、どこか憑き物が取れたような口振りの巌勝に、話を聞く時任一家も聞き入っていた。

 巌勝の問いにしっかりと答えるも、少し記憶が欠如している縁壱だったが、この会話や団欒が幸せであることが何より嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、縁壱は酒で寝ていた兄を起こし、時任家に感謝の言葉を告げてから織田家にへと向かい、そこで自分の処遇が言い渡される。

 酔いどれ飲兵衛の異名を持つ巌勝にも仕事をさせるべく、縁壱と同様に天より落ちてたと言われる少年を中心とする部隊《剣丞隊》に配属となった。

 織田三朗久遠信長の未来を見越した着眼点か、それとも天性の勘か。新田剣丞を夫とし、更にはこれからの為に必要な独立部隊の結成を言い渡していたのだ。

 縁壱の神域に渡る剣技を、最上の護衛役として剣丞と共に居ることを命じた。

 

「縁壱は剣丞隊に、そして巌勝は我の護衛兼剣丞隊の情報伝達係とする」

 

 織田家当主の命令に、泣く泣く従う巌勝と。

 不思議とあの少年からは『何かの中心としてこれから面倒事が巻き起こりそう』な雰囲気を察した縁壱はそれを了承する。

 未だに縁壱を警戒すら家臣たちがいるが、当主の決定には逆らえないのが現状である。

 だが今はそれどころの問題じゃなかったことが助かった縁壱。

 織田家に早馬がやって来ていた。

 評定の間にて、さっそく集められる織田家家臣たちと天より降臨した天上人の新田剣丞。

 

「では、評定を始める」

 

 下座にいる家臣たちと、上座に座る久遠の横に、夫たる剣丞も座り、議題に入る。

 久遠の言葉に部屋に詰めた武士たちが、一斉に頭を垂れた。

 

「まずは状況を整理する。五郎左。言え」

「はっ。……先ほど、墨俣の地にて出城を築くべく、現地に出向いて佐久間様の部隊が壊滅。敗走してくると早馬が到着しました」

「な、なんだってーーー!!」

「いや、そこはそんなに驚くことじゃないでしょー」

「仕合の時に報せが来てたじゃん」

「わ、分かってるよそれくらい!」

 

 三若が反応するが、スルーして壬月が続ける。

 

「墨俣は長良西岸の中州に位置する。……長良の向こうはすでに斉藤家の勢力圏なため、築城するにはかなりの困難が予想されていたが……」

「はい。まさかこれほどまでに早く、佐久間様の部隊が壊滅するとは……」

 

 驚きが隠せない麦穂だったが、久遠は続ける。

 

「困難は分かる。しか美濃攻略ほためには、是が非でも墨俣に城を築かねばならん」

「しかし殿……」

「言うな。……蝮から託された美濃を、いつまでもあのうつけの龍興に任せておくなど、許せんことなのだ」

 

 縁壱その話を淡々と聞いていく。

 次は誰が築城を任せられるかという放しになっていく。前田犬子利家が『和奏がやれば?』と佐々和奏成政に言うが『ボクが出来るわけないだろー』と威張る。それには滝川雛一益が困り顔で威張ることじゃないでしょー、とツッコむ。

 そんな時に、久遠の横にいる剣丞が『あー……あのさ、ちょっといい?』と口を開く。

 家臣の武士たちが一斉に剣丞に注目される。

 縁壱は少女の発言する勇気に心の中で賞賛する。

 

「どうした剣丞。何か意見があるのか」

「意見っつーかなんつーか。……その墨俣のお城、俺がやってみようか?」

「………………なんだと?」

「ちょっとやり方、分かるかもしれないし、一度、挑戦するのもありかなーって」

 

 この凄い発言には流石に家老が黙らない。

 

「阿呆ぅ。素人が何をぬかす。貴様が考えているよりも、遥かに困難な任務なのだぞ?」

「そーだそーだ! ちょっと強い……じゃなかった、ちょっとだけ腕が立つ……でもない、ちょっと調子に乗れるからって調子に乗るなよー!」

「和奏、そのツッコミ意味が分からない」

「まぁでも言いたいことは分かるかなー。和奏らしいツッコミだと思うよ?」

「うっせー、おまえはちょっと黙ってろってば!」

「はーい。けど、剣丞くん、なんでまたそんなことを?」

「何と言うか……まぁあれだ。計算の答えを先に分かってるならさら、式は何とでもなるというか、そんな感じ」

「どいうことです?」

 

 今の時代では分からない言葉で代用する剣丞に、築城の名人、丹羽麦穂長秀が聞く。

 

「どうって、うーん……口で説明するのは難しいかなぁ。ただ、信じてもらえないかもしれないけど、やれる自信はそれなりにあるよ? それに織田家中の名だたる人が、連続で任務に失敗ってなれば、評判のとか色々と大変なこともあるだろうし」

 

 考えなし発言ではない剣丞の言葉から、麦穂や壬月、家中の武士たちも考える。

 

「その点、俺は素人だし、無名だろ? 相手だって油断すると思うし。色々捗ると思うんだけど……」

「…………剣丞」

「うん」

「やってくれるか?」

 

 しかし、武士たちにも誇りや矜持などもある。見知らぬ小僧に任せるには織田家の名が関わる以上、簡単には任せられる筈がない。

 誰もがそう思っていると、『織田』そのものでもある『久遠信長(くおんのぶなが)』が聞く。

 

 やれのか、と。

 

 そんな重い言葉を放つ久遠に、剣丞は返す。

 

「逆に質問。……そんは大事なこと、俺に出来ると本気で思ってる?」

 

 当主の質問に答える前に、逆に問い返す無礼に家中一同震え上がる。それは久遠だからではなく、海外の国でいう王に質問返しする行為でもあるからだ。

 ましてや、織田信長。

 天下のうつけと言われる革命的な振る舞いや一本道に定めたら邪魔するものは粉砕する覇道の武将である織田信長にそう返したのだ。

 恐れ戦く家臣のたちとは裏腹に、久遠を知る者であれば、意志強き言葉には耳を傾けることができる大器の持ち主に、そう返した剣丞の真意を理解する。

 縁壱からすれば、王に問う賢者にも見えたかもしれない。

 そんは剣丞の言葉に、久遠も答える。

 

「正直分からん。……しかし我らとは違う考え方を持つお前なら、あるいは出来るのではないかと思えるのだ」

 

 そこまでの発想。そこまでの柔軟な対応。

 久遠は剣丞が何者かで、何を知っているのか分からないが、異なる考え方を持っている剣丞は貴重な存在だった。

 

「だから、我はお前に賭けようと思う。……頼まれてはくれぬか?」

 

 常に強気だった久遠の言葉の、気弱な言葉を聞いて、剣丞は覚悟を決めた。

 

「……了解、一宿一飯の恩を返す絶好の機会だし。自分で言い出したことだしね。それにひよのこともある。……出来る限りのことはやってみるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 縁壱は巌勝に『ちゃんと仕事しろよ』と我が身を見ない兄の発言でも快く頷き、剣丞の元にやって来る。

 

「まさか、あなたが来てくれるなんて! めちゃくちゃ心強いです!」

 

 笑顔で歓迎する剣丞に、縁壱も嬉しくなる。顔には出ないが。

 剣丞と合流した縁壱は、一緒に評定の間にて聞いていた剣丞隊の一員、木下藤吉郎ひよ子秀吉という少女が駆け寄ってくる。

 

「あのあの、そちらの剣士様は……?」

「時任縁壱さん、この人も一緒に来てくれるって」

「それって、同じ隊に?」

「そうそう」

「よ、よろしくお願いします! 縁壱様!」

 

 元気に挨拶をしてくれるひよ子に、縁壱はまた嬉しくなる。元気なことはいいことだ。

 

「私のことは縁壱でいい」

「えぁ……で、でも……」

「じゃあ、様付けしないで呼べば良いんじゃないかな?」

 

 剣丞の提案に、ひよ子も『それならば』と『縁壱さん』と呼ぶようになった。見た感じは壬月や麦穂と同い年くらいに見えるので、歳上だと断定したのだろう。

 

「それでお頭! 久遠さまにあんなこと言っちゃって大丈夫なんですか!? はっ!!? お頭のことですから、きっと何か策があるんですよね! さすがお頭です!」

「目をキラキラさせて褒めてくれるのは嬉しいんだけどね……そういう訳じゃないんだよなぁ」

「へっ? じゃ、じゃああの……もしかして行き当たりばったりで受けてしまわれたんですかっ!?」

「まぁそうとも言えるような、言えないような……やっぱり言えるようなぁ~……」

「ええええーーーーっっっ!?」

「大した胆力だ」

 

 これにはひよ子は驚きを隠せず叫び。縁壱は剣丞の度胸に感嘆の声を漏らす。

 

「ははっ、大丈夫大丈夫、ひよが助けてくれれば、きっと大だよ。(根拠はないけど)」

「わ、私の助け、ですか?」

「そっ。……質問なんだけどさ。ひよって墨俣辺りの地理に詳しい知り合い、いるんじゃない?」

 

 まるで確信しているかなように、だが確かめるかのようにそう言う剣丞に縁壱は不思議に思う。

 

「墨俣の地理に詳しい知り合い、ですか……うーん……」

 

 剣丞の言葉を受けて、ひよ子はクイッと首を傾げて思案に耽る。

 

「あ、一人居ますね。幼なじみなんですけど……」

「名前はなんていうの?」

「蜂須賀小六正勝。通称は転子(ころこ)っていいます。今はどこにも仕えず、野武士を率いて尾張と美濃の小競り合いに横入りして、陣稼ぎをしている子です」

「よし、史実通りだな。……んじゃ、その子に協力を要請してみようか」

「えっ!? ころちゃんにですかっ!?」

「うん、野武士を率いてるってことは、それだけ人数を抱えてるってことなんだろう?」

「それは……はい。支払うお金次第だと思いますけど」

「傭兵を使うことになるけど、今回はできるだけ正規の兵を使わないようにしたいんだ」

「え? 織田の兵を使わないんですか?」

「そっ。正規の兵を使うと色々と面倒なことが増えるし。それにその方が相手の隙をつけるだろうしね」

「隙、ですか。うーん……」

 

 考え込んでいるひよ子に、剣丞は続けて説明すると、織田が治める尾張には、多かれ少なかれ草、つまりスパイが紛れ潜んでいるので、正規の兵が動けばその情報が美濃に伝わり、そこから何をするのか調べあげられるから、関係ない傭兵やら野武士たちを使うことに意味があると言う。

 目的を悟られて、待ち構えられたらどんな作戦だって失敗する。そこで頼りになるのが蜂須賀小六が率いる野武士集団だと剣丞が言えば、ひよ子も『そうか!』と理解していく。

 そんな剣丞に対してひよ子は『ううううううーーー!!』と唸ると、

 

「お頭、凄いです! 私、そんな風に考えたことありませんでしたっ!! 縁壱さんはどうですか!?」

「あぁ、思いもつかないもだった。凄いな剣丞は」

「ははっ、ありがとうございます」

「あれ? でもどうしてお頭は私がころちゃんと知り合いだっていうの知っていたんです?」

「ふふふっ、それは内緒だ」

 

 こうして三人は、墨俣の地理に詳しい蜂須賀小六の元にへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元々、剣の師匠を探すと言い始めてから数ヶ月。

 尾張にいるという情報を聞いてやって来ていた鬼狩り集団《鬼滅隊》の隊士、竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)我妻(あがつま)善逸(ぜんいつ)、嘴平《はしびら》伊之助(いのすけ)の三人組は、野武士集団を率いる蜂須賀小六正勝、通称は転子(ころこ)にお世話になっていた。

 最初は鬼を狩っていたのだが、頻出する回数が少なくなり、日銭を稼ぐべく転子たちの手伝いなどをしていたのだ。

 そして、ここには鬼狩りの先達であり、元は《鬼滅隊》の幹部、《柱》候補だった百地(ももち)慚愧(ざんき)三太夫(さんだゆう)がいることも関係していた。

 百地三太夫、忍でありながら、忍ばず堂々と白昼で昼寝をしている忍者の鬼狩り、この男に炭治郎たちは稽古を受けながら師匠を探す毎日だった。

 

「だぁぁーーもぅー! もういや! 天国地獄! ころちゃんという可愛い天女さまが居るから今まで我慢できたけどもぉぉぉ無理! あの筋肉忍ばずオッサンの百地ヤローの使いっ走りはもういや!!」

「オウおうおう!! 俺様もいつまでもアイツの言うことを聞いてるのは面倒になってきたぜ! 山の主たる俺様になんだアイツは!」

「落ち着け二人とも! だから転子さんに頼まれた薪割りでふざけるんじゃない」

 

 善逸が心労を理由に叫び、それに追うように伊之助も溜まっていた鬱憤を吐き出す。それを抑え込みながら炭治郎は実家が炭焼きだったことで得意な薪割りで次々と仕事をこなしていく。

 そんはところに仕事を頼んだ蜂須賀小六こと、転子がやって来る。

 

「どう? 仕事を捗ってるかな?」

「お任せくださいなぁ~ころちゅぁぁ~ん♡♡♡」

「なんだお前気持ち悪いな」

 

 転子が来た瞬間、態度を一変する善逸に気持ち悪がる伊之助。通常運転である。

 

「終わりました、けど……」

「うんうん、分かってるよ炭治郎くん。稼ぎが悪くて薪も少ないからすぐ仕事終わっちゃってるね……。なんとかしないとなんだけど……戦もないし」

 

 戦はないのは良いことですよ、炭治郎は思ったが、今の時代は農業に勤しんでも戦となればかり出され、畑や田んぼは荒らされてしまう世では戦働きしなければ生き残ることが出来ないことも知っている。

 更には《鬼》という怪異が出現しては、安心して畑毛を耕すことも出来なくなっている。

 

「やっぱりどこかに仕官しないとマズイかなぁ。でも堅苦しいのは嫌だし……」

「地味に悩んでるなぁ転子、派手に考えろ」

 

 そんな悩みを持つ転子の所にいきなり出現したのは、《鬼滅隊》の《音柱》と同じ呼吸を使う巨漢の忍、百地三太夫がいつの間にか立っていた。

 

「ひゃあぁっ!? ざん兄いつの間に!」

「ざん兄言うな! 残念に聞こえる」

 

 太刀の二刀を背中に装着させて百地三太夫はビシッと親指を立てて告げる。

 

「悩むならもっと派手に悩め! この慚愧(ざんき)さまが派手に解決してみせらぁ!」

「声でか、そして忍なのに派手って、本当に天元さんとと似てますね」

「アイツとは兄弟弟子だからな! 地味に生きることはやめたんだ俺たちは!」

「声デカイってもう!」

 

 そんな元気に声を大にして喋る慚愧に、転子に教える。

 

「可愛い妹分に知らせに来たんだよ俺様は」

「何かあったの?」

「もう一人の俺様の妹分がきたぞ」

「えっ?」

 

 そう言った慚愧に小首を傾げる転子だったが、すぐに答えが分かった。

 

「ころちゃーーーん!!!」

「あれっ! ひよっ!? うわー久しぶりー!」

「えへへ、久しぶりだね! うわぁしかもざん兄も居るんだぁ!」

「ざん兄言うな! 兄貴やらお兄ちゃんと派手に呼べ!」

「うわぁうわぁ懐かしいなぁその派手押し! それこそざん兄だ!」

 

 きゃあきゃあ、と女の子同士に騒ぐひよ子と転子に慚愧もえ笑顔で迎えていると、炭治郎たち三人も後からやって来る人物に気付く。

 

「あっ!、善逸! 伊之助! あそこに居るのは師匠じゃないか!?」

 

 炭治郎が見つめる視線の先には、見たこともない服を着ている少年と歩く耳飾りをした剣士、時任縁壱の姿だった。

 そう、炭治郎たちが探していた師こそ、時任縁壱だったのだ。

 そんは炭治郎たちをよそにひよ子は一緒にやって来た人たちの紹介をする。

 

「あのね、こちらには私のお頭で、織田上総介さまの旦那様なんだよ! そしてこちらは護衛の時任縁壱さん!」

 

 それを聞いた転子は『ええええええええぇぇぇーー!!!』と吃驚の声を上げる。きっと剣丞の方に驚いているが、炭治郎たちはそれよりも《鬼滅隊》最強の剣士に護衛させていることに驚いていた。

 しかし、武家の人が農民に会いにきたことは大変驚くべきことで、すぐに転子は跪こうとするが、それを剣丞は止める。

 

「し、しかし……!」

「俺は別にそんな偉い奴じゃないんだから。便宜上、なんだか色んな役割を担うことになったけど……ひよの上司……というか、一応、お頭をやらせてもらってるって認識だけで問題ないから。だから跪いたりしないで欲しい」

「は、はぁ……」

「えへへ。お頭はね、すっごく優しい方なんだよ!」

「優しいというか……変わってる人にしか思えないんだけど……」

 

 話を進めていくひよ子に、慚愧や炭治郎たちは縁壱が気になって仕方がなかった。

 だがよくよく話を聞いていくと、この炭治郎たち同い年くらいの剣丞という少年は田楽狭間に現れた後光帯びた天人と噂されている人物なのだという。

 

「ご無礼致しました! 私、この辺りを仕切っている蜂須賀小六転子(ころこ)正勝と申します!」

「百地慚愧(ざんき)三太夫と申します」

「竈門炭治郎も申します!」

「あ、我妻善逸と申します!」

「あぁ、なんだぁこいつ?」

 

 炭治郎と善逸は伊之助を無理矢理座らせる。

 

「天より降り立ち、一切(いっさい)衆生(しゅじょう)を救い(たも)う阿弥陀さまの化身と言われる御身のご尊顔を拝し奉ること、卑賤(ひせん)の身でありながら光栄至極───」

「いやいやいや! そういうの無しにして! 俺は別に仏さんの化身とか、そういうのじゃないから!」

「しかし……!」

 

 仏門を通った人間ならば、天より降り立った者は今までに聞いたことなく、着ている衣服もどこか立派すぎているところで、畏まってしまうのは農民や平民の悲しき性である。

 転子は畏まったまま動けずに居た。

 この場と周辺を取り仕切る転子が畏まることで、いくら兄貴分の慚愧でも分相応を理解しているから、黙って従っている。炭治郎たちもお世話になっている転子の顔を立てるべく騒ぎを起こさないよう大人しくしている。伊之助を必死に抑え込みながら。

 しかし、剣丞も剣丞で、つい最近まで日本で普通に暮らしてきた一般市民だけあって、人にここまで畏まれると逆に居心地が悪くなってしょうがなかった。

 ひよ子に助けを求めると、『剣丞さまはお優しいお方なんだよ、そのお方の優しさを有り難く頂戴しないとそれこそ逆に失礼になっちゃうよ?』と悟らせるように語りかける。

 剣丞も、自分は人で、話し合えて意志疎通できるのにそこに身分だの何だのと男の関係があるのかと言う。ひよ子はひよ子の、転子は転子の個人という一つの存在としてその関係が成り立っている、と考えを話す。

 だがその例えが難しかったのか、首を傾げる転子。

 簡単に噛み砕くと、身分とか関係なく話をしたいと伝える。

 

「……本当に御宜しいので?」

 

 慎重になるのも当たり前である。この時代、戦が続くとお寺の信仰も強く、御仏の教えや決まり事はとても大切なものだった。

 剣丞もそれを歴史で学んではきているが、ここまでとは肌で感じて今更ながら分かった。

 

「宜しいじゃなくて、そうして欲しいんだ。……お願いします」

 

 そして、武家の者としても、ましてやもしかしたら天人かもしれない人物から頭を下げられ、またも転子に心臓に悪い対応をしてする剣丞に驚く。

 会話をするだけでも大変なんだと、剣丞も、付いてきた縁壱も思ったことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時任有一郎と時任無一郎は遠い親戚である巌勝(みちかつ)という男から剣術を教えて貰う変わりに居候させている。

 ふらりと現れた無精髭を生やした野武士のような男には家族全員驚いたが、『鬼』に襲われていたところを過去に救ってくれた人物たと両親から聞いてからは、『強いお侍さん』だということくらいは知った。

 それは数年前のこと。

 今は《全集中の呼吸》を覚え、その呼吸法で体力向上により、親の仕事をすぐに終らせ、そして巌勝から剣術を教わったことで、鬼を狩る集団《鬼滅隊》の幹部《柱》にまで登り詰めた天才双子と言われた。

 だがそれには、血ヘドを吐く努力があったことを師匠や同じ境遇の人にしか解らない。

 巌勝は酔いどれ飲兵衛の二つ名があるくらいの酔っ払いだというのに、その特殊な呼吸術を使い、飲んだ酒精をすぐに蒸発させ、問題なく《鬼》を一刀両断できる剣の達人である。

 日常生活において辛辣な言動で師を苛めるが、織田家に向かったり、鬼狩りをする時は師匠の指示には絶対に従っている有一郎と無一郎。

 それ故に。

 

「…………はぁ……」

 

 およそ、常人とはかけ離れた俊足で疾駆する時任無一郎は、木々や草地を蹴り飛びながら、師匠の言付けの為に駆ける。

 鬼狩り集団《鬼滅隊》に報告するために。

 呼吸剣術《全集中の呼吸》開祖、時任縁壱の発見を報告する為に。

 今までに、たまにしか接触しかしてこなかった《鬼滅隊》に報告せざる得ない状況。

 生ける伝説《剣聖》がまだ生存していることを知らせる為に。

 今起きている日の本の異変。

 これには、絶対に必要になってくる戦力の確保。

 無一郎は鬼滅隊の隊服をしっかり着込み、全力で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣丞や縁壱たちは、蜂須賀小六正勝(ころこ)の案内により、室内にて話を聞くことにした。

 炭治郎や善逸、伊之助と百地三太夫こと慚愧も共に話を聞き、状況を把握しようとした。

 結果的に言えば、墨俣にて築城するから手伝って欲しいとのこと。それには人数も欲しいし、戦力となる人たちの協力も欲しいとのこと。

 剣丞は流れをしっかりと説明していき、そこまでに掛かる費用、組み立てる為の資材の加工。そして動きの訓練も頭に入れてあった。

 慚愧と炭治郎はそれを驚嘆と感心を示し、善逸は面倒くさそうにし、伊之助に至っては既にこの場に居なくなっていた。

 その計画性に転子は剣丞がただ者ではないことを知り、お金になる話がきたことで元気を取り戻していた。

 話が決まり、さて帰ろうとなったとき、縁壱が剣丞に聞く。

 

「少しだけ、待っていて貰えるか」

 

 これには剣丞も、ずっと縁壱を見ていた炭治郎たちのこともあり、快く承諾。

 転子と話をしているから終わったら、帰ろうということになった。

 

「縁壱さん、無事だったんですね!」

 

 そう開口一番に喜びと一緒に言ってきたのは炭治郎だった。

 

「富岡さんから話を聞いて、すぐに俺たちも探しにきたんです。でも良かったぁ。無事で」

「まだそう決断付けるなっつーのガキめ」

 

 百地慚愧三太夫が、喜びの余り身を乗り出す若者を抑え込み、縁壱に聞く。

 

「縁壱師範代、()()()()()()()()()()

 

 慚愧は確信めいた言葉で縁壱に問う。

 

「あなたが追っていた《鬼》は特殊だった。強さが、ではなく鬼が使う異能力《血鬼術》がとにかく厄介な《鬼》だった」

「……鬼滅隊最強の剣士が向かうぐらいのってことぉ~~ひぃぃ怖いぃ!」

「黙れ黄頭(きあたま)! 俺様は野生の直感で分かるぜ、あいつは弱いのに逃げるのが上手いクソザコだった!」

「伊之助も会ったことのある《鬼》だったのか」

 

 炭治郎はまだその《鬼》に遭遇していなかった。

 しかし重要なのはそこではない。縁壱のこと。

 

「……私は時任縁壱だということを知ったのは最近のこと。兄上と会ったことで、自分の名や生まれを()()()()()のだ」

「……思い出したって、……えっ。縁壱、さん?」

「…………不明(わからず)なんだ」

 

 記憶が無くしたという。《鬼滅隊》最強の剣士が。

 

「で、は……呼吸……は?」

 

 炭治郎は聞いている呼吸は勿論、人間に必要な呼吸のことではない、縁壱が編み出した鬼狩りを目的とする《全集中の呼吸》と呼ばれる特殊呼吸法のことである。

 この呼吸さえ扱えるようになれば、ほんのちょっとした呼吸で、長距離の疾走も苦しまず。瞬発力や木々に跳び移れるぐらいの脚力。細腕でも壁や木々を粉々に出来る膂力を持つことを可能とする方法。

 ただの人間が、人外であり怪異であり、化物に対抗するための唯一の方法。

 しかし、この世界にいる武家の人間には異能が扱える者もいることで、限られた者以外の為の術。

 それを出し惜しみ無く、教え広めた剣聖がこの時任縁壱という男だった。

 《始まりの呼吸》と呼ばれる《日の呼吸》の使い手であり、縁壱以外には扱えない至高の呼吸剣術。

 それを忘れてしまったのではないかと、誰もが思ったのだ、しかし、

 

「いや、悪鬼滅殺(おにがり)は出来た」

「……ッ!……」

 

 間髪入れず。しかし静かなその声で、縁壱は言った。

 

「人の日常を、無辜(むこ)の人間を食い殺す鬼は、しっかりと頚を斬れる」

 

 刀を柄を握ったそれだけで、静かな緊張感が炭治郎たちを覆う。

 この縁壱は、いつでも鬼の頚を斬り飛ばせるのだ。

 その気配が炭治郎たちを認識させる。

 百地慚愧三太夫は、冷や汗が滴り、

 我妻善逸は『静かなのに轟音』という錯覚に襲われ、

 嘴平伊之助の全身からくる触覚という触覚から『圧倒』の気迫に困惑し、

 竈門炭治郎は『覚悟の匂い』ですぐに理解した。

 

「……縁壱さん、おかえりなさい」

 

 どのような意味が込められた言葉だったのだろう。

 元居た場所に帰ってこれたことに対してなのか、鬼を狩れる覚悟を持って返れたことに対してなのか、分からないが。

 炭治郎は笑顔で、迎える。

 縁壱は無表情だったが、ただ小さく、

 

「……ただいま」

 

 帰還の挨拶を返した。

 

 

 

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