「せいっ!」
刀を不可視の速度で振るう。
どんどんとスピードを上げる。
嫌なことを忘れるように。
「ハア……ハア……」
「桐生さん?」
龍臣が振り返ると、奈緒と加蓮がいた。
「二人共早いな? 予定よりもずいぶんと」
「自主練習しようと思って。桐生さんも練習してたんだ」
「ああ。敵対する組、外国人グループ、半グレ……。
強くなってるからな。生き残るには強くならないと」
「へえ……充分に強いと思うけど?」
「進化をやめたらそこでおしまいだ」
龍臣はそう言って刀を仕舞う。
「さっ。二人共どうぞ。練習に来たんだろ?」
「う、うん」
二人は練習を始めた。
今日も今日とてレッスンだ。
(ふむ。徐々に合ってきてるな)
トレーナーさんも同じことを思っているようだ。
「はい。本日はここまでです。二人共徐々に合ってきてますよ」
「よし!」
「頑張ってるんだもの。そりゃあね」
「俺の眼からも頑張ってるのが分かるぞ。
二人共よくやってるよ。さ、風邪を引かないうちに着替えてきな」
二人共着替えに向かった。
二人が着替えるのを待っていると、
「桐生さん」と声を掛けられると同時に抱きつかれた。
「十時さん?」
「はい。十時愛梨です」
そう言って龍臣の身体をギュッとする。
非常に柔らかい感触を感じた。
「十時さん。ちょっと不味いですって!」
「?。 何が不味いんですか?」
「十時さんはアイドルです。こんなところ誰かに見つかったら……」
「今は誰もいないからこんなことが出来るんです」
そう言って愛梨はさらに力を込める。
「何でですか?」
「?」
「抱きつく理由です。俺が極道なのは知っているでしょう」
「それが好きになっちゃいけない理由になりますか?」
「渡世のことに十時さんを関わらせたくないんです。だから……」
「それも含めて桐生さんが好きになったんです。それでもですか……?」
「それは……」
龍臣が反論しようとした時、部屋のドアが開いた。
「桐生さん。おまた……」
奈緒が龍臣に言おうとして、言葉に詰まる。
加蓮は驚いていた。
「桐生さん。これはどういうこと?」
龍臣はゾクッと怖さを感じた。
渡世でヤバい奴と相対した時の感覚である。
「むう。邪魔が入りましたか」
そう言って十時は龍臣から離れる。
「十時さん。何やってんだよ!」
「見ての通りですよ。好きだから抱きついたんです」
「なっ!?」
「それが奈緒さんに何の関係が?」
「十時さんはアイドルだし、それに桐生さんは……」
「極道でしょ? わかっていて好きになったんです」
「なっ!?」
「そういうわけで奈緒さんは関係ないですよね?」
十時が奈緒を挑発する。
「ある!」
奈緒が大声を出す。
(言ってやれ。アイドルとプロデューサーだと!)
龍臣は内心奈緒を応援した。
しかし、奈緒から出た言葉は予想外のものだった。
「私も桐生さんが好きだからだ!」
「な、奈緒!?」
「それは全てをひっくるめて桐生さんが好きということですか?」
「ああ、そうだ! 私は桐生さんが大好きだ!」
龍臣は頭を抱えた。
どうしてこうなった!
「ほう。それじゃあ私とライバルということですね」
「絶対負けないから!」
加蓮、何とかしてくれと視線を送る。
しかし、加蓮は悪魔の笑みでニヤニヤこの状況を見ていた。
(どうする。どうすればいい)
渡世で百戦錬磨の龍臣といえど、今回は想像の埒外だった。
「待て待て! 俺のことをわかって言ってるのか!?」
「「もちろん!」」
そこではもるのかよ……。
「あのな。二人はアイドルで……」
「わかってる。だから将来返事を聞かせて」
「ええ。返事は将来お願いします」
二人の眼は真剣だった。
龍臣は頭を抱えざるをえなかった。