マブラヴ トータルイクリプス ~桜舞う帝都より~【R-15版】   作:ろっくLWK

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epilogue
融けゆく心


 

  ZAP.YUI

 

 

 新京都駅。

 復興の象徴とされた新しい駅舎に、もうあの日の爪痕は何一つ残ってはいない。

 人々が行き交い活気に溢れるこの通りを、かつて私は友人たちと連れ立って、なにげ無いことのように歩いていた。

 今、ここにはたくさんの桜が植樹されている。

 復興のシンボル。平和の礎。そして――戦没者たちの供養の為。

 ちょうど盛りを迎えた(みやこ)の桜は満開に咲き誇っていた。その中の一画、荘厳な慰霊碑が建てられたこの場所へ、私は今回どうしても己の足で来なければならなかった。

 

 

 

「オレはここで祐伍を見ておくから。唯依はこっちに気兼ねなく、きっちり報告して来いよ」

 

「解った。……ユウヤ」

 

「何だ?」

 

「いつもありがとう。傍に居てくれて」

 

「……何言ってんだよ。それはオレの台詞だ。でもそういうのは、宿に帰ってからにしようぜ」

 

「ああ。済まないが少しの間、頼む」

 

「急がなくていいからな。さーて祐伍ぉ、ママの用事が済むまでパパと一緒にお留守番してような~」

 

 嬉々として祐伍をあやすユウヤを背にし、私は白亜の碑に向かって歩き出す。

 

「やれやれ……日米最高峰の開発衛士も、我が子の前では形無しだな」

 

 初めはあんなにも威勢の良い啖呵を切っていた男が、今やこれほどまでに子煩悩になろうとは。……いや、それは私も同じか。

 ユウヤの前では妻。祐伍の前では母。そんな自分になる日が来ようなどと、あの頃は想像だにしていなかった。

 そして、今、この時は。

 

「……遅くなってごめん」

 

 手にした花束を慰霊碑のふもとへ置き、線香を立て、手を合わせる。

 分かっている。ここに彼女たちは居ない。

 遺体も遺品も何もかも、あの惨劇の中でどこへ行ったかも知れぬまま。だからここは墓とも呼べない。生きる者が死せる者の御霊を祀り、一方的に祈りを捧げるだけの場。それでも、だからこそ、私はこの場で彼女たちに伝えずにはおれない。

 

「あの日から、気の遠くなるほど長い時間がかかってしまった。私自身もずっときっかけが掴めないまま足を運べずにいた。――けどね。みんなのこと、ただの一度だって、忘れた事なんて無かったよ」

 

 志摩子(しまこ)

 安芸(あき)

 和泉(いずみ)

 そして――

 

「あれから私、BETAを倒すためにずっとがんばってた。ううん、がんばらなくちゃって思ってた。だけど……独りって、やっぱり弱いね。何度も折れそうになったし、挫けそうにもなった。その度に立ち上がって、がんばらなくちゃいけない、がんばることだけが私に出来る贖罪なんだって、そう自分に言い聞かせ続けてた」

 

 それが強さだと思っていた。けれど、それこそが本当の弱さだった。

 あの頃から何一つ成長していなかった、私の弱さ。

 一人でがんばる。がんばらなければならない。そんな自分の頑なさが、みんなに心を許せなかった私の脆さが、みんなの命を奪ってしまった。

 ずっと、そう思っていた。

 

「でもね、やっと私も解った気がする。人は弱いからこそみんなで支え合うことが出来るんだって。支え合おうとするからこそ、相手に本当の自分を曝け出すこともあるし、曝け出してくれた相手からも目を背けちゃいけないんだって。――もっと早く、気付けていたら良かったのにね」

 

 そうだ。

 あの時、率先して心を曝け出してくれた人が居た。

 自分の恐れを笑い飛ばしてくれた人が居た。

 受け入れ合おうとしてくれた人が居た。

 分かり合いたいと思ってくれた人が居た。

 そのことを私はみんなに教えてもらった。それを糧に今、私は生きている。未だ何も成せていない私がそれでもみんなに会いに来ようと思えたのは、やっと私自身も前に向かって一歩を踏み出せる、心からそう思える自分の姿を見つけられたから。

 

「だから、みんなにはこれからもずっと、私のことを見守っていて欲しい。また私が挫けたり昔に逆戻りしそうになった時、『何やってるんだ』って叱って欲しいから」

 

 ごめんね。疲れてゆっくり寝ていたいだろうに、そんなの私の我が侭だよね。

 でも私はそうあって欲しいって思う。

 そうしてみんなに見守られる限り、みんなは私の中に、いつまでも生き続けているのだから。

 

「――みんなから貰ったご恩、少しずつだけど返していくよ。色んな人たちに、色んな形で。返し尽くせないかも知れないけど、私にできる限りのこと、やってみる」

 

 あの日からずっと凍てついていた自分の心。

 それを融かしたものは、迷い悩みながらも重ねた年月。新しい環境での新しい出会い。絶望の果てに得た一握りの安らぎ。そして今、この手で守るべき拠り所。

 その全てがあって今ようやく、私はここに立つことを許されたのだ。他の誰でもない、私自身によって。

 

「袖ひちて、(むす)びし水の凍れるを、春立つけふの風やとくらむ」

 

 呟き、そして唯依は空を見上げる。風に舞い上げられた桜の花びらは、一筋の帯となって雲間を彩っていた。

 

 

 

 

上総(かずさ)。私、ほんの少しだけ、あなたに近付けたかな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

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