戦国†恋姫~忘却せし鬼滅の剣士~ 作:誤峠うとご
縁壱の安否を確認した鬼狩り集団《鬼滅隊》は、柔軟な対応を取り、《鬼滅隊総長》縁壱の手助けをするべく、炭治郎たち鬼滅隊士たちを側に居させることを伝える。
それと同時に、《鬼滅隊》幹部《
全国各地に点在する《鬼滅隊》支部にも情報が回り、各地の鬼滅隊士の剣士たちも特出した《鬼》の捜索に出る。
本来、影で鬼を狩っていたのに、今の日の本には普通に《鬼》の出没し、目撃情報が乱れ、鬼滅隊士たちも昼も夜も関係なく多忙を極めていた。
今の日の本が戦国の世であろうが、人外が練り歩くほど地獄と化しているのはおかしいと気付いている《鬼滅隊》は、様々な方法で原因を探っている最中。
縁壱の記憶喪失問題。
この《鬼》の正体を探ることが急務となる。
《鬼滅隊》は、縁壱の周囲を探るべく、尾張や美濃を警戒する地として数え、若くも実力をつけてきた竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助を縁壱の側に起き、護衛として百地慚愧三太夫が任された。
(本部も考えているだろうが、記憶を無くした開祖・縁壱様と同時期に現れた天上人・新田剣丞という男、かなり怪しい)
慚愧は墨俣で築城の指揮を取る剣丞を警戒対象として、縁壱護衛(必要性皆無だが)と共に観察を開始していた。
《鬼》が操る異能《
ある《蛇の鬼》の話では、赤ん坊を差し出す変わりに人間の一族に繁栄をもたらすことを条件に長年、共生していたというものがあった。
慚愧と《音柱》宇髄天元は共通の認識を改め、慚愧は影ながら新田剣丞の観察及び監視。宇髄天元は尾張や美濃に《鬼》の住みかは無いかの探索と巡回を担当することとなる。
そして、現在、
(墨俣に築城することを意識して、武家の若当主みたいに振る舞ってはいる。もしかしたら本当の姿かもしれねぇ、だがなぁ)
慚愧はその逞しい腕で次々に加工された資材やらを組み立てていくかたわら、観察は続けていく。
一体、縁壱を襲った《鬼》は何者なのか。
何を目的で縁壱の記憶を消したのか、今はまだ分からない。
※
「うひゃはっはぁ!?!?」
我妻善逸の情けない悲鳴と共に、遠い場所から鉄砲の音が響いた。人より聴覚が強い善逸からしたら間近に聴こえたのだろう。腰を抜かして持っていた資材に覆い被さって伏している。
「剣丞さまぁ! 東の方角より鉄砲の音が!」
「うん、始まったね。……皆、急ごう! じきにこっちにも美濃の人たちが押し寄せるぞ!」
剣丞も資材を運びながらも、鉄砲が聞こえた方角を確かめながら指示を出す。
うおおおおっ! と伊之助は回りの人たちと共に組み立てる中、木下藤吉郎ひよ子秀吉が蜂須賀
「ころちゃん、物見の報告は?」
「まだ来てないよ。多分、稲葉山城はこっちの動きにまだ気付いてないんじゃないかな?」
「ひよの方はどんな感じ?」
「堀も柵も準備完了です! 蜂須賀衆には柵内に入って敵襲に備えて貰ってます」
「完璧これで! これで多少の戦力差なら耐えられるな。あとはどうやって敵を追い払うか。……敵を壊滅させるなんて無理だからなぁ」
剣丞や転子たちが話している間、縁壱は周囲に襲ってくる者が居ないかを警戒していた。
そして同時に、緻密に隠した僅かな慚愧の剣丞を見張る気配も気付いていた。
縁壱の視ている『透き通る世界』、人の筋繊維や微妙な所作、息遣い、瞳の動きによる視線の先など、特殊な訓練などしてなくても自然と気付く、才能には誰もが恐れをなすほどだった。
しかし、それが出来るからといって今の縁壱にはどうすることも、思うこともなかった。
そんな時に、常人よりも普通ではない感覚を持つ鬼滅隊士、竈門炭治郎の『嗅覚』と我妻善逸の『聴覚』、嘴平伊之助の『触覚』で気付いた。
「慚愧さん! 北から
「炭治郎と同じく
「がっはっはっ! 来たぜ来たぜ!
伊之助は猪頭の被り物越しにでも分かるくらい鼻息を荒くし楽しそうに刃毀れした物騒な二刀の刀をぶん回しながら構えている。
その報告を聞いた慚愧は、ここの現場指揮をしている剣丞に伝える。
「おいお頭、やっこさん来なすたっぜ」
「距離はどのくらいだった?」
慚愧の言葉に頷き、剣丞は逸早く気付いた三人に聞く。伊之助は距離なんて言葉で表すことなど分からないのでパス。残りの炭治郎と善逸がお互いに確認し合って、
「恐らくですが、五里向こうってところです」
「すぐ来てるってことか。……みんなちょっと集まって!」
剣丞はこの場で有力な荒事や指揮ができる人を集める。
「敵が来たよ、迎撃準備を整えよう」
「は、はひっ!」
「大丈夫、緊張しないでいいよ」
「そうだぞ、ふよ子! 俺様に任せれば万事解決する!」
「で、でも私……腕っ節には自信無くてぇ……あと私はひよ子だよぉ伊之助くぅん」
「あはは、でもひよ、そんなの俺だってそうだよ。こんな集団戦は生まれて初めてだし、実戦経験だって初めてなんだ」
「ほぉ、天界は戦はないのか?」
「天界っていうか、俺が元居た世界……というより、居た場所ではなかったかな。なんだかんだで、真剣を使った鍛は積んでるけど、鍛練と実戦じゃ大きく違う訳だし」
慚愧が聞くと、苦笑しながら答える剣丞。
「だから正直、自信なんてない。……だけど適材適所に人を配置して、皆が一丸となって事に当たれば、どんな困難だって乗り越えられる」
「…………剣丞くん」
炭治郎たちにも似たようなものだったかもしれない。鬼狩りをしている自分達も、もしかしたら畑を耕していてり、木を伐っていたり、炭焼きをして生きてきたかもしれない。けどそうならなかっただけ。
「俺は、ひよを信じる。ころを信じる。縁壱さんや慚愧さん、そして炭治郎や善逸、伊之助たちを信じる。信じるからこそ、全力で戦えるんだ。だから皆も俺を信じてくれ」
胸に沁み入る言葉だった。
受け取り方は人それぞれかもしれないが、剣丞の真摯な瞳と言葉には、確かに感じ入るものがあった。
炭治郎も『匂い』でそれが嘘がない言葉だと分かった。善逸には『心臓が激しくして緊張している音』が聞こえて、怖がりながらもそんな言葉を言える剣丞に尊敬の眼差しを送り、伊之助は炭治郎たちと同じく『ほわほわほわ~ん』な暖かな感覚に陥り頭を振る。
慚愧も、監視するがむざむざ見殺しまではしない鬼滅隊士として、少年が覚悟を決めて言った言葉には彼なりに納得するものがあった。
縁壱も、きっと血生臭い戦いから遠く離れた所に居たであろう
そして戦いは始まった。剣丞は挟み撃ちを狙い、襲撃きてきた兵の後ろに回り、伏兵として迎え撃とうとしていた。
縁壱を筆頭に、炭治郎たちは正面から迎え撃つ。
そして縁壱を始めとして、皆は木刀に持ち変えている。この行為に転子を始めとして、剣丞も『それで大丈夫なのか?』も聞かれたが、炭治郎が代表として言うと『呼吸の剣士たちは鬼を斬る存在なんだよ、人を斬る剣はないんだ』という言葉に、己の命が掛けられていても、真剣を使わないという意思表示が感じ取られた。
剣丞も縁壱の実力を知っている。
人外を相手にする驚異の剣士たちである。木刀でも迫りくる兵士を相手取っても大丈夫なのだろう、と考える。
そして、結果的にやはりそうだった。
千を超える兵士たちの群れをなす軍団攻撃に、縁壱は《剣聖》の名に恥じない凄まじい剣技で兵士たちを昏倒させていく。的確に、ぶれなく鋭利な鋭さを放つ剣撃に、流れるように兵士たちを吹き飛ばすその光景は異常だった。
炭治郎たちさえ、個人としての限界を感じさせるものだったが、
美濃の兵士団、斎藤家足軽たちは更に背後に回っていた剣丞たち伏兵に挟まれる。
斎藤家の兵士団を指揮していた者は、挟撃の恐ろしさを知っているから、後ろが完全に塞がれる前に、即座に兵士たちに撤退の指示を出していた。剣丞たちが現れたお陰でそう判断してくれたのだ。
更には鏑矢で合図を送るひよ子や転子により、剣丞たち挟撃部隊から一斉に声を上げ始める。その内容は『敗北必須! みんな逃げろ!』というもの。
集団心理を刺激され、その言葉による亀裂の伝播はすぐに広がり、斎藤家兵士団たちはそそくさ散り散りに逃げていった。
「あ、こら! おい逃げるな! それでも誇り高き美濃侍かぁ! 取って返して戦え!」
大将らしきこの兵士団の指揮官少女が大声を張り上げるも、一度動き出した足軽たちは止まろうともしない。
「く……足軽どもの腰が引けては戦にならん! 退け、退けぇ! 足軽どものせいで、この戦、勝ち目は無くなった! 稲葉山に戻る!」
「し、しかし、墨俣に築城されては……!」
「そんなことは分かっている! だが足軽が逃げたら戦にならんではないか! 逃げるのではない! 足軽が逃げたから仕方なく一度退くだけだ!」
「は、はっ! 皆、退け! 退けぃ!」
撤退の太鼓が鳴り響き、声が届かなかった兵士たちにも聞こえ、合戦場の片割れ兵士たちが退いていく。
「さすがにチャンスなんだけど……」
「まぁ無理に行くことはないぜ頭よぉ。それに派手に妹分たちもそれを分かってる」
同じ部隊に来てくれた百地慚愧三太夫は、柄尻に鎖を繋げた特殊な出刃包丁型の二刀で超絶技巧で飛んでくる矢や槍を流麗に弾いてくれている。
慚愧が言った通り、柵で覆っていて場所から、退いていく一団を追うべく転子が兵士たちとやってくる。
「お頭! 敵は崩れたっています! 追い討ちを掛けましょう!」
「ああ! いこう!」
「ああん、みんな待ってよぉ~~~!」
「ひぃぃん! もうやだよぉ!」
「善逸しっかりしろ! 気を付けないと危ないぞ! ひよ子さんもそんなに焦らず!」
「なっはっはっ! 雑魚どもが! 山の主が突貫してやるぜ! 猪突猛進! 猪突猛進!」
転びそうになるひよ子と善逸を支えながら炭治郎が後を追い、伊之助は二刀の木刀を振り回してぴょんぴょん跳ねながら追っていく。
(……戦は嫌いだな)
そして、屍では無いにしろ、昏倒させて兵士たちの山盛りを見ながら、縁壱は残り墨俣の築城防衛を任されていた。
※
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はぁ、ひぃ、ふぅ、へぇ、ほぉ……」
「あ、あははっ、ひよってば変な声ぇ~」
「うわっはっは! 本当だ!」
「だ、だってぇ~……」
「ははっ、二人とも本当お疲れ様。無事で良かった。炭治郎くんたちや慚愧さんは俺や二人を手助けしてくれてありがとう。縁壱さんも無双凄かったですいやほんと」
深呼吸を繰り返して、息を整えながら、皆の無事を
退いた兵士は、今度はもっと兵士を連れてくるから、急いで築城を進め、敵の心を挫くことを急ぐよう剣丞は皆に伝える。
「被害の方はどうかな?」
「さっき確認しましたけど、負傷者はかなり少なかったです。鬼狩り様の面目躍如でした……。縁壱さん……いえ、
「炭治郎たちや慚愧
興奮気味に話す転子に、剣丞は頷く。
初めて縁壱の戦闘を見た人がいれば興奮せずにはいられないだろう。
人があんなに吹き飛ばされる場面なんてない。
(でもそれは縁壱さんたちが居たからそうだったんだ。今も血の匂いが残ってる。斬られた人たちも見た。簡単に死んでしまう凶器を手に持って戦って……)
剣丞は、勝ったがそれは当たり前ではないと心臓がバクバクしながらも慢心なんて余裕は生まれてこなかった。もう心労が凄いことになっている。
死んでいたかもしれない世界。もしかしたら死んでる人だっているかもしれない、戦国の世。
剣丞は平和な世で生きてきたことで、血生臭い戦場の匂いに疲労と困惑を味わいながら、必死に次のことを考えようとしていた。
これには、五感が優れている炭治郎たち三人と、機微や動作を監視していた慚愧、そして『透き通る世界』が視える縁壱には見抜かれていた。
天上人と崇めたてられた少年の、恐れながらも勇気を振り絞る姿に。
慚愧が休むように剣丞に言おうとする前に、いつの間にか剣丞の側に来ていた縁壱が、肩に手を置いて『今は休んできなさい』と静かに告げる。
これには剣丞の顔色が少し悪くなっていることに気付いていたひよ子や転子もそうするように気を回す。
剣丞は申し訳なさそうに謝りながら、有り難く休むことにした。
※
剣丞が精神的に疲労困憊になり、巨木の影で一休みして目が覚めると、城は八割方完成していた。
それに驚いていた剣丞にひよ子と炭治郎がやって来て教えてくれる。
「長良の向こうからは完成しているように見えるんですけど」
「実は張りぼてになってるんだ。はい、水だよ」
笑いながら話すひよ子に、炭治郎は竹筒に水を入れて持ってきてくれたそれを有り難く受け取った剣丞は、それでも凄いと感嘆の声を漏らす。
善逸は蜂須賀衆のみんなと残り資材の上で休憩を挟みながら悲鳴混じりに作業して、伊之助は飽きて森の中を徘徊しつつ巡回し、縁壱は慚愧と一緒に話し込んでいた。
その後、織田信長こと久遠が手配してくれた援軍に城を引き渡し、剣丞や縁壱たちの長い長い一日は終わった。