逃げか?差しか?その判断こそが大きな隙だ! 作:アマノジャック
「うっ…うぅ…ボンドちゃん…ボンドちゃん…」
「はいはい。飲み過ぎですって~」
「だって…だって…3年連続で2着って…うぅ…」
「アタシも有マ記念で3年連続3着だったから…って有マ勝てたピーチに言っても分からんか。」
連絡を受けた俺はとあるスナックへと入る。そこにはすでに酒で出来上がったピーチがいた。
………
俺の妻ラウンドピーチは中央トレセン学園のトレーナーであり、俺が担当していた現役時は海外を含めてG1を6勝するなど凄まじい成績を叩き出した超スーパー名ウマ娘である。トレーナーになった後は産休を取ったり、アメリカで研修したりなど色々とあったものの…現在は1人のウマ娘を担当している。
「ボンドちゃん…次こそは…」
「重賞を勝ち、ケガとか無く、トゥインクルを長く走れている…アタシはそれだけで立派と思いますよ。」
そのウマ娘の名は『ディープボンド』…海外の重賞を含めてG2レースを4勝しており、G1レースでは何度も掲示板内に入ったりとした名ウマ娘だ。何故、ピーチが彼女をスカウトしたのかというとファレノプシスの甥っ子であり、キングヘイローの親戚だかららしい。さらにもう1人いるのだが…まぁ、今はいいだろう。
「あの娘は強いの!だから私がもっとその力を引き出してあげるの!」
「出せてると思うけどな…」
おそらく次走はイクイノックスと同じく宝塚記念を…
「あの~、イブキさん?いつまでそこに立ってるつもりですか?奥さんをほったらかしでいいんですか?」
「…もうちょっと現実逃避させてくれない?」
「あ!イブキだ~!!今度はネイチャと浮気か~?このクソチョロがっ!!」
「人聞きの悪いこと言わないでくれるかな?」
「…とりあえず、何か飲みます?」
ーーー
数分後、愚痴を吐ききったであろうピーチが眠り始めたので着ていたコートを羽織らせる。
「Zzz…」
「やっと静かになったな…」
「今日はピーチだけだから別に良かったですけどね。」
「いや、他にも客が来るかもしれなかっただろ。」
「最近は閑古鳥が鳴いてて、知り合い以外は店に来やしませんよ…時代の流れってやつですね。まぁ…誰かさんの仕送りで普通に生活は出来ますけど~」
「…」バッ
「そんな両手をフリーにして構えなくても…ね?パパ?」
「…」ダラー
ヤバい…汗が止まらない。
「あの娘は今、テイオーの所に預けてますよ。そういえばイブキさんってあのチアガールの衣装好きでしたよね?やっぱり、1人よりは2人がいいと思いませんか?」
「…な、何の話だ?」
「フフフ…思い出しますね。最初に出会った日のことを。」
「…」
ーーー
時は数十年前、俺はトウカイテイオーの所属したチームのサブトレーナーとしていた。といっても俺はケガしたテイオーのリハビリ担当だったけど…そんな時にテイオーを陰からみていたウマ娘が1人いた。
『…』じー
『ん?…テイオー、アイツと知り合いか?』
『ううん!全然!』
『…そうか。』
『…』じー
まぁ、テイオーは気にしていないようだし、邪魔にならなければ…その時の俺はそう思っていた。
次の日…
『えー、今日もサブトレーナー?トレーナーがいい!』
『他の担当もいるんだから諦めろ。…アイツ、今日もいるな。』
『何々?気になるの~?』ニヤニヤ
『君のリハビリに支障が出ないかが不安なの。君に万が一のことがあればキバさんに会わせる顔がない。』
『トレーナーならサブトレーナーのこと、結構信頼してると思うけど?』
『だといいな…ほら!今日のリハビリメニューだ!』
『…』じー
さらに次の日…
『ぶー、ぶー!トレーナーは今日もボクの所に来ないの!』
『ケガした1人よりも健康な数人の指導が優先されるのは当然だ。諦め…アイツ、今日もいるのか。』
『…』じー
何あれ?怖っ!ずっといるじゃん!テイオーのストーカーか何か?
『テイオー、休憩だ。少し俺、席を外すわ。』
『了解!帰りにはちみー買ってきてね~♪』
『そんな所までは行かん!』
俺はテイオーをストーキングしているウマ娘の背後に周り声をかける。
『ねぇ君。テイオーに何か用?』
『ー!?』
そのウマ娘は尻尾を尖らせ、驚いたように俺へと向く。しばらく口をパクパクとさせた後に言葉を吐く。
『すみません…邪魔になりましたか?』
『テイオーの邪魔にはなってないが…俺は気が散って仕方がない。』
『アハハ…すみません。実は…テイオーが菊花賞に出れるのが気になりまして…』
『100%出れないし、テイオーが出ると言えば俺とキバさんが全力で止める。これが答えだ。』
『…そうですか。わざわざお答えいただきありがとうございました…それでは!』
それからテイオーとのリハビリ時に彼女の視線が無くなった。後の菊花賞に出走した彼女の名前がナイスネイチャであることを知った。
ーーー
「いや~、あの時のアタシは何をビクビクしてたんだろ?って感じですよ~。」
「…そうか。」
「まぁ、イブキさんとはそれっきりでしたけど…ピーチとの出会いは中々衝撃的でしたよ。」
「…」
「聞きますか?まぁ、聞く気はなくとも話しますけどね。」
…何を考えてるナイスネイチャ。
「いや~、あの時はファン感謝祭でアタシは応援団に入るのこととなりましてですね…あ、ピーチが『借り物・障害物4000m走』に出走した時ですよ。」
「…覚えてるよ。」
担当だったカワカミプリンセスも含めてな。
ーーー
『ピーチ!何でそんな完走が厳しい競技に出るんだ!』
『だって…プリンちゃんが走るから…』
『カワカミプリンセス!?君も何で?』
『キングさんより困難を超えることで自分の魅力を余りなく見せれると聞きましたわ!これは出るしかねぇですわ!』
『そもそも見る客が少なくて…ん?ピーチ?君もまさか…』
『…』プイッ
『もう私もお姉様も登録が完了しましたので…その練習に行って参りますわ!』
『あぁ…行ってしまったか。…ケガだけはしないでくれよ?』
ーーー
いつかのクリスマスのスカーレットとウオッカもそうだが…何でイベントに参加する時って誰も担当に一言言わないのだろうか。それにしてもサンタ服を着たスカーレット可愛かったな…また会いたいな…。
「そこでのキングの気合いの入りようが物凄くてですね…その時にあの衣装を貰いましたよ。」
「…」
おっと、余計なことを考えてた…今はファン感謝祭の話だった。
「ピーチもキングにメロメロでしたよ。」
「うん…思いっきり想像できるわ。」
ーーー
『キングちゃん♪キングちゃん♪その団長の姿…凄く似合ってるよ!』
『当たり前よ!…というかピーチさん、こんな所にいてもいいの?』
『フフフ…もうちょっと団長キングちゃんの姿を目に収めたいな~』
『…好きにしなさい。』
『…あ!あの娘が着てるチアガールもキングちゃんに似合いそう…ぶほっ!』
『ピーチさん!?だ、誰かティッシュを!』
『大丈夫大丈夫…ちょっと妄想に興奮しただけだから…』
『はーい、じっとしててね。』
『ネイチャさん、随分と手慣れているのね。』
『周りに似たような子が1人いるからね。ほい完了!』
『ありがとう…私はラウンドピーチ。あんたの名前は?』
『ナイスネイチャ、まぁよろしく~。』
ーーー
鼻血出したと聞いてあの時はマジで焦ったわ。
「あの鼻血を出したウマ娘がイブキさんの担当だなんて知らなかったですよ。」
「…そうか。」
「何はともあれ…担当の娘たちを含めて全員が完走出来ましたね。」
「あぁ、キングヘイローのお陰だな。」
ーーー
『ぜぇ…はぁ…はぁ…』
『…まだ、だ…!!』
『負けるな~!!』
『フレーッ!フレーッ!トーレーセンッ!!』
『ー!キングちゃん…』
『キングさん…お姉様、お先に…どっせぇぇ!!』
『私も負けないわよ!はあぁぁ!!』
『さぁ、最後の直線は借り物競争となります!何が来るのか…』
『『キングちゃん(さん)!』』
『2人とも何!?』
『プリンちゃん、お先にどうぞ。』
『私はその『タスキ』を貸して欲しいのですわ!』
『いや、これは上着に縫いついてあるのだけど…ああ~、しょうがないわね!1着で駆け抜けなさいっ!』
『はいっ!では、私はお先に!』
『で、ピーチさん。あなたのお題は何?』
『『ダンチョウ』…つまり、キングちゃん自身を持っていくわ!』
『…へ?ちょ、ちょっと待ちなさい!』
『行ってきな団長さん!』
『ここからは俺らに任せな!』
『ああ~、もう!分かったわ…ってピーチさん!?お姫さま抱っこは止めて!せめて背負って…』
『いっくよ~!』
『きゃあぁぁぁ!!』
『てりゃぁぁぁ!!』
『はぁぁぁ!!』
『いやぁぁああ!!』
『最後の直線を…全員が駆け抜ける!ゴールまでもう少しだ!!』
ーーー
カワカミプリンセスが1着で突き抜けて…キングヘイローを抱えたピーチは体力が持たなくて5バ身程離れての最下位だった。
「で、ピーチの実際のお題は『ダンチョウ』ではなく『タンチョウ』だったから失格になったと。いや、今考えてもどこにあったんだよって話ですね。」
「…そのコスプレしたゴールドシップが観客席でポカンとした顔でいたらしい。それより、今の話だけだと君とピーチの関わりが少ないようだが?」
「本格的に関わりだしたのはあの後…キングと交流するようになったからですよ。」
「そりゃ納得。」
「…それでまた貴方に会えた。」
「結婚後にピーチと1度な。」
確かに初めてこの店に入った時に見たことあるウマ娘だとは思ったな。まぁその時はピーチの知り合い、くらいにしか思ってなかったけど。
「ピーチってば、ずっと旦那に会えないとか、取られないか不安とか、来る度にその話をしてきてさ…羨ましかったですよ~。」
「…」
「いや~、お金持ちのイケメン…誰も欲しがる優良過ぎる物件が目の前にあったら…手を出しません?」
「…指輪がある以上は出したらダメだろ?」
「普段付けてない人のセリフとは思えませんね。」
…だって窮屈で痛いもん。手錠や首輪の方がマシ。
「それに俺は金持ちでもイケメンでもな…」
「同期のトレーナーや可愛いウマ娘たちからたくさん言い寄られて…そんなこと通じると思います?だからピーチも警戒して色々と制約した訳ですが。」
「…ピーチかキタサンがいない所で飲むなってやつだろ。」
「まぁ、その対象にアタシの店を含まなかったばっかりに…ね?」
「…何年前の話だ。」
「いや~、歳を重ねてもイブキさんは魅力的ですよ~」
「その言葉、そのまま返すよ。…まさか、出来てるとは思わなかったが。」
「…狙ったので当然ですよ。もうアタシにはあの娘しかいない…いや、あの娘がいるから頑張れてる状態ですし。」
「…」
「今日がちょうどその日なんですよね…まだ、あの衣装着れますよ?どうですか?」
「ピーチを連れてさっさと帰るわ。」
「これは手厳しい…逃がしませんけど。」ガシッ
掴まれた!早くピーチを起こして…
「ピー…むぐっ!」
「………ぷはっ。はい残念…まぁ、声を出せた所でピーチがしばらく起きることはないですし…んっ。」
「んんー!」
まずい…まずいまずいまずい!
「いただきますよ。」ペロッ
ーーー
「…ん?イブキ?ネイチャ?」
「あ、起きた?ピーチが起きないからイブキさんまで寝ちゃってさ…」
「…ネイチャ、体中からイブキの臭いがするよ?また食べたでしょ?」
「てへ、バレたか。」
「…イブキに認知させて私たちと一緒に暮らしてもいいのよ?イブキから必要な書類とか全部送られているのでしょ?」
「いいのいいの。アタシはこっちの方が性に合ってるからさ。…彼を罪悪感に苦しめてるのは分かってるけど。」
「世間的に…は今更か。ネイチャじゃなかったらマジで刺してた。」
「おー、本気の目で怖い怖い。昨日の酒代タダするから許してよ~」
「はぁ…イブキの仕送りに一切手を付けてないのでしょ。親しき○姉妹でも礼儀あり…はい、代金!お釣りは要らないから。」
「何で知って……いや、どうも…ありがとう…」
「イブキ、行くよ…っと。…じゃあ、またね!」
「…またね、か。やっぱり眩しいよあの娘…」
ーーー
温かい…でも…少し揺れている?
「…ん。」
「やっと起きた。」
ピーチの背中か。あー、うなじから凄くピーチの臭いが…
「…寝てたか。」
「そうよ。起きたらあんたもネイチャも寝てたしさ…何で迎えにきたあんたを私が背負って帰ってるのよ。」
「それは…」
やべ…昨日こと言うわけには…
「何か変なこと考えてるでしょ?」
「考えてない。…あー、ピーチ。大きなレースは暫く無いしさ、週末に皆で果樹園に行かないか?ブドウとかリンゴとか…桃とか採れるやつ。今の時期だと…イチゴかな?予め作ったスポンジケーキやクリームやらを持っていって採れたてのフルーツで簡単なケーキでも…」
「いいわね♪ネイチャも誘う?」
「…あ、あぁ。いいと思う。」
「後はキングちゃんとファレちゃんとテイオーさんとスペちゃんたちも…」
「ピーチ、団体予約じゃないから。…いや、俺らだけも団体予約が必要か?」
「まぁ、そこら辺はあんたに任せるわ。…あ、イチゴならヨーグルトもいいかも。」
うん、上手く誤魔化せた…と思いたい。
「…宝塚記念は負けないから。」
「…あぁ。俺も負けない。」
勝って少しでも給料を上げないと…俺、そのうち背後から刺されるな。
「…ところでイブキ。背中に何か固いのが当たってるのだけど?」
「いや…その…」
「フフフ…誘ってるのね。今日も仕事あるとはいえ少しだけ………ね?」
そもそも今日を生き延びれるかな…
・おまけ(今回の登場人物)
イブキ…クソチョロ。周りから真面目な堅物と思われがちだが実際は真面目なむっつりスケベ。担当のイクイノックスと宝塚記念の勝利を目指している。…これ以上の問題を起こさないために去勢するかどうかを真面目に悩んでいる。
ラウンドピーチ…イブキと共にトレーナーをしているウマ娘。担当のディープボンドとキングリアを宝塚記念で勝たせるべく今日もトレーニングを行う。その後、フランスに行くらしい。ナイスネイチャの店の常連。
ナイスネイチャ…イブキと関係を持っているウマ娘。自分の現役時から想いを寄せていた。現在は親から店を継いでおり、イブキとの間に1人子供がいる。イブキから多額の養育費をもらっているものの最低限しか手をつけておらずカツカツな生活を送っている。…そして、2人目も出来た。
マロンネイチャ…イブキとナイスネイチャの子供(ウマ娘)。ナイスネイチャからかなり大切に育てられている。またトウカイテイオーの子供と仲が良く、よく家に遊びに行っている。パパがいなくても平気だもん!………いつか刺してやる。