逃げか?差しか?その判断こそが大きな隙だ! 作:アマノジャック
───また過去の話をするとしましょう。
「スカイさん、今日は何をしてたの?」
「え…?ゴロゴロしてて…今からイブキさんの家に…」
「あの人はもうあなたのトレーナーじゃないのよ!全く…何時になったらキングを安心させてくれるのよ…!」
これがトレセン学園を卒業した直後の私…にゃはは、我ながらだらしないな。あ、某ネコアニメみたいにヤニ臭かったりはしないよ?そもそもタバコ吸ってないし。
それはそうとキングもキングだ。専門学校で忙しいのに…空いた時間をわざわざ私のために…。
「だってピーチちゃんがいなくてイブキさん寂しそうだし…」
「だからって異性の…しかも既婚者の家に気軽に行くんじゃないわよ!何かあったらどうするの?」
「何かって何?」
「なっ…分かるでしょ!…言わないわよ!」
顔を真っ赤にしながら言ってくるキング。うーん、何て初々しい。
「…とにかく今の彼はピーチさんの旦那さんよ。もしものことがあれば…私は絶対にあなたを許さないから。」
「もしものことって?」
「絶対に分かってて言ってるでしょ!それともレースで活かした知恵は全部その胸の方にいってしまったのかしら?」
「…だとしたらキングも分かるでしょ…私の気持ち。」
「………おバカ。もう知らない!」
扉を(やや)強く閉めて帰るキング。その言葉を最後に私とキングは何年も会うことは無かった。
………
「女子会?」
「そうよ。ファレちゃんが企画したの…エルとかグラスちゃんとか同期のみんながどうしてるかなって。スペちゃんも参加するみたいだし…セイちゃんも来るわよね?」
「私?私はその…」
場面が風呂場へと代わる。浴槽にて私は後ろからピーチちゃんに抱きついており……やばっ。ピーチちゃん、いい匂い♡ずっとこのままでいたい♡
「…ごめんピーチちゃん。私はパス。」
「どうして?」
「その…キングに会いたくないと言いますか…」
「…喧嘩でもした?」
「まぁ、当たらずとも遠からずで…」
「じゃあ、仲直りしないといけないわね…でなきゃ、キングちゃんを
「…」もみもみ
「無言で胸揉むのやめてくれないかしら?セイちゃんのデカ乳が背中に当たってるだけに腹が立つんだけど?それで…本当に行きたくないの?」
「…」
行きたい、それだけの言葉が出てこない。キングの忠告聞いた上で自分の欲望を優先した私が…会える資格なんてない。
「…はぁ、1つ面白い噂を教えてあげる。」
「面白い噂?」
「まっ、世間様からすればふざけるなって内容なんだけど…今のグラスちゃん、ある既婚者の家で愛人してるらしいわ。」
「え?グラスちゃんが?いやいや、そんなの嘘に決まって…」
「事実よ。子供までいるわ。」
「…」
「どう?後ろめたさは無くなったかしら?」
…結局、私も参加することが決まりました。
───
「みんな、久しぶりデース♪」
「お久しぶりですね。」
「わぁ…みんな、変わってないね。」
「エルちゃん!グラスちゃん!ファレノちゃん!久しぶりだね!」
私とピーチちゃんが集合場所にいくと既に4人の姿があった。エル、グラスちゃん、ファレノちゃん、スペちゃん…後はキングだけか。
「セイちゃん、今私のこと忘れてなかった?」
「ツルちゃん、安心して。今のセイちゃんはキングちゃんのことで頭一杯なだけだから。」
「そうなの?」
「…ノーコメント。」
「まっ、雰囲気から察するに喧嘩別れしたみたいね…」
「キングちゃんとセイちゃんが?想像出来ないよ…」
「あら?キングで最後かしら?」
「…!」さっ
「やっほー、キングちゃん♪久しぶり♪」
「ピーチちゃんって本当にキングちゃんが大好きだよね?」
「そうね…だってキングちゃんだしね。」
「来て早々に何の話かしら?」
「セイちゃんとキングちゃんのモヤモヤを解消しよって…話よ!」ぐいっ
「ぎゃっ…!?」
ピーチちゃんの背中に隠れた私だったが…引っ張られてキングの前へと身体が移動した。
「キング…その…」
「…」ぎろっ
「…忠告を無視してごめん!ダメなのは分かってて…キングにも許されないって言われてたのに…私は…私は…」
「…そう。まぁ、ピーチさんから全部聞いてるから知ってたけど。」
「…へ?」
「ピーチさんが幸せそうだし…私からこれ以上言うことは無いわ。…私の言った許さないをずっと引きずっていたのでしょ?」
「………うん。」
「それは今、ここで終わりよ。それじゃあ、全員いるようだし行くわよ。」
「行くってどこに?」
「あのねぇ、今日は女子会よ?ここで駄弁って終わりな訳ないでしょ?他の皆とも話したいことは山積みよ。」
「セイちゃん、キングちゃん!どうしたの?こっちだよ~!」
ファレノちゃんが離れたところから元気に手を振っている…急がないと。私はキングと一緒に皆の後を追いかけた。
………
「それじゃあ、今日は楽しみましょう…乾杯!」
『乾杯!』
「って全員最初はビールデスか!?会社の飲み会じゃ無いんデスよ!」
「あはは…いつもの癖で。」
「普段飲むこと無いから…」
「皆でアルコールを飲める日が来るなんて…感動だべ。」
早速女子会が始まった。ビールの感想を皮切りに自然と2人ずつのグループが出来て互いの話が始まった。私の最初の相手はファレノちゃんだ。彼女と接戦になった札幌記念を思い出す…そういえば2人で話したことって無かったな。まぁ、ピーチちゃん経由で大体は知ってるし…大丈夫か。
「ファレノちゃんって自分の担当トレーナーと結婚したんだよね?今はドリームトロフィーにいる妹を支えてるとか聞いたよ。」
「そうなのそうなの♪
ダービーウマ娘『キズナ』。ファレノちゃんの妹であり、オルフェさんと共に凱旋門賞へと挑戦したウマ娘…その実力はトゥインクルを引退した今も衰えることは無い。
「そういえばセイちゃんって…ピーチちゃんと同棲してるんでしょ?」
「ま、まぁね。」
「アナタの娘もキズナちゃんと同じダービーウマ娘になったと聞いた時はビックリしたわ。…詳細は知りたくなかったけどね。」
「…」
「ピーチちゃんを泣かせたこと、私は絶対に許さない。けど、それ以上にピーチちゃんを幸せにしてくれるなら…話しは別。約束してくれる?」
「許してくれなくても、私は私でピーチちゃんを幸せにするつもり。」
「なら良いわ。そういえばセイちゃんの子供って何人いるの?」
「今は4人…」
「羨ましいわ…私が子供を産んだ時は色々と教えてね。」
「ピーチちゃんじゃなくていいの?」
「いや…うん。ピーチちゃんはちょっと…」
ファレノちゃん、意外とピーチちゃんに厳しいんだね…そうこうしていると今度はエルへと代わった。
………
「それじゃあ、これからもアップルちゃんのこと、よろしくお願いするね。」
「うん…でもスペちゃん、そろそろ覚悟した方がいいと思うよ?イブキさんもどのタイミングで話そうかとそわそわしてるし。」
「そうだね、私もそれは分かっているよ!分かってはいるのだけど…」
「スペちゃん、そろそろ交代ですよ~」
「グラスちゃん!?ご、ごめんね!セイちゃん、またね!」
「その時が来たら言うからね~」
ファレノちゃんから始まり…エル、キング、ツルちゃん、ピーチちゃん、スペちゃんと終わる。最後はグラスちゃん。うーん、正直に言うと例の噂が本当だとは信じられない。とりあえず、ビールを軽く飲んでおく。
「セイちゃん、こうしてお話するのは久しぶりですね。」
「ツルちゃんは京都、スペちゃんは北海道、エルはアメリカ…中々こうやって集まれる機会は無かったからね。」
「ファレノちゃんには感謝しないといけませんね…ところでセイちゃん。今のアナタはピーチちゃんと同棲しているとか聞いたのですが…」
「うっ!」
先制された!?グラスちゃん、自分の話題に私が触れる前にこっちへと切り込んできた!?
「…事実だよ。それで、グラスちゃんはどこまで知ってるの?」
「最近までトゥインクルシリーズで活躍していたメロンスカイさんとグレープスカイさんがセイちゃんの子供だと言うことですね…父親は誰かまでは知らないですけど。」
「2人とも…いや、4人全員イブキさんとの子供だよ。」
「…やはり、そうでしたか。」
「ねぇ、私からもいい?…グラスちゃんも私と同じ状況ってピーチちゃんから聞いたの。」
「…」
「何でそうなったの?」
「…最初は私の好きになった人を…引き離すためでした。ですが、
「…ん?」
彼女?引っ掛かる部分はあるけど、この話の流れを読むと…
「自分が堕ちちゃった感じ?」
「…はい。」
「うんうん…しょうがない。しょうがない。それで…それって私以外にも話してるの?」
「今話したことはセイちゃんだけですよ。」
「ふーん…」
「…」じー
グラスちゃんがこちらをじっと見てくる…うん、何か面倒な未来が見える。
「セイちゃん、率直に聞きますね。…どうやってピーチちゃんをイブキトレーナーから寝○ったのですか?」
「ぶっー!?」
吹き出した。さっき飲んだビールが口から出そうなくらい吹き出した。
「…え?どういうこと?私、そんなことしてないけど?」
「あら?ピーチちゃんから誕生日に堕とされたって耳にしたのですが…」
「何てことを話してるのピーチちゃん!?いや、間違ってはないけど色々と間違ってるよ!」
「???」
グラスちゃんが首を傾げる。まぁ、そういう反応になるよね。
「とりあえず、状況を話すね。今年のピーチちゃんの誕生日は私と過ごすことなってデートした後、ホテルでXXXしました。それも徹底的に愛したことで私と結婚するって宣言させました。」
「はい、ピーチちゃんに聞いた通りですね。」
「その後、家に帰ったら鬼のような顔のイブキさんがいて…私とピーチちゃんを徹底的に愛したことで取り返されました…」
「…はい?じゃあ、すぐに上書きされたと?」
「そういうことだよ…ピーチちゃんもピーチちゃんでそんなこと話さないでよ…。」
「今はアルコールが入っていますからね…ピーチちゃん、お酒弱いですし。」
「イブキさん程じゃないけど弱いの忘れてた…」
普段あんまり飲まないからね。
「…とりあえず、徹底的に愛すればいいのでしょうか?」
「そうなるかな…私で良かったら鍛えてあげるよ?イブキさんと何十年も愛し合った技を伝授…」
「いえ、セイちゃんのそんな所を見たくないので結構です。」
「そっか。」
グラスちゃんを味わえると思ったけど残念だ。
「そういえばグラスちゃんも子供いるんだっけ?」
「はい。元気な人間の女の子ですよ…ほら!」
グラスちゃんが写真を見せて…あれ?3人並んでる?1人はウマ娘でもう1人は男の子だから…
「左の赤ちゃんで合ってる?」
「──!?忘れてください!これです!」シュッ
慌てた様子でグラスちゃんは写真をスライドして、赤ちゃんを抱っこした自分の写真を見せてきた。
「…グラスちゃん、いい笑顔だね。」
「はい…お腹を痛めて産んだ子ですから当然です。」
「名前は?」
「『パンサラ…」
「うん、止めて。危険な気配を感じた。そんなウマ娘みたいな名前じゃないよね?」
「…『イロハ』ちゃんと名付けました。初めての子育てで色々と不安はありますが…同居人に教えていただきながら堅実に育てていくつもりです。」
「へー、じゃあさっきの赤ちゃんはその同居人の人の赤ちゃんってこと?もしかして父親は…」
「同じ人ですね。」
「…」
イブキさんみたいな人…他にもいたんだ。
───
「それじゃあ、また集まりましょうね!」
「今度はもっと早く予定を決めてほしいデース!アメリカから来るの大変なんデスから!」
「エルの場合、来るだけで海外旅行だもんね。」
「皆さん、お気をつけて。」
「キングちゃんもまたね~!」
「えぇ……スカイさん。」
「ん?」
帰ろうとした私をキングが呼び止める。
「今度は何年も顔を見せないなんてやめなさいよ。」
「……うん。」
「それだけよ。それじゃあ、またね。」
そう言ってキングは去っていった。少し前の会話を思い出す。
───
『専門学校どうだったの?』
『あなたこそ少しはまともな生活をしているの?』
『にゃはは……まあ、それなりに。』
『その返事が一番信用ならないのよ!』
『ならピーチちゃんに聞いてみてよ。私無しじゃ生きていけないって言うから。』
『嘘おっしゃい!逆……いや、ピーチさんの場合はあり得るかもしれないわ。』
『…キングってピーチちゃんのこと本当によく分かってるよね。』
───
会話はそんな他愛の無いことで終わったはずだけど……またね、か。
にゃはは。たったそれだけなのに……何だか胸の奥にずっと引っ掛かっていたものが取れた気がする。
「良かったわね、セイちゃん。」
「ピーチちゃん。」
「ずっと気にしてたんでしょ?」
「……まぁね。キングってば怒ると怖いから。」
「そういうことにしておいてあげる。」
ピーチちゃんが私の隣に並ぶ。女子会はこれでおしまい。
ファレノちゃんは旦那さんと妹のために。
エルはアメリカへ。
ツルちゃんは京都へ。
スペちゃんにも、キングにも……そしてグラスちゃんにも、それぞれ私の知らない生活がある。
学生だった頃は毎日のように顔を合わせて、一緒に走っていたのにね。みんな大人になったんだなぁ。
「セイちゃん、帰るわよ。」
「は~い。」
「イブキから連絡来てるわ。『帰りに何か食べたいものある?』だって。」
「ん~……今日はいっぱい食べたし、軽いのでいいかな。」
「そう?私はイブキのピーチパイ食べたいわ。」
「ピーチちゃんも結構食べてたじゃん。」
「甘いものは別腹よ。」
「太るよ…お尻が。」
「セイちゃんには言われたくないわよ…胸ばっかり太って!」
「にゃははは♪」
怒ったピーチちゃんが少し早足になる。私はその背中を追いかけ…隣へ並んだ。
「ねぇ、ピーチちゃん。」
「何よ?」
「今日、連れてきてくれてありがと。」
「……どういたしまして。」
「あとさ。」
「まだ何かあるの?」
「私、今結構幸せだよ。」
「……知ってるわよ。」
ピーチちゃんはそう言って、少しだけ笑った。私たちは昔とは違う。住んでいる場所も、していることも、家族も増えた。きっとこれからも色んなことが変わっていく。それでも…
「早く帰ろっか。」
「そうね。みんな待ってるわ。」
帰る場所は同じだ。私はピーチちゃんと肩を並べて、みんなの待つ家へと帰ったのでした。