この世界に魔法という概念は存在しない、なら俺が作っても問題ないよね? 作:Senyo-ru 238
「ふぅ〜、腹がキツい……」
「行儀悪いよ、兄さん」
満腹になった腹を抑えて机につっ伏す俺に、ため息を吐きながら空になった食器を台所へと運んでいた。
ただ、どことなく顔が青白くなっていた。
帰宅後、テーブルを埋め尽くすほどの料理を並べて出迎えてくれた母と共に、3人で食卓を囲んだ。
種類もそうだが量も多く、食べ盛りの筈なんだが、平らげた瞬間こうなった。
弟だけは、苦しいながらも余力はまだあるようで、空いた食器を運んでいた。
本当、よく出来た弟だよ。
「さて、俺も手伝いますか……」
「アル、苦しいならまだ休んでなさい。
アデル、貴方も気分が悪いなら無理に動かなくていいのよ」
「ううん、大丈夫だから手伝うよ。
ご飯を食べてそのままダラケてたら、豚になっちゃいそうだから」
「おい。
それは暗に、俺を豚って揶揄してないか?」
「私としては、それくらい太って欲しいわ。
同じ歳の子と比べて、アルは小さいし、細いから」
病気ではなさそうだけど。と頬に手を当て、こちらを心配するのは俺とアデルの母――メティス・アルカーナ。
俺や弟の黒い髪と瞳は、母の血を色濃く受け継いでいるからだった。
因みに、父は赤茶色の瞳と髪をしている。
俺も弟も母譲りの黒色のために、落ち込んではいたが。
目元や鼻元などの身体的特徴が所々父に似ている為、手のひらを返したように喜んだそうだ。
「そういや、親父は……元気かな……」
「そんな神妙そうに言わないでよ……。
お土産を楽しみにしてろよ〜って、昨日の昼に手を振りながら都に行ったんじゃないか」
「あの人は元々ハンターだったんだから、ちょっとやそっとで死なないわよ。
それに、息子たちももう独り立ち出来そうだし、復帰しようかなって言ってたわ」
でも、アルの事は心配してたわねー。っと再び俺の体について心配しだした。
確かに、この世界の住民は男女関係なく、体ががっちりしている人が多い。
俺が160後半の痩せ型なのに対し、同い年の友人は180越えのガッチガチの体格をした奴が大半。
そんな周りの奴らを見ていたら、両親が心配するのも無理ないのかもしれないが、俺からしたら周りのヤツらが異常なのである。
まぁ、適応というか……逆境を跳ね返せる為の肉体が必要だったのかもしれない。
別に、この世界の生活レベルが過酷……という訳では無い。
水道も電気も通っておらず、不便と感じざるを得なかったが、別に苦になることは無かった。
それでは問題は何かと言えば、この世界には魔物――いやモンスターと呼ぶべき怪物がいる。
ファンタジー世界のような、スライムやゴブリン、オークといったものでは無い。
どちらかと言えば、モ〇〇ンのような――熊や狼のような動物がより凶暴となった姿に、地竜や翼竜といった恐竜に近い姿のモンスターが蔓延っていた。
だが、何の対抗策も無いわけじゃない。
モンスターを狩る者……ハンターと呼ばれる人たちの手によって、この厳しい世界でも人類は繁栄を許されている。
ハンターとは、倒したモンスターを剣や弓、鎧などの武具に加工し、再びモンスターを狩る狩人の通称だ。
得られるものも大きい職だが、リスクも大きい。
いくら良い武具を纏っていても、人はモンスターに比べて体力でも力でも劣っている。
その力関係が変わることは無く、油断や慢心などしていれば易々と殺られてしまう。
だからこそ、人は考え住処を工夫することで、この厳しい環境の中でも暮らすことができていた。
ある国は、城壁を構えてモンスターの侵入を防ぎ、人々に安寧を与え。
ある国は、モンスターでは暮らせない僻地に街を築き、独自の文化を発展させている。
どちらかというと、この村は二番目の部類に入るだろう。
隅に覆いやられる程に人は弱くとも、絶望することなく文明を発展し、命を積み重ねてきた。
それがこの世界の実情。
逞しいく、誇らしいと思う反面。どうしても生きにくさを拭いきれなかった。
「魔法が使えたら……な」
「……まだそんな事言ってんの、兄さん?
いい加減現実を見なよ」
「いや、必ずある筈なんだって!」
「まぁ、そんな力があるなら魅力的ね。
何も無いところから火や水を生み出したり、体に負った傷も瞬く間に治るんだものね」
憧れるわー。と言う母の顔は、少し寂しそうだった。
その視線には、そんなものは存在しないのよと、咎めるような意味が含まれているような気がした。
「……アル。
貴方は、もうすぐしたら独り立ちするんでしょう?
夢は持っていてもいいと思うけど、それにのめり込み過ぎたら、あっという間に呑まれちゃうわ。
厳しい事を言うようだけど、いい加減現実を見なさい」
「……そ、れは」
その視線に、何も言うことが出来ず視線を逸らした。
俺だけが知っている知識で、俺以外は知らない知識。
実際に見せられれば良かったのだろうが、今の俺にはそんなことは出来なかった。
何も言えず、重苦しい雰囲気が流れていると、思わぬ所から援護射撃がきた。
「母さん、それくらいにしようよ。
兄さんが言う力を信じる訳じゃないけど、僕達はこの国の外を知らない。
だから、もし……仮に……万に一つの確率で兄さんの言っていた力が――」
「おい!待て、アデル!
俺を援護するフリして、さりげなく貶してるだろぉ!!
なんで、そんな前置きを置くんだよ!!
そこは断言してくれても良いだろぉ!?」
「……庇ってるんだから、遮らないでよ。
そもそも、僕も半信半疑だし。
それに、具体的な全体像が掴めてる兄さんに比べて、僕にはその全体像が掴めないんだから、仕方ないよね?」
「いや、そこは涙ぐましい兄弟の絆的な――」
「……そんなものないよ」
「冷たい目で見ながらキッパリ否定してんじゃねぇよ!」
ふん。という馬鹿にするような息を吐きながら、上から見下ろされる。
こいつ、本当に可愛くねぇぇえええ!!
唇をかみ締め、中指を立てそうなのを我慢している俺と、そんな俺を涼しい顔で眺めるアデル。
兄弟喧嘩を始めそうになっているところに、母はため息を吐くと、こちらへと近づいて俺の頭に手を置いた。
「母さん?」
「別に貴方を否定するわけじゃいのよ、アル。
もう一度言うけど、夢を持って生きるのは良い事なのよ。
ただ、それにばかり執着しすぎたら。
いつかそれが壊れた時、貴方まで壊れてしまいそうだから……」
「母さん……」
「例え、虚言癖の奇人だとか、村一番の問題児、キテレツ嘘八百と言われても。
大事な息子には変わりないんだから」
「…………」
どうしよう。
ここは、涙を流すべき感動の場面なんだろうが、お袋の言葉のせいで涙が引っ込んだわ。
弟の毒舌も母に影響されたんじゃないだろうか。
本当、この親にしてこの子あり、な状態だよ。
……なら、俺は親父に似ているということなんだろうな。
俺が静かにドン引きしてる中、それに気が付かず頭を撫でる母と、それを見て肩を震わせる弟。
収拾つかないから、早く親父帰って来ねぇかなー。と思った直後、
『もしもし、メルさん?今大丈夫かい?
ちょっと急用があるんだけど!開けて貰えねぇかな!』
ドンドン、と重く響くノックと共に、それに負けず劣らずの野太い声が響いた。
家族3人で目を合わせて首を傾げながら、「は〜い」と母が応答するように扉を開けた。
「家族団欒の途中に申し訳なっ……、ん?
何か妙な空気が――」
「気にしなくていいよ、ランズのおっさん。
それより急用って?」
「おっと、いけねぇ!
良く聞いてくれよ、メルさん!アル!アデル!
都行きの荷台に載せる荷物を入れ忘れたみたいで、今からそれを届けに行こうと思ってんだけど……」
「「「だけど?」」」
「お前ら、道中の護衛を頼まれちゃくれないか?」
「あらあら〜」
「「……はぁっ!?」」