逃げか?差しか?その判断こそが大きな隙だ! 作:アマノジャック
「…あ!いらっしゃいませ……イブキさん。」
「カフェ、久しぶり!これはお土産の饅頭…あと、ブレンドのホットをお願い。」
「…かしこまりました。…温泉旅行……どうでした?」
「………死ぬかと思った。」
これは、俺が先日行ってきた旅行の話だ。
───
「おめでとうございます!特賞の『温泉旅行券』です!」カランカランカラン
「おぉ!特賞ですよトレーナーさん!」
「そりゃ…25回も出来るなら1回くらいはでかい当たりが来るってば…」
俺とイクイノックスはデパートへと買い出しへと来ていた。イクイノックスがURAへと就職するのでそれに合わせた靴やスーツなどを見繕い…ついでに俺も普段のスーツを新調したのでかなりの買い物となったのだ。すると、カードに大量のスタンプを押され…25回もくじ引きを回せることに。まぁ、そこはくじ引き…参加賞と5等ばっかりでたまに4等が当たる程度。4等が鉄パイプだったので…流石にそれは辞退する。ちなみに参加賞はニンジン1本、5等はティッシュ1箱…そこそこ使えるやつ。そんな中、16回目でイクイノックスは特賞を出したのだ。
「温泉かぁ…そういえば、イクイノックスは連れていったことが無かったな…」
「…え?私以外とは行ったことがあるのですか?」
「昔は年が明けたら、担当のメンバー全員を連れて行ってたんだよ…まぁ、慰安旅行ってやつだ。」
「えぇ…初耳ですよ。」
「その時は今ほど俺の世間的なイメージも悪くなかったが…君1人を連れていくとなるとどうしてもな…」
2人だけだと担当に手を出してると思われるからね。(*既に出している。)
「とりあえず、残りのくじ引きを全部回しなって。」
「はーい!」
残りの9回は全て4等の鉄パイプだったので辞退した。
………
「ぶーぶー!私はトレーナーさんと2人で温泉旅行に行って…じっとりねっとりとイヤらしいことがシたいだけですのに…」
両手に荷物一杯の状態で美浦寮まで送る俺とイクイノックス。タクシー使えば良かったかな、とも思ったが…イクイノックスが喋りながら帰りたいとのことで却下となった。この発言を聞いた以上は使わなくて良かったと心の底から思っているよ。
「その発言が既にアウトだよ…卒業したら誰も文句は言わないから…」
「トレーナーさんにはトレセン学園の生徒であるうちに…私のピチピチな身体を堪能して欲しく…」もじもじ
「イクイノックス、君って発言がドンドンおっさんみたいになってきてるよね?」
「素の私が出てきただけですから~。でもでも~、トレーナーさんは~、そんな私でも大好きですよね?」
「大好きだけど…それでも旅行はダメだよ。俺、普通に忙しいし…」
イクイノックスは顔も身体も最高だ…それは認めよう。何なら今からでも堪能したい。けれど、無理だ。その理由は…単純に俺が忙しい。トレーナーの指導のため、トレーニング場を見回り…さらには担当がいないとウマ娘とトレーナーの相性を見極め、お見合いの仲介(*契約を勧める)をするのが今の俺の仕事となっている。契約していないウマ娘とトレーナーがいる限り、俺が何日も遠出が出来る日など無いのだ。
「まぁ、休めても学園がオーケー出す未来が見えないけどね。」
「こっそり行けばいいでしょうに…はぁ。温泉…」
「温泉ならピーチのチームの子と一緒に行くのはどうかな?ほら…キングリアとかディープボンドとかがいたでしょ?」
「いや、それくらいなら普通に何度も一緒にいった仲だから今さら感が……と言いますか!私はトレーナーさんと2人で行きたいんですって!」
何度も行ってるのかよ…仲良いな。
「諦めてくれイクイノックス。大人は仕事を優先するものだ…」
「優先しなかったら?」
「最悪解雇かな…正直、俺が今よりも収入が多いところに就職するのは不可能だ。せめてプラムが独り立ちするまでは俺が働きつづけないと…」
「本当にそう思ってますか?」
何この娘、急に声のトーンが落ちたのだけど?どうしたの?
「…何が言いたいのかな?」
「私を入れて9人……いえ、カフェさんも含めると10人でしたね。」
「…何の人数だ?」
「またまた~、惚けちゃって~………あなたが手を出した女性の数ですよ?」
「──っ!?」
何でこの娘、カフェとの関係まで知ってるの!?サンデーサイレンスか!まさかサンデーサイレンスがバラしたのか!?…それはない?確かにそれなら…どない伝えたんや、って話になるし。
「正直、今あなたが持ってる資産だけで余程の贅沢をしても余裕で大人まで育てれますよね?仮の話ですけど…あなたが今、急にトレーナーを辞めても、私たちの収入があれば死ぬまで働かなくてもいいですよね?そうすれば…毎日、私と温泉に行きたい放題ですよ~?」
「…」
とりあえず、イクイノックスが凄く俺と温泉に行きたいことは伝わったよ。しかしな…
「契約が出来ていないウマ娘とトレーナーがいるのは見過ごせない…せっかく、トレセン学園に来たのに…」
「はぁ…本当に他人のことばっかり気にするのですね……まぁ、そんな所に私も惹かれた訳ですけど。」
「そうでも無いよ…相性のいいペア何てそうそういないし。…それを俺の采配で決めろとか…自己嫌悪でゲロ吐きそう。」
「本当に大丈夫ですか!?というか何に自己嫌悪が?」
「トレーナーをペアとなる予定のウマ娘に合うように矯正している。つまり、そのトレーナーが引き出せたかもしれない指導を…潰してしまってるってことだ。」
「いや、普通に貴方は仕事してるだけじゃないですか!?」
「俺自身は自由にやらせてもらったのに…他のトレーナーはダメって…」
「トレーナーさんの実績がある以上、それが良い方法だという話でしょ?」
「う、うぅ…でも俺が担当トレーナーとして前線にい続けると他のトレーナーが活躍出来ないし…」
「さらっと自慢してきますね…否定出来ないのが腹立ちますけど。まぁまぁ…今度、一緒に温泉でも行ってリラックスでもしましょうよ。何時が空いてます?」
「再来週の土日なら…」
「分かりました!その日に予約しておきます!ではでは~!」
イクイノックスは荷物を持つとそのまま美浦寮へと帰っていった。いつの間にか帰ってきたようだ………あれ?俺、今…とんでもない約束をしなかったか?
───
「ふっふふ~ん♪」
「ん?ノックスちゃん、機嫌いい?パパと何かあった?」
「実は今度に温泉へ一緒に行くんだ~♪ほら、これ!くじで当たった!」
「わぁ…運がいいね。でも、ピーチママたちに隠すことが出来るかな?」
「大丈夫大丈夫…私に考えがあるから!アップルもちょっと協力して欲しいかな。」
「えー、あんまり巻き込まれたくは無いのだけど…ま、いっか~!何すればいい?」
「とりあえず…」
───
タクシーで自宅へと帰る俺。既に家族全員が帰っており…マロンとスダチが出迎えてくれた。
「お父さん!お帰り~!」
「…お帰り。荷物多そうね…少し持つけど?」
「じゃあ、このケーキを運んで貰おうかな…切ったらみんなに渡してくれる!」
「分かった。」
「あっ!これってこの前デパートで出来た新しいケーキ屋さんだ!お父さん、デパートに行ってきたの?」
「うん、ちょっとお仕事で使う服をね…マロンはこの袋を俺の部屋のハンガーに引っかけて貰おうかな。」
「おぉ!重大ミッション…頑張ります!」
「頼んだよマロン。終わったらケーキを食べていいから…あ、歯磨きを忘れないように。」
「は~い!」
荷物はマロンに任せ…俺とスダチはそのままセイとマヤノがいるリビングへと向かう。
「あ、イブキちゃん!お帰り~!」
「Zzz…」
「ちょうど温まりましたよ~」
「だっ!」
「きゃっ!きゃっ!」
セイが晩御飯を作ってくれる隣でマヤノはプラムとザクロを抱っこしつつ、1人で遊ぶキウイの様子を見ていたようだ。セイがマヤノの育児の先生になるとはな……今日もセイのご飯が美味しい。あと、オムライスにケチャップでハートを書いてくれる所とかめっちゃ嬉しい。スダチはケーキを人数分に切っているな…オグリ用のは最初に取っておくのね。
「ご馳走さまでした。スダチ、俺も手伝…」
「大丈夫。」
「じゃあセイ。洗い物を…」
「こっちも大丈夫ですよ。今、洗ってる途中ですので…食べた食器は隣に置いといてください。それより、ピーチちゃんが呼んでましたので…」
「…そっか。」
確かに今夜のレースはピーチの番だったけど。
「スカイちゃんスカイちゃん、キウイちゃんにケーキあげても大丈夫?」
「市販のはまだ早いかな~、キウイちゃん用のデザートはイブキさんが作ったのが冷蔵庫にあるよ~」
「あるんだ!?」
とりあえず、シャワーをしたらピーチの所に行くとしよう。
………
「ピーチ、入るよ。」
「遅かったわね。」
俺が寝室へと入るとピーチは昨日買ったであろうトレーニング用の本を読んでいた。
「いや、その…お風呂に入ってて…」
「どうせ、この後にまた一緒に入るのに?」
「ま、まぁ…そこはエチケット的にね。」
「…ふふっ。相変わらず、真面目なヤツ。」
ピーチは軽く微笑むと本を片付け…手に甘い匂いのする香水をつけ、ベッドへと横になった。…いつもの流れだ。
「…この前みたいなのは止めてよね。あの後、何日もお腹痛かったんだから…」
「…それは本当にごめん。今回はどうする?前からと後ろからどっち…」
「両方よ…来なさい。」
「あぁ…行くよ。」
………
……
…
「…ふぅ。イブキ、今日のあんたはかなり疲れているようね。」
「ごめんね…ちょっと、イクイノックスと共に就職用のスーツを見にデパートに行っててね。ついでに俺のも1着購入した。」
「確かに色褪せてるのがあったわね…あら?この前、ゴアさんと一緒に行ってなかった?」
「あれはジャックとスカーレットのデートを尾行してただけ。健全に終わったみたいだから…帰りにカフェの所でコーヒー飲んできた。ピーチ、そういう君は少し上の空だったような気がしたけど?」
「そうだったわ…これ、見たわよ。」
「見た?」
ピーチがスマホを取り出し、ウマッターを開く。…イクイノックスの個人アカウント?最後の投稿は去年のラストランだった筈だけど…何か新たに投稿したのだろうか?
『温泉チケットが当たりました~♪なのでトレーナーさんと一緒に行ってきます♡楽しみです♡』
「何してんだイクイノックス!?」
とんでもないこと発信しとるやんけ!?しかも、万バズを超えてトレンドにもなってるやんけ!?
「…これって恒例だった温泉合宿よね?何でこのタイミングでやるの?」
「いや…これは違うんだ!書いてある通り、イクイノックスがデパートのくじで当てたんだよ!んで、帰りのお喋りで俺が弱気なことを言ってしまった所に『どしたん話聞こか?』的なノリで2人で月末に行くようになったんだよ!」
「普通に断ればいいでしょ?」
「…あんな楽しみな目をされたお願いなんて断れないよ。」
「…相変わらずチョロいわね。」
とりあえず、学園に説明しないとな…
「…あ。ドラちゃんからLANEが来てる……イブキ、私たちもその旅行付いていくわ。」
「…はい?私……たち?」
「トウキチちゃんたちは託児所に預けるとして…ゴルシって来れるのかしら?」
「あのピーチ?話が見えない…」
「家族旅行なら問題無いでしょ?まぁ、子供たちはお留守番だけど…」
「…つまり?」
「あんたが関係持ったウマ娘……私、スカイちゃん、キタちゃん、ゴアさん、オグリさん、ネイチャ、マヤノちゃん、ゴルシ、ノックスちゃんの10人で行くわよ。」
「………」
良かった、カフェはバレてな………いや、何でそうなる?ドラよ、ピーチに何を送った?
「そもそも俺、今は忙し…」
「あら、学園長から返事が来たわ。そんなに慌てることでもないから休んでいい、らしいわよ?」
「…そうなの?」
早めに対処して欲しいことだと思ってた。…結局は俺の早とちりか。とはいえ…
「イクイノックスの件はどうしよ…場所とか特定されてファンが押し寄せたりしないよね?」
「大丈夫大丈夫。あそこって結構な町外れだけど…警備はかなり厳重よ。メジロ家が経営してるからね。」
「…マジで?」
毎回知らずに予約しに行ってたわ。
「あっ、ゴルシがマックイーンちゃんの所から専用の車パクってきてくれるって。だから電車移動をしなくていいみたい。」
「それは普通に止めさせて!」
俺の知らないうちに温泉旅行のプランがドンドンと進んでいった。