「シマの中で勝手なことしてるやつを見逃すなよ?」
「へい、若!」
龍臣達は九龍街の見回りに来ていた。
シマは領土そのものだ。チャカや金など組の全ての必要な物が納められている。
最近は勢いを伸ばす龍極会。昔からの敵対関係で冷戦状態の摂津組。
ここに中国系、韓国系、ナイジェリア系等の外国人グループ。
そして無法者の半グレ集団。
昔より情勢は複雑化している。
だからこそ秩序が必要なのだ。
桐生組のシノギは街に金を落とすお客だ。
秩序がなくなれば、あっという間に客が来なくなり、シノギがなくなる。
だからこそ龍臣達は目を光らせているのだ。
「や、やめてください!」
女の声に見てみると、女が無理矢理集団からスカウトを受けていた。
(馬鹿共が。桐生組のシマで勝手しやがって)
龍臣は心の中で毒づくと、女の元へ向かった。
「兄ちゃん達。そいつは俺の女なんだが、桐生組のシマでチャレンジャーだな」
スカウト達は振り向いて青ざめる。
「ひ……人斬り桐生!」
「で、兄ちゃん達人生終わりたくなかったら消えろ」
龍臣が一睨みするとスカウト達はそそくさと立ち去った。
「まったく……」
「あの、ありがとうございました。十時愛梨っていいます」
「桐生龍臣だ。君に忠告しておくことがある」
「なんでしょう?」
「ここ九龍街は歓楽街だ。君みたいな美人はホステスや風俗のスカウトの的だ。
中には悪質な輩もいる。用がないならここには入るな」
「ごめんなさい……」
「ここを出るまで送る。行こう」
そうして龍臣は愛梨を送った。
「ここまでくれば安全だ。二度とアソコへは来るなよ」
「はい」
「……いまいち不安だな。これを渡しておく」
龍臣は一枚の名刺を渡した。
「これは……?」
「今度もし同じ目にあったら、それを見せろ。百パーセント盾になる」
「……また、会えますか?」
龍臣は首を横に振る。
「会わない方がいい。その方が君にとって幸せだ」
龍臣はそう言うとその場を立ち去った。
「はい! ワンツー!」
今日も今日とて奈緒はレッスンを重ねていた。
「トレーナーさんそろそろどうですか?」
「いいと思います」
二人は意見の一致を見た。
「奈緒、いいか?」
「どうしたの桐生さん?」
「おめでとう。奈緒のデビューが決まったよ」
「本当か!?」
「ああ。これからはデビューへ向けてのレッスンだ」
「へへ。楽しみだな!」
奈緒は満面の笑みを浮かべた。
「ふう……」
龍臣は缶コーヒーを飲みながら休憩していた。
(これから忙しくなるな)
奈緒の今後の活動を思っていると、声をかける人物がいた。
「桐生龍臣さん?」
龍臣は振り向き凍り付いた。
そこには昨日出会った十時愛梨がいたからである。
「やっぱり! あの……」
龍臣は愛梨が何か言う前に、人気のない通路へ彼女を抱きかかえ質問する。
「なんで愛梨がここにいる?」
「なんでって……私、アイドルですから。桐生さんは?」
「プロデューサーだ。昨日のことは内密に頼む」
「何でですか?」
「極道がプロデューサーやってるなんて知れたら、奈緒に迷惑がかかる。
他のアイドル達にもな」
「んー、桐生さんは悪者に見えませんけど?」
「俺の通称は人斬り桐生。名前の通りだ。だから黙っていてくれ」
「わかりました。黙ってます」
「頼む」
「ところで極道ってことは入れ墨を彫ってるんですか?」
「ああ。昇り龍を背中に彫ってるよ」
「ヤクザ映画みたいに抗争もあるんですか?」
「シマを荒らされたらもちろんな」
「シマですか?」
「例えば九龍街。うちの重要なシマさ。
アソコに落ちるお金がうちのシノギになるのさ」
「へえ……」
「他の組に外国人グループ、半グレ集団。最近はきな臭くなってやがる。
秩序を守るのも大変だ。だから愛梨が関わる必要はない」
「……でも桐生さんは悪い人じゃないですよ?」
「堅気からしたら悪さ」
「本当に悪い人は自分の事を悪人とは言いませんよ?」
「…………」
「おーい、桐生さん!」
奈緒が呼ぶ声が聞こえた。
「とにかく黙っていてくれ。頼む」
龍臣はそういうと奈緒の元へ向かった。