その集落を、サンタローズといった。
自然に囲まれた小さな村。その中に、ひとつの変化が訪れたのだ。
村の有名人であるパパスが、子を連れて帰ってきたのである。この事実に村人は驚き、そしてすぐに歓声を上げたのだ。
夜中になっても酒場ではその話をする者が後を絶たず、また旧交を温めようとその場に噂の本人が来た時などは、建物が震えるかと思うほどの賑わいを見せたのだ。
奉公の一環として酒場に給仕の仕事のために訪れていたシスターのミランなどは、このタイミングの良さにいつもの2割り増しで神に感謝を捧げていたほどである。
結局、この日は深夜近くまで宴が行われ、パパスは村人と共に解散する時間まで付き合いを続けたのであった。
そして、朝が訪れる。
日光が教会の建物を照らすころ、その中で一人の少女が眠りから覚めた。
柔らかい銀色の髪を揺らしつつ、簡易なベッドから身を起こす。窓の外は、朝焼けに彩られたサンタローズの見慣れた風景。
少女――アリスは覚醒したばかりの身体を所々伸ばしつつ、周囲を見渡した。
部屋の面積の効率化を図るための2段ベッド。その下側にアリスはいる。ミランと自分が普段から利用している簡易的な机に、シスターの心得と基礎的な勉強用の本が納まっている本棚が視界の隅に映っていた。
太陽の位置から察するに、もう起きなければならない時刻だ。アリスはベッドから降りると、寝巻き用であるスリップをスッと脱いだ。肩紐がはずれ、足元に落ちる。
肌は雪のように白く、また滑らかであった。幼いながらも、絵画に描かれている天使のモデルといっても差し支えない姿である。
実際、アリスは美しい少女であった。
肩まである銀色の髪に、幼さを残したつぶらな瞳。柔らかな唇に音楽家のような指は、見る者に将来の期待を抱かせるには充分すぎた。
サンタローズの洞窟から流れている川の清涼な水を、部屋の隅に置いた桶に汲んである。タオルに染み込ませ、寝汗の残っている身体を拭いた。
さっぱりした心地のまま、アリスは修道女の正装に身を通す。ヴェールを被り、寝室を出た。
教会の聖堂は、小さいながらもそれなりにしっかりとした造りになっている。神を崇める場として、見る者に脆さを感じさせるわけにはいかないのだ。
見慣れたステンドグラスに、白い十字架。朝の光に照らされた内部は、今日も礼拝の場を照らしている。
教会のグレン神父がアリスに気づき、礼をした。幼いシスターもまた、同じようにする。
「おはよう、シスター・アリス。神の御加護を」
「おはようございます、神父様。神の御加護を」
朝の黙想を終わらせ、朝食を他のシスターに混じって作る。こうして、今日もアリスの一日は始まるのだ。
そんな何気ない日常にも、ほんの少しの些細な、それでもとても大切な変化があった。
「パパスさんってば、本当にまた逞しくなったわねえ」
「ええ。2年前よりも精悍な顔つきになって」
年配のシスター達が、こぞってパパスの話をしている。アリスも名前だけなら聞いた事があるが、実際の人柄を見たのは昨日が初めてであった。アリスの目から見ても、頼もしそうな青年という印象が素直にある。
しかし。年少のシスター見習いは内心でため息をつく。
仮にも年長のシスターが噂話にばかり気を取られ、仕事の掃除をしないのはいかがなものか。アリスはそっと立てかけてある竹箒を手に取り、外に舞う落ち葉を纏める事にした。
しばらく、箒で掃く作業が続く。途中からはシスターもそれに気づき、ごめんねと謝りながら手伝いを始めた。お気になさらず、と無難な返事をしておく。
休憩時間。それが終わったら祈りの時間と昼食の準備だ。今日も、サンタローズの教会は忙しい。
サンタローズの朝を迎えたリュカが起床した時、すでに父のパパスと召使のサンチョは食事を始めていた。急いで手洗いとうがいを済ませ、自分の席に着くと、待っていたのはサンチョ特製のパンケーキ。野菜も瑞々しく、旅の最中で食べていた木の実など比較にもならない。
リュカはできる限り自分で取り分けやジャム塗りをやろうとしたのだが、サンチョの世話を焼きたいという意思は硬かった。そのうち、あきらめ半分にサンチョの言われた通りに食事を進めることにする。
「うまかった」
パパスはナプキンで口をぬぐった。
「こんなうまい飯を2年間もないがしろにしていたとはな。またよろしく頼む」
「はい。かしこまりました」
サンチョは丸い頬っぺたをつやつやと輝かせた。やはり、主人に褒められるというのはいつになっても嬉しいものらしい。
「さて、早速だが父さんはちょっと出かけてくる。いい子にしていられるな」
「うん」
「なんなら、ビアンカのところに行って、遊んでもらっていても構わないぞ」
ビアンカというのは、村の宿屋に泊まっている少女の事だ。隣町にはアルカパという近代的な町が存在し、彼女はそこの宿屋の一人娘なのである。何でも彼女の父親とパパスは懇意にしているらしく、自分達よりも先に家の中にサンチョ共々世話になっていた。
現在は来訪していたビアンカとその母であるマグダレーナは、みんなと一緒に食事を済ませたあと、サンチョに送られて宿に戻っている。正直なところ、リュカとしてはそれにホッとしていた。
なぜなら、ビアンカは帰ってきたリュカの顔を見るなり――
――もしかして、私のこと覚えてないっていうの? 恩知らずねえ。そうやっていつまでも惚けた顔ばかりしているから、物覚えが悪いのよ。私なんてあなたくらいの時には家の手伝いくらい立派にできていたのに。
あまりな言葉に、リュカは目を白黒させるしかなかった。彼女は自分よりも2歳上だそうだが、だからといってこの言い分はないだろう。
かといって、抗議の言葉などこの時のリュカには思いつかなかった。頭を切り替える事ができず、ただひたすらビアンカのいうとおりに惚けた顔をしているしかない。
そして、ただ黙っているリュカの態度が気に障ったのか、ビアンカの言葉は止まらない。
――あ、なによ。そんなに私がお姉さんだって言うのが信じられないわけ? だったらそこに座りなさい。これくらいの本だって、簡単に読めるんだから。
そこで椅子に座り、ビアンカは棚にしまってある分厚い本をリュカの前で開く。だが、次第にビアンカの表情が険しいものになっていった。どうやら、彼女が読むにはまだ早すぎる内容だったらしい。
――あらいやだ、私ってば本を間違えちゃったわ。あなた向けの本はこっちだから。
そういってそそくさと本をしまい、コミカルなイラストが多い本を本棚から取り出す。
それが読めなかった誤魔化しである事くらいは、リュカとて理解できる。思わず笑いそうになってしまったが、そこを目ざとくビアンカが目くじらを立てた。
――なによその顔。人のちょっとした失敗を笑うなんて失礼ね。いいもん。もうあんたとは遊んでやんないんだから。
へそを曲げてしまったらしく一方的に言い切ると、さっさとビアンカは階段を使って下へと降りていってしまった。リュカを残して。
これまた、呆然とするしかないリュカ。泊まっている村の宿屋へと帰ってしまったビアンカとマグダレーナを、窓から見送っているしかない。
その日の晩。ビアンカから一部始終を聞いたサンチョから、遠まわしに注意までされてしまった。曰く、女の子を怒らせてはいけませんよと。
怒らせてなんかない、とリュカは言いたかった。しかし、実際に怒っていた事は事実なので、何も言い返せない。なんとなく理不尽なものを感じながら、リュカは眠りについたのだ。
そして、この日の朝。パパスが家を出て行った事に、リュカは落ち着かないものを感じた。父が忙しいのは分かる。でも、まだほとんど記憶に無い村に置き去りにされたような気分がこみ上げてくるのだ。
もちろん、ひとりではない。サンチョもいる。怒られるのを覚悟なら、宿屋に行ってビアンカと遊びに誘うことだってできる。まあ、ビアンカは昨日の今日なので、いまいち自分から会いに行く気はなかったのだが。
そんな寂しさをごまかすために、リュカはサンチョの手伝いをすることにした。自分の仕事が無くなりますからと断られたのだが、子供特有の意地の強さで何とか押し通す。
部屋の掃除までどうにか終わらせたが、それでも時間は午後にも遠い。これでは、適当に村の中をぶらついて時間をつぶすしかなかった。
リュカはサンチョに一言断りを入れ、村の外へと出て行く。人の姿はまばらなものの、風景の一つ一つにリュカはどこかはじめて見た気がしないような感覚を覚えた。
山脈のふもとに位置する集落のせいか、時折見かけるリスや猫のような小動物も人々の生活に溶け込んでいる。
記憶に無くとも、身体が空気を覚えているのだろうか。なんだか少しだけ嬉しくなり、ことさらゆっくり村を見て回る。これなら、もっと早くに外へ出ていればよかった。
「おお、リュカ君。大きくなったねえ」
「あら。久しぶりねリュカ」
自分を見かけた大人たちが、親しげに挨拶をしてくる。正直言って顔など覚えているわけも無いのだが、誰ですかと言うのも失礼だ。とりあえず、元気に挨拶を返しておく。
自然と、村人のみんなから会話をする機会が増えてきた。曰く、パパスとサンチョ、そして赤ん坊だった頃の自分がサンタローズに来たのは5年前であると。
他にも、かつてこの村で鉱物資源のひとつとして、聖なる原石という貴重な宝石を手に入れる事ができたという。サンタローズに洞窟が存在しているのは、その名残だとか。
宿屋にも、見学の意味で失礼させてもらった。泊まっているのはビアンカとマグダレーナだけらしかったので、見つからないように早々に引き上げようとした。
「あら。リュカじゃない」
と、そこで同じように暇をもてあましていたビアンカが部屋から出てくる。鉢合わせする格好になったリュカの存在に驚かれはしたものの、特に嫌な顔はされなかった。どうやら、彼女の中では喧嘩別れするような形になってしまっていた事などまったく気にはしていないらしい。
女の子って難しいな。そんな感想を抱いた6歳の春だった。
リュカを部屋の椅子に座らせ、色々と質問をしてくる。今までどこの町や地方に行っていたのか。パパスは普段、どんな仕事をしているのか。
暇をもてあましていた身分としては、特に断る理由など無い。自分のできる範囲内で、覚えている限りのことを話す。表現力の乏しいリュカは身振り手振りで伝えたいことを説明した。そんな振る舞いのほうがむしろ可笑しかったのか、ビアンカは終始笑いっぱなし。時にはマグダレーナも娘と一緒に忍び笑いをする。
「それでね。船に乗ったときはこんな風に……」
「あははは。なによそれ」
「あっはっは。そりゃあ愉快だったねえ」
だが、別にリュカは笑われる事に不快感など覚えない。むしろ、怖そうな女の子だと思っていたビアンカを、こんな風に楽しそうに笑わせてあげる事ができたという事実の方が、むしろ嬉しかったのだ。
「とっても楽しかったわよ。また来てよね!」
「うん。またねっ」
すっかり打ち解けたビアンカと母親に見送られながら、リュカは村の探索を開始した。楽しいおしゃべりをしたせいか、気分は家を出る前よりもずっと浮き足立っている気がする。
「あれ?」
1時間と少しほど経って村を一周しそうになったところで、ふと目に付いたものがあった。
山の崖の近くに建っている、小さな教会が見える。その前で、青年と神父がなにやら話をしていた。
随分と青年のほうは深刻そうな顔をしている。何か悩み事があって、相談でもしているのだろう。
あまり立ち聞きをするのは良くないかもしれない。できる限りさり気なく通り過ぎようとしたのだが、会話はつい少年の耳に入ってしまう。
「ええ、そうです。グータフの親方が朝から帰ってこないんですよ」
「それは困りましたね……グータフさんは、この村で唯一の薬師なのですが」
「洞窟はいつも行き慣れているからと、油断していました。パパスさんにも相談したかったんですが、どうも入れ違いになってしまったらしくて」
パパス。その名前に、リュカの足は止まる。それに気づかず、2人の会話は続いていた。
「パパスさんでしたら、先ほど洞窟の中へと向かっていくのを見ましたよ。もしや、すでにこの話を聞き及んで、様子を見に向かって行ったのではないでしょうか」
「そういう事でしたら安心できるのですが……でも、おかしいなあ。この事を話したのは、神父さんが初めてですけれど」
「パパスさんは耳が早いですからねえ」
それからは、若干ではあるが緊張感のない会話が続いている。しかし、リュカの心はすでに村の散策どころではなくなっていた。
村の薬師が洞窟へ行ったまま行方不明。どう考えても、何かあったに違いない。きっと父は、そのグータフという男を追って行ったのだ。
加えて、リュカは思い出す。先ほどビアンカたちと一緒に話をしていた時、マグダレーナが言っていた。元々あの母子はこの村に薬を調合してもらうために来たのだという。しかし、とっくに戻っているはずの人が戻らない事にいささかの不安を覚えていた。
間違いなく、その人こそが薬師だろう。父がおらず、他の大人達も忙しそうだ。ならば、せめて自分が行かなくては。
実のところ、その薬師が行方不明になっているという話はアリスの耳にも届いていた。シスター達の間でも、幾ばくかの不安の色を滲ませて伝えられていたのである。
グータフが向かっていった洞窟には、魔物がうろついている事は誰もが知っていた。彼は腕に覚えのある人物なので今までは誰も心配はしていなかったのだが、戻ってこないとなれば何かがあったに違いない。
いくらかの不安を覚えながら、教会の清掃を終わらせるアリス。そこで、箒を片付けている最中に、視界の隅に見覚えのある陰が映った。
「……リュカさん?」
高い位置から見下ろしているので、あたりの様子が良く分かる。洞窟から流れる用水路の向かい側は、人一人が通れる程度の道があるのだ。そこを、昨日知り合ったばかりの少年が足早に走っているのが見えた。
「あ……!」
アリスは思わず声を上げる。なんと、リュカは何を思ったのか絶壁で口を開けている洞窟の中へと姿を消してしまったのだ。小さい少年の後ろ姿は、あっという間に暗闇の中へと溶けていく。
危ない。あの洞窟は1人で行くには危険すぎる。それに、あそこには魔物が――!
「シスター・アリス? どうかしたのですか」
一目散に丘を降りていったアリスには、自分を呼び止めるミランの声もどこか遠い。川の傍らから、シスター見習いの少女は昨日知り合ったばかりの少年を追って走っていく。
途端、暗闇の世界がアリスを取り囲んだ。岩をくりぬいたような壁沿いに、アリスは足を動かして前に進む。川が近いせいで湿気が多く、足元もぬかるんでいた。慣れない者には辛いだろう。
加えて、視界も外とは比べ物にならないほどに悪い。幸いにしてヒカリゴケが至る部分に生育しているおかげで、周囲に何があるのかは辛うじて判別できる。これは、どこの洞窟でもよくある現象だと、昔に本で読んだことがあった。
そして、幸いにもリュカを追う手がかりは残っている。真新しい足跡だ。自分と同じ、小さな子供の足跡が洞窟の奥へ伸びていたのだ。彼はきっと、この先へ行ったに違いない。
リュカはおそらく、未だに帰ってこないグータフを心配しているのだ。あの薬師が洞窟から帰ってこないという情報だけを耳にし、探しに行ったのだろう。そうでなければ、誰にも告げずに一人でこんな場所に来るはずがない。
そして、アリスは幾ばくかの不安があった。もし、リュカがこの洞窟に魔物が存在していることを知らなかったとしたら……
逸る気持ちを抑える。ここから先は、走るわけにはいかないからだ。この時点で魔物の生活区域なのだし、目立つ行動を取って彼らに見つかっても厄介だ。
アリスは小川伝いに進む形で、リュカの足跡を追っていく。突き当たりを左に曲がると、その奥にはさらに地下へ潜る階段がある。今よりも暗い場所に行かなければいけないのかと思うと気が滅入りそうになるが、少年の足跡を見て気を引き締めた。
いけない。自分は何のためにここへ来たのか。
とっくに泥だらけになっている靴に四苦八苦しながら、アリスはさらに奥へと進んでいく。昔の探検家が造ったらしいその階段は、横幅が大人ひとり分の広さであったため、難なく降りることができた。
案の定、周囲の様子を確認するのが困難になるほど闇が深まった。しばらくすれば目が慣れてくるとは思うが、手探りでこのあたりを歩くのは危険だ。
息を押し殺し、耳を澄ませた。洞窟に反響しながら、不気味な声が遠くから聞こえてくる。吸血蝙蝠の魔物であるドラキーの鳴き声だ。今はただ視認できていないだけで、近くに奴らの巣があるのかもしれない。
聴力を頼りに、できる限り魔物の位置を推測する。右からはドラキー特有の、キイキイと鳴く音。左へ行けば地下水が溜まっている空間がある。今もなお、かすかに水の音が聞こえていた。
少し迷ったが、アリスはまず地下水のある方を覗き込んだ。遠目ではあったが、目が慣れてきたせいか人影がないと分かる程度の確認はできた。
目的の彼の姿は見えない。そうなると、リュカが向かっていった先は――
実を言うと、アリスはこの洞窟の中に入るのは初めてではない。この村に赴任して以来、グータフの仕事を手伝う事もままあった。もっとも、ほとんどが荷物持ちや、彼女自身の勉強のためという意味合いが強かったのだが。
とにかく、アリスはこの先の危険を良く知っていた。慎重に足を動かしながらも、決して鈍くはない走りで先へ進む。
途中、人の手によって立てられた柵が見える。一部の足場が沈下によって大穴が作られている場所だ。
地面に刺さっている立て札には立ち入り禁止という警告。ここは迷いそうになった時の目印として覚えていた。アリスは記憶を頼りに、さらに深い奥へと足を進めていく。
「っ!」
その歩みが止まったのは、さらに下の階段へ差しかかる手前であった。薄暗い中でもはっきりと分かるほど、目の前を何かが横切ったのだ。
いや、違う。影がこちらへと真っ直ぐ迫ってくる。
――――魔物だ!
アリスは身体を小さく伏せて、飛び掛ってくる影の突進を避けた。少女の身体に当たり損ねた相手は、岩の壁に突っ込む形になる。
そのまま動かなくなった影に、そっと近づくアリス。いつもはパッチリと開いている目を回している、愛くるしいようにも見えるスライム。ゼリー状の青い小さな体が、ぐったりと地面に横たわっていた。
小さな突起のある頭が特徴のスライムは、完全に伸びてしまっている。戦士の類ならばそのまま止めをさすのだろうが、アリスはなんとなくそれをするのは気が引けた。
別に、私はこの子をいじめに来たわけではありませんし。そう自分に言い聞かせ、少女はゆっくりと階段へと向かう。
いや、向かおうとした。
瞬間、烏の声を何倍にも不吉にしたような声が洞窟内に響く。洞窟の上から、一斉に放たれた声だ。
しまった、今のスライムの音でドラキーの群れに気づかれた!!
アリスは慎重に動かしていた足を逃走用に切り替え、階段へと走った。すぐ後ろで、さっきまで自分がいた場所へと襲い掛かる吸血蝙蝠たちが背中越しでも分かる。
甲高い声をあげながら、アリスの背を追って来る群れとの距離は確実に狭まっていく。魔物の中でも素早い部類に入るドラキーの一羽が、牙をむいてアリスの肩に喰らいつこうとした。
だが、その牙は空を切る。一瞬早く、アリスの小柄な身体は階段の下へと飛び込んだのだ。
迷いなくドラキーも追って飛び込むものの、今度は少女の逃走が勝った。階段を数段飛ばしで飛び降りるスピードは、平地を直接走りこむよりもはるかに速かったのである。
転がり込むように下の階へとたどり着いたアリスは、そのままの勢いで走りぬく。曲がり角の奥でようやく立ち止まると、壁を背に身を隠す。
肩で息をしながらも、出来る限り耳に神経を集中させる。ドラキーの群れは、しばらく階段の周囲を個々の判断で飛び回っていた。
やがて諦めたのか、散り散りにその場を去っていく。大半が元来た階段の奥へと引き返しているらしい。残りは、どこか別の場所へ向かっていった。
よかった。あんな数のドラキーなんて相手にしていたら、確実に命に関わっていただろうから。
しばらく息をつき、そっと立ち上がる。と、そこでこの先に広い空間がある事を思い出した。
あの辺りは遠目からでも目立つ。アリスは壁伝いに歩きながら、人の気配がないかを探ることにした。薄暗い空間の中央辺りに、いくつかの岩石が無作為に落ちているのが分かる。
上の階から落下した岩だ。昔はサンタローズにも聖なる原石という鉱物資源が存在しており、それを発掘していた頃の名残として大岩の塊が残っているのだという。少し前に、神父から教えられた事だ。
アリスはすぐに奥の方へは行かず、まず目の前の路地のように空いた穴へと入った。そこには小さな湧き水が湧いているので、もしかしたらリュカが飲料水欲しさに寄っているかもしれないと考えたからだ。
と、そこでまたしても魔物に出くわした。湧き水の周囲には草むらがあり、その中に埋もれるようにして小さな突起のある頭が特徴の魔物がいたのだ。
またしても出会った、スライム。しかし、この遭遇は相手にとっても意外だったようで、つぶらな瞳を瞬かせながらこちらを見ていた。彼女の膝までしかない小さな身体は、どういうわけかまったく攻撃する気配を見せていない。
アリスはそっと、後ずさりをする。こちらの姿に驚いているのかもしれないと思った彼女は、この隙に去ってしまおうと考えた。
しかし、そのスライムはアリスの想像を飛び越えた対応を始める。なんと、飛び掛るでもなく、無警戒にも近寄ってきたのである。
「怖がらないで。僕、悪いスライムじゃあないよ」
「……え?」
あろう事か、話しかけてきた。思考が停止するアリス。
「キミ、どうしてこんな所に来たの? この辺りは人間の女の子が1人で来ちゃあいけない場所だよ」
「ど、どうしてって言われましても……」
どうしよう。アリスは思う。どうやら、本当に敵意はないようだ。それどころか、むしろ友好的に話している。
とはいえ、訊かれたのなら答えないわけにはいかない。さっきまで警戒していた自分を抑えつつ、アリスは出来る限りいつもの口調で答える事にした。
「実は……私、男の子を捜しに来たんです。一人でこの洞窟に入ったところを見たので」
「そうなんだ。お姉ちゃんって、優しいんだね。その子の事が心配で、ここまで来たんでしょ?」
「ど、どうも」
素直に優しいと言われ、アリスは戸惑う。それどころか、こちらを気遣う様子まで見受けられる。
まいった。このスライム、本当に良い子みたいだ。まるで、無邪気な人間の子供のように。
「そうだ。僕、さっき誰かがこの辺りを歩いているのを見かけたよ」
「え、本当ですか?」
思わず食いつくアリス。こんなところで、目撃証言が得られるとは。
「実はね、さっきお姉ちゃんが来た広い場所の真ん中に、大きい岩が沢山あったよね。その辺りをうろついていた人がいたの」
「あ、ありがとうございます!」
思わず頭を深々と下げるアリス。邪気がないとはいえ、魔物にお礼を言ったのは短い人生の中でも初めてである。それでも、アリスはその行為を可笑しいとは思わなかった。
「あ。でも、その近くには――」
先を急がなければならなかったアリスは、スライムが続けて何を言おうとしていたのかを聞き取る事が出来なかった。
「うわあっ!」
広い空洞の中に、少年の悲鳴が響いた。背中を強打して、肺から空気が抜ける。
ぜいぜいと肩で息をしつつ、酸素を取り込もうとした。しかし、少年――リュカはそれも満足にできないうちに地面を蹴る。
横飛びの格好になった直後、さっきまでうずくまっていた場所が破裂した。重い木槌が釘を打つ勢いで振り下ろされたのだ。
体勢を整え、睨みあう形になるリュカは、眼前の敵を油断無く見据える。いつもは誰もが心を和ませる優しい瞳も、今は厳しい形になっていた。
その視線を受け止めているのは、毛皮のような体毛を頭から生やしている魔物である。重そうな木槌を短い手で構えていた。そして、それが2匹。
リュカも、名前くらいは知っている。大木槌と呼ばれている、木槌を武器に戦う魔物だ。動きこそ鈍いが、腕力は強いので油断のできない相手だ。リュカは、その事実を先ほどから実体験で思い知っている有様である。
右から来た。寡黙な魔物は、豪快に木槌を振りかざす。来ると悟ったリュカは、攻撃の直線状から離れた。上から振り下ろす単純な攻撃は、モーションが分かりやすい。横に避ければ、当たる事は無いと学習していた。
しかし、さっきはそれで油断をしたために懐に飛び込もうとして、あえなく木槌の柄を利用して突き飛ばされたばかり。接近戦への対処くらい、この魔物も理解している。
だから、今度は確実にかわした後で、横から攻撃する。大丈夫。力はあちらが上だが、速さはこっちの方が有利なのだから。
そして、今度は左の大木槌が武器を振り回すように攻撃を仕掛ける。大振りな攻撃だが、当たれば怖い。踏み込んだ足を一旦止め、攻撃の射程距離に足を踏み入れることを拒んだ。
その大木槌は小回りの利かない攻撃に足をふらつかせ、そのまま尻餅をついてしまう。こいつは後回しだ、と妙に冷静な頭でリュカは思った。
地面を叩く音が聞こえたと同時に、リュカは思い切って飛び掛った。右手の檜の棒がリュカの握力に音を立てる。
気合をもって、護身用の武器がもう片方の大木槌の頭に叩きつけられる。ぐらりとフラつく魔物に、リュカは確かな手ごたえを感じた。よし、確実にダメージを与えた!
殴られた大木槌は目を回し、背中からひっくり返ってしまう。完全に失神したのか、起き上がろうとする気配はなかった。
しかし、ここで思わぬ事が起きた。先ほどまで足元をおぼつかない様子を見せていた方の大木槌は、目の前の獲物に対する敵意までは失っていなかったのだ。果物の皮を踏んでしまったかのように足のバランスを崩した大木槌は、地面から一瞬だけ足が離れた体勢のまま両腕を振り下ろす。
目の前の獲物を叩きぬく。その本能のまま大木槌がリュカの背に直撃した。悲鳴も上げられないまま、6歳の少年はぬかるんだ地面に身を落とす事となったのだ。
声が出ない。呼吸も止まった。視界が黒い幕のようなものに遮られていく。それでも、どうにか頭を押さえている大木槌の姿だけは何とか理解できた。
力が入らない自分とは違って、大木槌はまだ余力があるらしい。目元を赤く腫れさせながらも、リュカを殺意に満ちた目のままで木槌を振りかぶった。
もう、ダメかもしれない。薬師のおじさんが心配で、様子を見に来たのに。
ゴメンね、お父さん。心配をかけちゃって。
頭に浮かんだのは、自分の命の事ではない。この場にいない父への謝罪であった。
意識が消える。リュカの、生まれて初めての冒険は失敗したのだ。
だからこそ、この少年はその後の事を知らない。
リュカの命を奪うために振り下ろされた木槌が、その目的を果たす事はなかった事実を。
「やああっ!」
渾身の力で飛び込んだ少女の身体は、倒れ付している少年の身体を抱きとめる事ができた。両腕の中で力の無いリュカと共に、勢いのままゴロゴロと転がる。
木槌の攻撃はアリスの足を僅かに掠めたが、そんなものは些細なこと。彼女が真っ先に心配したのは、意識を失っているリュカの安否だった。
意識は――ない。だが、僅かに呻くような声を出している。
自発的に声を出しているという事は、呼吸ができているという事。それだけでも、最悪の事態は避けられたということだ。
もちろん――今の状況では安心などできないが。
背後で相棒が失神しているにもかかわらず、大木槌は変わらずこちらへにじり寄ってくる。自慢の木槌を構えたままで。当然だが、今度は立ち上がったアリスに狙いを定めているようだ。
彼女は男女差ということもあり、リュカよりも力は低い。素早さも然りだ。まして、今は意識の無いリュカを背中に庇っている。
危機的状況には変わりなし。第三者がいれば、そう評する状況だ。
――だが、それはアリスが単なる無力な村娘ならば、と言う話だが。
アリスの右手に、淡い魔力が集まり始めている。唇は僅かに呟く程度の動きを。
呪文の詠唱。そのことに、魔法の知識を持たない大木槌は気づけたのかどうか。
そして、ようやくソレが目に見えてカタチとなった時、この魔物の命運は決まった。
掌は、討つべき魔物に向けられ。瞳は、静かに討つべき魔へ。力のカタチは放たれる。
――ヒャド。
魔力で構成された、氷の刃。その美しい切っ先は、存分違わず大木槌へ向かっていった。
美しいシャンデリア。上質な石の壁。
見たことのない、豪華な部屋。ここは、一体どこなのだろうか。
視点が、見たい方向へ向いてくれない。分かるのは、ここがどこかの城の中という事だけ。
その王様が座るべき大きな椅子には、誰もいない。王様はさっきから、兵士の前だというのに部屋の中をウロウロしている。
顔は、見えない。どうもボヤけて、ハッキリとした人相が分からないのだ。
と、そこで誰かが慌しく姿を見せた。お生まれになりました、と大声で告げる。
それを待ち焦がれていたように、王様は姿を見せた誰かと入れ違いになるように、階段の奥へと姿を消していく。
瞬きのように視点が切り替わる。今度は大きなベッド。若い女性が、横になっている。
傍には、小さい何かが寄り添うようにしていた。一瞬遅れて、リュカはそれが生まれたばかりの赤ん坊だと気づく。顔を見てみたいのだが、やはりどういうわけかボヤけたままで。
本当に嬉しそうだ。王様も、女性も。きっと、この王様の奥さんなのだろう。そして、たった今赤ちゃんが生まれたのだ。
少しだけ、そんな光景を羨ましく思う。何しろ、リュカは生まれた時から母親がいないのだから。
名前をつけよう。王様がそう言うと、女性は前から考えていた名前があると前置きし、その名を告げた。
王様は喜んだ。そして、誇らしげに赤ん坊を抱く。
「今日から、お前の名は――」
――――
――
意識が覚醒した事を自覚した時、目の前には暗い土でできた天井だった。
あれ。さっきまで王様の部屋にいたはずなのに。リュカは思わず、周囲を見回した。
「気が付きました?」
「うわっ!」
仰天し、思わず飛び上がってしまった。器用にも空中で体勢を整え、両の足で着地する。
「きゃっ!」
声をかけた相手もその反応に驚いたらしい。驚きの声をあげて、肩をピョンと動かしてしまう。
「あ、あれ……君って、たしか・・・・・・アリス、だよね?」
「は、はい。私です」
よく見れば、自分の顔を覗き込んでいるのは知り合いになったばかりのアリス。確か、シスターの仕事をしている女の子だ。自分よりひとつ年上の。
それを認識すると、途端に思考がクリアになっていくのが分かる。さっきまで、自分は身体を仰向けにして地面に寝そべっていた。彼女は真上から自分を覗き込むように見下ろしていたはず。
リュカはようやく気づいた。これはつまり……さっきまで、自分はアリスに膝枕をされていた?
「もう大丈夫です。でも、無茶はしないでくださいね」
「え、あ、うん」
正座をするように地面に腰を下ろしていたアリスは、そっと立ち上がる。彼女の方が年上なので、男女の差こそあれ背丈は同じらしい。
そこで、ふと気づく。今、自分は勢いよく起き上がったはずだ。だというのに、身体はどこも痛くはない。
その疑問を察したアリスが、落ち着いてくださいと諭す。
「ホイミをかけておいたんです。身体の方は大丈夫ですか?」
「あ、知ってる。それ、お父さんがよくやってくれる魔法だよ」
「そうなんですか。パパスさんって優しいのですね」
「うん。強くて格好いいお父さんなんだよ」
リュカはまるで自分の事のように自慢した。正直、そうやって自慢ができる姿は、アリスには素直に眩しく思ってしまう。
「アリスのお父さんも、きっと格好いい人なのかな」
「え?」
そこで、自分に話が振られる。アリスは思わず、口を半開きにしてしまった。
「?」
曇りのない、素直な目で首をかしげるリュカ。それに対してどうしようかと思い、動けなくなっていると――――
・・・・・・・・・・・・おぉーぃ。
と、洞窟の奥から、くぐもったような声が聞こえてくる。思わず背筋が伸びてしまう2人。
そして、少しの間をおいて再び。今度は先ほどよりも若干弱々しい声だ。
リュカは首をせわしなく動かし、声の正体を探す。一方で、アリスは目の前の少年よりは若干ではあるが冷静に耳をすませる。
「リュカさん。あっちです」
「あわわっ」
洞窟の闇の奥を指さし、少年の手を引く。突然手を捕まれたリュカは、驚きながらもされるがままに一つ年上の少女に引っ張られていった。
「いやあ、助かった。ありがとうな、お二人とも」
上機嫌に笑うのは、中年の男性。人なつっこい笑いをしながらも、付いてきているリュカとアリスを先導するように歩いていた。
彼の名は、グータフ。ずっと行方不明になっていた、サンタローズの薬師である。リュカはもともと、彼を探す目的でこの洞窟に入っていたのだ。
「それにしても、驚いちゃった。おっきな岩の下に倒れていたなんて」
アリスはリュカと顔を見合わせ、クスクスと笑う。大岩の下敷きになっていたときは二人共慌てたものだが、当の本人は痛みなど感じさせていない様子だったのだ。
それどころか、もう少しで岩を押し返せそうなほどの元気を残していた。リュカとアリスが力を合わせて岩を転がし、今に至るという訳なのである。
「本当にありがとうよ、おまえさん方。聞けば、君はパパスの息子のリュカ君じゃないか。昨日は遠目だったからよくわからなかったけれど、なかなかに未来が楽しみにな男の子だな」
続いて、グータフはチラリとアリスを見る。
「アリスちゃんも、すまなかったね。こんな小さな娘に心配をかけられては、大人の面目が立たんわい。今度、神父を通して何かお小遣いでもあげようか」
「い、いいえ。私が勝手に来ただけなんです。お礼など、とんでもありません」
神父やミランには黙って、こんな危険な洞窟に入ってしまったのだ。この事が伝われば、きっと大目玉には違いない。
そう言うと、今度はリュカがあっと大声を上げる。
「そうだった・・・・・・僕も、お父さんやサンチョにも何も言ってなかったよ」
「私も・・・・・・です」
オロオロする少年少女。今になって、やっと事の重さを理解したらしい。怒った大人は、本当に怖いのだ。
グータフは目を瞬かせた後、彫りの深い顔をにっこりと笑みに変えていく。
「分かっているよ、2人とも。パパスさんや神父には、私からも一緒に謝るつもりだから」
「一緒に、ですか?」
「ああ。ワシのような大人が、子供達に心配をかけさせてしまったんだ。一緒に怒られるのは、当たり前のことじゃないか」
「でも、グータフさんは何も悪くないのに」
アリスが不安そうに言うが、薬師の老人はかぶりを振る。
「言っただろう。ワシが心配をかけさせてしまったせいで、君たちがこんな危ないところに来なければならなくなった。一番怒られなければならないのはワシなんだよ」
「・・・・・・」
「悪いことをしたなら、誰であろうと真摯に謝る。大人は、それを子供に教えなければならないんだから」
グータフはそう言うと、ゆったりと歩きなれた洞窟の中を出口に向かって歩いて行く。
2人が楽に追いつけるような足取りを、リュカとアリスは慌ててついていった。
やがて、暗闇に慣れていた目に太陽の光が降り注ぐ。
春の終わりが近づいているというのに、未だ冷える冬のような風が3人を迎え入れた。
3人は洞窟から姿を見せると、そこの見張りのために立っていた青年が仰天する。洞窟を入った時点で姿が見えなかったが、どうやらちょうど食事に出ている時間帯だったらしい。
慌てている彼から話を聞くと、すでに2人の行動はパパスと神父を始めとした村人に認知されているらしい。小さい村なので、噂が広まるのは早いのだ。
聞くまでもなく、2人の保護者はかなり怒っているという。思わず、リュカとアリスはお互いの顔を見合わせてしまった。
「ど・・・・・・」
「どうしよう・・・・・・」
2人の視線にあるのは、不安。そして、これから自分達の身に降りかかる恐怖。
それでも、そんな少年少女を見守っている薬師だけは、穏やかな目で理解していた。この勇気ある子供達の心には、後悔という言葉だけはないのだろうと。
そして、その日の夜。
「アリスぅ・・・・・・お腹すいた・・・・・・」
「私もだから、我慢してくださいリュカさん・・・・・・」
真夜中、教会の物置で身を寄せ合って震えている2人の少年少女。屋内からの明かりと、そこから漏れている夕餉の香りが、やたらと恋しくて仕方がない。
子供2人で危険なことをして、危ない目に遭ったバツとして一晩外にたたき出されることになったリュカとアリス。まあ、大人を心配させたのだから当然と言えば当然である。
まして、パパスもグレン神父も子供の教育は厳しい方だ。これも、愛するこの将来を思えばこそなのだから。その教育方針のせいで、グータフの弁護などあってないようなものであった。
かといって、それを子供に理解しろと言っても難しいのだろう。2人の頭にあるのは、朝まで自分達が空腹と寒さに耐えられるのかという不安。
くしゅん。どちらかがくしゃみをした。そして、もう1人もつられてくしゃみ。
夜明けまではまだ遠い。掃除用具が詰められている中に、今は自分達2人まで収まっている。狭くて仕方がない。せめて、ひとりぼっちでないことだけが唯一の慰め。
とはいえ、肌寒さとひもじさはどうにもならない。美しい満天の星空が瞬く下で。
「あーあ・・・・・・」
と、2人の子供は憂鬱そうに呟いた。
つづく