僕らが奏でる異世界交響曲   作:気まぐれな富士山

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第3話 ダンジョンと出会い

「ダンジョン……ですか?」

「ああ。もう攻略済みで、今じゃ観光名所みたいになっているがな。行ってみたらどうだ?」

「わかりました。散歩ついでに行ってきます。」

 

この世界にはダンジョンというものがあるらしい。

広い世界には、未開のダンジョンが数多く存在し、その中には手付かずの資源、金銀財宝、数多の魔術書、この世界の真実など様々な物が眠っているという。

しかし、その分内部のモンスターはかなり強く、熟練の冒険者、一国の軍隊などが挑むダンジョンが多い。

 

「この村も、一時期あのダンジョンで儲けたものだ。150年も前の話だがな。」

「ひゃくごじゅっ……!?」

「ああ、言ってなかったか?エルフは長命でな。平均でも800年は生きる。長命でも1200年ほどだ。」

「800…………何だか、僕の常識が馬鹿らしくなってきました。」

「ハハハ。世界はそんなことばかりだよ。さあ、行ってきたまえ。」

 

 

 

「ここがダンジョンか…………本当にそれっぽいな。でも、かなり廃れてる。」

 

中は暗く湿っていて、虫やコウモリが住み着いていた。

道は一本道で、奥になにやら扉がある。

 

「こんなのがダンジョンなのか?誰でも攻略できそうだけど…………」

 

奥の扉に触れると、石の扉がゆっくりと開く。

その扉が隠していたものは、からの本棚と、1冊の本だった。

 

「こんな所に取り残されて…………なんて書いてあるんだ?」

 

表紙の文字は読めない。

周囲は水滴が滴るほど湿っているのに、何故か本のページは乾いていた。

試しに1ページだけ開いてみる。

 

「これって…………!」

 

そこに記されていたものは、なんと譜面だった。

 

「ピアノの譜面!?それに…………ギターやドラムの譜面まであるぞ!どうなってんだ…………!?」

『やはり読めたわね。タキ・ユウイチロウ。』

「ッ!誰だ!」

 

脳に直接声が降りかかる。

透き通るようで冷たく、美しい声。

 

『私はメラム・リトシア。この森の管理者にして、エルフの祖。その本は、このダンジョンの報酬、封印されし悪魔の一匹。』

「報酬…………このダンジョンは、とっくの昔に攻略されていたはずじゃ?」

『あれは真の攻略とは言えない。攻略したのもソルレンド王国の騎士団。攻略の証を得ることができなければ真の攻略とは言えない。』

「その、攻略の証ってのは?何かの紋章とか?」

『そのダンジョンによる。ダンジョンに定められた攻略の証を得た者が、真の攻略者。私は、あなたに攻略の証を与える試練を課すために話しかけている。質問は終わり?』

「うーん、その試練っていうのの内容は?」

『それを今から説明する。ちょっと待って。』

 

そう言うと、本棚が二つに割れ、新しい道が開き始める。

 

『中に入って。』

「お邪魔します。」

 

 

 

トンネルの先は外で、庭園のような場所になっていた。

 

「うわぁ…………綺麗。」

「そう言ってくれると嬉しい。」

 

振り向くと、蒼空色の髪に翠色の眼をしたエルフの少女が立っていた。

 

「初めまして。改めて、メラム・リトシア。よろしく。」

「滝裕一郎です。よろしく、リトシアちゃん。」

「ちゃん…………と付けられるのは慣れていない。これでも私は数万年は生きている。」

「じゃあ、リトシアさん。そっか数万…………あれ?エルフの平均寿命は800年くらいで、長くて1200年ほどと聞きますが…………」

「私は魔眼持ち。これが証拠。」

 

ずいっ、と顔を近づける。

 

「ちょちょっ、近いですって!」

「ほら、ここに星がある。これが魔眼の証。」

「あ…………本当だ。てことは、かなり強力な魔眼?」

「そういうことになる。さて、それでは試練を行う。さっきの本の25ページを開いて。」

 

指定されたページを開く。

するとそこには、何かの譜面があった。

ピアノ、ドラム、ギター、ベース、歌詞とあったが、相変わらず字は読めない。

 

「これは……歌?」

「そう。試練は、この歌を歌うこと。正しく歌えなければ試練は達成できない。」

「なるほど…………それで、題名はなんて言うんですか?」

「…………意外。諦める者が多いのだけど。あなたは真面目に受け取るのね。」

「まあ、歌は好きですから。」

「あなたに歌えるかわからないけど、その覚悟があるなら教えるわ。この歌の名は…………」

 

ゴクリ、と唾を飲み込む。

その歌の名は…………

 

世界に一つだけの花。それがこの歌の名前。」

「………………はい?」

「聞いたことがないのも当然。これは、母上…………女神マーリンが歌っていた歌。高位の聖職者であっても、神の声を聞いたことがない者は歌うことができない。」

「いや、その…………なんと言いますか。」

「心配しないでほしい。攻略できないのも当然だから。何も悪い事じゃない。」

 

当然だと言い張るリトシア。

滝はなんとか言葉を絞り出す。

 

「僕…………歌えます。それ。」

「……?本当に?」

「なんなら、ギターもつけましょうか。」

「っ、そんなこともできるの!?」

 

流石に驚いたようだ。

 

「そ、そんなに驚くことですか?」

「当然。儀式楽器を扱える者は、この世界でも限られている。数万年前も、一国に1人いるかいないかの貴重な人材…………それに、製造もかなり難しい。特殊な儀礼をかけないと儀式楽器として認められないから、作る時は国中の聖職者が集められる。」

「えーと、僕のものはそんな大それた物じゃないんだけど、どうですか?」ゴト

 

ケースに入れていたアコースティックギター(以下アコギ)を取り出す。

 

「…………確かに儀礼は施されていない。でも、かなり精巧に造られている。これ程のもの、一体どんな人物が作ったのか⋯⋯……」

「ヤマハのLシリーズで、5万円くらいしました。」

「ヤマハ…………伝説のギターを作った技師の名前。あなたのギターも同じ物?」

「いや、通販ですけど……?それにヤマハは企業の名前だから、作った人の名前じゃないと思います多分。」

 

切り株に座り、膝の上にアコギを置く。

カポを2段目に挟み、ピックを握る。

 

「えー、んんっ…………それじゃ、聞いてください。」

 

彼は静かに歌い始めた。

その声に迷いはなく、芯の通った歌声だった。

 

『そうさ僕らは 世界に一つだけの花 一人一人 違う種を持つ その花を咲かせる事だけに 一生懸命になればいい』

「………………」

 

サビを抜け、2番に入り、最後が近づく。

徐々に2人の気持ちは高鳴り、お互いに体を揺らし始める。

最後のパートを弾き切り、ふうっ、と息を吐き出す。

 

「ありがとうございました。」

「素敵…………素晴らしい歌声だった。」

「そう言ってもらえると嬉しいです。はぁ、上手く弾けてよかった〜…………」

「…………ねぇ、ユウイチロウ。1つだけ、聞いてもいい?」

「僕に答えられることなら何でも。」

「…………どうして、歌い続けれるの?あなたの歌声、確かに素晴らしかった。それだけ歌えるってことは、かなり長い間歌ってきたんでしょう?どうして、飽きずにずっと歌っていられるの?」

「どうして…………か…………」

 

裕一郎はスッと立ち上がり、語り始めた。

 

「俺さ。昔、病気で声が出なかったんだよね。3歳の頃に病気が発覚してさ。それで、11歳まで声が出せなかったんだ。」

 

裕一郎はつらつらと身の上話を語った。

 

「5歳の時、親父が大型のフェスに連れていってくれたんだ。その時、初めて歌っていうものに触れたんだ。あの興奮は忘れられない。」

「…………でも、その時のあなたは歌えなかった。どうして?」

「親父に言われたのさ。『こんな風に歌いたかったら、治るまで喋っちゃいけないぞ。ただ、治ったら全力で歌わせてやる』ってさ。それで、どんなことも我慢したんだ。絶対に歌いたい。それだけ考えてた。」

 

音楽の授業も、合唱祭も、卒園式だって幼いながらに我慢して。

 

「それで11歳の誕生日の時、初めて満足に喋れたようになったんだ。そこからは必死だったけど、歌えるようになるまでにそう時間はかからなかった。中学はカラオケで毎日声出しして、ギターも毎日練習した。それで、高校の時の軽音部で初めてバンドを組んだんだ。」

「………………」

「そこからは大変だった。みんなで予定が合う日なんてそうそうなかったし、トップバンド目指そうって言ってたのも俺だけだった。でも、みんなで歌うのが楽しくて楽しくて、みんなで同じ大学にも行った。…………バンドを去ったヤツもいたけど、それでも諦めずに歌い続けた。それで、やっと武道館ライブに漕ぎ着けたのさ。」

「その、ブドウカン、というライブ?には出なかったの?」

「…………武道館ライブの日が、俺がこの世界に来た日なんです。」

「…………ごめんなさい。嫌なことを聞いてしまった。」

「いや、大丈夫です。どうにもならないこともあるって知った。これからは、この世界で何とか生きてくようにします。質問は終わりですか?」

「うん。これであなたは攻略者と認められた。攻略の証として、その本を渡す。」

 

するとリトシアはそっと本に手をかざす。

 

「深淵と白夜の王に使えし72の悪魔の内の一体、アスモデウスよ。そなたをこの地に縛る楔は千切られた。今こそ、大いなる意志の名のもとに、その力で彼の者を世界の果てに導かん!彼の者の名は、タキ・ユウイチロウ!」

 

目をカッと見開き、呪文を唱える。

すると、本に記された魔法陣が光り輝き、悪魔のような何かが飛び出した!

 

『盟約の名の元に復活した…………我が名はアスモデウス。貴様が我が新たな主か?』

「えっ、はい。そう、です。」

『フン。人間如きがこの俺を目覚めさせるとは、中々やるじゃないか。』

「偉そうにしないで、アスモデウス。最下位の悪魔がやけに偉そう…………1万4000年前の勇者にも勝てなかったくせに。」

『ゲッ、クソったれエルフ!?てことは、ここはエルフの里か!カーーッ!田舎臭い場所に来ちまったぜ!あと、勇者に負けたのは1万6000年前だ!』

「えーっと、お知り合いで?」

『ヘッ、腐れ縁だ。』

「むしろ敵対関係。」

「あらら…………」

 

どうやらリトシアとアスモデウスは面識があるらしい。

 

「それで、アスモデウス……さん?」

「こんなやつに『さん』をつける必要などない。」

『こりゃあまた大きく出たな!数十万年生きてるBBAがガキの体でイキっちまったか?』

「今ここで殺しても構わない?」

「ちょちょちょっ、待って待って!」

 

 

 

『呼び方はなんでもいいぜ。マスター。』

「んー…………じゃ、アスモデウスを省略してデウスでいいかな?あと、マスターってのも重苦しいし、名前でいいよ。」

『わかった。よろしく頼むぜユウイチロウ!』

 

最初は何だか怖そうな感じだったが、なんとも気さくで底が読めない悪魔らしい悪魔だった。

 

「さて、もう夕暮れだし、そろそろ帰りますか。リトシアさんも一緒に来ませんか?」

「私?…………ううん。私は、行けない。」

『ユウイチロウ。こいつはエルフの祖。つまりこの森の管理者だ。こいつが去れば、この森の加護は消え、周囲の魔物が侵入し、この森は荒れてしまう。それが、コイツがここを離れられない理由だよ。』

「そっか…………でも、森の中ならいいんじゃない?」

「私は、この森の核。言わば心臓。この庭園を離れる訳にはいかない。それに、私が里に降りると、お告げがあるとかでエルフたちが騒ぎ出しちゃうから。」

「そう…………か。」

「大丈夫。あのダンジョンからまた遊びに来て。今度は私も、あなたと一緒に歌いたい。」

「そういうことなら、いつでも言ってください。リトシアさん。」

「…………リトシア、でいい。敬語も必要ない。」

「わかり…………わかった。それじゃ、改めてよろしくね。リトシア。」

「…………よろしく。」

『おーおー、イチャイチャやってんねー。お前がそんなに気に入るなんて珍しいじゃねぇか。』

「うるさい。わかったらさっさと行って。」

 

素っ気ないように見せて、顔を赤らめるリトシア。

やはり、裕一郎に好意的らしい。

 

「それじゃ、さようなら。」

「リトシア。そういう時は、さようならじゃなくて、またねって言うんだよ。ほら、さようならじゃなんか寂しいじゃん。」

「あ……うん。またね。」

 

心做しか寂しそうな瞳で去りゆく滝を見つめる。

彼女の瞳は渇望していた。彼という存在を。

しかし、その望みは叶わない。

それを知っているからこそ、寂しそうな表情をしたリトシアは、ゆっくりと瞳を閉じた。

 

 

 

 

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