マブラヴ トータルイクリプス ~桜舞う帝都より~【R-15版】   作:ろっくLWK

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芽吹きのとき

 

  ZAP.YUYA

 

 

 あれから何度目かの春。

 縁側で空を眺めながら、ユウヤは雲一つない晴れ間の向こうに、これまでのことを思い描いていた。

 

「なんだ、まだ支度をしていなかったのか」

 

 ぼうっとしていたユウヤの背中に、そう声をかけてきたのは唯依だ。「悪い悪い、」と答えながらユウヤは部屋に戻り、クローゼットからスーツを取り出す。

 

「どうした? 柄にもなく空など眺めて」

 

「ああ……いや、初めてこの家に来た日のことを、ちょっと思い出してさ」

 

「ふふ、らしくないぞ。感傷に浸るほど老けたわけでもないだろう?」

 

 したり顔で唯依が皮肉めいたことを言う。そういうのもすっかり慣れっこになってしまったユウヤは、「相変わらずだぜ」と微笑を交えて独り言ちる。

 

「何か言ったか?」

 

「いーや、何にも。――ところで、そっちこそ支度出来てないみたいだが?」

 

「私自身はとうに出来ている。ただ()()()は小腹が空いたみたいでな。――こればかりは仕方が無い」

 

「まあそうだな。おーよしよし、たっぷり飲んで早く大きくなれよ~」

 

「全く、飲みっぷりの良さは誰に似たのやら。親の顔が見たいものだな」

 

「鏡ならそこにあるぜ?」

 

「……今のはユウヤに言ったつもりだったんだが」

 

「解ってるっての。――まあ無理もないって。あんな美味いモン、そりゃあ幾ら飲んでも飲み飽きないさ」

 

「ば……バカなこと言ってないでさっさと荷作りを済ませろッ! 今日の式典、遅れるわけには行かないんだからな!」

 

 はいはい。思い出に残るまろやかさをそっと反芻しつつも手早く着替えを済ませ、ユウヤは必要なものを詰め込んだブリーフケースの蓋を閉じた。

 

「よし準備オーケー。じゃあ後は……ってまだお食事中か、コイツは」

 

「うん、もう少し待ってくれ。――さあ、たんとお飲み。祐伍(ゆうご)

 

 唯依が腕に抱くその赤子……祐伍のふくふくとした頬をつつくと、唯依のおっぱいから口を離した祐伍は口から乳をこぼしながら「きゃあきゃあ」とご機嫌な声を上げた。

 それは今のユウヤにとって、何よりも幸せな時間の過ごし方だった。

 

 

 

 

「しっかし、祐伍も大きくなったよな。ちょっと出張で三沢行ってる間に」

 

「ふふ、無理もない。毎日見ている私ですらそうなのだ。二週間も離れていたユウヤならば尚更のことだろう」

 

 西へと向かう高速鉄道の車中、気持ち良さそうにすやすやと眠る祐伍の寝顔を眺めながら、ユウヤと唯依は語らいのひと時を過ごしていた。

 結婚を機に国連軍から斯衛軍に移籍したユウヤは今、斯衛が手掛ける次世代戦術機の開発衛士であると共に、日本各地の本土防衛を担う主力部隊養成のための仮想敵部隊(アグレッサー)としてその敏腕を振るっている。

 他の武家とは異なり特殊な立場であるため、行動の制約が少なく済んでいるのは掛け値なしにありがたい。ただその代償として事あるごとに出張出張の連続となってしまい、愛する唯依や祐伍と過ごす時間が減りがちなのが目下悩みの種である。

 

「祐伍ももう六ヵ月か。懐妊(オメデタ)から出産まで随分長く感じたけど、いざ生まれてからは時間の流れがやたら早く感じるぜ」

 

「確かにな。子の成長を見守る親の立場になってみて実感した、『私も歳を取るはずだ』と」

 

「なんだよ急に? さっきの話じゃ無いが、オレたちまだまだ若いだろ?」

 

「そういう意味じゃない。とある方の物言いを真似てみただけだ」

 

 クツリと微笑した唯依の醸す雰囲気は最近、ますます栴納に似てきている。出産を経て日々母性を深める我が妻の面立ちを眺めながら、ユウヤはその思いを新たにしていた。

 

 

 

 ユウヤが正式に篁家の婿養子となったのは、今からおよそ二年前のこと。

『亡命米国人と武家の女当主、前代未聞の婚儀』ということで当時の世間、とりわけマスコミやらの風当たりは想像以上に厳しいものだったが、次第にユウヤの華々しい戦歴が報じられるに連れそうした声も潮が引くように減っていった。

 やがて入籍する頃には各社こぞって手のひらを返し、『極東BETA戦線の英雄と日本の戦術機開発に多大なる貢献を果たした篁家当主の、めでたきご成婚!』……と祝福ムードに転じたのは今でも身内でのちょっとした笑い種となっている。

 

「出張先やら何やらでいろんな奴らに会う度、未だに言われるぜ。『あのタカムラ殿でありますか!』ってよ。ったく、マスコミってのもホント碌なコトしねえよなあ」

 

「そう言ってやるな、彼らとてそれで食い扶持を稼いでいる身。近年は些かゴシップめいたきらいもあるが、それも戦時下における情報統制からの反動と考えれば同情の余地もある。――尤も、それのせいで私たちの婚儀が余計な注目を集めてしまったのは確かだが」

 

 ユウヤと唯依の入籍。それに際して、二人はユウヤが父・祐唯の婚外子である事実を公にした。もちろん前年の時限法制定や既にいくつもの類似例があったことから、それ自体に世間がさほどの関心を向けなかったのは二人にとって救いと言えただろう。代わって槍玉に挙げられたのが前述の問題であり――そして今に至る、というワケである。

 

「そういや結婚式以来、チョビたちとも会ってねえなあ。今頃元気にしてんのかな」

 

「……ユウヤ。よもやとは思うが、ゆうべのうちに手紙を読まなかったのか?」

 

「は? 手紙?」

 

「やれやれ。この様子では目を通すどころか、話自体を覚えていないらしいな」

 

 呆れたように深々と、唯依が嘆息を漏らす。

 一体何を覚えていないというのか。昨日と言えば、二週間に渡る出張を終えて夜遅く家に帰り着いて、その後は風呂に入って軽食を取って、唯依と二人で祐伍の寝顔を眺めて……

 駄目だ。それ以上の記憶が何も無い。

 

「済まん、疲れてたもんで……。手紙って何の話だ?」

 

「マナンダル中尉から送られてきた近況報告の手紙だ。書斎の机に置いておいたぞ、と昨晩ユウヤに伝えたのだが」

 

「うわっ。そうだったのか!?」

 

 いつになくハードな出張だったせいで、昨晩は手紙に目を掛けることすら無いままに寝落ち、そのまますっかり忘れ去ってしまっていた。『なんで返事寄越さないんだよー!』というタリサの鬼気迫る声が聞こえた気がして、ユウヤの背筋に寒気が走る。それを見て唯依は「ハア」と大仰な溜め息を吐いた。

 

「宛名が連名だったゆえ先に読ませてもらったが、『甲一四号・敦煌(ドゥンファン)ハイヴの漸減作戦、順調に推移中』だそうだ。近々大規模な作戦があるらしく、完遂の暁には部隊の面々を引き連れて日本へ観光旅行に来る……とも綴られてあったぞ。マナンダル中尉の堪忍袋の緒が切れぬうちに、早いところ返信しておくんだな」

 

「分かった、帰ったらすぐに速達で出しておく。にしても相変わらず元気そうだな、チョビ(タリサ)も」

 

「ジアコーザ中尉とブレーメル大尉も、直接ではないが関係筋からの報告が先日あってな。二人とも欧州共同防衛線の一員として、ソ連領ハイヴ付近での防衛任務に日々奮闘しているらしい。ドーゥル少佐からはこのところ連絡をいただいてないが……まああの方の場合、『便りの無いのが良い報せ』と言うべきだろうな」

 

「同感だ。あの人は殺したって死ぬようなタマじゃねえよ」

 

 タリサ=マナンダル。ヴァレリオ=ジアコーザ。ステラ=ブレーメル。そしてイブラヒム=ドーゥル。XFJ計画の開発メンバーとして関わっていた面々はいずれも解散に伴って故国原隊へ復帰し、『桜花作戦』を始めとした様々な対BETA攻略・防衛作戦において、今もなお主力として多大な戦果を挙げ続けている。

 ほんの数ヵ月とはいえあのメンバーと共に過ごせたことはユウヤにとっての誇りであり、人生の宝と評すべき大切な思い出だ。

 

「聞くところによれば、統一中華戦線の(ツイ)中尉率いる暴風(バオフェン)中隊も最前線にて獅子奮迅の活躍ぶりらしいな。先般の甲一六号攻略戦では同隊が主要部隊となってハイヴに突入し、反応路破壊および全域制圧を成したとの報だった」

 

「さっすが暴力ケルプ。亦菲(イ―フェイ)もあの勢いで、とっとと良い男取っ捕まえられりゃいいんだけどな」

 

「さてどうだろう? 何しろ私たちの婚儀の席で堂々と略奪予告をした上に、『ユウヤの百倍イイ男を見つけるまでは絶対結婚などしない』とまで宣ったんだ。よしんば地球上のBETA全てを駆逐してから婿探しにじっくり腰を据えたとて、そんな好条件の相手など見つかるかどうか」

 

「お、お前な~。オレが微妙に痒くなるような話はやめろって」

 

 この口ぶりから察するに、唯依はあの時のことをまだ根に持っているらしい。国際問題にこそ発展しなかったものの、まさしく『暴風』の名に違わぬ狂騒ぶりで宴席を荒らし回った亦菲とタリサの激突も、今では遠い昔のことのような気さえする。

 

「BETAを駆逐して、ハイヴを制圧して。世界中の人類も少しずつ、元の歩みを取り戻してんだな」

 

「ああ。――だが、失われてしまったものもある。それは容易に復旧など出来ない」

 

「……だな」

 

 BETAがもたらした災厄。それは都市や生活圏の破壊のみに留まらない。

 ハイヴの拡大に伴って平らに均されてしまったユーラシアの大地。それにより激変してしまった世界中の気象。戦争を通じて撒かれた数多の放射能や重金属による深刻な環境汚染。これらはいずれも十年二十年では回復しえないものばかりだ。そして五十億という途方も無い数の人命も、何をどうしたって戻ってくることは無い。

 もっとミクロな視点で見れば、BETA侵攻によって生まれ育った街を破壊され、大事な人の命を目の前で奪われた――そういう爪痕を負いながら生きる人間だって沢山いる。その喪失感はきっと、生涯残り続けるのだろう。唯依がそうであるように。

 それでも、足掻きながらでも踏み出すその一歩一歩には、人類全体を確実に前へと進めてゆくだけの力がある。どんなに苦しかろうとも一心不乱に進み続けることで、いつかは古傷を己の原動力へと昇華することが出来る、その筈だ。

 ……そう信じて歩みを止めないことこそが今の自分にできる『分』の弁え方なのだと、ユウヤはそう思っている。

 

「だからこそ、今回の式典があるんだろ」

 

「そうだ。我々日本人は、今日を境に未来への新たなる一歩を踏み出す。そうすることで初めてあの時犠牲になった多くの人々への報い……いや、ご恩返しが出来る。そう思えばこそ、私も今回の話を引き受けたんだ」

 

 強い眼差しで唯依が手元の紙を見つめる。そこにしたためられた長文を、込められた想いを噛み締めるように。

 

「今日は会場で祐伍と一緒に見てるからな。がんばれよ唯依」

 

「ああ。ユウヤとこの子が居てくれれば、怖いものなど何も無い」

 

 トンネルを抜け、車窓の視界が一気に開ける。

 悠々と裾野を広げる富士山。かつてBETA侵攻の脅威に晒されながらも原形を留めた日本の象徴たる霊峰は今日も、その勇壮な姿を遍く覗かせていた。

 

 

 

 

 

 

 ……一九九八年七月、九州上陸から始まったBETAの本土侵攻は、我が日本帝国に極めて甚大な被害をもたらしました。

 その渦中、帝都防衛のため、人命保護のため命を賭してBETAと戦い、そして散っていった数多くの将兵、犠牲となってしまわれた国民の皆様のご無念を思うと、今なお痛惜の念に堪えません。

 我々斯衛軍および帝国軍はその痛みを負って一丸となり、国連を初め様々な国際協力の元、BETA本土駆逐を無上の悲願として日々邁進して参りました。

 

 私は決して忘れません。

 あの夜、炎に包まれBETAに蹂躙されたこの地の、禍々しい光景を。

 BETAと果敢に戦い、そして敗れた戦友を。

 より多くを生かすべく自ら戦火に身を投じ、還らぬ人となった恩師を。

 日本のため国民のため、命を賭し最期まで勇戦なされた先達を。

 そしてこの命ある限り、BETAによって奪われたものを取り戻すその日まで終わりなき戦いを続けることを、戦火から生き延びたあの日、私は心に誓いました。

 

 あれから幾星霜。二つのハイヴを攻略したことによるBETAからの本土奪還、続く桜花作戦における敵本拠制圧を成し遂げた我々は反撃の狼煙を上げ、現在では人類総力の結集により地球全土からのBETA掃討という四半世紀来の宿願を遂げる、まさにその一歩手前まで差し掛かっております。

 しかし敵を殲滅することは、必ずしも人類の勝利を意味しません。

 喪失の痛手から立ち上がり、復興の灯を焚べ、犠牲となられた全ての方に弔いの祷りを捧げる。これらは終わりではなく未だ戦いの過程であると言えます。この惨禍の時代を生き抜いた全ての人々が何者にも脅かされることの無い恒久の平和を手にしてようやく、人類は本当の意味で勝利に浴する日を迎えられるのです。

 

 私たち日本国民のBETAとの戦いは今日この時をもって、勝利に向けた次なる段階への大いなる一歩を踏み出しました。

 その行く末がいかなるものであるかは、貴賤に依らず軍民を問わず、全ての人々が手を取り合い立ち上がろうとする姿勢と活力をどこまで継続することが出来るかに掛かっています。

 しかしながらそれこそが人類の持ち得る本質的な強かさであり、BETA襲来のみならず歴史上数多の国難・厄災を振り払い弛むことなく前進し続けた、祖霊英霊より賜りし数多の恩義に報いる唯一の手段でもあります。

 相次ぐ苦難を手に手を取って耐え忍び乗り越えて来た日本国民の皆様ならば、必ずやこの長き戦いの果てに勝利を収めるであろう事を、私は確信しております。

 

 この人類普遍の営みがここ京都を起点とし、とこしえに続くことを心より祈念いたしまして、本日の京都復興記念式典に寄せる祝辞と代えさせて頂きたく存じます。

 

 二〇〇七年四月一四日、日本帝国斯衛軍、元・嵐山守備中隊第二小隊所属。

 現・第十三機甲連隊第八戦術機大隊第二開発部隊長、篁唯依。

 

 

 

 

「やあ唯依ちゃん。演説、しっかり聞かせてもらったよ」

 

「巌谷のおじさま!」

 

 式典終了後、そぞろに解散……という流れの中で唯依に声を掛けてきた「巌谷」なる人物に、ユウヤは以前にも会った事がある。

 帝国陸軍の大佐で、婚儀の席ではユウヤと唯依の媒酌人を務めてくれた人物。それだけでなく、篁家とはかねて先代の頃より付き合いのある人らしい。軍人然としていない彼の気さくであけすけな人柄に、ユウヤは当初から少なからず好感を抱いていた。

 

「おじさまがこの式典にお出でとは存ぜず失礼致しました。未熟者ゆえの拙文、恥じ入るばかりです」

 

「ふはははは。公の席とは言え、相変わらず堅っ苦しいなあ唯依ちゃんは。旦那も愛息子も元気そうで何よりじゃないか、ん?」

 

 急に巌谷がこちらへ話を振ってきたもので、虚を突かれたユウヤは一瞬慌ててしまう。

 

「――は。常日頃大佐より篤くご高配を賜り、唯依ともども心より感謝しております!」

 

「何だ何だ、旦那まで唯依ちゃんの生真面目さが感染しちまって。それとも斯衛に軍籍を移したせいか? 俺は唯依ちゃんの後見人、言ってみれば君たちの父親代わりみたいなもんだ。もっと気楽に接してくれてもいいんだぞ、祐弥(ユウヤ)君」

 

「は、はあ」

 

「しかしあの唯依ちゃんが大観衆を前に、あれほど立派な演説を打つ日が来るとはなあ。いや本当に逞しく成長したもんだ。こーんな小っちゃい頃からずっと面倒見てきてる俺としちゃあ、感慨深いものがあったよ」

 

「もう。おじさまったら、いつまでも子供扱いして」

 

「いやいや、褒めてるのさ。ひと頃の固さもすっかり取れて、人間としての深みが幾重にも増したと見える。これも数々の経験のお陰か、はたまた子を持つ一人の親になったが故ということか」

 

 腕を組んで感心するように唸り、それから巌谷はユウヤの腕で朗らかに笑う祐伍を「ベロベロバ~」とあやし始めた。

 巌谷の顔に刻まれた大きな傷や深い皴、鋭い眼光などはいかにも歴戦の勇士といった貫禄に満ち溢れている。だがそんな彼もこうして幼な子にひょうきんな顔を覗かせていれば、まさしく好々爺といった按配だ。

 

「この子にしたってそうだ。誕生の報せが入ったのはついこないだとばかり思っていたんだが、もうこんなに大きくなったとは。年寄りには辛い現実だなあ、ふはははは!」

 

「何言ってるんですか。巌谷大佐だって、まだまだ十分若いですよ」

 

「そう言ってくれるのは祐弥君だけだよ。こんな良い旦那を持って、唯依ちゃんは本当に果報者だなあ。この子の名も確か、祐弥君の名にあやかったんだよな?」

 

「そうです」

 

 巌谷に返事をして、それから唯依とユウヤは頷き合う。

 

「『まじわり』『たすく』。友と、仲間と手を取り合い、人を助ける存在となれ。そういう願いを込めてユウヤから一字を取り、二人で『祐伍』と名付けました」

 

「うん――うん、実に良い名だ。新しい時代を生きる希望と信念に満ち溢れている」

 

 満足そうに唸り、巌谷は顔を綻ばせる。

 祐弥。自分のその名も元を正せば、父・祐唯から一字を授かって母が名付けてくれたものだ。その想いを継ぐことこそユウヤと唯依、二人の本懐とするところでもある。

 きっと巌谷もそれを察してくれたに違いなかった。

 

「ところで、唯依ちゃんの方から名前を取る案は無かったのかい?」

 

「いえ。私の名は、その」

 

「二人目の時にしようって、実は唯依と相談してまして」

 

「何だって? もうそんな目処があるのか! 全く、若さって奴には敵わんな。わっはっはっは」

 

 豪快な笑いと共にバシバシと、巌谷が遠慮なくユウヤの背を叩く。痛いことは痛いが、この悪気の無さがどうにも憎めない。

 

「と言っても、まずは祐伍の子育てがひと段落ついてからですけどね。この分だといつになるやら」

 

「なあに、子の成長は早いもんだ。二人と言わず産めるだけ産むが良いさ。若くして優秀な当主、立派な旦那に子沢山と、篁家の未来は安泰だなあ」

 

「おじさま~~、その辺にして下さい」

 

 巌谷にからかわれ、唯依はすっかり顔を真っ赤にしている。ユウヤとしてもここまで褒めちぎられると、どうにもむず痒いような心地だ。

 

「いやはや、安心したよ。……実は少々気掛かりだったんだ。今日の式典で唯依ちゃんが演説するって話を聞いて、斯衛の連中が無理難題を押し付けたんじゃないか、とな」

 

 それを聞いた唯依は一度こちらに視線を合わせ、そして柔らかく微笑んだ。

 

「いいえ。今回のお話、喜んで引き受けさせて頂きました。私は帝都防衛戦の数少ない生き残り。あの時汲んだ想いを次なる時代の為、一人でも多くの人に語り伝える責務があると思っています。――それに、」

 

「それに?」

 

「私の言葉を聞いて欲しい人たちが、この地には居ましたので」

 

「……そうか」

 

 唯依の迷い無き笑顔。それを見た巌谷は、喜びと哀しみのちょうど中間にあるような表情を湛えていた。

 

「本当に強くなったな唯依ちゃん。――きっと祐唯(アイツ)も、草葉の陰で喜んでるだろうよ」

 

 

 

 

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