「さて、とりあえず武内プロデューサーの所へ行くか」
「武内プロデューサー?」
「ああ。先輩プロデューサーでな。
そこでプロデュースのイロハを学ぼうと思うんだ」
「ふーん。いいんじゃないか」
「よし。いくぞ」
龍臣達は武内プロデューサーの所へ向かった。
「すいません。桐生ですが」
「これは桐生さん。ちひろさんから話は伺っています」
龍臣と武内プロデューサーは話を始めた。
その間奈緒は手持ち無沙汰だった。
二人の話は専門的であり、面白くなかったからである。
ちらりと部屋の中を見た。
小学生から大学生まで様々なアイドルがいた。
自分もここにいる人達と同じアイドルになるのかと思った。
「本日はありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました」
奈緒がボーっとしてる間に二人の話は終わった。
「奈緒、ボーっとしてたろ」
「ぼ、ボーっとしてないよ!?」
「まあ、つまらない内容だから仕方ないが……仕事の話でボーっとはするなよ?」
「わかってるよ……」
「それじゃ俺達に与えられた個室に行くか」
「個室あんの!?」
「そりゃあ一応な。それじゃ行くぞ」
二人は個室に向かって移動した。
「ここが俺達に与えられた個室だ」
「へえ……」
「まあ、当分はレッスンだけどな」
「へっ!?。レッスンなら受けて……」
「そりゃ基礎レッスンだ。こっから本格的なレッスンを受けてデビューという流れだ」
「うわあ……。そうなのか」
「ところでここに地図がある。帰宅ルートを書いてくれ」
「?。いいけど?」
奈緒は言われるままに帰宅ルートを書く。
龍臣はそれを見て顔をしかめた。
「奈緒……よく無事だったな」
「へ?」
龍臣は地図に様々なことを書き込んでいく。
「奈緒が近道に使っているこのルートな、娼婦や薬物の交渉によく使われる場所だ」
「え?」
「この地点では半グレ同士の喧嘩が多い。この通りは風俗のスカウトが多い」
龍臣が指摘するたびに、奈緒の顔が青ざめていく。
「いいか。奈緒。夜遅くなったら近道したくても歓楽街には入るな。
子供には危険だ。それに奈緒みたいに可愛い子は狙われやすい。自分を安く見るな」
「か、可愛いって……」
「俺は事実しか言わない。それでどうしてもヤバいことになったらだ……」
龍臣は名刺ホルダーを渡す。
「これは?」
奈緒が開けようとする。
「待て待て! それは最終手段だ!」
「最終手段?」
「それは百パーセント奈緒を守る盾になってくれる。
ただ、それを使えば俺とのプロデュース関係は終わる」
「それってどういうことだよ」
「言葉通りの意味だ。俺は346プロをやめることになる」
「…………桐生さんって何者?」
「禁則事項だ」
「何でこんなに危険箇所に詳しいんだ?」
「禁則事項だ」
「この名刺ホルダーの中身は?」
「禁則事項だ」
「プロデューサーとアイドルだろ! 何で隠すんだよ!」
奈緒の怒りに龍臣は寂しく答える。
「奈緒。俺はな、アイドルにさせることは出来ても、女を幸せに出来ないんだ」
「女を幸せに出来ない?」
「ああ。俺は女を幸せに出来ない。これは仕方ないことなんだ」
「何でだよ! 恋することも愛することも出来ないっていうのかよ!」
龍臣は寂しく笑みを浮かべ答えた。
「…………恋することも、愛する事も出来る。だが、幸せに出来ない。
だから恋することも愛することもしない」
「そんなの……悲しいじゃないか……」
奈緒は目に涙をためた。
「…………仕方ないんだ。これは仕方ないことなんだ…………」
双方の間に沈黙が続いた。
「…………名刺ホルダーについて言っておく。
その中身は強力だが、忌み嫌われるものだ。
興味本位で絶対開けるな。約束しろ」
「うん。桐生さん」
「ん?」
「いつか全てを教えてくれる日が来るの?」
「さあな。全てを知ったら嫌うんじゃないか?」
「…………」
「奈緒はアイドルになることに集中すればいいさ」
龍臣は笑いながら奈緒を励ました。