「マイヤー!おかえりー!」
「お土産持ってきた〜?」
「マイヤ!あそぼあそぼ!」
「元気だな〜お前たち。少し待ってなさい。後で遊んであげるから。」
「あらマイヤ。お帰りなさい。みんな待ってたのよ。」
「おやマイヤかい?アンタ、心配しとったんだよ。」
子供にも大人にも人気がある様子のマイヤ。
どうやら旅に出ていたようだ。
「ユウイチロウ、君を我が家に招待しよう。」
「え、いいんですか?」
「構わないさ。旅は道連れ世は情け、と言う言葉を聞いたことがある。」
1件の家の前に止まる。
二階建ての一戸建て。恐らく誰かと住んでいるのだろう。
「ミシュラ、ただいま。」
「マイヤ!お帰り。」
ミシュラと呼ばれたエルフの女性。
外見は正しく絶世の美女であり、元の世界ならプロモデルにでもなれそうなプロポーションだ。
「あら、そちらの方は?」
「紹介するよ。ニホンという国から来た、ユウイチロウくんだ。」
「滝裕一郎です。お邪魔します··········」
「あら、珍しいわね。こんな所に人間族だなんて。獣に襲われなかった?」
「はいもう、盛大に歓迎されました··········」
「そこを私が助けたのだ。」
「なるほど。ふんふん··········」
やけにジロジロと見つめられる裕一郎。
黄金色の眼がキラキラと輝いている。
「あの··········何か付いてますか?」
「あらごめんなさい。そういうつもりじゃないのよ。··········うん。ケガレはそんなに付いていないわ。この子は大丈夫よ。」
「そうか·····。良かった。」
ホッと胸を撫で下ろすマイヤ。
「何かあったんですか?」
「ああ。人間族はエルフより感情で魔力が変化しやすいからな。ミシュラは魔眼持ちで、闇魔力を見分けられるんだ。」
マイヤの話をまとめると、こういうことだ。
魔力には聖魔力と闇魔力の大きく2つに別れ、闇魔力に支配されると、
ミシュラの魔眼はそれを見つける、祓う、予防することができるらしい。
魔眼については、わかっている事が少ないらしく、ただ2つだけ、本人にだけ効果が見えるということ、眼に星を浮かべる者には強力な魔眼を保有している、ということらしい。
「じゃあ、魔法とかもあるんですか?」
「我々の一族だと魔法を使える者はシャーマンの血族だけだが、人間族なら、魔法学院に入れば殆どの者が魔法を使える様になるそうだ。ただ、入学にはそれなりな費用と、適性が必要らしいがな··········」
「魔法のことも知らないなんて、珍しい人ね。」
「あはは··········」
滝の事情を知らないミシュラは、不思議そうに目を丸くしていた。
「兎も角、しばらくの間ユウイチロウくんを住まわせてあげたいんだが、構わないか?」
「貴方が言うなら、悪い人じゃないわね。構わないわ。でも、ちゃんと仕事はしてもらうからね?」
「は、はい!ありがとうございます!」
「うん!いい返事ね。」
「ユウイチロウ、薪割りはできるかしら?」
「やったことないです··········」
「そう?うーん、今は稲刈りの時期でもないから、そこまで仕事ないわね。」
「すみません··········」
「いいのよ。あ、じゃあ子供たちと遊んでくれるかしら?あの子たちも遊び相手が欲しいところだったのよ。」
「あ、それならできます。」
「よし。じゃあ、行きましょうか。」
子供は風の子、なんて言うが、実際は台風のようだ。
走り回る子供たちについて行くのがやっとだ。
「ぜェ、ぜェ··········」
「お前弱いぞー!もっともっと!」
「はいはい、お兄ちゃんはちょっと疲れてるのよ。向こうで遊びましょ。」
「わーい!」
「··········すみ、ません。ぜェ··········」
「いやいや、きっと何か、出来ることがあるわよ。その内見つかるわ。」
「ミシュラ姉ちゃん!早く早く!」
「はいはーい、ちょっと待ってね〜!」
情けない姿を見せてしまった、と少々落ち込む。
フッと、子供たちの方を見ると、一人だけ友達の輪から外れている女の子がいた。
「ねぇ、君は遊ばないの?」
「あ···············うん。」
「それはまた、どうして?」
「··········好きじゃないの。縄跳びしたり、鬼ごっこしたりするの。だって、疲れちゃうんだもん。」
「じゃあ、何が好きなの?」
「··········お歌。でも、みんなの前で歌うのは恥ずかしいの···············」
歌が好きで、友達の輪に入れない女の子。
アーティストとして、見逃すことは出来なかった。
「じゃあ、お兄ちゃんの歌。聞いてくれる?」
「··········うん。」
「うん。ありがとう。じゃあ、行くよ。」
子供の頃から聞いていた歌が、鮮明に浮かんでくる。
夢を見る子供を支える歌。
「聞いてください。」
『心の中 いつもいつも 描いてる』
「この声、何?」
「あそこだ!さっきのお兄ちゃんだよ!」
『夢を乗せた 自分だけの 世界地図』
「面白い歌〜!私も歌う!」
「僕も僕も!」
「お、俺も!」
『ドアを開けてほら 行きたいよ今すぐ』
「あら、この声··········?」
「ユウイチロウくんの様だな。」
「行ってみましょうか。」
『大人になったら 忘れちゃうのかな』
『そんな時には思い出してみよう』
「シャララランラ〜♪僕の心に〜♪いつまでも、輝く夢〜♪ドラえもん、世界中〜に♪夢を、そう、あふれさせて〜♪」
「わぁ··········すっごい綺麗··········」
「不思議な歌〜。」
「ドラえもんって何〜?」
「お兄さん、もっと歌って!」
「いいよ。じゃあ次は···············」
いつの間にか、子供たちが滝の周辺に集まっていた。
「もう馴染んでしまった様だな。」
「ええ。それにしても、綺麗な歌声··········」
「ああ。彼には吟遊詩人の才がある。」
大人も子供も、心地よい歌声に耳を傾けていた。
彼の歌声が、東エルフの森に木霊していた。
「木々が喜んでる··········何?」
東エルフの森にそびえる老大樹。
その枝の上で座り込む一人の少女。
「この声、歌?」
細い四肢に、華奢な身体、未発達の胸。
蒼空色の髪が風になびく。
「歌っているのは··········エルフじゃない。」
光に照らされ、キラキラと輝く深緑の瞳。
「人間?人間がどうして··········?」
その瞳に宿る、遥かな五芒星。
「迷宮を攻略しに来たのかしら。だとしたら··········」
滝は、彼女の瞳にどう映ったのか。
「本当に、お母様のように··········?」
期待、渇望だった。
「本当にそうなら··········期待してる。タキ・ユウイチロウ··········」