逃げか?差しか?その判断こそが大きな隙だ!   作:アマノジャック

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トリックスターは語りたい24

───また過去の話をするとしましょう。

 

「スカイさん、今日は何をしてたの?」

「え…?ゴロゴロしてて…今からイブキさんの家に…」

「あの人はもうあなたのトレーナーじゃないのよ!全く…何時になったらキングを安心させてくれるのよ…!」

 

これがトレセン学園を卒業した直後の私…にゃはは、我ながらだらしないな。あ、某ネコアニメみたいにヤニ臭かったりはしないよ?そもそもタバコ吸ってないし。

 

それはそうとキングもキングだ。専門学校で忙しいのに…空いた時間をわざわざ私のために…。

 

「だってピーチちゃんがいなくてイブキさん寂しそうだし…」

「だからって異性の…しかも既婚者の家に気軽に行くんじゃないわよ!何かあったらどうするの?」

「何かって何?」

「なっ…分かるでしょ!…言わないわよ!」

 

顔を真っ赤にしながら言ってくるキング。うーん、何て初々しい。

 

「…とにかく今の彼はピーチさんの旦那さんよ。もしものことがあれば…私は絶対にあなたを許さないから。」

「もしものことって?」

「絶対に分かってて言ってるでしょ!それともレースで活かした知恵は全部その胸の方にいってしまったのかしら?」

「…だとしたらキングも分かるでしょ…私の気持ち。」

「………おバカ。もう知らない!」

 

扉を(やや)強く閉めて帰るキング。その言葉を最後に私とキングは何年も会うことは無かった。

 

………

 

「女子会?」

「そうよ。ファレちゃんが企画したの…エルとかグラスちゃんとか同期のみんながどうしてるかなって。スペちゃんも参加するみたいだし…セイちゃんも来るわよね?」

「私?私はその…」

 

場面が風呂場へと代わる。浴槽にて私は後ろからピーチちゃんに抱きついており……やばっ。ピーチちゃん、いい匂い♡ずっとこのままでいたい♡

 

「…ごめんピーチちゃん。私はパス。」

「どうして?」

「その…キングに会いたくないと言いますか…」

「…喧嘩でもした?」

「まぁ、当たらずとも遠からずで…」

「じゃあ、仲直りしないといけないわね…でなきゃ、キングちゃんを(ここ)に呼べないし。」

「…」もみもみ

「無言で胸揉むのやめてくれないかしら?セイちゃんのデカ乳が背中に当たってるだけに腹が立つんだけど?それで…本当に行きたくないの?」

「…」

 

行きたい、それだけの言葉が出てこない。キングの忠告聞いた上で自分の欲望を優先した私が…会える資格なんてない。

 

「…はぁ、1つ面白い噂を教えてあげる。」

「面白い噂?」

「まっ、世間様からすればふざけるなって内容なんだけど…今のグラスちゃん、ある既婚者の家で愛人してるらしいわ。」

「え?グラスちゃんが?いやいや、そんなの嘘に決まって…」

「事実よ。子供までいるわ。」

「…」

「どう?後ろめたさは無くなったかしら?」

 

…結局、私も参加することが決まりました。

 

───

 

「みんな、久しぶりデース♪」

「お久しぶりですね。」

「わぁ…みんな、変わってないね。」

「エルちゃん!グラスちゃん!ファレノちゃん!久しぶりだね!」

 

私とピーチちゃんが集合場所にいくと既に4人の姿があった。エル、グラスちゃん、ファレノちゃん、スペちゃん…後はキングだけか。

 

「セイちゃん、今私のこと忘れてなかった?」

「ツルちゃん、安心して。今のセイちゃんはキングちゃんのことで頭一杯なだけだから。」

「そうなの?」

「…ノーコメント。」

「まっ、雰囲気から察するに喧嘩別れしたみたいね…」

「キングちゃんとセイちゃんが?想像出来ないよ…」

 

「あら?キングで最後かしら?」

 

「…!」さっ

「やっほー、キングちゃん♪久しぶり♪」

「ピーチちゃんって本当にキングちゃんが大好きだよね?」

「そうね…だってキングちゃんだしね。」

「来て早々に何の話かしら?」

「セイちゃんとキングちゃんのモヤモヤを解消しよって…話よ!」ぐいっ

「ぎゃっ…!?」

 

ピーチちゃんの背中に隠れた私だったが…引っ張られてキングの前へと身体が移動した。

 

「キング…その…」

「…」ぎろっ

「…忠告を無視してごめん!ダメなのは分かってて…キングにも許されないって言われてたのに…私は…私は…」

「…そう。まぁ、ピーチさんから全部聞いてるから知ってたけど。」

「…へ?」

「ピーチさんが幸せそうだし…私からこれ以上言うことは無いわ。…私の言った許さないをずっと引きずっていたのでしょ?」

「………うん。」

「それは今、ここで終わりよ。それじゃあ、全員いるようだし行くわよ。」

「行くってどこに?」

「あのねぇ、今日は女子会よ?ここで駄弁って終わりな訳ないでしょ?他の皆とも話したいことは山積みよ。」

 

「セイちゃん、キングちゃん!どうしたの?こっちだよ~!」

 

ファレノちゃんが離れたところから元気に手を振っている…急がないと。私はキングと一緒に皆の後を追いかけた。

 

………

 

「それじゃあ、今日は楽しみましょう…乾杯!」

『乾杯!』

 

「って全員最初はビールデスか!?会社の飲み会じゃ無いんデスよ!」

「あはは…いつもの癖で。」

「普段飲むこと無いから…」

「皆でアルコールを飲める日が来るなんて…感動だべ。」

 

早速女子会が始まった。ビールの感想を皮切りに自然と2人ずつのグループが出来て互いの話が始まった。私の最初の相手はファレノちゃんだ。彼女と接戦になった札幌記念を思い出す…そういえば2人で話したことって無かったな。まぁ、ピーチちゃん経由で大体は知ってるし…大丈夫か。

 

「ファレノちゃんって自分の担当トレーナーと結婚したんだよね?今はドリームトロフィーにいる妹を支えてるとか聞いたよ。」

「そうなのそうなの♪キズナ(・・・)ちゃんってば凄いのよ!トレーニングする度に辺りに他のウマ娘の皆が集まってきて…併走をお願いされるの。誰を相手にするのか旦那様が選んでるだけど…」

 

ダービーウマ娘『キズナ』。ファレノちゃんの妹であり、オルフェさんと共に凱旋門賞へと挑戦したウマ娘…その実力はトゥインクルを引退した今も衰えることは無い。

 

「そういえばセイちゃんって…ピーチちゃんと同棲してるんでしょ?」

「ま、まぁね。」

「アナタの娘もキズナちゃんと同じダービーウマ娘になったと聞いた時はビックリしたわ。…詳細は知りたくなかったけどね。」

「…」

「ピーチちゃんを泣かせたこと、私は絶対に許さない。けど、それ以上にピーチちゃんを幸せにしてくれるなら…話しは別。約束してくれる?」

「許してくれなくても、私は私でピーチちゃんを幸せにするつもり。」

「なら良いわ。そういえばセイちゃんの子供って何人いるの?」

「今は4人…」

「羨ましいわ…私が子供を産んだ時は色々と教えてね。」

「ピーチちゃんじゃなくていいの?」

「いや…うん。ピーチちゃんはちょっと…」

 

ファレノちゃん、意外とピーチちゃんに厳しいんだね…そうこうしていると今度はエルへと代わった。

 

………

 

「それじゃあ、これからもアップルちゃんのこと、よろしくお願いするね。」

「うん…でもスペちゃん、そろそろ覚悟した方がいいと思うよ?イブキさんもどのタイミングで話そうかとそわそわしてるし。」

「そうだね、私もそれは分かっているよ!分かってはいるのだけど…」

 

「スペちゃん、そろそろ交代ですよ~」

 

「グラスちゃん!?ご、ごめんね!セイちゃん、またね!」

「その時が来たら言うからね~」

 

ファレノちゃんから始まり…エル、キング、ツルちゃん、ピーチちゃん、スペちゃんと終わる。最後はグラスちゃん。うーん、正直に言うと例の噂が本当だとは信じられない。とりあえず、ビールを軽く飲んでおく。

 

「セイちゃん、こうしてお話するのは久しぶりですね。」

「ツルちゃんは京都、スペちゃんは北海道、エルはアメリカ…中々こうやって集まれる機会は無かったからね。」

「ファレノちゃんには感謝しないといけませんね…ところでセイちゃん。今のアナタはピーチちゃんと同棲しているとか聞いたのですが…」

「うっ!」

 

先制された!?グラスちゃん、自分の話題に私が触れる前にこっちへと切り込んできた!?

 

「…事実だよ。それで、グラスちゃんはどこまで知ってるの?」

「最近までトゥインクルシリーズで活躍していたメロンスカイさんとグレープスカイさんがセイちゃんの子供だと言うことですね…父親は誰かまでは知らないですけど。」

「2人とも…いや、4人全員イブキさんとの子供だよ。」

「…やはり、そうでしたか。」

「ねぇ、私からもいい?…グラスちゃんも私と同じ状況ってピーチちゃんから聞いたの。」

「…」

「何でそうなったの?」

「…最初は私の好きになった人を…引き離すためでした。ですが、彼女(・・)の心はあの人から離れることは無く…」

「…ん?」

 

彼女?引っ掛かる部分はあるけど、この話の流れを読むと…

 

「自分が堕ちちゃった感じ?」

「…はい。」

「うんうん…しょうがない。しょうがない。それで…それって私以外にも話してるの?」

「今話したことはセイちゃんだけですよ。」

「ふーん…」

「…」じー

 

グラスちゃんがこちらをじっと見てくる…うん、何か面倒な未来が見える。

 

「セイちゃん、率直に聞きますね。…どうやってピーチちゃんをイブキトレーナーから寝○ったのですか?」

「ぶっー!?」

 

吹き出した。さっき飲んだビールが口から出そうなくらい吹き出した。

 

「…え?どういうこと?私、そんなことしてないけど?」

「あら?ピーチちゃんから誕生日に堕とされたって耳にしたのですが…」

「何てことを話してるのピーチちゃん!?いや、間違ってはないけど色々と間違ってるよ!」

「???」

 

グラスちゃんが首を傾げる。まぁ、そういう反応になるよね。

 

「とりあえず、状況を話すね。今年のピーチちゃんの誕生日は私と過ごすことなってデートした後、ホテルでXXXしました。それも徹底的に愛したことで私と結婚するって宣言させました。」

「はい、ピーチちゃんに聞いた通りですね。」

「その後、家に帰ったら鬼のような顔のイブキさんがいて…私とピーチちゃんを徹底的に愛したことで取り返されました…」

「…はい?じゃあ、すぐに上書きされたと?」

「そういうことだよ…ピーチちゃんもピーチちゃんでそんなこと話さないでよ…。」

「今はアルコールが入っていますからね…ピーチちゃん、お酒弱いですし。」

「イブキさん程じゃないけど弱いの忘れてた…」

 

普段あんまり飲まないからね。

 

「…とりあえず、徹底的に愛すればいいのでしょうか?」

「そうなるかな…私で良かったら鍛えてあげるよ?イブキさんと何十年も愛し合った技を伝授…」

「いえ、セイちゃんのそんな所を見たくないので結構です。」

「そっか。」

 

グラスちゃんを味わえると思ったけど残念だ。

 

「そういえばグラスちゃんも子供いるんだっけ?」

「はい。元気な人間の女の子ですよ…ほら!」

 

グラスちゃんが写真を見せて…あれ?3人並んでる?1人はウマ娘でもう1人は男の子だから…

 

「左の赤ちゃんで合ってる?」

「──!?忘れてください!これです!」シュッ

 

慌てた様子でグラスちゃんは写真をスライドして、赤ちゃんを抱っこした自分の写真を見せてきた。

 

「…グラスちゃん、いい笑顔だね。」

「はい…お腹を痛めて産んだ子ですから当然です。」

「名前は?」

「『パンサラ…」

「うん、止めて。危険な気配を感じた。そんなウマ娘みたいな名前じゃないよね?」

「…『イロハ』ちゃんと名付けました。初めての子育てで色々と不安はありますが…同居人に教えていただきながら堅実に育てていくつもりです。」

「へー、じゃあさっきの赤ちゃんはその同居人の人の赤ちゃんってこと?もしかして父親は…」

「同じ人ですね。」

「…」

 

イブキさんみたいな人…他にもいたんだ。

 

───

 

「それじゃあ、また集まりましょうね!」

「今度はもっと早く予定を決めてほしいデース!アメリカから来るの大変なんデスから!」

「エルの場合、来るだけで海外旅行だもんね。」

「皆さん、お気をつけて。」

「キングちゃんもまたね~!」

「えぇ……スカイさん。」

 

「ん?」

 

帰ろうとした私をキングが呼び止める。

 

「今度は何年も顔を見せないなんてやめなさいよ。」

「……うん。」

「それだけよ。それじゃあ、またね。」

 

そう言ってキングは去っていった。少し前の会話を思い出す。

 

───

 

『専門学校どうだったの?』

『あなたこそ少しはまともな生活をしているの?』

『にゃはは……まあ、それなりに。』

『その返事が一番信用ならないのよ!』

『ならピーチちゃんに聞いてみてよ。私無しじゃ生きていけないって言うから。』

『嘘おっしゃい!逆……いや、ピーチさんの場合はあり得るかもしれないわ。』

『…キングってピーチちゃんのこと本当によく分かってるよね。』

 

───

 

会話はそんな他愛の無いことで終わったはずだけど……またね、か。

 

にゃはは。たったそれだけなのに……何だか胸の奥にずっと引っ掛かっていたものが取れた気がする。

 

「良かったわね、セイちゃん。」

「ピーチちゃん。」

「ずっと気にしてたんでしょ?」

「……まぁね。キングってば怒ると怖いから。」

「そういうことにしておいてあげる。」

 

ピーチちゃんが私の隣に並ぶ。女子会はこれでおしまい。

 

ファレノちゃんは旦那さんと妹のために。

エルはアメリカへ。

ツルちゃんは京都へ。

スペちゃんにも、キングにも……そしてグラスちゃんにも、それぞれ私の知らない生活がある。

 

学生だった頃は毎日のように顔を合わせて、一緒に走っていたのにね。みんな大人になったんだなぁ。

 

「セイちゃん、帰るわよ。」

「は~い。」

「イブキから連絡来てるわ。『帰りに何か食べたいものある?』だって。」

「ん~……今日はいっぱい食べたし、軽いのでいいかな。」

「そう?私はイブキのピーチパイ食べたいわ。」

「ピーチちゃんも結構食べてたじゃん。」

「甘いものは別腹よ。」

「太るよ…お尻が。」

「セイちゃんには言われたくないわよ…胸ばっかり太って!」

「にゃははは♪」

 

怒ったピーチちゃんが少し早足になる。私はその背中を追いかけ…隣へ並んだ。

 

「ねぇ、ピーチちゃん。」

「何よ?」

「今日、連れてきてくれてありがと。」

「……どういたしまして。」

「あとさ。」

「まだ何かあるの?」

「私、今結構幸せだよ。」

「……知ってるわよ。」

 

ピーチちゃんはそう言って、少しだけ笑った。私たちは昔とは違う。住んでいる場所も、していることも、家族も増えた。きっとこれからも色んなことが変わっていく。それでも…

 

「早く帰ろっか。」

「そうね。みんな待ってるわ。」

 

帰る場所は同じだ。私はピーチちゃんと肩を並べて、みんなの待つ家へと帰ったのでした。

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