逃げか?差しか?その判断こそが大きな隙だ! 作:アマノジャック
今回はちょっと重い回です…それを頭の片隅に入れて…本編にどうぞ!
「よしっ!ゴールっと…ソラ兄!タイムは!」ダッ
「…また自己ベストを更新したな。本当にアップルは底が見えないよ…」
帰国した僕とアップルはある程度の休息を挟み、トレーニングを再開した。といっても今日は緩めにと言っていたはずなのだが…飛ばしたやがったな。ブリーダーズカップから中2週…今までのアップルのレース間隔としては非常に短い。…いや、何を今さら。最初から決まっていたことだ。アップルの調子も悪くない…なら、ケガだけを気を付ければいい。親父とその担当のイクイノックスにもう一度勝つんだ!!
「…ソラ兄?」
「アップル、短いローテーションになるが…本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ!3強対決…勝ってくるから!」
「そういえば今年も達成されたんだな…ティアラ3冠。…勝ち方だけを見れば本当に圧倒的だな。」
「何々?心配?」
「あぁ、アップルが勝つことは分かってるが…レースまでに…いや、レースでケガしないかが怖いんだ…」
「もう!心配してくれるのは嬉しいけど…私を不安するのはダメでしょ!」
「…そうだな、よし!今日はここまでしよう。」
「え?ちょっとだけしか走ってないよ?」
「明日から通常に戻すから…今日はここまでしてくれ。」
「むぅ…そうだ!じゃあ、デートしようよ!」
「いや、そんな時間は…」
「…ダメ?」
やめろ!そんな子犬みたいな目を僕に向けるな!
「…ケーキ1つと紅茶1杯だけだぞ。」
「やったー!ソラ兄大好き!!」ダキッ
「あんまり、くっつくなって…」
本当に可愛い半妹だ…結婚したい。…いや、僕にはキングさんが………親父が羨ましいな。なら僕もいっそ…
ーーー
「…ゴール。トレーナーさん、どうでしょうか?」ダッ
「んー、ちょっと動きが固くなった気もするが…全然許容の範囲内だ。…それでも一流の走りと言っても過言じゃない。俺が言えるのはこれくらいかな。」
「一流の走り…キングさんのような……フフフッ!またレコード更新しちゃいますよ!」
「期待しているよ。」
イクイノックスのトレーニングは順調だ…彼女が負ける未来が見えないレベルだ。ん?あれは…ソラとアップルか。仲が良いのはいいことだが………これは不味いかもな。
「どうしたものか…」
「トレーナーさん?」
「…イクイノックス、最後にもう一回走ってくれるかな?」
「まだ走っていいんですか!?はい!喜んで!」ダッ
今はこっちに集中しないとな。
ーーー
「ただいま…」
「お父さん~、お帰り~」
「ただいまマロン…」
「あれ?元気無い?何かあった?」
「ううん。そんなこと無いよ…マロンの笑顔で元気100倍だよ!」なでなで
「そう?えへへ…カバン運んであげるね。」
「ありがとうマロン。」
珍しく定時で帰宅するとマロンが出迎えてくれた。そして、みんなと夕食を食べて…ピーチとセイを俺の部屋へと呼び出した。
「どうしたのイブキ?今日は3○希望?」
「…違う。ちょっと…いや、かなり重い話だ。」
「それを私たちに相談ですか?ブラックちゃん、ネイチャさん、オグリさん、ゴアさん抜きで?」
「あぁ、アップルとソラについてだが…」
「「ーー!!」」
2人の表情が固くなる。
「…それ、キタちゃんもいた方がいいんじゃない?」
「…ぐっ。分かっている。分かっているのだが…うぅ…」
「ピーチちゃん、今はイブキさんの話を聞こうか。これでも飲んでください。」
「すまないセイ…」
ペットボトルの水を無理やり喉に流し込み、改めてピーチとセイに顔を向けた。
「最近のあの2人の距離はさすがに兄妹というには度を超えていて…とても真実を話せそうにない。」
「でもソラ君がキングちゃんと結婚すればアップルちゃんもさすがに諦めてくれるはずよ。そのタイミングに話そうって決めていたでしょ?」
「ソラが一方的に言ってるだけだろ?キングヘイローが満更でも無さそうなのは否定出来ないけど。」
「…それに今のあの娘がそれを知ったら…キングに何するか分からないよ。何よりブラックちゃんもまだ知らない訳だし…」
「………」
その場に数十秒の沈黙が流れる。そして痺れを切らしたピーチが床に尻尾を叩きつけながら立ち上がった。
「…キタちゃん呼んでくる。どうせあんたは動かないのでしょ?」
「…」
「数分で連れてくる……逃げるなよ?」
「………あぁ。」
「イブキさん…」
ピーチは部屋を後にする…その間、俺とセイはただ無言でキタサンを待つことにした。セイは震える俺の背中を擦ってくれた。
………
「どうしましたかイブキさん?何かとても暗い顔になっていますが…」
「ピ、ピーチ…セイ……腹はくくった。キタサンと2人にさせてくれ。」
「…分かった。」
「扉の前で待ってますよ。」
震える声でそう言うとピーチとセイは部屋を出る。そして…
「キタサン…どうしても…どうしても…言っておきたいことがある。」
「…はい。」
さすがのキタサンも重い空気を感じたのか表情が固くなる。
「アップルについてだが……俺と君の娘では無いんだ。」
「………え?」
キタサンの顔色が失われる。
「何を…言ってるの…ですか?ほら?時間はかかりましたけど…ちゃんと生まれてくるところを見ましたし…母乳だってちゃんとあげてましたし…イブキさん…笑えない冗談は止めてくださいよ…」
「俺と君の子は…生まれてすぐに亡くなったんだ。これがブラックアップルの死亡届と出産届…ゴールドシップが立会人だ。」
用意しておいた資料をキタサンへと渡す…キタサンが全身を震わせながら全ての欄を凝視した。
「………じゃあ、私が育てていたのって…誰なのですか?」
「…別の出産届けだよ。」
資料を渡す。
「父親は…知らない人ですね…。母親は…スペシャルウィーク……スペ先輩!?誕生した日は…一緒だったのですね…」
「…そうだ。だが、その父も同じ日に事故で亡くなっている。」
「じゃあ、スペ先輩は?スペ先輩はどうなっているのですか!?」
「ピーチ…セイ…!すまないが…本当にすまないが…説明を頼む!」
俺は扉の前の2人を呼んだ。すぐに部屋へと入ってくる。
「…分かったわ。」
「…無理だと思ったら止めるから言ってね。」
「はい…」
ピーチはキタサンへと語る。キタサンが出産した日、スペシャルウィークも予定より早い破水が始まったというのだ。そして、急いで夫と共に病院に向かっていたところ、事故に遭い…運転していた夫は即死、スペシャルウィークも意識不明の重体、そんな中で何とかゴールドシップが赤ちゃんを取り出したのだという。そして、キタサンの赤ちゃんは…長時間の排臨により力を使いきってしまって亡くなってしまった。これが同時刻、同病院で起きていた…そして、キタサン以外はこのことを知っており悲しみへと包まれていた。
「そんな…あの子の泣き声が…ちゃんと聞こえていたのに…」
「最後の力だったんだよ…」
「…」
子を失った母と、父を失い母が重体の子…2つの問題が出来た中、ある男………俺がとある提案をしたんだ。
「その娘をキタサンの所に連れていってくれ、…とな。」
「…」
「その後、色々あったけど俺らで育てることになった。スペシャルウィークも何とか回復して…今は北海道にいるらしい。」
「…」
「…混乱するよね。…実は私もリクを生んだ後にセイちゃんから聞いて…病院だということを忘れてイブキに怒鳴ってしまったわ。」
「…覚えてますよ。…内容まで分かりませんでしたけど…こっちの病室まで聞こえて…アップルちゃんが泣いて…いつものことかと…思ってましたけど…」
「今まで話さなくて悪かった…」
「…」
キタサンは無言で頭を下げた俺を見つめていた。そのままでいるとキタサンの声が聞こえてきた。
「…イブキさん。」
「………はい。」
「アップルちゃんとソラ君にもこのことを話しましょう。私もご一緒しますから。」
「…ソラはその時は俺のそばにいた。だから既に知っている筈だ。」
「それならなおさら2人に同時に言うべきです。今すぐにでも…」
「それはダメだ!…ジャパンC!ジャパンCが終わるまでは待ってくれ!……レースに影響が出ることはしたくない!」
「分かりました。でも…ネイチャさんとオグリさんもゴアさんには今から伝えます。いいですね?」
「…はい。」
「後…辛かったですよねイブキさん。」
「………え?いや、ピーチとセイも知ってたし1人で抱え込んでいた訳では無い…」
「だとしてもです。私のためを思って…何年も何年も…」
「キタサン…」
「話していただきありがとうございます。では、イブキさん…ジャパンCが終わるまではXX禁止です。」
「………はい?」
急に何言ってるのこの愛バは?
「XX禁と言いました。では毎晩寝る前にこれを飲んでしっかりと溜めといてください。ピーチさんもスカイさんもそれでいいですね?」
「…まぁ、ジャパンCまでなら。」
「約束だよブラックちゃん?」
「あの…それだけ外を歩け…」
「あぁ、そうですね。ではこれを付けておきましょう。ちゃんとイブキさんのサイズに合わせてオーダーメイドしていますので…」
「何でそんな物を…てか、どこから取り出して…」
「お風呂の時は鍵を外して私が綺麗に洗ってあげますので……腹はくくったのでしょ?覚悟を決めてください。」
「………はい。」
ガシャン
俺の息子が金属の檻へと幽閉された。
▼ブラックアップルのデータが修正されました。