逃げか?差しか?その判断こそが大きな隙だ! 作:アマノジャック
今日の高松宮記念…応援してるのはトウシンマカオとスズハローム。
勝ったのはサトノレーヴ…モレイラさんヤバ過ぎ。
トリックスターは語りたい
私は幸せなウマ娘だ。
何故そう言い切れるのか…それはやはり愛するイブキさんと何十年も一緒に過ごしてこれたからだろう。私と彼は結婚していない…けれど、彼との子供は7人もいて、全員認知もしてもらっている。どういうことか…まぁ、一言で片付けるなら公認不倫の関係である。
今回はそんな私とイブキさんの関係について話していこうと思う。
───
私が初めてイブキさんと直接会ったのは彼のトレーナー室…私の担当トレーナーであったアイリちゃんのトレーナー室の隣であったため寝惚けて間違えて入ってしまい、そのままソファーで寝てしまったのだ。
「Zzz…」
「どうしよう…毛布とか無いよ。とりあえず風邪を引かないように…これでもかぶせるか。」ふぁさっ
「──っ!?」がばっ
「あ、起きた。」
何か温かいものが私を包む…初めて嗅いだその臭いに反応して私は反射的に起き上がる。目の前には短髪で顔の整った男の人がいた。突然の爽やかイケメンに私の乙女心がキュンとして、その場でかけられたスーツを掴んだまま固まってしまう私…それに対して男の人は冷静にアイリちゃんに電話をして、そのまま私は引き取られたのでした。この時の私はイブキさんの名前をまだ知らない……でも今だから思うけど、この時からもう意識はしてたのかもしれない。
………
教室でクラスメイトに囲まれているピーチちゃんの姿が…どうやらイブキさんについて色々と聞かれているようだ。まぁ、その時の私はライバルの情報収集している時期だったので有力候補であるピーチちゃんが何を話しているのか聞き耳を立てました。
「へ~、ピーチちゃんのトレーナーさんってパンケーキ焼くのが上手なんだ!すごい!」
「…スイーツ全般作れるみたいね。」
「すごいデース!エルも食べてみたいデース!」
「エル?貴方のトレーナーじゃないのですよ?」
「それは分かってますけど…」
「聞くだけ聞いてみるわよ。」
「ピーチ!ありがとうごさいまーす!アイラブユー!」だきッ
「はいはい。まぁ、トレーナーなら喜んで作ってくれると思うけどね。」
へぇ…スイーツ作るのが上手なんだ。そう思ったその日のトレーニングの前、アイリちゃんがブラウニーをくれた…とても美味しかった。さらにそれがあの時のトレーナー…イブキさんの手作りだと聞き、何時もよりトレーニングに集中出来た気がした。その後、私をダシにアイリちゃんはイブキさんへアタックし始めていた。
………
トゥインクルシリーズが始まり…いよいよ3冠レースが始まった。キングやスペちゃんなど強力なライバルがいる中で私は何と何と、皐月賞を勝利したのでした~。あー、後々のことを考えるとこれだけで一生の自慢になるんだよね。んん!それで私の2冠目をかけた日本ダービーに…何故かピーチちゃんの姿もあったんだよね。いや、日本ダービーにティアラのウマ娘が参戦することは過去に何回かあったのだけど…オークスの後に連闘とか聞いたことがない。他にもオグリさんがマイルCSからジャパンCに連闘出走とかしてたみたいだけど……だからといって私が手を抜くことはない。
『内からキングヘイロー!?
なんとキングヘイローがハナに立ちました!』
やってしまった。オークス同様に逃げると思っていたピーチちゃんが…中団で控えてくるなんて。…なら、この位置でキングをマークし続けてやる!勝負所は最終コーナー…レース展開の予想が外れた以上…今の実力で押しきるまでだ!
『最後の直線!
ここで満を持してセイウンスカイ!
セイウンスカイが先頭へと立った!』
キングを捕らえた!離せ…離せ離せ離せ離せ…っ!?
『間を突いてスペシャルウィーク!
その背後にはラウンドピーチ!
セイウンスカイ、スパートをかけるが…並ばない、並ばない!
先頭かわってスペシャルウィーク!
外からラウンドピーチが捉えにきているが…差は縮まらない!
勝ったのはスペシャルウィーク!
夢を掴んだスペシャルウィークがゴールイン!!』
…完敗だった。少しでも気を紛らわそうと観客席にいるアイリちゃんを探すとすぐに見つかった。私へ手を振っていたけど…それよりも近くにいたイブキさんとオグリさんの姿が目に映る。2人ともピーチちゃんの完走を喜んでいた。その日の帰り、アイリちゃんから無言でチェリーパイを渡された。それは控えめな甘さで…少ししょっぱい味だった。
………
有マ記念が終わり、私のクラシック級が終わる。年度代表ウマ娘はタイキ先輩で同期のクラシック部門はエル、クラシックティアラ部門はピーチちゃんが選ばれていた。私は皐月賞と菊花賞で2冠、さらにはG2とはいえ京都大賞典でシニア級のウマ娘相手に勝ったのだからワンチャンあるとは思っていたけど…残念だ。
ピーチちゃんとエルは来年、海外へと遠征に行くらしい。エルはフランスの凱旋門賞、ピーチちゃんはアメリカのブリーダーズカップのどれかを目標にしているとのこと…ほぼアイリちゃん経由であったもののイブキさんに会えなくなることに寂しいと思う自分がいた。
………
シニア級へと入り、イブキさんとアイリちゃんと共にとあるレース…中山記念を見にきていた。ピーチちゃんのは結果はキングの2着。…ピーチちゃんの体調が整い次第、アメリカへと向かうとのこと。つまり、しばらくはイブキさんに会えなくなるということだ……いやいやいや。だからと言って私に何が出来る?焦っているのはアイリちゃんだけで私は別に何かをする必要は無い。そんなことを考えていると暗い顔のアイリちゃんがトレーナー室へと入ってきた。
「トレーナーさん?どうしましたか?」
「…セイちゃん。ううん…何でもないわ。来週の日経賞…絶対に勝つわよ!これ…ババロアらしいわ。」
それ最後に…アイリちゃんからイブキさんのおやつを貰うことは無かった。レースは勝利した。
───
「屈腱炎ですね。」
「…」
「そんな…っ!?」
エルやピーチちゃんたちが日本から出て半年が経つ。私はG2レースを2勝するという大活躍をしていたのだけど…天皇賞(秋)で敗れた後にそれが判明し、長期休養をすることになる。…1度ケガをしたウマ娘が復帰することは非常に難しい。何時また走れるようになるかは分からない…けど、まだ走り続けたい。その想いに答えるようにアイリちゃんはリハビリに付き添ってくれた。
………
この年、スペちゃんは天皇賞(春)と天皇賞(秋)とジャパンCを、グラスちゃんは宝塚記念を勝った。エルはサンクルー賞を勝ち、さらには凱旋門賞では2着で後1歩でモンジューに勝てる所まで来ていた。そしてピーチちゃんは…ホイットニーHとマンノウォーS、さらには帰国してエリザベス女王杯も勝った。そんな4人と有マ記念で戦うこととなる。
「…キングのこと忘れてないかしら?」
「セイちゃん!私もいるからね!」
「札幌記念で一緒に走ったよね!?」
以下キング、ツルちゃん、ファレノちゃん。屈腱炎はどうしたか?まぁ…そこは話の都合というか気合いで何とかね。結果は最後のコーナーでエルにかわされたことを切っ掛けに次々とかわされて、かなりの後方でのゴールとなった。これでピーチちゃんとスペちゃん、エルのトゥインクルシリーズは終わりらしい。私もここで終わるべきだったのだろうか?そして、イブキさんの隣にいるマヤノさんとそのトレーナーの姿が気になった。
………
イブキさんがチームを持つことになったらしい。既に何人ものウマ娘が加入していた。そして、去年までアメリカで現役を続けていたゴアさんが日本でトレーナーになり…そのままイブキさんのチームでサブトレーナーになっていた。さらにイブキさんはピーチちゃんに告白され…交際が始まったとのこと。私は屈腱炎の治療のため…彼と会えることはあまり無かった。
───
1年の時が流れる…完治した私は天皇賞(春)へと出走が決まった。去年のG1レースをほぼ総取りしたテイエムオペラオーが出走するレースだ。私もキングに続いて覇王討伐と思ってたけど、現実はそんなに甘くない。休養を経た私は…第3コーナーで失速し最下位に終わる。その後、再びケガを負ってしまったので宝塚記念を回避し、レースから引退することを決めた。
………
トレーナー室に置いた私物を回収しに足を運ぶ…イブキさんの姿があった。私のケガを心配するイブキさん…私は引退することを伝える。すると彼は私にこう言ってきたのだ。
「俺は君の走り、好きだったのだけどな…」
…うん、その時の私は…何を思っていたのだろうか。感情がぐちゃぐちゃになって…色々と吐き出して…彼の前で泣いてしまっていた。慌てた彼は私をアイリちゃんのトレーナー室へと入れる…あれ?今思うと何でイブキさんがアイリちゃんのトレーナー室の鍵を持ってたのだろう?まぁ、そこはいいか…イブキさんは3ヶ月でケガを治せと言ってきた。テイオーさんがケガをしていた時の経験を活かしたリハビリ方法で可能だとか…本当にむちゃくちゃな人だ。
アイリちゃんへの電話が終わったかと思うと私にレアチーズタルトを渡してくれた。凄く美味しくて…胸のドキドキが止まらなくなっていた。…彼とまとも話したのはこれが初めての筈だけど…あぁ、なるほど。頭の中でグルグルと循環する彼の口から聞こえた『好き』という言葉が…私をこんな気持ちにしてくれたのだろう。その日から札幌記念に向けてリハビリを始めた。
………
「お前が最強世代のセイウンスカイか?」
札幌記念…私に声をかけてきたのは今年のダービーウマ娘であるジャングルポケットだった。
「最強世代というはよく分からないけど…セイウンスカイは私だよ。何の用かな…ダービーウマ娘さん?」
「何、俺はその名を超えた最強になるウマ娘だ。その最強の名は俺が貰う!」
「…まっ、お手柔らかに~」
「んだコラぁ!そのやる気の無い返事はよぉ!」
「えぇ…理不尽……じゃあ、私も見せて貰うよ。新時代のダービーウマ娘の実力をね。」
「そうそうコレだコレ!俺はそういう返事を求めてたんだよ!しゃっ!勝負だセイウンスカイ!」
「…私だけに気を取られていいのかな?」
「はんっ!んな半端なことはしねぇよ!全員、俺がぶっちぎる!」
レースが始まる…前走では掛かりに掛かってスタミナが早めに尽きてしまった。さらに全盛期程のスピードもパワーもない…そんな私が勝つために出来ることは…最高率の走りを常に行うこと以外無い。
『先頭はダイワカーリアン。
2番手は少し空いてアクティブバイオ。
3番争いにスティンガーと今日は控えたかセイウンスカイ。
そのすぐ後ろにエアエミネム。
ダービーウマ娘のジャングルポケットが徐々に外からペースを上げてきた!』
私の末脚はもう昔ほどキレは無い…なら早めに仕掛けて後続を離さなければ勝てないだろう。スタミナならこのメンバーの中ではまだ戦える。よって、ここで仕掛ける!
『ここでセイウンスカイがダイワカーリアンをかわして先頭へとたった!
第4コーナー、先頭に立ったのはセイウンスカイ!
エアエミネムがそれを追う!
ジャングルポケットは苦しいか!』
後ろを気にする余裕は無い。ただ前を走る…それだけ…
「まだだーー!!俺は…まだ負けてねぇ!!」
ジャングルポケット、私言ったでしょ?私にだけ気を取られてていいのか、って。
『粘るセイウンスカイ!
3バ身後ろからエアエミネムが捉えにきている!
3番手争いはファイトコマンダーとジャングルポケット!
エアエミネム、先頭との差が縮まってきた!
セイウンスカイかエアエミネムか…2人並んでゴールイン!』
写真判定によりしばらく結果は分からなかったけど…私がハナ差で勝利していた。今回はイブキさんとピーチちゃんの姿が見えたので手を振った…ピーチちゃんが気づいたのか大きく手を振って返してくれた。私のトゥインクルシリーズはここで終わりドリームトロフィーへと入る…ここから私はイブキさんと深く関わることとなる。