オリ主のせいで一夏くんにアピれない箒ちゃん 作:東京駅八重洲中央南口
篠ノ之箒は、年頃の女の子である。
高校に進学して、好きな男子と同じクラスであること――ほとんどわかりきっていたことだったが――を大喜びする程度には、恋する乙女であった。
箒は視線を右前へと向ける。
最前列、中央二席。そこに幼馴染にして想い人が座っている。
右側の黒髪の少年――織斑一夏がそうだ。
整髪料は本当に髪を整える程度にしか使っておらず、制服も着崩してもいないため清潔感がある。
中央二席の左側に座る男子と話しているため見える横顔は整っており、所謂イケメンと言われる部類だろう。
周囲が女子ばかりという環境のせいで戸惑っているのか、先ほどから眉尻が下がり気味の表情が可愛らしい。
――困り顔いい……ご飯三杯はいける……。
箒は表に出さないだけで、結構脳内ピンク色だった。
それから箒は視線を左にズラす。先ほどから一夏と会話している少年――倉持明人。
一応、こちらもまた幼馴染ではある……のだが。箒は凄く微妙な顔をしていた。
昔は黒だったはずの髪は明るい茶色となっており、制服も初日にして既に着崩している。
余裕のある笑みを浮かべており、色んな面で一夏とは対照的に見えた。
箒には苦手な人類がいる。それは軽薄そうな人間だ。
諸事情で小学生の半ばから、中学を卒業するまで箒は学校を転々としてきた。
そのため毎回友達を作ってはすぐお別れ、というのも面倒で基本的には他人を冷たくあしらっていたのだが。
それでも箒の見た目が美人だからか。そこそこ顔のいい、所謂遊び慣れた人間は遠慮なく踏み込んでくることがあったのだ。
もちろん、小学生、中学生でそんなタイプの人間は早々いない。早々いない……が、あくまで早々でたまにいるのだ。
こちらの事情も考慮しないで、中身のない言葉で擦り寄ってきて、勝手にわかった気になって……。
はぁ、と箒は大きく溜息。
眉間に寄った皺を解すように揉みながら、箒は改めて明人を見る。
……やはり、箒が苦手な人種が好む見た目をしている。
幼少期の頃の性格からすれば別に苦手では、いや当時から軽そうなところは……しかし悪い奴では、そう、悪い奴ではなかった。
正義感の強かった一夏と仲が良かった程度には、いい奴ではあったのだ。
一夏が相変わらず正義感の強い人間であるならば、変わらず仲の良い様子の明人が悪人ということはないはずだ。
自分が信じている一夏が明人のことを信じているのだから、自分も明人のことを信じる。うん、これだ。
見た目だけで判断するのは良くないしな、と箒は大きく頷きながら自分にそう言い聞かせた。
もちろん一人でさっきから百面相をしている箒は明らかに不審なのだが、幸いにもクラスメイトたちはこの教室に二人しかいない男子に夢中で気づいていなかった。
そしてそうこうしているうちにチャイムが鳴り、教室前の扉が開いて教師が入ってくる。
「はーい、皆さん席についてくださーい」
その教師を見た時、最初に思わず目線が行ったのは胸だった。
別に箒は女性の胸に性的興奮を覚えるわけではない。だがあまりにもご立派なそれに、流石に目線が吸い込まれた。
体のラインの出にくい、ゆったりしたデザインの服なのにその上で自己主張してくる大きな胸。背が低めで童顔なのが胸の大きさをなおのこと際立たせていた。
――というか、一夏は!?
同性である箒ですら目を奪われる胸なのだ。お年頃の男子である一夏が見ないわけもない。
そう思い慌てて箒が一夏を見れば、心なしか顔の角度が下目な気がした。
……実際のところ、箒から見えるのは一夏の後頭部のみなので、一夏の目線などわかるわけがなかった。箒にはそう見えた、それだけのお話。
しかし箒にとっては、そう見えたという事実は見過ごせなかった。
箒はおもむろに自分の胸に触れる。……まぁそれなりに、というかこの年代では大きい方だと思う。
見知らぬ男から下卑た目線を向けられることも、ままあった。だからまぁ、箒自身自分の身体には自信がそれなりにあったのだが。
いやあれは勝てない。
箒は静かに歯噛みした。ちなみに、箒以外にも数名自分の胸に触れて溜息を吐いたりしている女子がいたことは余談である。
そんなことを箒――と他数名の女子――がしている間に、教壇に立った山田真耶を名乗った女性は生徒たちに自己紹介を促す。
それを全て右から左へと聞きながし、まぁ自分はいつものように名前とよろしくお願いします、くらい言っておけばいいだろうと――。
そこまで考えて箒ははたと気づいた。今まではすぐに転校していたからそれで問題なかったが、今後は転校しないのだからちゃんと人の自己紹介も聞いて、自分もしっかり自己紹介しないとマズいのでは?
というか、自己紹介ってどうやるんだっけ?
一般的には趣味の話でもすればいい? 自己紹介はその後話す際の話題のきっかけにするものだから……何を言っておいたら話題にできる?
数ヶ月間隔で転校を繰り返し人と深く関わってこなかった箒は、すっかりコミュニケーションの取り方を忘れていた。
――いや、いや! 一夏がいる! 最悪一夏がいれば一夏経由で友達は増える……!!
その上で。箒はいざという時にチキンなところがあったので、社交的で友達の多い一夏に丸投げすることにした。
こういう考え方をしている人間は大抵、友達の友達止まりになるのだが、そもそもコミュニケーションの経験が圧倒的に不足している箒には気づくことができなかった。
そして更に自分の自己紹介を考えているうちに、他の人の自己紹介が進んでいってしまう。気づけば、次は一夏の自己紹介になっていた。
箒に一夏の自己紹介を聞かないという選択肢はない。一旦思考を打ち切り、箒は一夏の自己紹介に耳を傾ける。
「あー……っと、織斑、一夏です。よろしくお願いします」
ぴたりと、自己紹介が止まる。箒は案外、今までやってきた自己紹介は間違っていなかったんだ、とか、一夏が自分が考えていたのと同じ自己紹介をした、だとか喜んでいたのだが。
どうにも空気がおかしい、ということにしばらく間が空いてから気づく。チラ、と周囲を見れば誰もが『で、続きは?』、『それだけじゃないよね?』と期待の視線で一夏を見ていた。
やっぱりあの自己紹介ではダメらしい。それとも一夏だからだろうか? まぁ一夏ほど顔が良くて、かつこの学校に二人しかいない貴重な男子ともなれば当然の話か。
自分の時は名前と挨拶だけで通らないかなぁ、ダメだろうなぁ。箒は大きく溜息を吐いた。
まぁでも、と箒は一夏の方を見る。何はともあれまずは一夏の自己紹介を聞くべきだ。
沈黙が続けば続くほど期待値が上がっていくこの状況で、一夏は何と続けるのか。一夏の困り顔(かわいい)を見てにやけそうになるのを堪えながら、箒は一夏を見守る。
一夏はしばし困った様子を見せたあと、助けを求めるように隣の席の明人へと視線を向ける。しかし明人はくつくつと笑いながら肩をすくめるだけで助言する様子もない。
それを見て当てにならないと判断したのか、一夏は視線を彷徨わせたのち――箒へと視線を向けた。
明らかに助けを求めるようなそれ。少しでも助けになれば好感度が上がること間違いなし。その状況で箒は。
――すまない無理だ!!
速攻で顔を逸らした。
ただでさえ自分の自己紹介ですら思いつかない箒に、この状況でどうすればいいかなんてアドバイスが思いつくわけもない。
仮に思いついたとしても、席の離れた状態でどうやって伝えればいいというのか。周囲から視線が集まってしまう可能性を考えれば、チキンな箒には一夏に何かを伝えることなどできなかった。
明人にも箒にも見捨てられた一夏は、一度肩を落とした後に覚悟を決めたような表情になる。
好きな人のキメ顔。箒はキュンキュンと心臓が悲鳴を上げているところを抑え込み、一夏がキメ顔で何を言うかに耳を澄ませる。
「――以上です!!」
……クラス全員がズッコケた。
まぁでも、そういうやつだったか。箒は小学生の頃を思い出す。
基本的に明るく正義感のあるやつで……でもどこかバカっぽいというか。抜けてるところもあって憎めないやつ。
今だって変なことを言ってしまったと縮こまるのではなく、照れ臭そうにしながらも笑みを浮かべてクラスメイトたちのリアクションを見ている。
これで趣味などといった細かなプロフィールはわからなくとも、親しみやすい性格であるというのはクラス全体に知れ渡っただろう。
おそらく一夏自身は意図していないだろうが……それでも自己紹介としては成功になるはずだ。
「……まともに自己紹介もできんのか」
パコーン、と気の抜けた音が響く。いってぇ、と声を漏らした一夏が振り返れば、そこには呆れ顔で腕を組む女性がいた。
「千冬姉ぇ!?」
「織斑先生だ、馬鹿者」
「いてぇよ!!」
パチコーン、とまた音が響く。軽い音にも聞こえるが、一夏の痛がりようから多分普通に痛い。というか出席簿は硬い、当然痛い。
「学校ではあくまで教師と生徒だ。覚えておくように」
「うっ……気を付けます……」
一夏が縮こまる。釣られて箒も縮こまった。
このクラスの担任だという彼女は、織斑千冬。名前からわかるように一夏の歳の離れた姉であり、箒とも知り合いである。
そしては箒は……この千冬という女性が苦手だった。
まず出会いは小学生の頃。箒の実家が開いていた剣道場に織斑姉弟が学びに来ていたのが始まりだった。
当時から千冬は美人で、スラっとしたモデル体型に箒も憧れを持ったものだ。
しかしいざ剣道を始めると、千冬の美貌は恐怖の象徴となった。切れ長の目は鋭さを増し、殺気すら感じた気がしたものだ。
小学生と高校生、体格差は歴然で、加えて当時から千冬は強かったため、箒からは絶対に勝てない怖い人という印象になってしまっていた。
そして今。久々に見た千冬の美しさは相変わらず、いやむしろ増しているくらいで、同時にその鋭さも増したような気がする。
更には今は世界最強という肩書すら付いてくるのだ。
仮に一夏と付き合えたとして、そして結婚までこぎつけることができたとして。弟を溺愛している節のあるこの人に一夏をくださいと挨拶しに行く?
箒は小学生の頃とは別ベクトルで千冬のことが怖かった。
……いや、よくよく考えると昔と変わらない純粋な能力への恐怖もあった。むしろその恐怖は軽くとはいえ、生徒の頭を出席簿で叩くという具体性を持ち始めていた。
そんな風に箒が千冬に恐怖している間に、自己紹介は一時中断され千冬から様々な連絡事項が伝えられる。
どうやら自己紹介は会議中の千冬が来るまでの繋ぎだったらしい。とりあえず、自分の番まで余裕ができたと箒は安堵した。
千冬が連絡事項を伝え、明人や箒も結局当たり障りのない自己紹介をして時間は過ぎていき……休憩時間。
このIS学園は通常科目に加えISに関する授業も行う都合上、入学式は省き初日から授業がある。
いそいそと箒は次の教科の準備をしつつ、どうやって一夏に声をかけるかを思案した。
まぁ別に、久しぶりだなとか普通に声をかければいいのだが。
いきなり話しかけるのは恥ずかしいだとか、できれば向こうから声をかけてほしいだとか……乙女心は複雑なのだ。
ちら、と一夏の方を見れば明人と楽しく会話中。
何だお前、同じ幼馴染なのに明人とは話してこっちには挨拶はなしか? 自分から声をかけない己のことは棚に上げて、箒はムスっとした顔をした。
とはいえこのままでは埒が明かないのは理解している。
折角一限目は自己紹介と連絡事項だけで早めに終わり、休憩時間が長めに確保されたのだ。活かさないのはあまりにも勿体ない。
腹をくくり、一回立とうとして……いややっぱりちゃんと会話をシミュレーションしてから、と座り直すのを数度繰り返し。
なんとか勇気を振り絞って一夏の傍へと箒はやってきた。
「……少し、いいか?」
――あぁもう! 何故私はこういう時にちょっと冷たい声しか出せんのだ!!
実際のところ、ちょっとどころではない冷たい声だったし、なんなら顔は厳めしかった。
一夏はともかく、明人の方はかなりビックリした顔をしていたあたり、相当である。
「お、箒! 久しぶりだな!」
「む……ひ、久しぶり、だな……。いや、ではなくてだな……」
箒の視線が泳ぐ。それは何と話そうとしていたのか、頭の中から全部吹っ飛んだためだったのだが。
一夏はどうやら周りの視線を気にしているのだと勘違いしたらしく、同じく周囲を見回してからこう言った。
「まぁこれじゃ落ち着いて話もできないよな。ちょっと場所移動しようぜ」
実際、この学校に二人しかいない男子であるために一夏と明人へ向けられる視線は多い。
箒は多くの注目が集まった状態が得意ではないため、ありがたい提案であった。
――そ、それに一夏の方から二人きりになろうと誘ってくれたわけだし! もしかして脈があるのでは……!?
箒が期待に胸を膨らませると同時。一夏が自席から立ち上がり声をかけてくる。
「ほら箒、
……箒はどちゃくそ渋い顔をした。
・篠ノ之箒
乙女心搭載型コミュ障。姉のせいで一家離散、本人も転校を繰り返したり中々キツい人生送ってる。IS開発者の妹なのでIS学園に放り込まれた。一夏くんLOVE。
・織斑一夏
久々に幼馴染揃ったやん! 楽しく話そうぜ! 両親なし、姉と二人暮らしとこちらもあれな人生送ってる。なんかIS動かせたのでIS学園に放り込まれた。友達皆好き。
・倉持明人
一般オリ主。どこぞの技研の社長の息子だとかなんとか。割とまともな人生送ってる。一夏同様なんかIS動かせたのでIS学園に放り込まれた。特に好きな人はいないっすね……。
・山田真耶
逆から読んでもやまだまや。おっぱいがでっかい。
・織斑千冬
強くて美人な一夏のおねーさん。三国志の英雄。