逃げか?差しか?その判断こそが大きな隙だ! 作:アマノジャック
出来るならこの2頭が一緒に1着になって欲しい。
…え?リフレーミングどうしたの?完走できたのこれ?
「おぎゃー!おぎゃー!」
「ピーチ、無事に産まれた赤ちゃんだよ!男の子だよ!」
「良…かった…わ…」
「おうおうおう!目元とか旦那にそっくりじゃねぇか!優しそうな目だぜ!」
「それは…私の目は…優しくないって…意味…?」
「落ち着けピーチ!君はとっても優しい愛バだから!ゴールドシップも変なこと言わないでくれ!」
ピーチちゃんの子供が産まれました。男の子か…うちはソラ君だけだったから弟が出来て良かったね。名前は『リク』にしたようで…3人目の男の子は『ウミ』にする気かな?
………
「おぎゃー!おぎゃー!」
「…連れてきたよ。」
「ありがとう…ございます…。ゴルシさんが…いなくなって…不安でしたけど…。この子が…アタシの赤ちゃん…?かわいい…」
「……あぁ、その通りだ。」
「頭に…リンゴみたいな模様が…ありますね…」
「……あぁ。だから『ブラックアップル』にしようと考えてる。」
「いいですね…素敵な名前です…」
「…」
その数日後、ブラックちゃんの子供も産まれました。黒鹿毛のウマ娘です。
───
ピーチちゃんとブラックちゃんはしばらく病院なので私とイブキさんの2人きり…何てことはなく、4人の子どもたちと一緒に過ごしてる。ただ…
「…」
「イブキさん、牛乳溢れてます。」
「…あ、ごめんね。すぐに拭くよ。」
「…いってきます。」
「ストップストップ!?パジャマで行く気ですか!?」
「…え?あぁ、早く着替えないと…」
「ぱぱ大丈夫?」
「それな!目がガチでやばたにえん!」
「眠れていないのか?」
「どうでもいいけどさ、あんまり母さんに迷惑かけんなよ?」
「……そうだね。」
病院から戻ってからのイブキさんの様子がおかしい。目のクマが酷く、日に日にやつれ、心ここに在らずといった感じだ。ちゃんと仕事も出来ているのは不安である。
「まま…ぱぱのお風呂、長過ぎない?わたし、ぱぱと一緒に入った方がいい?」
「え?まだ入ってるの…ちょっと見てくるね。ありがとうグレープちゃん。」
いつも20分で出てくるのに今日は1時間くらい浸かっている。心配で浴室に入ると血を流して倒れているイブキさんの姿があった。慌ててグレープちゃんの目を隠すと風呂場の外に追い出し、扉を閉める。
「まま?ぱぱは…」
「ままが良いっていつまでそこでじっとして!」
「え…?」
「いいね!」
「う、うん…」
直ぐにイブキさんの容態を確認する。
「ごめ…スペ…ク…」
身体中真っ赤な状態で何かを呟くイブキさん。血の出所は鼻。ぶつけたのではなく、のぼせて鼻血が出た感じか…手首からじゃなくて良かった。
「グレープちゃん、キッチンからタオルと冷凍室から保冷剤あるだけ持ってきて。」
「分かった。」
イブキさんの身体に付いた血をシャワーで流し、バスタオルで拭いて、パンツを履かせて、床に寝かせる。そこへグレープちゃんが戻ってきたので首や脇などを冷やす。
「ふー…のぼせちゃったみたい。」
「ぱぱはわたしを待ってたのかな?もう1人で入れるのに…わたしの裸がみたかったのかな?エッチだね。」
「グレープちゃん、そんな言葉どこで覚えたの…」
イブキさんがエッチなの事実だけど…グレープちゃんの裸がみたい、は流石に違うよね?実の娘に手を出したりしないよね?
「ぱぱの
「いや、平常状態だから……ってそんな所ジロジロ見ちゃいけません!」
「えぇ…」
「うぅ…!」ぴくっ
「「イブキさん/ぱぱ!?」」
意識を取り戻したイブキさんが起き上がる。
「あれ?俺…風呂で寝てた?」
「ぱぱはわたしの裸って見たい?」
「いや、セイの裸で満足してるから…」
「じゃあ…ままみたいにおっぱい大きくなったら見たい?」
「見たい。」
「イブキさんっ!?」
グレープちゃんに何てこと言うの!?
「だから大きくなって俺に見せるまではどの男にも見せないように…約束だよ。」
「えー、ソラ兄には?」
「ソラはえーと…困らせるだけだよ?とりあえず、今はどの男にも見せないこと。いい?」
「うん♪」
「あ、病院での検査とか必要な時は別だよ?」
「分かってる分かってる。」
グレープちゃん?本当にイブキさんに見せる気?ままは許しませんよ?
「じゃあ、わたしはぱぱの残り湯堪能してくる~」
「お湯ならもう張り替えたよ。汚れてたし。」
「…なんてことを!?ぱぱ、もう1回入ってきて!」
「のぼせたんだからダメだって…」
「むぅ~!」ぷくー
頬を含ませて抗議をしてくるグレープちゃん。可愛いけどダメなものはダメ。そんなグレープちゃんを無視して私はイブキさんを部屋へと運んだ。
………
服を着たイブキさんに冷えピタを貼り、水を飲ませ…体勢が整うまで待つ私。ペットボトル1本の水を一気に飲みきったイブキさんがこちらへと向いた。
「ぷはー。ありがとうセイ。」
「それじゃ、隠してることを教えてもらいましょうか。」
「か、隠してること?何のことだ?」
分かりやすく動揺を見せるイブキさん…隠す気はあるのだろうか?そういえば…
「さっきスペちゃんの名前を呼んでました?」
「──っ!?」びくっ
「…まさか、スペちゃんとも関係を?いや、スペちゃんは結婚してたし…まさかダブル不り…」
「そんな訳ないだろっ!!」
「わっ!?」びくっ
スペちゃんの名前に反応を見せたイブキさん。ブラックちゃんに続き新たな肉体関係を持った子がと思ったら、強い否定が返ってきた。予想外の反応に情けない声が出る。
「…ごめんセイ。けどスペシャルウィークが関係しているのは事実だ。後はキタサンも。」
「ブラックちゃんも?」
意外な名前が出てくる…スペちゃんとブラックちゃん、2人の共通点といえばシニア級で勝ったG1レースかな?いや、ブラックちゃんは他にも大阪杯勝利があるし…イブキさんがこうなる説明がつかない。
考えている私を他所にイブキさんは鞄に入っていた書類を取り出し、震えた手で私へと見せる。これは…出生届?リク君とアップルちゃん用かな?私も3回提出しているため書き方は流石に覚えているけど…あれ?アップルちゃんのが3枚もある?
「アップルちゃんの書類…多くないですか?」
「……よく見てくれ。」
「…なっ!?」
声まで震えだしたイブキさん…とりあえず、詳しく見てみる。2枚は出生届なのだが…1枚が死亡届だったのだ。名前を見る…父はイブキさん、母はブラックちゃん…見間違いじゃない。
「じゃ、じゃあ今病院にいるあの赤ちゃんは……まさかっ!」
今度は出生届を見る。母はブラックちゃん…ってこっちじゃない!もう1つの出生届だ!母にスペシャルウィーク、父はその結婚相手である旦那さんの名前が書いてある。
「ブラックちゃんの子供って亡くなっていたの!?だとしても何でスペちゃんの子供が出てくるの!?」
「セイ、全てを話すから…落ち着いて聞いて欲しい。」
「待ってください!今の私は落ち着いていません!水水…って全部飲まれてる!?」
「…もう少し休憩にしようか。」
………
「「ぷはー!」」ゴクンっ
グシャ!
互いに取ってきたペットボトルの水を一気に飲みきり、片手で潰す。無駄に息の合ったことに笑顔を見せるイブキさん…好き♡コホン、おふざけ終わり。では話を聞くとしよう。
まず…ブラックちゃんの赤ちゃんは産まれた直後に亡くなった、とのこと。何でも直前になり、ゴールドシップさんが緊急オペをしないといけなくなり…別の人が担当になった。
そして、元々ブラックちゃんの出生そのものが早産だったことに加え…赤ちゃんが産道を通るのが非常に遅く、体力を使い果たしてしまったのだ。赤ちゃんは最後の力として産みの母であるブラックちゃんの前で泣くと…そのまま静かになり、亡くなっていた。
またそれと同時刻…その日、スペちゃんも少し早い陣痛がきていた。早いといっても正期産の範囲だったらしいけど。それで旦那さんと病院に向かっていたのだが…パンクしたトラックが正面から突っ込んできたのだ。スペちゃんの旦那さんは咄嗟に左へと動かしたものの避けれずトラックと衝突。
直撃した旦那さんは即死、スペちゃんは意識不明の重体。救急車により病院へと運ばれ、緊急オペが行われることとなった。スペちゃんは妊娠していたこともあり…急遽ゴールドシップさんもオペに加わりスペちゃんは一命を取り留め、お腹の赤ちゃんもゴールドシップさんにより無事に取り上げられた。しかし、スペちゃんの状態は今後どうなるかは分からない。
そんなことを知らず…イブキさんはブラックちゃんを担当しなかったゴールドシップさんを探していて、手術室から出てきた所を発見して掴みにかかった。けど、すぐに離してその場で大泣きしたそうで…。
…イブキさんはゴールドシップさんへ急にいなくなった理由を聞く。イブキさんの状態から流石のゴールドシップさんも正直に緊急オペのことを話すと…イブキさんがその赤ちゃんをブラックちゃんの所へ連れていくと言ったのだ。
当然、反対されるイブキさん。それでもしつこく頭を下げ続け…折れたゴールドシップさんが赤ちゃんを渡したのだ。そして、ブラックちゃんに見せ名前を伝えた後、…感謝しながらゴールドシップさんへと返した。
本来であれば警察を通じてスペちゃんか旦那さんの身内に連絡が入るのだが…まだどちらとも繋がっていない。最悪ずっと繋がらなかった場合は自分が引き取る、とゴールドシップさんに伝え帰ってきたそうだ。
そして、現在…イブキさんはスペちゃんの容態と赤ちゃんの今後が気になり続けているのだとか。
「スペちゃん…」
「…ごめんね。この件は君にもピーチにもキタサンにも話す訳にはいかないと思って…でも、隠せなかった…」
1人で背負いこもうとして、本当にこの人は…。あーあ、とはいえ私も知ってしまったか…これで少しでもイブキさんの負担が減ればいいのだけど。
「君に話した以上はピーチにも話すつもりだ。それと…キタサンの実家にもね。」
「ブラックちゃん本人には言わないのですか?」
「…初めての出産を終えて身体も心も弱ってる。だから…今はまだ伝えない。」
「私は絶対に伝えるべきだと思いますよ。だって…そんなのって…」
「分かってる!分かってるけど…!俺は…これだけは…譲れない…!」
「イブキさん…」
「…誰にも話さないでくれ…ソラたちにもだ!」
「…分かりました。私は黙っておきます。」
「本当か!?」
「ただし…ピーチちゃんやブラックちゃんの両親はどうするか分かりません。それを忘れないように。」
「…はい。」
その後、病院にてピーチちゃんの怒号が飛んでくることになったが…渋々イブキさんの希望を飲んでくれた。そして、そのままブラックちゃんの実家へ1人向かうイブキさんの背中を見送った。