この世界に魔法という概念は存在しない、なら俺が作っても問題ないよね?   作:Senyo-ru 238

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第一節 絶望の果てに
起.1


 穏やかな日差しが降り注ぐ川のほとり。

 小鳥のさえずりが、鬱蒼とした森の中に響き渡る。

 そんな人気のない森の中を、眠りが覚めず集中力の欠いた状態で進んで行く中。

 

「はぁぁあ〜、魔法使いてぇえ……。

 魔法使ってチヤホヤされてぇぇえ」

 

 爽やかな朝の風景をぶち壊すような、何とも浅はかな煩悩を吐いた。

 

 あ、どうも。

 俺はアルクス・アルカーナ。家族や顔見知りからアルと呼ばれてる村民です。

 

 何で、異世界人みたいな名前のやつが、いきなり日本語喋ってんの?可笑しくない?

 そう思った貴方、薄々と気が付いていると思いますが。

 

 ……。

 …………。

 

 そうです、よくあるテンプレ――異世界転生というやつです。

 学校帰り、通学路の交差点を何気なくボーっと通過していると、これまたびっくりトラックに引かれて。

 そのままぽっくり逝ってしまいました。

 

 いやぁ、あれですね。

 身構えていない時ほど、死神は襲ってくる。って本当なんですね〜。

 

 ……まぁ、そんな事は置いといて。

 死んだ事には変わりは無かったので、このまま消えてしまうのかと思った時。

 クラスメイトのオタク友達から教わった、〝異世界転生〟という言葉を、ふと思い出した。

 

 何でも、前世の記憶をそのまま持った状態で赤子に生まれ変わり。

 神様から授かった加護(チートスキル)を使って剣や魔法で無双し、世界を救う――または発展させるという内容だった。

 

 どうせ死ぬなら自分もそうなりたい。と頭の隅で考えながら、俺という存在は真っ白に塗り替えられる。

 姿も、記憶も、思考さえ残さずに。

 

 だが、肉体が消えたというのに、どれだけ待っても記憶も思考も消えず。

 気がついたら赤ん坊となって、この世界に生まれ落ちた。

 

「16年間の記憶を持ったまま、赤ん坊からやり直すのは、なんというか……ヤバかった」

 

 16の少年が赤ちゃんプレイってどう思うよ?

 生まれて早々に、羞恥死するとこだったわ。二度と経験したくねぇ。

 

 あー、また話しが逸れた。

 とにかく、前世の記憶を持って知らない世界に生まれ変わった。

 この事から、異世界転生を果たしたと言っても過言じゃ無いわけなんだが……。

 

 肝心のチートスキルを授かった覚えがない。

 

 それどころか、この世界に俺を呼んだ神様に、出会った覚えもない。

 そのうち神託みたいな感じで、連絡が来るだろうと精一杯生きることにしたが、

 

「もう十年ですよ、十年。

 一向に連絡はないし。

 体は大きくなったってのに、チートスキルの発現がないし。

 ……色々詰んでないか?これ」

 

 ザーっと、大量の水が重力によって地へと叩きつける滝の手前で、つらつらと愚痴を零す。

 身につけていた衣類を脱ぐと、持参したバケツで流水をすくい上げて頭から被った。

 

「……っ」

 

 立春のように、温かさの中に若干の寒さが滲む。

 打ち付けられる水の冷たさを我慢しながら数回浴び、滝の中へと入っていく。

 

 打ち付けられる水は物凄く、全身に力を入れてなければ、直ぐにでも沈んでしまいそうだ。

 強烈な勢いの中、寒さや痛みで顔を歪めることなく、俺は瞳を閉じた。

 

「…………」

 

 呼吸を数回変化させながら、打ち付けられる水を受け流すように、静かに佇む。

 取り乱すことなく、寒さに身を怯ませることなく、真っ直ぐそびえ立つ樹木のように。

 

 これは修行の一環に行っている滝行だ。

 十年前、チートスキルが発現した際、何かの拍子でそれが暴走しないよう集中力を高めようと思い立った。

 剣にしろ、魔法にしろ、集中力があった方が損は無いだろう。

 

「……さん。……兄さん!」

 

 滝行を初めて小一時間ほど経った頃。

 幼さが抜けきった声変わりしたての、低音の中に高音が混じったような声で、誰かに呼ばれた。

 

 だが、打ち付ける水が強く、上手く聴き取れなかったために。

 気のせいだと思って、そのまま滝行を続行していると、

 

「……っ!兄さん、アルクス兄さん!!」

 

 気が付かない俺に、苛立つような叫び声が上がった。

 あまりの大きさに、バサバサと翼をはためかせて、鳥が飛び立った。

 

 それに反応するように、ピクリと瞼が動かしながら、ゆっくりと開いた。

 辺りを見渡すと、俺より少し背の大きい少年の姿に気がつき、目を丸くした。

 

「おはよう、アデル。どした?」

 

「どした?じゃないよ……。

 もう朝ごはんの時間なのに帰ってこないから、迎えに来たんだよ」

 

 ほら、早く。と俺と同じく黒い髪と瞳をした弟――アデル・アルカーナは、不機嫌そうに眉をひそめて、そう急かした。

 苦笑いを浮かべながら、打たれる滝をものともせずに立ち上がる。

 

「また修行してたの?」

 

「ああ、精神統一の修行だ。

 いついかなる時も、心を落ち着かせるためにな」

 

「朝は寒いのに、良くやるよ。

 ……風邪をひいても僕はもちろん、母さんも父さんも面倒を見ないよ」

 

「安心しろ、そんなヤワな鍛え方をしていないからな」

 

 ハッハッハと笑いながら水を拭う俺に、アデルはやれやれと言わんばかりに首を横に振る。

 そして、俺の体を上から下まで見てから、ニヤリとした笑みを浮かべ、

 

「……その割には、僕より体が小さいよね?」

 

「ぐふっ!!」

 

 針のごとく鋭い一言を放った。

 あまりにも鋭い一言に、胸を抑えて崩れ落ちるように、座り込む。

 拭っていたタオルが、手からするり落ちた。

 

「気にしていることを……良くも…………」

 

「いや、当然の疑問というか……。

 こんな修行をしてたから、成長する筈の体もしなかったんじゃないの?」

 

「ふ、ふふふ!

 べ、別にどうでもいいから、気にしてない。

 魔法が使えるようになれたなら、身長なんていらないしな!

 図体がデカくても不便なだけだけで――」

 

「あれ?気にしてるって、さっき言ってたよね?」

 

「――兄の必死の強がりを無視して、心を折りに来ますか?普通。

 弟なんだから、少しはオブラートに包んでくれても良い筈だよね……」

 

 いじけるように体育座りをして、地面にぐるぐると規則性のない文字を書く。

 その様子にため息を吐きながら、俺が手放したタオルを拾い、頭へと投げつけてきやがった。

 

「いじったことは謝るから、そろそろ帰ろうよ。

 遅くなると、母さんと父さんに怒られるよ?」

 

「一体誰のせいで、俺がこんな状態になったと思ってるんですかね?」

 

「兄さんだね」

 

「いや、お前だよね!?

 全部お前の発言が原因だよね!?」

 

「いや。そもそも、兄さんが時間通りに帰って来てたら、僕は来なかった訳ですし。

 そう考えたら、やっぱり兄さんが悪いよね?」

 

「……全く。可愛げがない弟だよ、お前は」

 

「逞しいと言って欲しいな、兄さん」

 

 人を食ったような笑みを浮かべたアデルは、こちらへと手を差し出した。

 今度は俺がため息を吐くと、アデルの手を取って立ち上がった。

 

 立ち上がった事によって、見上げる兄と見下ろす弟という形が出来上がる。

 意識したくもないのに、不覚にも身長差を見せつけられてしまった。

 

 昔は俺より小さかったのにな……。と何だか複雑な気分になる。

 それに少しだけ苦笑いを浮かべながら、タオルで拭き終えた体に衣類を纏わせる。

 

「そういや……今日の朝飯の当番って誰だっけ?」

 

「……母さんだよ」

 

「……量が多い、且つ濃すぎる飯だな」

 

「美味しいし、味が無いよりはいいんだけど……。

 量が多いのは……ね」

 

「まぁ、割といつもの事なんだが……あの量を一人で平らげてた親父が化け物すぎるんだよなぁー」

 

「そうだね。

 毎回、見てるだけでお腹いっぱいになりそうだから」

 

 羽織り終えた服を払いながら立ち上がり、背筋を伸ばした。

 固くなった体を解し終えると、弟と一緒に母が待つ家へと歩み始める。

 

 先のことなんてどうなるかは判らないが、とりあえずは……腹ごしらえをしよう。

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