シャニマス猫物語   作:小林流

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和泉愛依 2

 

 

「インタビュー?」

「そうインタビューだ」

 

 

 事務所の机を挟んで顔を付き合わせているのは、我が事務所のプロデューサーと和泉愛依である。プロデューサーは和泉愛依にいくつか書類を見せ、今回の仕事に概要について説明していく。なぜか机の上に乗せられた私は、その書類をじっくりと見ることができた。どうやらアイドル一人一人にファンから集められた様々な質問に回答するもののようだ。

 

 

 媒体は流行の動画配信サービスらしい。今の若者のほとんどがテレビを見ないので、こういったアイドルの特集等はネット配信が主になっているようだ。この間、ワイドショーの初老の司会者が我が物顔で言っていたので知っているのだ。どうやって若者のことを知り得るのだろうか。気になるところである。

 

 

「一人で?」

「ああ、どうしても別件でここにいられなくてな」

「冬優子ちゃんも、あさひちゃんもいないの?」

「……ああ、今回は愛依が一人で対応してもらうことになる。当日、社長が後から事務所に顔を出すから完全に一人きりってことにはならないと思うけど」

和泉は事務所で見せる顔と他者に見せる顔を使い分けているようで、あまり一人で仕事を行う姿が見られない。だから今回の仕事もいつものように快諾するのは難しいのだろう。和泉はすこし思案した後、最後は微笑んで承諾した。

 

 

 わたしは偉いぞ和泉という意味を込めて、一鳴きする。

 

 和泉とプロデューサーはわたしの鳴き声を理解しきれないのか、無視して話し合いを進めていく。いくつもある質問を仕分けるのに忙しそうだ。わたしは大きく伸びをして、机を降りた。そして和泉の足に前足でぷにぷにとしてやる。一応、わたしも事務所にいるので、なにかできることがあれば声をかけてほしい。にゃごにゃご。彼女はわたしの方を向き、一度微笑んだ。伝わっていればよいのだが。

 

 

 

○○○○○○

 

 

 

「それでは本日はよろしくお願いいたしますね!」

「……はい、よろしくお願いいたします」

 

 

 インタビュー当日。

 事務所には二人の記者が来訪した。私、愛依さんの大ファンなんですよ!という女性記者と中年カメラマンである。

 

 

 二人を前にした和泉は普段とは打って変わり口数少なく、訥々と呟くように返事をした。決して冷たい印象はないものの、快活さは微塵も感じられない。この姿の和泉はミステリアスでクールな和泉愛依なのだと、プロデューサーが話していたのを聞いたことがあった。ミステリアスでクールというのは、よくわからないが、プロデューサーは言うのであればそうなのである。毛玉の私には知り得ぬものなのだろう。

 

 

「緊張されていますか?」

「……いえ、大丈夫です」

 和泉は固まった表情をほぐすように少し口角を上げて答えた。パシャリパシャリとスマートフォンで撮影したり、他のアイドルとアハハと笑い合ったりする姿を知っている身からすれば、無理をしているのは明白であった。しかし、これもアイドルの仕事なので仕方がない。私は応援するように和泉を見つめた。

 

 

 

「では、一つずつ伺っていきますね!」

「はい……」

 相手もプロなので、和泉のペースを考慮しながらインタビューが進んでいった。時折、中年の記者がカメラの画角を気にしながら和泉の真横に行ったり正面に行ったりしていた。中々、大変そうな仕事である。わたしは努めて静かに存在感を消しながらソファから彼らのやりとりを眺めていた。

 

 

 いくつかの言葉と笑い声のやりとりを行っていく和泉。彼女は緊張しながらも、徐々に慣れてきたようだ。少しずつ笑顔も自然なものになっている。わたしはよかったよかったとため息をついた。

 

 

 にゃん。

 

 しまった。

 思わずこの口から鳴き声が漏れてしまった。その声を聞きつけて三人の顔がこちらをむく。おかまいなく。わたしは再びにゃんと鳴いた。

 

「かわいい~」

 

 女性記者はわたしの姿を見るやいなや立ち上がり、ずいっとこちらに体を近づけてきた。もしやお姉さん、猫とのふれ合い方をご存じない?そんな急に接近されると、普通の猫なら逃げるか唸る。わたしは違いますが。

 

 

 

 わたしはアイドル達の仕事相手ということもあり愛想良く振る舞うことにした。

にゃあと一鳴きすれば、かわいい!という気持ちのよい返答をいただく。彼女はわたしの頭をグシグシと撫でる。彼女の好感度がどんどん上がっていくのがわかった。

 

「誰の猫チャンですが?愛依さんの?」

「いえ、違います。……この子は、社長の飼い猫です」

 

 へぇ~と言いながら記者は私の頭をなで続け、頬を掴む。なんとも豪胆な記者である。猫だからってなんでも許されると思うなよ。わたしは怒りを抑え込んで、喉をゴロゴロとならしてやった。記者の顔が緩むのがわかった。というか、はやく和泉のインタビューを続けなさいな。

 

 

 わたしは彼女の魔の手を逃れて、和泉の座る椅子に駆け出し、ちょこんと座った。記者は口だけで謝罪した。

「わたしったらすいません」

 

 

 

 記者はまた和泉と向かい合い、インタビューを再開する。わたしは和泉の様子を再び観察しはじめた。質問も大方片付き、そろそろ終盤というところで記者はこんなことを言った。

 

 

「愛依さんにとてもよく似ている方の写真が出回ったじゃないですか?あれについて一言なにかいただけませんか?」

 

 

 和泉の顔と体が明確に固まった。なんと答えてよいか困り考えているようである。どうやらあらかじめ知らされていない内容のようであった。

「……え」

「あれ?知りません?いやぁ、元気に笑う素敵な子の写真なんですよ。ちょっと遠目なので判別が難しいのですけど、かなり愛依さんに似ているらしくって」

 

 記者の言葉に和泉は反応できずにいた。もじもじと足を重ね合わせ、手先が少し震えている。記者はそれに気づかないのか、件の写真の出所や噂などについて話している。

 

 何か言いたくないのであろう。

 わたしは賢いのですぐに察知した。

 わたしは和泉の足に前足を置き、ぷにぷにとしてやる。和泉の顔がこちらをむく。わたしは彼女を見てにゃぁと一鳴きする。そして彼女の膝を経由し、行儀が悪いが机の上に自ら飛び乗った。

 

 

「え?猫ちゃん?」

 

 

 困惑する記者の声が聞こえる。和泉も目をまんまるにして、驚いていた。ちょっと言いづらそうなので、代わりにわたしが断ってみよう。わたしは和泉に向かってさらに一鳴きし、記者に体を寄せて語りかける。にゃごにょご。

 

 

 申し訳ない。

 うちの和泉がちょっと答えづらいみたいなのでこの質問は飛ばしてほしい。

 

「なになに、なんで急に鳴きだしたの?」

 

 にゃごにゅあ~

 

「え?え?なに~?」

 

 やはりこの猫舌では伝わらぬ。

 記者の顔をじぃと見つめても、私の思いは届かない。

 うむむ。じつにこそばゆい。わたしは和泉の方を向き直り近づいて、彼女の肩に手を置きポンポンとした。

 

 

 すまん、和泉。わたしでは断りを入れられないようである。

 にゃごにゃご。

 

 

 「しゃべってるみたいだ」 

 

 カメラマンが呟くと、女性記者が吹き出した。

 失礼な。みたいではなく、実際にしゃべっているのである。その様子を見て、和泉は肩を揺らして「アハハ」と笑った。そしてわたしの頭をなぜか撫でて、記者に微笑みながら語った。

 

 

 「……その件については、いつかファンのみんなに……わたしの口からきちんと説明したいと思います」

 

 記者はえ?と呆気にとられた顔をした。

 だから今はまだは話せません、という和泉の言葉を聞き、記者は戸惑いながらも、じゃあ、ということで次の話題に進めた。

 

 

 あれ?わたし、いらなかったか。すこし恥ずかしくなり私は机からおりようとすると、和泉はふわりと私を抱き上げ、受け答えをしはじめた。え?なんで?わたしは、仕事の邪魔にならぬよう、口の中で小さく鳴いた。

 

 

 

 

 その後も、なぜか和泉はわたしを抱いたままインタビューを続けた。

 

 

 

○○○○○○

 

 

 

「すまん」

 

 

 後日、プロデューサーは愛依に謝罪していた。そんな困り顔の男をわたしはソファに座りながら眺めている。雑談の延長とはいえ、あらかじめ送られてきていない内容でのインタビューは好ましくなかったらしい。仕事前にNG項目として伝達すべきだったと、がっくりと肩を落とすプロデューサー。そんな彼を見て和泉はアハハと笑い、気にしない気にしないと手を振った。

 

 

「いつか、わたしが言わなきゃいけないことだしね……」

 

 

 和泉は何やら決意を秘めた瞳をしている。

 

 よくわからないことばかりだが、とりあえずは一件落着のようである。わたしは一鳴きした。鳴き声を聞いた、和泉はニコリと笑いながら私に接近し、脇に手を入れて持ち上げる。

 

 

 なんでしょうか。

 

 

「この子もいてくれたしね」

 

 

 和泉はそう言ってわたしを抱き頭をぐりぐりと撫でた。

 少々、乱暴だがまぁ仕方がない。アイドルの機嫌がいいのは、わたしにとっても良いことなのである。わたしはゴロゴロと喉を鳴らしてやった。

その後、完成し動画サイトにアップロードされた和泉のインタビュー動画を見ることとなった。わたしは和泉に抱かれたままである。嫌でもないが、少々窮屈である。

 

 

 結構、編集された動画を見ながらプロデューサーも和泉も満足そうである。

 画面の向こうのわたしは目をまん丸にしていた。気づかぬうちにネットデビューである。

 

 おそらく今のわたしも同じような顔をしているのだろう。

 

 

 

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