DRAGON QUEST Ⅴ ――聖女の足跡――   作:玖堂

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迷路の町で

 

 

 

 

 賑やかな港町を背に歩き続ければ、辺りは見渡す限りの穏やかな丘。山脈を横切り、深い森を避けながら歩き続ける。

 

 だが、これまで横目で確認した何よりもうっそうとした森が目の前に立ちはだかったときは、流石に入ることを躊躇した。別段、暗い森が怖いというわけではない。ただ単に、今が夜だったために入ることを警戒しただけだ。わざわざ道に迷う趣味はないのだから。

 

 アリス達は3人全てが同意の下、その深い森の前で野宿をすることにした。必要な薪や枝は、遠慮なく手前の森のものを拝借させてもらう。周囲の警戒を心がけつつも、3人は焚き火を囲うようにその場に腰を下ろした。

 

 野宿も久しぶりですねと、アリスは思う。この大陸に着てからはポートセルミの柔らかいベッドを使っていたため、何だか懐かしい気分だった。

 

 へリンスとマリアは、言うまでもない。長い奴隷生活を経験しているためか、むしろ居心地が良さそうな顔で炎の熱を受け止めている。

 

「しかし、朝のあれは参ったよな」

 

 へリンスが話題を降る。こういう時、話を切り出すのはいつも彼の役目だ。

 

「まさか、あんなに話が通じなかったなんて。田舎っていうのは聞いていたけど、あれはないぜ」

 

「まあ、同意ですが」

 

 アリスは控えめに頷きながらも、ポートセルミを出た後の出来事を思い出していた。

 

 一行が初めに向かった場所は、南に位置するカボチ村である。基本的に農業が収入源で、都会からはかなり離れた集落だ。こう言ってはなんだが、かなり文明が遅れている場所であり、家屋の構築方法も一昔前のものだった。同じ田舎でも、サンタローズとはかなりの差がある。

 

 別に、その事はいいのだ。それがこの村の在り方ならば、アリスはどうこう言うつもりはない。彼女らの眉を顰めたのは、むしろ村人の方だ。

 

 村を訪れて、早々に3人は余所者が来たなどと騒ぎ立てられた。自分達のテリトリーを汚す存在であるかのように、遠巻きに眺める者。近寄るなと睨み付ける者。

 

 そんな空気に3人は早々に嫌気が差し、彼女達はカボチ村を去ることになった。どのみち、こんな場所にリュカがいるとは到底思えなかった。

 

 気を取り直して、アリスは本命であるルラフェンの町に向かうことにする。魔法の研究者がいるはずなので話を聞いてみたいと言うと、2人は当然のように同意してくれた。

 

「私も世間的には集落と呼ばれるような村で過ごした経験はありますが、誰もが心優しい方ばかりでした。土地によっては、違うのですね」

 

「縄張り意識というのでしょうか。私には理解できません」

 

 アリスとマリアも、それぞれの感想を口にする。

 

 それ以降はカボチ村の話をすることはなくなり、話題はポートセルミの仕事の話や、滞在中に掴んだ情報などの話に移った。時に笑い、時には恥ずかしそうに。

 

 やっぱり、旅は誰かと一緒の方が良い。アリスは改めて、そう思うようになった。あの時の出会いがなければ、きっと自分は今でもリュカを求め、1人で世界を歩き続けていたのだろう。それはもしかしたら、本当に寂しいことなのかも知れない。

 

「ところでさ、アリス」

 

「はい」

 

「どうして、魔道の勉強をそこまでするんだ?」

 

 興味本位にへリンスが尋ねてくる。アリスは、それは――――と話しかけたところで、止まる。

 

 そういえばと、ふと思う。アリスはこれまで、自分の目的や正体を殆ど話していないことに気がついた。

 

 考えてみれば、これは失礼なことだった。2人は自分を信頼して、内情を全て話してくれたというのに。流石に旅の目的である自分の恋人を探していることは伝えているが、それ以外の過去の事は伝えそびれていたのだ。

 

 ポートセルミの時間が、あまりにも目まぐるしかったからという理由はあった。だが、それはただの言い訳である。自分が話さなかったことは事実なのだから。

 

 話そう。もう、ジゼルの時のように、伝えることを躊躇ってはいけない。アリスは、それをリディアから教わっているのだから。

 

「・・・・・・その事なのですが」

 

「はい?」

 

「?」

 

 不思議そうにする2人に、アリスは話し始める。

 

「その事を話すには、まず私のことを話さなくてはなりません。どうか、信じてくださると約束してくれないでしょうか?」

 

「あ、はい」

 

 自然と、背筋を伸ばすへリンスとマリア。真剣な声になるアリスに、緊張感を覚えたのだ。

 

 そして、アリスは話した。これまでの自分の経験を。

 

 夜が更けるまで、ずっと話し続けた。

 

 

 

 

 やがて疲れを感じたアリスが、頃合いを見て寝静まった。それを見計らい、へリンスとマリアは揃って顔を近づけた。

 

 それは、男女特有の甘い雰囲気ではない。どちらも言葉を挟むことができなかったほど、アリスの話は凄まじいものだったからだ。

 

 アリスが自分と世界を引き裂いた呪文を知る事。それが魔法を研究する理由。そして、世界から彼女の全てがこの世から失われてしまったという事実。

 

 何より・・・・・・彼女の口から聞かされた、リュカの名前。

 

 信じられない話だった。マリアは、未だに動揺が隠せないように眠り続けているアリスの横顔を見ている。対して、へリンスはずっと俯いたまま。

 

 彼の腕は、握りしめた拳ごと震えていた。いや、全身もそうなのかも知れない。受け入れがたい話に、マリアはかける言葉が見つからなかった。

 

「信じられない・・・・・・そんな話、俺には」

 

「へリ・・・・・・ヘンリーさん。どうか落ち着いて」

 

「落ち着けるわけない。でも、アリスさんが嘘を言っているとも、俺は信じたくない」

 

 無理もない、と思うマリア。なぜなら彼――――ヘンリー王子の心は、あの時のことが未だに悪夢として蝕まれているからだった。

 

 そう。へリンスこそが、他ならぬラインハットの第一王子、ヘンリー王子なのだから。リュカのことはよく知っている。

 

 あの悪夢の8年前。幼かった頃のリュカと、初めて会ったあの日。当時の彼は本当に城の誰もが手に負えないほどのわんぱく王子で、誰もが手を焼いていたものだ。

 

 そんな彼の将来を憂いて、当時の王であるベルギスが教育係としてサンタローズにすむパパスという男を宛がったのだ。その時に共に来ていたリュカと、ペットのプックルも共に。

 

 ベルギスとパパスがどういう関係なのかは、今となっては分からない。だが、ヘンリーはいつものように彼ら親子を困らせ、悪戯を始めたのだ。

 

 そして、いつしかヘンリーは彼らの前から隠れた。必死に探す親子を遠目で見ながらほくそ笑む。あとは、適当なところで姿を見せてやろうと思ったのだ。

 

 だが、それは自分の首を絞める結果となる。なんと、光の教団の一味が城へ侵入し、ヘンリー王子は誘拐されてしまったのだ。

 

 自らが身を隠していたためにパパス達はその事実に気づくのが遅れ、完全に対処は後手に回る結果になる。あえなくヘンリー王子は極東の位置に存在する古代の遺跡の牢に監禁され、そのまま時間だけが過ぎていった。

 

 ヘンリーは冷たい空間の中、自分の心もまた覚めていくのを感じる。彼は当時子供ではあったが、頭の回転は速かった。城の親子関係を考えれば、間違いなく当時の王妃が仕組んだことだろうと容易に推測できる。

 

 自分には、帰る場所なんかない。今城に戻ったところで、王妃がやったという証拠は出てこないはずだ。また次の手を打たれる前に、いっそ本当にこのまま知らない国へ運ばれた方が良いのかも知れない。

 

 そんな自棄になった心を叱りつけたのは、駆けつけたパパス達親子であった。彼らは危険を顧みずに、こんな所まで助けに来てくれたのだ。

 

 それでも、それでロザミア王妃が改心するわけではない。帰る気は無いと突っぱねるヘンリーに、パパスは激情に駆られた平手打ちを叩きつけたのだ。

 

 これまで、誰にも殴られたことはなかった王子。それに怒りがこみ上げるが、パパスの目はどこまでも悲しそうだった。まるで、彼こそが大切な人に殴られたかのように。

 

 ――――王子は、父上の気持ちを考えたことがあるのか?

 

 ハッとする。そうだ。ロザミアは自分を息子とは思ってはいなかったが、ベルギスは紛れもなく自分の父親だ。

 

 何故、忘れていたのだろう。実の母がこの世を去ってから、王としての実務を全て負担しなければならなかった父親のことを。本当なら、自分こそが労ってあげなければいけないときに、いつも求めてばかりで何もしなかった。

 

 ヘンリーの身体に、力が戻る。必ず帰る決意を胸に、彼はリュカやプックルと共に脱出を始める。追っ手はパパスが殿を務めたため、後は出入り口を抜けるだけだった。

 

 だが、あの男。血のようなローブを身に纏った、あの光の教団の男が全ての希望を踏みにじったのだ。

 

 自分とリュカ、プックルは為す術もなく倒された。命を奪わなかったのは、これから奴隷として使い潰すつもりだったからなのだろう。

 

 薄れていく意思を懸命につなぎ止めながら、ヘンリーはその後の光景を忘れまいと、心に誓い続けた。

 

 その後のことは、心を開いたマリアだけが知っている。そんな彼女は僅かに逡巡し、アリスを信じることを決める。

 

「それでも、私はアリスさんが嘘を言っているとはどうしても思えません」

 

「ああ、そうだよ。だから、受け入れられないんだ」

 

 自分の見た光景。アリスが言っていた話。その食い違いが、ヘンリーの心を惑わせる。マリアはヘンリーから反感を覚えられることを覚悟で、あえて厳しい目を向けた

 

「ヘンリーさん。ハッキリと言わせていただきます。貴方は、アリスさんのことを疑っていますね?」

 

「いいや、信じている。信じると・・・・・・思いたい」

 

「それが疑っているんです。信じる人は、そんな顔はしません」

 

 マリアとて、一時期は真面目に宗教活動に勤しんでいたものだ。相手が自分を信じるか疑うかの区別など、一目で分かる。

 

 ヘンリーは取り繕っているつもりで表情を硬くしているが、そんなものは疑っている事を漏らすまいと必死になっているだけだ。マリアでなくとも分かるだろう。

 

「少なくとも、アリスさんは私たちのことを信じているからこそ、今の話をしてくれたのですよ」

 

 マリアの叱責に、ヘンリーの目に光が戻っていく。

 

 そうだ。アリスはへリンスの正体を知らなかったとはいえ、彼女の口からリュカの名前が出てきた。彼女の目的は、この世界に迷い込んだ彼を探すこと。リュカが本当にこの世を去っているのなら、アリスがわざわざ世界を回る覚悟をしてまで探すはずがない。

 

 きっと、何かがあったのだ。あの時、あのくらい遺跡の中で。自分の知らない何かが。それはきっと、リュカの命にも関わる何か。

 

 その何かが何なのかは、今となっては分からない。だが、それはきっとバシルーラという呪文にも何か関係があるのではないか。

 

 アリスは、そのために魔道の勉強を続けている。リュカの行方を捜しつつ、彼の身に何が起きたのかを知るために。

 

 ああ、なんだ。そういう事だったのか。

 

 ヘンリーの心が、次第に落ち着いていくのが分かる。先程までの疑念が納得に変わり、それが暖かな希望になっていくのが実感できた。

 

 アリスの考えと目的に納得し、何より――――リュカが生きているかもしれない可能性による希望。

 

 一通り心の整理が付いた頃には、もういつものヘンリーに戻っていた。それを見て、良かったと心から安堵するマリア。

 

 だが、ふと彼女の顔が曇る。この際なのだからと尋ねることにした。これまで、何度も話していたことを。

 

「あの、ヘンリーさん。本当に、後悔していないのですか?」

 

「いや、全く」

 

 その言葉は本心からである。言葉の足りない質問にも、ヘンリーは誤解なく解釈できた。

 

「ですが、ヘンリーさんが帰る場所は、ラインハットにあるはずです。今はもう、待っている人のためにも名乗り出るべきではないのですか?」

 

「何度も言っただろう。マリアさんの気持ちも分かるけれど、俺は城に帰る気は無いよ。そうしたって、俺にはもう出来る事なんか無い」

 

「出来る事ではなく、ヘンリーさんが生きているという事実を知ってもらうことに意味があるのではないかと」

 

「いいんだ。そりゃあ名乗り出れば驚かれるかもしれない。だけど、考えてみてくれよ。アリスさんの話や酒場の奴らの噂を聞く限り、ずっとラインハットが魔物に操られていたことは確かだ。だけど、それは全部アリスさんや国のみんなが力を合わせて、全部解決しているじゃあないか」

 

「・・・・・・」

 

「弟のデールは今、王様として立派にやれている。あの太后になったロザミアのお袋だって、今は罪を償いながら国を支えている。今更、俺の出る幕なんかない」

 

 それと、家族に会いに行くことは別の問題ではないかと、マリアは言いたかった。だが、それを口にするのは止めておく。これは、彼の心の問題なのだから。

 

「そりゃあ、親父が■んでいるってのはショックだったし、気にならないわけじゃあないけどさ・・・・・・」

 

 今、マリアの目の前にいる男は、王子でも何でもない。ただの自信を失った1人の青年だ。

 

 アリスが関わったことがきっかけでラインハットが救われ、成長した。皮肉にも、その事実が今のヘンリーを打ちのめしているのだろう。

 

 もし、ヘンリー達が脱出後にラインハット領へ流れ着いていて、なおかつ魔物の陰謀を自分の手で解決できていたとしよう。それならば、その自負と共に再び王の傍に堂々と立ち、国を支えようという自信にも繋がったはずだ。

 

 だが、今はヘンリーが全く関与していないところで事態は動き、そして解決に向かってしまった。

 

 今や失われたヘンリー王子など不要だと、そうラインハットそのものから突きつけられている気がしているのだ。

 

「だからさ、俺・・・・・・今の自分が何をするべきなのかを探したいんだ。助けてくれたアリスさんや、マリアさんと一緒に」

 

「そう、ですよね。私たちは、似たもの同士ですから」

 

 マリアも、そんな今のヘンリーの在り方を支えようと決めていた。失った自信を取り戻すために。ただ生きるためではなく、そのための目標をもう一度探すために。王子ではなく、ただのヘンリーとして。

 

 今の彼は確かに、立ち上がろうとしている。それだけでも、大きな変化のはずだ。

 

 それでも、と思う。家族が生きているのなら、いつかはちゃんと会うべきだ。彼だって、心から家族を拒絶したいわけではないのだから。

 

「ありがとう、マリアさん。俺、危うく恩人に対して酷い言いがかりをかけてしまったかもしれない」

 

「そうならずに、何よりです。ヘンリーさん」

 

「今はへリンス、だろ」

 

「あら、そうでしたね」

 

 クスクスと、どちらからともなく忍び笑いをする。やがて、早く寝ようかということになった。

 

 マリアが目を閉じ、眠りの気配がやってくる刹那――――

 

 頬に柔らかな感触を覚えたのは、きっと気のせいなのだろう。

 

 

 

 

「へリンスさん、そちらに行きました!」

 

「ああ! アリスさんは左を!!」

 

「了解!」

 

 ルラフェンへ向かう森の中。

 

 初めはアリスの存在によって警戒していた魔物達も、次第にこちらを見境なく襲うようになってきた。この近辺の魔物達はラインハット領でも目にしている種族が多いが、流石に魔物達とていつまでも大人しくしているほど甘くはないらしい。

 

 戦闘が始まる際は、当然ながらへリンスも積極的に参加をする。元々彼には腕に覚えがあり、ポートセルミで購入した鋼の剣を手に大立ち回りをしていた。

 

 彷徨う鎧を切り裂き、時にマリアが狙われそうになれば率先して壁になる。この分なら、別にアリスがいなくとも2人で問題なく旅を続けられるレベルなのだろう。

 

 マリアは戦闘能力こそないものの、回復呪文には心得があった。ホイミからベホイミまで習得しているのは、きっと教団にいた頃に魔法を身につけていたからなのだろう。

 

「ガアアッ!」

 

 ドラゴンキッズに、マリアが襲われそうになる。そこにへリンスが剣で魔物の牙を受け止め、動きを硬直させた。

 

 そして、その隙をアリスが逃すはずがない。

 

 手に持つ雷神の切っ先は、正確にドラゴンキッズの身体を貫いた。だが、それは致命傷を全て避けた一撃。

 

 アリスはドラゴンキッズを放り投げ、真っ向から正対する。実力の差を身に染み入った魔物は、怯える瞳で彼女を見上げてくる。そんな魔物に向かって、静かに一言。

 

「お行きなさい」

 

 ピャッ、と短く悲鳴を上げる。ドラゴンキッズは慌てて翼を動かし、一目散にその場を離れていった。

 

「ひゅう。さすがはアリスさんだぜ。余裕で追い払っちまうなんて」

 

「へリンスさんこそ、見事なフォローでした」

 

 お互いに心からの賞賛。そして、彼はマリアに駆け寄る。

 

「大丈夫か、マリアさん」

 

「はい。へリンスさんが守ってくれましたので。あ、もちろんアリスさんも」

 

 アリスのことは、ついでのように言うマリア。元修道女は空気を読んで微笑んでいる。

 

 とはいえ、とマリアは自分の手元を見つめた。自分の手には、大きな針が握られている。

 

「アリスさんが持たせてくれたコレ・・・・・・出番がありませんね」

 

 マリアの武器。それは、ラインハットでアリスが気まぐれに購入していた毒針である。急所を上手く突けば、相手を一撃■させられるという、場合によっては凶悪にもなり得る武器だ。

 

 彼女は武器の心得が全くないらしい。そこで、せめてもの護身用として持たせていたのである。

 

「使わないなら、それに越したことはありません。もし私かへリンスさんが怪我をした場合、マリアさんの魔法に頼らせていただきます。私も戦闘に集中できますので」

 

「はい」

 

「おっと、2人とも。やっと町が見えたぜ」

 

 へリンスが、木々の奥を指さす。確かに、人工的な建物が見えてきた。

 

 ここが、ルラフェンの町で間違いない。だが、町に近寄った途端に彼女達は足を止めてしまった。

 

「な、なんだ。ここ・・・・・・?」

 

 へリンスが間の抜けた声を出すのも、無理はない。なんと、この町は至る所が階段や分かれ道やらで、複雑怪奇としか言いようのないほどに構築されていたのである。

 

 パッと見ただけでは、奥の建物に入るために何処をどう回ればいいのかが分からない。どう見ても、ダンジョンにしか思えなかった。いや、ダンジョンそのもの。

 

 疑問を解消したくて、一行は近くを歩いている中年の女性に声をかけてみることにした。その女性は自分達を旅人と看破しつつも、当然のように答えてくれた。

 

「まあ、あんたらみたいに遠くから来た人は、みんなそう言うんだよ。だけどね、こういう造りにしているのも、ちゃんと意味があるのさ」

 

「意味?」

 

「ああ。あんたら、ここに来るまでに深い森の中を通ってきただろう。昔はよくそこから町中に魔物が入り込んできて、沢山の被害が出たもんさ。確か2代くらい前の町長の案だったんだと思うけど、魔物を迷わせるように改造してしまえばいいんじゃあないかって」

 

「魔物達を迷わせるため・・・・・・ですか」

 

 それは、かなり突飛な発想だとアリス達は思う。だが、目の前の女性は真剣に話していた。

 

「まあ、魔物達が律儀に道路を素直に通るとは思えなかったんだけどね。当時の町の人達も必死だったんだろうよ」

 

「でも、今は魔物の気配など無さそうですが?」

 

 そう。アリスの感覚からしても、この町には魔物の気配など感じない。ただ、妙に複雑な魔力だけは先程から強く感じている。これはかつてポートセルミの灯台から見えた煙が影響しているのだろう。

 

「そうなのよ。町の改造が終わってから、魔物が襲ってくることは減っていったの。今は、ご覧の通りさ」

 

「まあ。それでは、大成功だったのですね?」

 

 マリアが感心したように言う。女性は、我が事のように胸を張った。

 

「まあね。実際、魔物達の考えなんて分からないけれど、昔の人の考えは大したもんだよ」

 

 そんな様子を見ながら、アリスは思う。きっと当時の町人は、魔物達に対して地の利はこちらにあるぞと教えたかったのかもしれない。たとえ襲われたとしても、この複雑な造りならば、逃げたり隠れる場所などいくらでもある。

 

 むしろ、逆に町人で力を合わせて魔物達を追い込むことだって不可能ではない。そうして返り討ちに遭っていくうちに、いつしか魔物達もこの町の人間を襲う事を諦めてしまったのだ。

 

 アリスは、もう一つ知りたいことを訪ねる。

 

「あの、すみません。先程から、町の真ん中からおかしな煙が出ているようなのですが、あれはいったい?」

 

「ああ、あれね」

 

 途端、女性は嫌そうに顔をしかめる。

 

「あれはね、ベネット爺さんの家から出ているのよ」

 

「ベネット?」

 

「そうなのよ。なんでも、この町を改造していた頃からずっとあの家で生活しているらしいんだけど、こっちはたまったモンじゃないの」

 

「はあ」

 

 途端、女性はベネットという老人の愚痴を延々と聞くことになった。やれ変な煙のせいで洗濯物に変な色がうつるだの、ずっと引き籠もっているせいで近所付き合いを全くしないだの。

 

 へリンスとマリアは長々と続くおばさんの話にうんざりしてしまっているし、アリスは辛抱強く聞いていたものの、やはりどこか疲れのようなものが顔に出はじめている。

 

 それだけ鬱憤が溜まっているせいもあるのだろうが、それを旅の人間にするのは止めて欲しい。結局、3人が解放されたのは既に時刻が正午を過ぎかける頃であった。

 

 ストレスが発散されたせいか、ご機嫌な顔で去っていく女性の背中を見送りつつ、アリス達はどっと疲れを感じる。

 

 要するに、あの魔力の煙を出し続けているベネットは、相当町の人から迷惑がられている、と言うことだ。それを聞くためだけの対価としては、少々大きすぎたような気がする。

 

「なあ、2人とも・・・・・・まずは、宿を確保しておかないか?」

 

 へリンスの提案に、2人は迷い無く頷いた。流石に、少し休みたい。

 

 幸い、宿は町の出入り口のすぐ近くにあった。この町で旅人が宿にたどり着けないような事態になることは、誰のためにもならない。

 

 従来の宿よりもやや大きめな印象を受ける建物の中には、先客である男女が受付を済ませている。どうやら彼らは旅行者らしく、仲睦まじそうだった。

 

 邪魔にならないように、別で受付を担当している男を相手に手続きをする。その彼は対応しているへリンスに、そっと小声で言った。

 

「お客さん、両手に花かい。羨ましいね」

 

「いやいや、違いますって」

 

 手を振るへリンスだが、まんざらでもないのは明らかだ。フロントは笑いながら部屋の鍵を渡してくれる。

 

 不思議そうにしている女性陣を促し、一行は2階の部屋に案内された。荷物を下ろし、一息つく。

 

「アリスさん。これを」

 

 マリアが手にしたのは、客室にサービスで配布されているであろう、このルラフェンの地図。宿屋がある場所に、現在地と注意書きが施されている。

 

「へえ。サービスが良いな」

 

 心なしか感心したようにへリンスが言う。もしかしたら、このまま何の目印も分からずに、町を右往左往しなければならないのかと思っていたのだ。

 

「まあ、旅人の出入りが途絶えることは、町としても望むところではないのでしょう」

 

 この複雑な町に辟易した旅の人間が、悪い噂でも流してしまってはたまらない。最低限の道案内はむしろ当たり前と言えるだろう。

 

 早速、目を通す3人。道具屋や酒場などの入った大型の建物は、ここから目と鼻の先にあるようだ。そこはとりあえず安心する。

 

 だが、肝心の問題はベネットの自宅へ向かう道のりだ。先程の大型建物の周囲を大きく迂回し、いくつかの階段を降りるなどして、ようやくたどり着くらしい。場所そのものは煙が上がっているためにすぐ分かったが、かなりの道のりである。

 

「実は、その事なのですが・・・・・・アリスさん」

 

「何でしょうか」

 

 どこか言いにくそうなマリア。

 

「私たちは、少々町を見て回ってもよろしいでしょうか?」

 

「構いませんが・・・・・・何か気になることでも?」

 

 アリスの当然の疑問に、マリアだけではなくへリンスも複雑な顔をする。

 

「いや、アリスさんの目的も分かるんだけどさ。俺たちも、いつまでもアリスさんに助けてもらうわけにはいかないから。だから、こういう町へ自由な立場で来られるうちに、俺たちも色々なものを見てみたいんだよ」

 

「あ・・・・・・」

 

 そうだった。元々彼ら2人の旅の目的は、自分の生業を探すことだった筈。自分に付いてきてくれるのは、あくまでも2人が恩義を感じてくれているからなのだ。

 

 この町に来た目的は、あくまでも自分がベネットという人間に魔道の知識を身につけるため。それに、わざわざ2人を付き合わせるというのも、考えてみれば余計な手間をかけさせるだけなのかもしれない。

 

 無意識のうちに2人を自分の都合に付き合わせようと考えてしまったと、内心で反省する元修道女。ここは、むしろ1人で行くから2人はご自由にと言うべきだった。

 

 アリスは素直にそれを謝罪するものの、へリンスとアリスはむしろ手を振って慌てる。都合を優先しているのは、こちらの方ですからと。

 

 そして、その後は宿の食堂で食事を済ませる。ポートセルミほどではないものの、この宿もかなりメニューが豊富であった。

 

 へリンスはがっつりとした揚げ物料理を注文し、マリアはさっぱりとしたパスタ料理を選ぶ。アリスは若鶏の入った炊き込み料理といった具合であった。

 

 地元特有の調味料や味付けが加えられており、本当に美味しい。へリンスとマリアはひもじい思いをした経験が未だに尾を引いているのか、あっという間に平らげたほどである。

 

「・・・・・・」

 

「アリスさん、どうしたんだ?」

 

「あ、いえ。申し訳ありません。すぐに食べますので」

 

「?」

 

 反対に、アリスはどういうわけか食事の手があまり進んでいない。僅かばかり、ゆっくりと手を動かしていた。どことなく、疲れているようにも見える。

 

 そんなに、あのおばさんの長話に参ってしまったのだろうか。そんな不安を感じつつも、へリンスとマリアは黙ってアリスが食事を終わらせるのを待っていた。

 

 結局、普段よりも長く時間をかけて、どうにかアリスは完食した。スタッフがどこか食事に不備でもあっただろうかという顔が、何だか申し訳なく思う。

 

 食事を済ませて代金を払い、どうにか気力も戻る。朝の朝食までは宿に滞在できるので、昼間のうちにそれぞれの目的のために解散することにした。といっても、パーティーから離れるのはアリスだけだが。

 

 一度部屋へと戻り、アリスとマリアはそれぞれ私服へと着替える。その後で、へリンスもまた入れ違いに部屋に入り、同じように着替えを済ませて出てきた。

 

 マリアが白いワンピース。へリンスは上下が白い布の服に、革のベスト。アリスは水色のツーピースという格好であった。一見すると、少し裕福な家庭の町人といった印象を受ける。

 

「あの、本当に大丈夫ですか。アリスさん?」

 

「やっぱり、俺たちも一緒に行ったほうが良いんじゃないか?」

 

「はい。心配をおかけしてしまったようで、申し訳ありません。私とて、どうしても体調不良を覚えることはありますから」

 

 マリアとへリンスの心配に、笑って応える。自分のせいで、2人が生業を探すことを邪魔するわけにはいかないから。

 

「それでは、夜になったら宿へ戻ります。へリンスさんとマリアさんも、あまり遅くならないでください。食事はみんなで食べなければいけませんから」

 

「それはいいけど・・・・・・」

 

 まだ心配の色が消えない2人に後ろ髪を引かれつつも、アリスは町の中へ向かっていく。ベネットとやらの家はかなり遠いようだが、大丈夫なのだろうか。

 

 だが、今は追わない方が良さそうだ。今のアリスは、目的のために頑張らなければいけないのだから。少しくらいの無理で足を止めるようなことはしないだろう。

 

「ちょっと心配だけど・・・・・・俺たちも行こうか」

 

「はい・・・・・・」

 

 へリンスに促され、マリアもまた町へ足を運ぶことにした。せっかくアリスが気を使っているのだ。自分達もまた、これからのために動かなければ。

 

 

 

 

 このルラフェンの複雑な地形は、地元の人間にとっては慣れたものなのだろう。すれ違う者達は特に分かれ道などには注意を払うこともなく、真っ直ぐに前を見て歩いている。

 

 ただ、周囲を見回しながら歩いている者は、一目で旅の人間だと分かってしまう。当たり前だが、地図を持っていても方向感覚や目印の有無などの関係で迷う者はどうしても出てくるらしい。

 

 実際の所、それはアリスも同類である。どこに何があるのかはできる限り記憶していくつもりだが、やはり気を抜けば迷ってしまいそうになった。

 

 ラインハットやポートセルミと違い、この町には露店などを見かけない。カボチ村ほどではないにしても、やはり特徴的な町なだけあって、やや人の出入りは今ひとつらしい。

 

 それ以前に、森に囲まれているせいもあるのだろう。この辺りの魔物は、ほんの少し腕に覚えのある人間ならそれほど苦労せずに戦えるとはいえ、理由もなく魔物が住む森に進んで入る者はいないはずだ。

 

 おそらく、ベネットという人間はそれを踏まえた上でこの町に住み続けているのかもしれない。研究者や学者の類いは、自分達の作業を妨害されることを極端に嫌う性格が多いものだ。たとえ、近所の人間に迷惑がられようとも。

 

 アリスは、ベネットという人間の人格をある程度予測していた。これからその研究の知識を借りなければいけない立場なのだから、できるだけ交渉に役立ちそうな情報はまとめておくべきだろう。

 

「も、申し訳ありません。そこのご令嬢・・・・・・」

 

 考え事をしていると、不意に横から声をかけてくる男性がいた。周囲には女性がいないので、間違いなく自分に話しかけてきたのだろう。

 

「あの、私の事でしょうか?」

 

「はい・・・・・・」

 

 男性は、どこか憔悴したような顔で立っていた。格好が鎧姿であることから、旅の戦士だろうか。

 

「実は、道をお訊きしたいのですが。先程からずっと目的地にたどり着けないので、どうしたものかと迷っていたのです」

 

「そ、そうでしたか。ですが、私に分かる場所ならば良いのですが」

 

「・・・・・・もしや、貴女も旅の者でしたか?」

 

「はい。今日の朝、この町にたどり着いたばかりなのです」

 

 途端、戦士の若者の顔が落胆に変わる。アリスが私服姿だったせいもあって、地元の人間と勘違いしてしまったようだ。

 

「ああ、なんと・・・・・・昼間のうちに武器屋へたどり着かなければ、新品の剣が買えなくなってしまうというのに」

 

 戦士の独り言に、アリスは同情心が湧く。どうやら、相当困っているようだ。元修道女としての心構えを思い出す。

 

「あの、戦士様。武器屋の場所でしたら覚えています。良ければ、ご案内致しますが」

 

「む? いや、しかし貴女は失礼ながら、この町に来たばかりと仰っていたではありませんか」

 

「大丈夫です。地図の内容は記憶していますから」

 

「へ?」

 

 参りましょうかと、アリスは先に立って歩く。疲れているであろう戦士の歩きに合わせた足取りで。戦士は何か言いたそうだったものの、結局アリスの後を付いていくことに。

 

 来た道を引き返し、何度か人工的に作られたトンネルを潜りつつ、階段を上る。何軒かの民家の外で主婦が洗濯をしている姿を見る。それを横目で見ながらも、この辺りは住宅街なのですねと妙な感慨に耽った。

 

「あの。疑うわけではありませんが、本当にこのような場所に店があるのですか?」

 

 アリスは思う。おそらく彼は、この辺りを住宅街しかないと思って、立ち寄ってはいなかったのだろう。

 

「確かに、少々買い物関係の店とは離れているようですが・・・・・・もし違っていたとしたら、それはもう地図の方が間違っていたということになりますね」

 

「・・・・・・」

 

 そう言われてしまうと、地図を持っていない男としては返す言葉がない。どのみち、迷っていたのは事実なのだ。ここは、黙って彼女の案内に従うとしよう。

 

 数刻ほど歩き、アリスはこの突き当たりを左に曲がったところですと言った。その通りに進んでいくと、男は驚きと安堵の声を出す。

 

 彼の目の前には、確かに武器屋の看板が設置されている店があった。人当たりの良さそうな男が、カウンターの前に立っている。

 

「おお、良かった。やっと着いた・・・・・・! いや、旅のお嬢さん。本当に感謝致しますっ!!」

 

 感激のあまり、何度も頭を下げる男。その感謝にやんわりと応じながら、アリスは言った。

 

「お役に立てたようで何よりです。それでは、戦士様もご用件を済ませないと・・・・・・」

 

「ああ、そうでした。いや、これだけお世話になっているというのに、何のお構いもできないことが口惜しい。どうか、こちらで奢らせていただきますので、後にお食事のお時間でも・・・・・・」

 

「御礼がされたくてしたことではありません。それでは、私はこれで」

 

「あ、いえ。今のは、決してナンパとかそういう意味ではなくてですね・・・・・・!」

 

 今になって、そう解釈されると気づいたのか、慌てて弁解を始める男。アリスはスカートを摘まんで礼をすると、来た道を引き返していく。

 

 背中から男の声が聞こえてくるが、アリスも急いでいるのだ。流石に、夜中にベネットの家を訪ねるのも失礼だろうから。

 

 心なしか早足で町中を進んでいく。時間帯のせいか、この辺りは人通りが少ない。偶に、子供達が木の棒を片手に追いかけっこをするところを目撃するくらいだ。

 

 それにしても、とアリスは思う。行きと帰りでは風景の見方が違うせいか、方向感覚にズレを感じるのは気のせいだろうか。

 

 何度か自分の記憶を疑いつつも、どうにか元の大通りにたどり着いたときは心底ホッとした。これからは、この町で寄り道の類いは控えるとしよう。少なくとも、町の風景を一通り把握していないうちは。

 

 一度息を整えつつも、アリスは再び歩き出す。大回りをして、今度は南。長いトンネルをくぐり抜け、ようやく目的の場所へとたどり着いた。

 

 幾つもの魔力が気化した煙を煙突から吐きだし続ける、特徴的な家。間違いなく、この家がベネットの家だ。

 

 自分の心拍数が、疲れとは別の意味で早くなる。かつての修道院でも魔道の研究めいたことは勉強の一環で経験をしたことがある。だが、この家は桁違いにその空気が濃い。

 

 魔法の心得がない一般人には、単なる変わった煙としか感じられないだろう。だが、アリスにはこうして近寄って、改めてその凄まじさを理解する。

 

 なるほど。ここなら、どんな魔法や神秘の類いだろうと相談ができるのかもしれない。

 

 彼女はそんな期待を胸に、ベネットの家をノックする。

 

 僅かな間。ややあって、入れとぶっきらぼうな声がドア越しに聞こえた。アリスは遠慮がちにドアを開ける。

 

 瞬間、凄まじいほどの濃厚な魔力が襲いかかってくるような錯覚を覚えた。目の前には、人間が数人は入れてしまいそうなほどの巨大な壺。真下から火で熱せられ、紫色の煙となって煙突へと向かっていく。

 

 これほどの壺から生まれる煙なら、部屋中に充満していてもおかしくはない。だが、煙はまるで意思を持っているかのように煙突へと向かっている。恐らくは、バギの応用で煙を誘導させているのだろう。

 

 そういった細かいところに魔法を常備させているだけでも、この家に住んでいる者がどれだけ魔法を嗜んでいるのかが理解できるというものだ。アリスは壺の前に立っている老人に、思い切って声をかけた。

 

「あの、初めまして。私は旅の者で、アリスと申します。貴方が、ベネット様に相違ありませんか?」

 

「いかにも。儂がベネットじゃ。して、何の用かな」

 

 彼こそが、魔法研究者のベネット。町人の情報を集めたところによると、魔法の研究者の世界では有名な人物らしい。だが、人とはあまり関わらない性格なので、これまで世間に論文や学問書を作った事がないという。

 

「実は、私・・・・・・ベネットさんに、ご相談があるのです」

 

「相談? フン、また煙をどうにかしろという文句かな」

 

 偏屈そうな老人という印象を与えがちな態度だが、アリスは特に不快とは思わなかった。違います、とハッキリ言う。

 

「突然で申し訳ありませんが、ベネットさん・・・・・・現代では失われてしまった魔法に関して、ご意見を伺いたくて」

 

「なに?」

 

 ベネットの眉が、ピクリと動く。手応えを感じたアリスは、そのまま話を続けた。

 

「バシルーラという呪文について、何かご存じありませんでしょうか?」

 

「――――上へ来なさい。詳しく、話を聞くとしよう」

 

 そう言うが早いが、ベネットは階段を上っていく。2階がベネットの私室のようだ。アリスは、無言で老いた研究者の背中を追った。

 

 

 

 

 ――――この出会いこそ、後にアリスが偉大な賢者としての人生を歩む大きな一歩になったという事は、まだ彼女自身すら知る由もなかった。

 

 

 

 

つづく

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