ライブから三日後。
「おはよう奈緒」
「桐生さん! 無事だったんだ!」
「ああ。ケジメは取って来たよ」
「そうじゃないよ! 電話も全然出なかったし!」
奈緒は泣きそうだ。
「すまない。ごたごたしていてな」
「女の子を泣かせちゃいけませんよ桐生さん」
ちひろさんがいきなり現れた。
「いきなり有給休暇を取ると電話で言い出すんですから」
「ご迷惑をお掛けしましたちひろさん。家のことでごたごたしてて」
「全く。新しい子を任せる予定だったのに」
「新しい子?」
「加蓮ちゃん入ってください」
ちひろさんがそう言うと一人の女の子が入ってくる。
「北条加蓮です。よろしくお願いします」
「桐生龍臣だ。こっちの子が神谷奈緒。よろしく頼む」
「神谷奈緒だよ。よろしく加蓮」
「よろしく奈緒。それで桐生さん聞きたいことがあるんだけど……」
「何かな?」
「背中に背負ってるのは何かな?」
「真剣だ」
「何でそんなの背負ってるの?」
「護身用だ」
「いや、わからないよ」
「桐生さん。教えた方が良くないか?」
「でもなあ……」
「加蓮。桐生さんの秘密を見ても黙っていられる?」
「うん。こう見えても口は固いから」
「はあ。わかった」
そう言って龍臣はスーツを脱ぎ始めた。
突然のことに驚く加蓮だが、龍臣の入れ墨を見てさらに驚く。
「桐生さんそれって……」
「加蓮の思う通りだ。俺は極道だ。
桐生組次期組長桐生龍臣」
龍臣はスーツを着なおす。
「皆には秘密にな」
「うん。でも驚いた」
「まあ、驚くよな」
その後加蓮からいくつかの質問をされた。
「それじゃ今日は基礎レッスンしますね」
トレーナーさんが今日の内容を伝える。
奈緒と加蓮の状態の差を見るためだ。
「うーん……」
「これは……」
龍臣もトレーナーも唸った。
明らかに奈緒と加蓮との間で実力に差がある。
動きもバラバラだ。
「奈緒さん、加蓮さん。すいませんが別メニューで行きます」
トレーナーが指示を出す。
龍臣もトレーナーと意見が同じなのか、無言で同意を示した。
加蓮は不服そうだが納得はしたようだ。
トレーナーの指示の下、レッスンは続けられた。
「はい。今日は終了です。お疲れ様でした」
トレーナーが終わりを告げる。
ここでもハッキリと差が出た。
奈緒が余裕があるのに対し、加蓮はいっぱいいっぱいだ。
(当面は合わせられる位の体力をつけさせないとな)
「二人共お疲れ様。何か食べに行こうか?」
「いいのか?」
「ああ」
「それじゃポテト食べたいな」
「ハンバーガーショップか。それじゃ行くか」
「賛成~」
加蓮の意見でハンバーガーショップに行くことになった。
「んー、ポテト美味しい♪」
「ポテトばっかじゃねえか。他の物も食えよ」
「だって美味しいんだもん。タダで食べるポテト最高♪」
「はは。加蓮はジャンクフード好きなんだな」
「桐生さんはどうなの?」
「んー、家では和食が多かったからな。外食はまれだったし」
「何で外食はまれだったの?」
「そういうのを狙ってヒットマン送り込んでくるのさ。給仕に化けたりしてな」
「うわあ……おちおち外で食べることも出来ないんだ」
「ああ。だから家と学校を車で行き来さ。買い食いなんて出来なかったよ」
「しんどくなかった?」
「そういう家に生まれた以上仕方ないさ」
そう言って龍臣はハンバーガーを食べる。
その姿を見て二人は複雑そうな顔をした。
極道と言えば自由な無法者というイメージがあったが、
龍臣から見えるイメージはまるで不自由だ。
動物園の檻に閉じ込められた動物みたいに。
二人は思った。
桐生さんは果たして幸せなのかと。
「桐生さん」
「ん? どうした奈緒?」
「桐生さんは幸せなの?」
「…………」
「だんまりなのは幸せじゃないと肯定してるととるよ」
「…………仕方ない」
「え?」
「俺には他に選択肢がない。だから奈緒達が羨ましい」
「桐生さん……」
「俺には定められたレールを走るしか出来ないんだ……。
それはまるで苦悩を吐き出すように、龍臣は零した。