あれから三日が経過した。
プロデューサー室の空気は重く、壁に掛けられた時計の秒針が刻む音が、
いつも以上に大きく響いている。龍臣は冷めきったコーヒーを脇に置き、
じっと扉を見つめていた。他のメンバーはレッスンや仕事で不在。
この静寂こそが、今この瞬間にふさわしいとさえ思えた。あれから三日が経過した。
プロデューサー室の空気は重く、壁に掛けられた時計の秒針が刻む音が、いつも以上に大きく響いている。龍臣は冷めきったコーヒーを脇に置き、じっと扉を見つめていた。他のメンバーはレッスンや仕事で不在。この静寂こそが、今この瞬間にふさわしいとさえ思えた。
カチリ、とノック音が響く。指定した時刻、寸分の狂いもない。
龍臣が「どうぞ」と告げると、重たい木製の扉が静かに開いた。
現れた三船の姿に、龍臣はわずかに目を細めた。
三日前とは、纏う空気がまるで違っていた。以前の優しく儚げな面影はどこへやら、瞳には強い意志が宿っている。何より、普段の柔らかな私服ではなく、身体のラインにフィットしたかっちりとしたスーツを纏っていた。
まるで草食獣が、自ら牙を研いで獣へと変貌を遂げたかのようだった。
(なるほど。三日前の一撃が、彼女を覚醒させたか……)
龍臣は内心で深く頷く。大きな衝撃をバネに、人はここまで変われるものなのか。
「三船さん、座ってくれ」
「はい」
二人はソファーを挟んで対峙する。龍臣はあえて、真っ直ぐに彼女の瞳を射抜いた。
「……それで、決まったか?」
三船は即答する代わりに、スッと立ち上がった。そして、龍臣に向けて深々と頭を下げる。
「アイドルを続けさせてください」
その声には迷いがなく、背筋はピンと伸びている。龍臣は胸の奥で小さく安堵する。
「その覚悟、確かに受け取った。だが聞かせてくれ。何故、そこまでしてアイドルを続けたいと思ったんだ?」
三船は顔を上げ、怯むことなく龍臣を見つめ返した。
「桐生さんの言葉に、最初はショックを受けました。でも三日間考えて、ようやく分かったんです。桐生さんが、あえて憎まれ役を買って出てくれた理由が」
「荒療治だった。賭けでもあったよ」
「私はずっと、桐生さんに助けてもらってばかりでした。何も返せていない。このまま終わったら、一生後悔する……そう思った瞬間に、迷いが消えたんです。今日は、私の『本気』を見せに来ました」
彼女の表情は晴れやかだった。そこに三日前の迷いは微塵もない。
「……そうか」
龍臣は口元を緩め、右手を差し出した。
三船も迷いなくその手を取る。二人の握手は、かつてないほど力強く、そして確かな未来を感じさせるものだった。