「はあ……」
「…………」
「はあ……」
「若、どうしたのです? ため息をつくと幸運が逃げますぞ」
「真田。女から告白された」
「はあ、そうですか……んええ!?」
「うるさいぞ真田。大きな声を出すな」
「いや、女ですぞ!? ゲイ疑惑を阿久津が言ってた若がですぞ!?」
「阿久津を呼べ。袈裟斬りだ」
「いやいや。うちに見合う女何ですか?」
「うちに見合ったらいいのか?」
「……複数いるんですね!?」
龍臣は顔を逸らす。
「この真田、若の結婚する姿を見れるとは……!」
「男泣きしてるところ悪いが、今ではないぞ。そもそも結婚するとも言ってないし」
「何故ですか!? 好いてくれる女が出来たのですよ!?」
「真田。堅気の人間を渡世に迎えるということはどういうことかわかるだろう?」
「…………」
「そういうことだ」
「若がさっきからため息をついているのは……」
「それを思ったからだ。……彼女達には堅気で幸せになってほしいんだ」
「若」
真田が居住まいをただす。
「若は他人の幸せを優先しますが、若の幸せはどうなるのです!」
「…………」
「ひたすら刀を振るい続ける修羅の道を行かれるつもりですか!」
「真田……」
「若が三代目になるのは避けられないことです。
しかし、幸せになるのとは別でしょう!」
「…………」
龍臣は黙って立つ。
「シマを見回ってくる」
「若!」
「俺に人を幸せに出来るとは思えないんだ……」
そう言って龍臣は部屋を立ち去った。
龍臣は九龍街をあてもなく歩いていた。
無論、無造作に歩いているように見えて隙はないのだが。
「ちょっとしつこいわよ」
耳に聞こえた声にその方向を向く。
そこにはOL姿の女性二人がスカウトを受けていた。
全く、最近はスカウトの質が落ちてるな。
龍臣はそう思いつつ声を掛ける。
「もうやめとけ。脈なしだ」
「あん? 誰……き、桐生!?」
「これ以上やるなら俺が相手するがどうする?」
「し、失礼しました!」
スカウトは足早に立ち去っていった。
「ありがとうございます。しつこかったんです」
「ありがとうございます」
「礼はいい。しかし、君等にも問題があるぞ」
「あら。どこが問題かしら?」
「ここは九龍街。関東屈指の歓楽街だ。スカウト合戦も激しい。
美人二人がこんなところに入ったら、必然的にこうなるに決まっている」
「あら。お上手ね」
「本当のことしか言わないんだがな」
「そういえば名前聞いてなかったわね。私は和久井留美」
「三船美優といいます」
「桐生龍臣だ。ここの出口まで送ろう。さっきのこともあるからな」
「それじゃお願いしようかしら」
「こっちだ」
龍臣は二人を案内し始めた。
「ところで桐生さんが手に持ってるものって?」
「刀だ」
「何でそんな物を?」
「三船さん。九龍街はヤクザ、外国人グループ、半グレと争っているんだ」
「光が強ければ強いほど、闇も深まるわけね」
「そうだ和久井さん。あの街では力が必要なんだ」
「……桐生さんはヤクザね」
「……どうしてそう思う?」
「消去法よ。半グレなら案内したりしないし、外国人ってわけでもない。
一般人とも違う。
そうね、ヤクザというより極道と言った方が正解かしら」
「…………正解だ。それでなんでついてくる気になった?」
「あなたがまともな人間だからよ」
「渡世に身を置いてる人間がまともに見えるか?」
「悪人は自分を悪人と言わないものよ」
「…………知り合いに同じことを言われたよ」
「ふふ。これでも秘書だったからね。人を見る目は持ってるつもりよ」
「だった?」
「私と美優、二人で辞表叩きつけて辞めてやったのよ。あのセクハラ上司!」
「堅気の世界も世知辛いからな」
「こうなったら結婚して永久就職してやろうかしら?」
「…………」
「桐生さん?」
「俺は結婚が怖い」
「どうして?」
「相手を幸せに出来るか不安なのさ。渡世の身としたらな」
「なるほど……。桐生さん、一つ間違ってるわ」
「?」
「幸せになるには双方の努力次第よ。桐生さんが操作出来るなんて、
思い上がりも甚だしいわよ」
「…………!」
龍臣は絶句した。
奈緒にもかつて言われたことではないか。
しばらく押し黙ってしまったまま歩く。
「ここが出口だ」
「ありがとう。参考になった?」
「ええ。ありがとうございます。お気を付けて」
「私は何もアドバイス出来ませんでしたけど、ありがとうございました」
「三船さんもお気を付けて」
そうして二人は去っていった。
龍臣は空を見上げた。
綺麗な月が夜空を照らしていた。