逃げか?差しか?その判断こそが大きな隙だ! 作:アマノジャック
クソ親父が行方不明でも時間は流れる。レースが終わり、ウイニングライブ、アップルによるトゥインクル引退からのドリーム参戦の宣言、それらによる大量の取材、アップルの送迎etc…ようやく全て終わり…僕はトレセン学園のトレーナー寮に帰ろうとしていた。スマホが鳴る…ブラックさんからだった。今さら何の用だ?大事な話?親父もいる?スマホを叩き割りたい衝動を抑え、言われてた所にいくと…マスクとサングラスを着けて大きな麻袋を肩に担ぐブラックさん、さらには美浦寮へ帰ったはずのアップルがそこにいた。そして気がつけば居酒屋の完全個室へと入っており…麻袋から親父が取り出される。手錠付けてるし…どういう状況?その前に…
「…アップルは未成年だが?」
「お酒は頼まないよ…」
「えぇ!?」
「えぇ!?…じゃないよキタサン。これから大事な話をするんだよ?君はシーザーサラダでも食べてて。」
「パパも人のこと言えないと思うけど…大事な話?パパがトレーナーやめるとか?ジャパンCの後ってピーチちゃんにイクイノックスちゃんのこと任せてたみたいだし。」
「ぐっ!?あれはその…って俺のことじゃないから!アップル、君のことだよ!」
「…私?」
「ソラ、君は薄々は気づいてると思うけど…」
その後のことはよく覚えていない。親父からはアップルは僕と血縁関係がないことが明かされた辺りから頭が真っ白になったからだ。気がつけば親父もブラックさんの姿がそこにはなく、アップルだけが僕の膝で眠っていた。
「…グレープから下の奴らが生まれた瞬間は全員覚えていたつもりだったけど…アップルだけ違っていたんだな。あの時の親父…どういう気持ちだったのかな。」
「Zzz…」
「…さっさと帰るか。ドリームトロフィーに行く以上、今後の予定は…」
眠ったアップルの頭を軽く撫でて背負い、居酒屋(*親父が会計済)を後にする…門限までの時間はギリギリ。早くアップルを寮まで送らないと…タクシーでも捕まえて…
「あの…」
「ー!?」
声が聞こえた方を向く。…鹿毛に流星のある…どこかで見たことのあるウマ娘。お袋と同じくらいの年齢か…しかし名前が思い出せない…
「あなたは?」
「トレセン学園のOGです。ブラックアップルさんとその担当トレーナーのソラさんですよね?」
「えぇ…そうですが…」
「今日のレースを見ましたよ!なんまら凄かったです!今、帰りですか?時間が無さそうですし…よかったら美浦寮までお送りしますよ?」
どうしよう…とても優しい方には見えるけど…怪しすぎる。しかし、時間がないのも事実だ。
「ありがとうございます。お願いします。」
「では、早く行きましょう。」
眠ったアップルを後部座席に乗せて、僕は助手席へと座った。車は動き出す。
「Zzz…」
「…私が言うのもあれですが…よく乗ろうと思いましたね。」
「タクシーを呼んでいたら門限を過ぎてしまうので…渡りに船です。」
「それはそうかもですが…えーと、今日のジャパンCでアップルさんは2着…惜しかったですね。」
「えぇ。僕は勝ったと思いましたので…悔しいですよ。」
「…私もトゥインクルのラストランはそうでした。勝ったと思っていたら………お気持ち良く分かります。とはいえG1レースを7勝、私よりも多…コホン!素晴らしい戦績かと。このままドリームへと進むのでしたね?」
「はい、そこでも大暴れさせるつもりですよ。」
「フフフ…活躍をなまら楽しみにしています。あそこは大魔境で1勝するまでが大変でした。…って友達から聞きました。」
「へー、そうなのですね。あなたはどれくらい勝てましたか?」
「8勝………した友達がいます!」
「凄いですね。」
この人…ドリームに行っていたのか。しかも8勝って…物凄い実力者だ。…あ!
「前から猫が飛び出してきますよ。」
「…え?あ!本当だ…ありがとうございます。」
「あなたからは完全に死角にでし…?」
…急にその人の息が荒くなる。すぐに元に戻ったが…
「大丈夫ですか?」
「はぁ…はぁ…大丈夫です。ちょっと、昔のトラウマが出てきただけですので…ですが、これ以上は危ないかもしれないですね。下ろして今からでもタク…」
「時間がないので結構です。万が一の時は僕がアップルを守るので…ですの話を続けてください。トラウマの件も…あなたが話したいなら聞きますよ?」
「ありがとうございます。…私、レース引退後は結婚して…子供が出来て…幸せな日々を過ごしていたのですよ。」
「……はい。」
「でも…それは一瞬で壊れてしまいました。子供が産まれる前に車の事故で夫を失くし…私自身も大ケガで…」
「それはお辛い…」
「目が覚めると病院でした。お腹の中にはもうあの子はおらず…」
あれ?この話って…
「でも無事に産まれていたことを聞いた時、私、涙が止まらなくて…」
「…」
「…残念ながら、ケガの治療もあってその娘を私が育てることは出来ませんでした。しかし、元気に育っているのをピー…その娘をずっと見てきた人たちから聞いて…」
「…」
「デビューしたと聞いた時は涙が出てきて…」
「…」
「そして3冠ウマ娘になって…日本一どころか…世界一のウマ娘になって…えーと、ごめんなさい。言葉に出来ないな。」
「…もしかしなくてもあなたは…」
「それ以上はダメです。…このことはアップルちゃんには内緒でお願いしますよ。」
「…」
それは無理だと思いますよ。だって…アップル、起きていたみたいで目から涙が…いや、ここは気づいていない方がいいのだろう。
「話していたら到着しましたね。」
「ありがとうございます。これ、タクシー代として…」
「アップルちゃんに使ってあげてください…それが私の願いですから…」
「……分かりました。その…上手く言えないですけど…いつでも会いに来てください!アップルは絶対に喜ぶので!」
「………。約束は出来ません。けれど…セイちゃんかピーチちゃんを通して連絡することあるかもしれないので…その時はよろしくお願いします。」
「…はい!」
アップルを背負い、車を出る。鹿毛のウマ娘…スペシャルウィークさんはその場を後にした。その車が見えなくなると…アップルが背中から下りた。
「…どうだったアップル。生みの親に会えて。」
「……私のママはキタサンブラック。それは変わらないけど……嬉しかったな。有マ記念が終わったら暫くは落ち着くだろうし…今度は私から会いにいってみるよ。」
「そうか。」
「ソラ兄も一緒に来てくれるよね?」
「勿論だ。」
「ソラ兄…大好き!これからもずっと一緒にいようね?」
「それはダメだ。」
「…え?どうして?一緒のパパじゃないんだよ?私と結婚出来るんだよ?」
「確かにお前のことは大好きだ…だが、それは義妹としての話だ。」
「そう…じゃあ、これからは本気出すね?」
「…え?」
「キングさんより…私に夢中にさせるから…覚悟してね?ん…!」
「んん!?」
コイツ…舌いれてきやがった!どこで覚えた!?
「ぷはっ!今日はこれくらいで…じゃあね!」
「…」
そういうとアップルは寮へと走っていった。
ーーー
「…」
「スペちゃん…大丈夫ですか?」
「最後まで…運転できたよ…」
「そうじゃないでしょ!」
「いやいやキングちゃん!?まずはそれだからね!スペちゃんの事故、聞いているでしょ!」
「あ………ごめんなさい。余計なことを言ってしまったわね…」
「ううん…大丈夫。それよりあの娘をあんなに近くで…見れたんだよ…みんな、ありがとう…」
「私たちは何もしてないよ。」
「いや、ファレノはスペちゃんに車を貸してあげたじゃないデスか。それで…スペちゃん、本当に大丈夫デスか?凄い汗が…」
「アハハ…緊張したからね。…これから、あの娘がどんな道が進むのか…見守っていくつもりだよ。」
「そういえばトレーナーといい感じだったよね。セイちゃんの息子だっけ?」
「確かソラって名前で…キングちゃんの恋人じゃなかった?」
「ケ!?そうなの!?結構年の差があるような…」
「…今度土曜、一緒にディナーに行くの。」
「おぉ!?本気で口説きにきてマスね!」
「キングちゃんはどう思っているのですか?」
「キングは…その…」
▼ブラックアップルのデータが更新されました。