クソ、ブラック企業め!   作:白痴の蝸牛

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ちょくちょく自己解釈とか設定の捻じ曲げ、捏造があるので苦手な方は我慢して読んでください(不遜)


ブレイズ

「…ロドス辞めたい」

 

 ロドスの一流シェフたちが日夜その腕を振るう食堂で、俺は愚痴をこぼしていた。

 

「意外だな、もう秘書の仕事に耐えられないのか?」

 

 それを対面に座った黒いフードを深く被り、怪しげなフルフェイスマスクを装着する人物、ドクターが特に驚いた様子もなく食事を続けながら聞いている。

 

「ドクターぁ、あんた絶対意外って思って無いでしょ」

 

「ああ。生粋の戦闘狂である君が戦いをお預けされてデスクワーク、それももう2週間になる。僕の予想では3日目に仕事をほっぽり出してトレーニング室に逃げると思っていたんだが。」

 

「へえへえ。普段から戦闘以外は真面目に仕事しなくて悪ぅござんした。ですけど渡された仕事はなんだかんだやってるでしょ?」

 

「そこは同意しよう。報告書も丁寧な文体だしなんだかんだ資料精査や提出書類にミスもない。仕事を振られたときの心底嫌そうな顔と聞こえていないと思っている小さなため息が無ければ素晴らしい秘書だと言える」

 

「理屈っぽい文を見るの嫌いなんだからしょうがないでしょ・・・ドクターだってアーミヤちゃんから仕事の追加の連絡入ったら内心おんなじような気持ちでしょ?」

 

「いや、僕はその心境を顔と態度に出すなと言っているんだ。そんなだからケルシーを怒らせて本来は3週間で良い激しい運動の禁止を1ヶ月に延ばされるんだ。それに僕に出来ることは指揮と書類整理だけなんだ。頼られるだけ嬉しいよ」

 

「だからって飯食いながら書類捌いて俺と喋りながら報告書書くのは人間じゃねーですよドクター……普通に引くわ……」

 

 どうやってんだそれ。右手が動いたと思ったらバランス良く食事と書類整理と報告書の記入がされてんぞ。もう新手のアーツだろこれ……

 

 あっ今こめかみに手を当てて正面向きやがった。こいつ脳内でPRTS操作して電子書類も書いてやがる。意味わかんねぇ。腕の節々に脳味噌あるんじゃねぇの?この人よく虫食うし。

 

「隣の席、邪魔をしても大丈夫か」

 

 無言になった瞬間、3倍のスピードで腕を動かし始めたドクタームシ(ただいま命名)をいよいよ虫みてーな動きだなと気味悪がっていると、座っている席の隣から声が聞こえる

 

「アッシュか……ああ、チェスの約束をしていたな」

 

「エンシオの旦那!愛しのドクターの予定なら空いてますぜ」

 

「ふむ。ならば失礼する。息災か、我が盟友たちよ」

 

 長身のフェリーン、カランドが誇る貿易商エンシオの旦那。

 ロドスじゃシルバーアッシュの名を取りオペレーターとして日夜その剣術と威光でロドスに仇名す連中を薙ぎ倒す偉丈夫だ。

 

「いやそれがですねぇエンシオの旦那、俺がもうロドスを抜けたいって相談してるとこだったんですよ」

 

「ほう?意外だな、カクヨウ。お前の力を引き出せる環境と指揮官などロドスと盟友とこの私以外に存在しないと思っているが」

 

「いや。デスクワークに嫌気がさして愚痴っているだけさアッシュ。

カクヨウは運動、いや戦闘不足に陥るとこの手の冗談をよく口にするからね。戦線に復帰すれば元通りだよ」

 

 カクヨウ。ロドスでの俺のオペレーター名だ。考えるのめんどくさいから出身地からそのまま取ったが。

 てか旦那の目が一気にビジネスに傾きやがった。またヘッドハンティング考えてるなこの人。

 なーんで俺の上司や同僚はこうもワーカホリックしか居ないんだ。だから愚痴っても『自分より働いてからほざけ』みたいな反応しかされないんだ。ふざけんなブラック企業め。

 

「でもさぁ、ドクター。適材適所って言葉通り、俺にとっての適所は戦場なんですよぉ。骨と内臓に損傷が出たくらいで医療部の面々は慎重すぎますって。百歩譲って書類整理に回されるのは良いとして、トレーニングするぐらいなんの問題があるんですか」

 

「それを真面目に言っているなら次はイフリータとレッドと共に初歩的な健康医学を学んでもらう。骨が折れているなら医療部に行って処置を受ける。腹が痛いなら医療部に行って薬を貰う。ケオベでも知っているぞ……これはどうだ」

 

「心がもたねぇんですよ心が。俺は常に前線の緊張感が欲しいんですよ。エンシオの旦那からもなんか言ってやってくださいよ」

 

「ふむ……その手には……どう考えてもお前がおかしいだろう。相変わらず何をしているんだ。盟友よ、こいつには教育ではなくカウンセリングを施すべきだ」

 

「うへぇ味方がいねぇ」

 

 ちなみにおんなじことをケルシーセンセに言ったら入院処置にして担当医をガヴィルに、食事担当をハイビスカスにするぞと脅された。パトリオットの旦那を1人で相手したときより恐ろしいわ。怪我が悪化するだろその面子。

 

「まあ、君のことだ。たとえ冗談でもそれを言いふらして周囲を混乱させるようなことはないだろうが、あまり人通りの多いところでその言葉は言わないことだ。君のためにもな……チェックメイトだ」

 

「盟友の言う通りだカクヨウ。お前を我がカランドに招き入れたいが、周囲の人たちとの関係を清算して貰わなければ話が進まん。痴情のもつれを持ち込まれて内部分裂などたまったものではない。はやく1人を決めるか全員囲ってしまえ……千日手は……詰みか。腕を上げたな、盟友」

 

 ドクターの勝ちみたいだけどまだ書類書きながらチェスやってるよこの人。エンシオの旦那って戦術立案の評価は卓越だよな……?

ってかこの人たちマジで冗談だと思ってる?

 

「いや、これから退職届人事部に出す予定なんですけど」

 

「……………」

 

「ホラこれ退職届」

 

「……………笑えんぞ、カクヨウ」

 

え?あれ?なんで2人とも動き止めてこっち凝視するん?ドクター怖ぇえよ。マルチタスクの権化が処理が追いつかないって反応すんなよ。エンシオの旦那もなんでこれから大災害が起きるってニュースを聞いた人みたいなセリフと顔してるのよ。

 

「え、だってレユニオン壊滅させたじゃん?」

 

「ああ」

 

「……そうだな」

 

「もうレユニオン残党なんてミソっカスみたいな連中しか残ってないわけでしょ?」

 

「……まあ、大規模戦闘なんかはあまり起こらないだろうね」

 

「んで、ロドスにはオペレーターがまだまだいるわけじゃん?」

 

「……ああ。盟友の指揮で毎度の作戦被害は軽微なものだったな」

 

「俺要らないじゃん」

 

「「まて、なぜそうなる」」

 

 ハモった。おもろ。

 

「え〜?もうタルラやパトリオットの旦那みてーな正面からやり合いたいと思えるような強いつよーい戦士もいないし?居ても勝ち戦に変わりはないし?それにドクターいるなら俺が出ようがエンシオの旦那が出ようが行動予備隊が出ようが結果が同じでしょうが。結果のわかりきってる戦いなんて何が面白いのよ」

 

 ドクターも旦那も頭抱えてため息吐いた。失礼な。俺の生き方だからしゃーないでしょーが。

 

「それに知ってますぜ。今やらされてる秘書業務、将来的にオペレーターをそのまま人事部やら医療部に転勤させて働かせるためにオペレーターの能力を計る期間なんですよね」

 

「まて、それを誰から聞いた」

 

「ワルファリンの嬢ちゃんの実験に付き合ったら教えてくれた」

 

「あいつめ余計なことを………それにワルファリンが君に近づくのは禁止されていただろう?襲われたのか?」

 

「いんや、こっちから手伝ったんですわ。すぐ治るから腕は確かなんですぜワルファリンの嬢ちゃん」

 

 副作用がえげつない薬渡したり、麻酔を忘れてメス入れる癖は治して欲しいけども。

 

 この前アと共同開発したって言ってた薬とか顔の穴という穴から血が流れてきて大変なんてもんじゃなかった。最悪すぎる。

 

「2人揃って何してるんだ……だとして、ロドスを抜けてどこに所属するつもりだ?あまり言いたくはないが、君は感染者だ。身を置ける場所なんて限られてくるぞ」

 

「まあ極東(実家)に帰るか傭兵かなんかでしょうね。選ぶとしたら実家かなぁ残ってるか知らねぇけど。傭兵も悪くないけど集団行動必須なのがねぇ……」

 

 俺と一緒に重火器の炎が舞い踊る前線に近接武器一本で突撃するような気の合うバカに出会うのも、ドクターほど上手く俺を運用できる人間に出会えるのも100%無理だな。先に誰かがストレスで死ぬ。

 

「……ともかくだ、カクヨウ。僕個人としては今抜けるのはおすすめしない。絶対にだ」

 

「同感だ。今抜けてもらってはカランド貿易が手を出せん。さっきも言ったがお前は女性に対して手付きが多すぎる。このまま抜けると地獄の果てまで追いかけ回されることになるぞ」

 

「いやいや大袈裟だって2人とも、俺が辞めるくらいで怒る女の子なんてそれこそ嬢ちゃんぐら「今、なんて言ったの?カクヨウ」やったわ。逃げよ」

 

 おうふ。逃げようとしたら首根っこ掴まれた。

 痛い痛い。爪立ってる爪立ってるって!ああああミシミシ言ってる!骨が折れる!熱い!?アーツ!?(激ウマギャグ)ジュージュー言ってますよブレイズさん!?

 

「ドクター、シルバーアッシュ、ちょっとカクヨウ借りてくね?」

 

「ちょうど業務も終わったんだ。じっくりお話するといいよブレイズ」

 

「ああ。食堂も混んできたことだし盟友の部屋でチェスに打ち込もうと思っていたところだ」

 

「そう?ありがと。2人ともまたこんど飲もうね」

 

「いだだだだだだ!?爪を立てながら引っ張るな嬢ちゃん!なあ2人とも助けてくれよ!?こいつ最近妙に暴力的なんだよ!殺される!」

 

「「報いを受けろ女の敵め」」

 

 てめぇがそれを言うなドクター。これから精肉加工される家畜を見るような目で憐れんできやがって。ゆるさねぇ、後でアーミヤちゃんにスカジの水着みて鼻の下伸ばしてたって言っておいてやる。

 あっエンシオの旦那笑うの堪えてやがった。プラマニクスの姉御に最近旦那がエンシアちゃんを見る目が怪しいって吹き込んでやる。震えて眠りやがれ!

 

 

 

 

 

 

 

「……盟友よ、お前はブレイズが来ることを計算して食堂に居たな?ここだ」

 

「ではこれで受けよう……なんでそう思ったんだい?」

 

「ほう……ではこうだ。……カクヨウが言ったように今がオペレーターの事務処理能力の査定期なら、奴以外のオペレーターにも声がかかる。当然エリートオペレーターのブレイズにもな。恐らく昨日のお前の秘書担当はブレイズだったのではないか?」

 

「……正解だ。続けて」

 

「そこでお前は処理の難しい仕事を担当させ、彼女にストレスを溜め込ませた。今日その解消のためにトレーニングをさせるのが目的だな」

 

「……それから?」

 

「あとは簡単だ。激しいトレーニングで腹を空かせたブレイズが食堂に来る時間帯まで適当にカクヨウの査定を済ませ、判断が済めば食事に誘って食堂へ移動する。

 そこでカクヨウでは時間のかかる業務を自分で進めながら奴から話を聞き出してブレイズが食堂に来るまでの微細なタイムラグを調整する。愚痴を聞いておき、奴をヒートアップさせてブレイズに会話を聞かせれば晴れてお前の思い通りというわけだ。

 私とのチェスの約束はマッターホルンへ挨拶に食堂に来るからそこでしてしまえば良い、というところだろうか」

 

「ふむ。満点だよアッシュ。

 まあ、戦闘特化のオペレーターがロドスを辞めたがってる、なんて情報は真っ先に僕の元へ集まるようにしてあるからね。分かりやすかったかい?」

 

「ああ。偶然を装う、などお前にしては珍しい筋書きだったからな」

 

「ブレイズは真っ直ぐで感覚派だからねぇ。逆に凝らせ過ぎても直感で要らない事まで考えるからこんなところがちょうど良いのさ。カクヨウにはまあ、然るべき制裁をいつか与えないとロドスが痴情の持つれで割られると考えて居たからね。良い機会さ。それに」

 

「それに?」

 

「今日の展開だけを見れば『偶然を装っていた』のかもしれない。だけど僕はあらゆる手を使って彼にロドスを抜けることを諦めてもらう。今日ブレイズをけしかけたのはほんのキッカケの一部に過ぎない。彼が残ると言わない限り絶対に僕は策を練ることを辞めはしないよ。彼には彼の意志とは関係なく『人間として』幸せになってもらう。仲間に不当な暴力を振るわないことが彼の魅力であり僕を敵に回した際の最も大きな弱点だ」

 

「敵の思考と長所を奪い、弱点を突いてこちらの長所を押しつけるか。フフ……何百と見たお前の策略だな、盟友。カクヨウも厄介な者を敵に回したものだ」

 

「友人1人幸せに出来ずに世界は救えないからね……チェックメイト」

 

「54手……ふむ。どこから仕掛けていた?」

 

「19手前だね。ここはこうして……」

 

ーーーーー

 

「ねえ、辞めるってどういうことかな?」

 

「どーもこーも、ロドス辞めるってことだが」

 

「違う。辞める理由を聞いてるの」

 

「世界の戦場が俺を呼んでいるん「は?」アッスイマセン……」

 

 こっわ。バベル時代に培った条件反射謝罪が出ちまったじゃねーか。

 

 空き部屋に連れてこられたと思ったら、ブレイズに壁ドンされながら詰問されてるの巻。

 

 くそ、顔いいなこいつ。惚れそう。でもなんでこいつこんなに俺に絡むのかなぁ。ガキの頃から尋常じゃなく後ろにくっついて歩き回るようなやつだったけどなんでだ?

 

「本当にやめちゃうの?」

 

「このままロドスが『殺してこい』って命令を俺に出さないならな」

 

「せっかくこれから平和になるのに?」

 

「これから平和になるからだ」

 

「だめ」

 

 だめってお前なぁ……

 

「俺みたいな戦闘狂の殺人狂が居てもイメージ良くないだろうが。ドクターは企業のトップとしてものを考えるべきなんだよ。

 ロドスが平和事業にシフトするってんなら俺に向かって『お前みたいな気持ちの悪い狂人は何処とも知らない場所で孤独に野垂れ死ね』ぐらい言うべきだろ。

 アーミヤちゃんができない汚い仕事があの人の仕事の一部だ。信頼とやらでドクターが言えないってんなら俺が自分から辞めてやるよ」

 

 いやまあ、デスクワークしたくないだけだが。

 

「もしも君にそんな事を言う奴がいるなら、私がこの手でぶっ殺してやる」

 

 あらやだイケメン。これで歳上だったら惚れてたね。

 

「……ケルシーセンセもケルシーセンセだ。レッドを差し向けて俺を殺せば、俺は死に際に強い奴と戦えてハッピー、ロドスは汚ねぇ事してた事実を知る奴を消せてハッピー。最高の着地点じゃねえか」

 

「……」

 

……ん?あれ?部屋熱くなってない?もしかしなくてもお嬢ちゃん怒ってね?目に光無くない?なんでそんな肩を震わせてんの?

 

「……とにかく辞めるのは絶対に許さないよ。君は私とロドスで鉱石病を治して平和に生きるんだ」

 

「ええ……(不服)」

 

「それに」

 

「君が誰かに殺されるぐらいなら私が殺す」

 

「ええ……(恐怖)」

 

 なしてや。ワイが何したっちゅうねん神様。

 ああ人殺しか。妥当が過ぎるな。

 

 怒り?喜び?悲しみ?全部?どれにせよどす黒い、ぐちゃぐちゃの昏い感情がブレイズの瞳を支配している。

 まるで、愛する人に捨てられることに恐怖する、いたいけな少女のように。親に捨てられたことに絶望する、あの時となんも変わらねぇガキみてーに。

 

 なんでこいつはまたこんな顔してるんだ。こいつが何したってんだ神様(クソが)

 人殺しってか?不平等が過ぎるだろうが。

 

 

 

 

 

 縋るものが欲しかった。

 感染者になって、親に捨てられた私はロドスに行き着いた。塞ぎ込んで、誰とも意思の疎通を取ろうとしなかった。勝手にこの世で一番不幸なんだって思い込んで、周りの人に当たり散らした。

 そんな時に部屋にやってきたのがカクヨウだった。

 

「よっす。俺カクヨウってんだ、よろしくな嬢ちゃん。腹減ったろ。なんか作ってやるから待ってろ」

 

 ロドスに来る前から向けられた腫れ物に触るような扱いが嫌だった。憐れむような視線が嫌だった。鉱石病に感染して、家族に捨てられたことを再認識してしまうから。もう誰も私を普通には扱ってくれないんだって。

 

「美味いか?悪りぃな、ウチ今金が無くてよ。こんなスープしか作れねぇんだ」

 

 美味しくて、あったかくて。優しく頭を撫でるその素振りで、鉱石病に罹る前までは優しかったお父さんを思い出して、わんわん泣いたっけ。あの時のカクヨウの慌てっぷり、今思い出しても笑えるな。私を泣かせたの、AceやScoutに茶化されて怒ってたっけ。

 

「いいか嬢ちゃん、お前さんにはこれから沢山の辛いことが待ってるだろう。だけどよ、辛かったら俺ら大人を頼れ。

『大地は年齢を理由に慈しみを与えることはないが、子供が我々の希望であることは不変である』。ある人の受け売りだけどな。お前さんたちみたいな子供が心から笑って、腹いっぱい飯食って、部屋に戻ってうんと寝て、天災や鉱石病に怯えることなく明日を楽しみに今日を生きさせるのが俺らの仕事だ。

 だからな、今は泣け。不幸だと嘆け。親に会いたいって叫べ。吐き出した辛いことの何倍も俺らが幸せにしてやる」

 

 私にも、縋るものができたんだ。

 

 

 

 そこから年月が経って、私はオペレーターとしてロドスに籍を置くことが決定した。鉱石病で家族を、全て失った人たちの、私を拾ってくれたロドスの助けになりたかった。

 

 初めてウルサスでの感染者保護の任務に就いた時、カクヨウの部隊に配属された。良いところ見せちゃおうって意気込んでたら、いきなり部隊がウルサスの傭兵との交戦状態に陥った。

 後で分かったけど、雇われた理由は現地の非感染者が感染者を、そしてそれを保護しようとするロドスに敵意として仕向けたものだった。

 後ろに無抵抗の感染者がいようがお構いなしに重火器を向ける傭兵と、感染者を守らなければならないロドス部隊との間に緊張が走った。

 そんな極限状態の中、緊張感のない声が木霊した。

 

「なあ。交戦の意思あり、ってことで良いか?」

 

 カクヨウだった。気づけば部隊の列から抜け出し、傭兵たちに向かって歩いている。腰に下げている極東製の刀に手を掛け、一歩ずつ。

 

 何してるの!?までは声が出た。続く「危ないよ」は喋れなかった。

 

 カクヨウの顔が、いつもの優しい顔じゃなかったんだ。不快なものを見るような、それでいて何か楽しいことを見つけたような。

 

 侮辱するような笑みを浮かべ傭兵の1人が、カクヨウに向かって発砲した。……けど、カクヨウにその弾が届くことは無かった。

 

 斬ったんだ。銃弾を、剣で。理解が出来なかった。そもそも、抜刀を目で追うことすら不可能だった。傭兵も、ロドスの部隊も、私も驚いているとカクヨウが一言告げた。

 

「皆殺しだ」

 

 蹂躙だった。

 剣を構え、重火器を持つ敵の集団に真正面から突っ込む。正気の沙汰とは思えない。だけど、カクヨウは1人で6人の傭兵を全員斬り殺した。

 最小の動きで銃弾を避け、1人目を斬り殺した。

 殺した人を盾にして近づき、2人目を刺し殺した。

 近場にいた3人目の足を蹴り飛ばし、倒れたところで首を刎ねた。

 ナイフを手に近付いてきた4人目を、ナイフごと横薙ぎに斬り捨てた。

 至近距離でグレネードランチャーを使えない5人目の喉に剣を突き立て、横に斬り払った。

 腰を抜かして這いずって逃げようとする6人目の背中を踏みつけ、心臓を刺して回しながら剣を引き抜いた。

 

 30秒あったかどうかの殺戮。だけど世界が止まって見えた。飛び散る(あか)と、

舞い踊るロドスのロゴマーク()

 

「食いでのねぇ(ゴミ)どもが」

 

 吐き捨てるようにカクヨウは言った。違う。この人はカクヨウじゃない。でも。いや。なんで。

 

「医療部隊、保護対象の怪我の確認を頼む。動ける奴は死体の処理手伝ってくれ。ウルサス政府に見つかってロドスが責任追求されようもんならケルシーセンセによって俺がこいつらみたいになる」

 

 脳が理解を拒んでいる間に、誰かの顔はいつものカクヨウの顔に戻った。でも、その笑顔には返り血が付いている。私が何かを彼に言おうとした瞬間ーー

 

「う、動くな!」

 

 物陰から現れた子供が、私に向かってクロスボウを向けた。

 

 身なりからみて先程の傭兵たちの仲間なのだろうか。恐怖と緊張で両手を震わせながら、必死な声を張り上げている。

 

「オイオイ、その物騒なモン下ろせボウズ。そのねーちゃんのゲンコツ痛いぞ?今ならお尻ぺんぺんで済ましてやるぞ」

 

 あやすような、諭すようないつもの喋り方。それが子供の逆鱗に触れた。

 

「うるさいッ黙れ!す、少しでも動いたらこの人をーー」

 

「・・・あ?」

 

カクヨウが発した短い一言に、また全てが凍りつくような感覚に陥る。

 

「おいガキ。その先なんて言うつもりだ?」

 

「ーーあ、あ」

 

 発せられた敵意、殺意。私ですら震え上がった。10歳にも満たないであろう子供にはどれほどのものだったのか。

 

「『殺すぞ』か?なあ、おい。それ口にしてみろ。てめえが引き金引くより先に手首落としてそのあと首を落とすぞ」

 

 動けなくなった子供はクロスボウを取り落とし、腰が抜けてへたりこんでいる。恐怖で歯はガチガチと音を立て、涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだ。

 

「良い子だ。いいかボウズ?人に向かって冗談でも『殺す』なんて言っちゃあダメだぞ」

 

 カクヨウがクロスボウを拾って子供の頭を撫でている。なんで。どうして今のやりとりの直後にそんな顔ができるの。だって今、本当に斬るつもりだったでしょ。保護された時の私とそう年の変わらない子供を。

 脅しでもブラフでもない。刀に手を掛けていつでも飛び出せる態勢だった。実戦の経験がない私でもわかったよ、あの威圧感は本当に誰かを殺すことを意識しないと出せないものだもん。

 

「その言葉を使うときはな、本当に人を殺すときだけだ」

 

ひゅん。がっ。

 

 カクヨウが持つクロスボウから、あらぬ方向に放たれた矢がその先に隠れていた狙撃銃を持った7人目の傭兵の額を貫いた。

 

「チッ、粗末な罠を仕掛けやがって。俺に拘らずに撃っときゃ3人は殺せただろうが。………すまんすまん、なんでもねぇ。ボウズ、こいつらに家族か友達を人質に取られたんだろ?今いる保護対象の人数と出発前に説明された人数が合わないのが気がかりだったんだ。お前足に源石生えてるし感染者だろ?」

 

「えっ、あの、う、うん」

 

「家族が捕まった場所とか覚えてるか?」

 

「こっち」

 

「良い子だ」

 

 ますます、カクヨウがわからなくなっちゃった。

 

 

 

 

 移動中、血の気のない顔を心配した他の部隊の人とカクヨウについて喋った。

 

「あー、そっか。ブレイズちゃんカクヨウさんの戦い見るの初めてだもんね。でも今日は一段と派手だったわよ」

 

「カクヨウ隊長、ロドスの基地内じゃあんなに優しいのに戦闘が始まるとなんて言うか、タガが外れる?みたいに暴れ回るからなぁ。でもまあ、俺らはみんな慣れたもんだよ」

 

「……みんなおかしいとは思わないの?カクヨウが人を殺したんだよ?」

 

「まあ、みんな最初は怖かったわよ。返り血塗れで平気な顔して人殺ししてるんだから。でもね、今日は分からなかったと思うけどカクヨウさんは絶対に不必要な殺しはしないのよ」

 

「武器を持っていて、感染者の虐殺が目的。逃せばウルサス政府に告げ口されて、ロドスが責任追求されるかもしれない。そんな敵を生かすなんて選択肢は無いってことだな。

 知っての通りウルサスは感染者を徹底的に弾圧するような国風だ。感染者に権利を、なんて謳うロドスは文字通り目の上のたんこぶ、良くて作戦に関わった人間の身柄を要求して見せしめに処刑、最悪戦争を仕掛けられて全員殺される。

 それに中途半端に殺さずに痛めつけて『感染者の集団に襲われた』なんて言われたらこの国での感染者の立場は更に悪化する。

 俺はカクヨウ隊長の行動を間違っているとは思わないし、なんなら命を救われたんだ。感謝はすれど糾弾するなんてお門違いだと思うね」

 

「……必要だから殺した?」

 

「良い?ブレイズちゃん。これはカクヨウさんからの受け売りだけど、『綺麗事で世界は変わらない』のよ。殺人が正当な行為と言われる世界なんてあってはならないわ。でも、正当な理由を盾に私たち感染者を殺そうとする人たちはこの世界にごまんと居るの。その人たちと正しさで話を解決しようとするのは残念ながらとても難しいことなのよ。貴女は賢くて優しい子だから、今は理解は出来ても納得はできないと思うけど頭の片隅に入れといて」

 

 何でも見透かされちゃう。

 

 お前は間違っていない、殺人は間違った行為だ。でも間違っていないだけじゃ人は救えない。

 

 じゃあ、正解は?誰も分からない。分からないだけが増えていく。

 知恵熱と混乱で泣きそうになっているその時。

 

「おーい嬢ちゃん、ちょっと来てくれ」

 

 最悪のタイミングでカクヨウから声がかかった。

 

「ん?泣いてんのか?昼飯に当たったか?」

 

「………」

 

「ほんとに腹痛えのか?オイオイ頼むよ、これからまだまだ行動するんだぜ?ちょっと時間やるからさっさとトイレ済ませてき「……カクヨウはさ、」ん?どした?」

 

「あの時あの子が殺すって言ってたら、どうしたの?」

 

「んー知らね「答えて」………」

 

「………そんなに俺が人殺しだったのがショックか?」

 

「答えになってないよ」

 

「チッ、めんどくせぇな。だからガキを戦場に連れていくのは反対だったんだ」

 

「私はもう子供じゃない」

 

「いんや。ガキだね。青いケツを殻で隠してるヨチヨチ歩きのヒヨコだ。見ろ、人が死んだだけでピーピー騒いでるじゃねーか」

 

「人が死んだら騒ぐのは当たり前でしょ」

 

「だからガキなんだよ。この世界に死なんてモンは掃いて捨てるほどありふれてる。じゃあよ、昨日ロドスのオペレーターが何人死んだかわかるか?」

 

「……そんなの、「2人だ」……」

 

「1人は急激に成長した源石クラスターが脳を傷つけて死亡。もう1人は作戦の途中に敵からの砲撃を食らって死亡。お前はその2人が死んで心が痛んだか?救いたかったと思ったか?そんな訳ないよな知らなかったんだから。それでもまだ騒ぐのか?」

 

「……でも「でもじゃねぇよ、黙れ」

 

「理不尽を目にして声を上げずにはいられない。何でもかんでも助けたくて仕方がない。でも知らないものは仕方がない。なんだそれ、随分と都合が良いな。本気で綺麗になりたいならスジを通せ。そして通せるだけの強さを身につけろわがままばっかのクソガキが」

 

「………ぅぁ、」

 

「大体なんださっきの……って、え?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

「えっ!?ガチ泣き?うわうわごめんごめん!嘘嘘!言い過ぎた!言い過ぎたってば!あああああどうしよう!?誰か来てぇ!」

 

 そのあとカクヨウは部隊の人に「ブレイズちゃんを泣かせたな?」とボコボコに殴られていた。

 

「ぐすっ、うぐっ、」

 

「あーもーごめんって。俺が大人気なかったよ」

 

「……許さないもん」

 

 あの子の家族を救助してロドスのヘリの着地予定地に向かいながら、私はカクヨウにおぶられていた。

 

「だけどよ嬢ちゃん、いやブレイズ。これだけは覚えておけ。世の中にゃ俺らを害虫か何かだと思ってる連中が沢山いる。んでよ、その連中ってのは大概話が通じないもんだ。話の通じねぇ相手に対話を求めるな」

 

「………」

 

「話し合うことができない相手にどれだけ言葉をかけても無駄だ。それは間違いなんだ。でも最初から話し合うことを放棄するのも間違いだ。いいか、話ができるやつとそうじゃないやつを見極められるようになれ。それがなんもかんも間違いだらけのこの世界で長生きする方法だ。俺はお前の優しさが好きだ。だからそれが理由で死んでほしくない」

 

「………うん」

 

「それさえ分かればもう大人だ」

 

「………本当?」

 

「本当だとも」

 

 なんだ。優しいカクヨウのままじゃん。

 そのまま何事もなくロドスへ帰還ーするはずだった。

 

 着地予定地にはヘリの残骸と、数時間前に戦闘した傭兵たちと同じ格好の連中が、ロドスのヘリパイロットと思しき人を人質にとって待ち構えていたんだ。

 

 カクヨウは私を地面に下ろすと、変わらない調子で傭兵のリーダーらしき人に話しかけた。

 

「あー、大体察したからなんも言わんでいいぞ。んで?どうすれば?」

 

「……ムカつく男だ。この状況ですら余裕か?飲み込めていないだけか?まあいい。これから皆殺しにするんだ、語ることもないだろう。お前は武器を捨てて手を上げろ。そのままこちらまで歩いてこい」

 

「へーへー。ほい、嬢ちゃんこれ頼むわ。結構高いから丁寧に扱ってね」

 

「ねぇどうする気!?殺されちゃうよ!」

 

「大丈夫大丈夫死なねーよ」

 

「早くしろ!」

 

「あん?うっせぇよ。せっかちはモテないぞ?」

 

「どこまでもコケにしやがって……!」

 

 いつもと変わらない足取りでカクヨウが歩を進める。

 そして傭兵のリーダーと5mという距離まで近づいた時ーばん。ばん。ばん。

 

 カクヨウが倒れた。頭から大量の血を流して。

 

 ばちゃ。びちゃ。カクヨウの脳漿と返り血が私の顔にかかる。ああ、大口径の銃で狙撃されたんだな。なぜか頭は冴えている。

 

「え?」

 

 自分でも間抜けな声が出たなと思った。頭は冴えているのに、体は勝手に動く。目眩と動悸で立っていられない。

 

「カクヨウ?」

 

 カクヨウはピクリとも動かない。お腹の方からも血が流れ出して、大きな赤い水溜まりを作り出している。

 

「隊・!」

「カ・ウさ・!」

 

 誰かの声が聞こえる。でも誰だろう。分からなかった。

 

「ハッ!・の程・か!や・・剣がア・・・ニットーー」

 

 誰かがカクヨウの頭を踏んで笑っている。ひどいよ。やめて。カクヨウが死んじゃう。

 

「嘘、だよね?カクヨウ」

 

 地面を這いずりながら倒れたカクヨウに近づく。

 

「嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘だ、ウソだ、うそだ!」

 

「五月蝿いぞ」

 

 お腹を蹴られた。1回、2回。痛い。痛い。私が吐いた血がカクヨウにかかる。

 

「あゔっ……あ"っ……カクヨ"ウ……死んじゃう、やだ、だめ、死んじゃやだ……」

 

「チッ、石の混ざった薄汚ねぇ血で靴が汚れたじゃねぇか。感染者の分際で人間様のフリしやがって、次はお前だぞフェリーンのガキ」

 

 カチャ、と音を立ててその男が持つハンドガンが私の頭に当てられる。

 そんなことよりも、カクヨウが死んじゃう。カクヨウが……

 

「なあ、今こいつに何したんだお前」

 

 カクヨウが、え?

 

「……は?」

 

「教えてくれよ。今、こいつに、何したんだ?」

 

 頭から血を流したまま、カクヨウがいつのまにか私から取った剣を傭兵のリーダーの腹に突き刺していた。

 

「……まあ、死なねーよな。離しちゃくれねぇ」

 

「貴……様ッッ!!!何故……!」

 

「う、そ……なんで」

 

「言ったろ?死なねーよって」

 

「お、お前ら!こいつを撃って人質を殺せ!」

 

 痛みと恐怖に駆られたリーダーが仲間に指示を出すと、一斉に傭兵たちが武器を構えて突撃してくる。中にはアーツの詠唱を始める者もいる。

 

「死の淵でも良い判断だ。戦士として小細工なしでやり合いたかったな」

 

「がっ!?」

 

「なっ!?ぎゃあ!」

 

 カクヨウは刺した剣をそのまま横なぎにして隊長の胴と足を真っ二つにして、アーツを乗せていたその斬撃は真空波を作り出し、剣線の延長線上にいたパイロットを人質に取っている傭兵ごと切り裂いてしまった。

 

「けどよ、こいつを蹴ったのはいただけなかったな。秒で全員殺す」

 

 大殺戮。響きわたる悲鳴と絶叫が、さらに後から響く悲鳴と絶叫に塗り替えられる。

 

 刺して、殴って、斬って、蹴って、投げ飛ばして、絞め殺して。

 

 最後の1人の鳩尾に剣を突き立て、剣の峰の下に肩を添えるように体を捻って潜り込む。そのまま立ち上がるように切り裂いて、血の雨が降る。数秒で20名以上の処理が終わってしまった。

 

「おーい、終わったぞー」

 

 いつもの声を聞いた瞬間、みんながハッと目を覚ましたように動き出す。

 

「医療班A、Bは止血と応急手当て、緊急用止血パックの準備!C班はロドスに繋いで緊急時用の医療設備のあるヘリを要請!D班はロドスの医療部に直接繋いで、オペの準備を手配してもらって!E班はブレイズの臓器と骨の損傷具合の確認、適切な治療だ!」

 

「急げ!カクヨウさんを死なせるな!」

 

「こちらオペレーターカクヨウの行動隊です。医療用ヘリを緊急要請します。はい。はい。命に関わる重傷者が一名。骨折、臓器損傷の疑いがある重傷者が一名。カクヨウ隊長とブレイズです。……了解です。随時連絡します。…….ヘリの到着20分後です!」

 

「遅い!10分で来させろ!ロドスのエリートオペレーターを死なせたいのか!」

 

「はい。ええ。はい。ですのでオペの準備をお願いします。弾丸の摘出、頭蓋骨の縫合、臓器摘出と人工臓器の入れ替えになります。はい。私たち医療隊が執刀します。ケルシー先生とワルファリン先生にも応援要請を」

 

 一瞬でもの凄い判断力だ。30人の医療隊員が、各々がやるべきことを完璧に把握してこなしている。舌を巻くようなペースでカクヨウの治療が進められていく。ていうか、ふと思ったけどこの隊って私とカクヨウ以外医療オペレーターなんじゃ……?

 

「はい、ブレイズちゃんも観ましょうね。息苦しさはない?わかったわ。黒い血を吐いていたわね、蹴られた場所から考えて胃や腸に傷がついているかも知れないわ。恐らく肺は無事ね。これお水。お口を洗ったら、こっちの食塩水でうがいしてね。肋骨が折れた可能性があるわ。深呼吸してーー」

 

 『慣れたもんだよ』の言葉の意味を今理解した気がする。

 でも、一番の重傷者が一番慣れてるような気がする。自分と敵と私の血塗れのまま保護対象の子供達にお菓子あげてる……

『良く歩いたな、足痛くないか?』って?やかましいよ。今の君を見て足痛いなんて言える子いないよ。親御さんがめちゃくちゃ怖がってるよ……

 

「なー、誰か缶切り持って無い?おやつにみかんの缶詰持ってきたんだけど忘れちった」

 

「「「「「あんたは黙って治療を受けろ!!!!!」」」」」

 

 やっぱり、カクヨウはカクヨウだ。

 

「えー!頑張ったからみかん食べていいだろ!?」

 

「あんた今自分の状態わかってんのか!?腹に穴あけてどうやってもの食うんだよ!?」

 

「は〜?エリートオペレーターがこんぐらいで飯食えないわけねぇだろうが!エリートオペレーター試験の内容もっと痛いぞ!詳しくは言えんが!なあパイロット君!頑張った上司を労わない連中になんか一言言ってやれ!」

 

「カクヨウさん……俺が不甲斐ないせいで……大怪我を……」

 

「え?なんで泣いてんの?みかん食うか?うまいぞ」

 

 だって不可抗力でも自分のせいで大怪我させた人がその絡み方してきたら怖いよ……てゆうかエリートオペレーター試験が銃撃されるより痛いって嘘だよね?……だよね?

 

「今回の隊長の戦い方、見たかしら?」

 

「え?……ううん、わからなかった」

 

「ずっとね、私たちを守ってた。敵の武器が私たちに向かないように。いえ、最初に銃撃された時から。3発の弾丸のうち、正面からお腹に当たった1発は貴女を狙っていたのよ。確証はないけど……カクヨウさんは多分あの弾丸をよけるなんて造作もないと思うわ」

 

「でも、避けなかった。避けたら貴女が死んでしまうから。それはカクヨウさんにとって、撃たれるより痛いことなのよ」

 

『スジを通せ。そして通せるだけの強さを身につけろ』。

 ああ、こういう意味だったんだ。

 

「よー嬢ちゃん。怪我はどんなもんだ?」

 

「軽い臓器壁面の損傷程度ですわカクヨウ隊長。命に別状はありません」

 

「そいつは良かった。なあ。さっきの答えだけどよ。はぐらかすのも性に合わないから言っとく。……答えは『躊躇なく殺す』だ。人間は好きだ。子供は特にな。だけどよ、それだけだ。俺から仲間を奪うってんなら、誰だろうが許さん。俺が相応だと思う罰を与える」

 

 なんて歪んだ人なんだろう。なにもかも押し殺して、私たちを守る。身も心も全部捧げて。じゃあ、君のことは誰が守るのさ。君の心はどうなるのさ。いつか、いつか私が君を守れるぐらい強くなれば、君は心を殺さずに済むのかな。私たちっていう重りを外して生きられるのかな。

 

「……私、強くなるよ、カクヨウ」

 

「そっか」

 

「うん」

 

「理由を聞いても良いか?」

 

「ロドスでみんなと君を幸せにするために」

 

「……期待してるぜ、ブレイズ」

 

 わしゃわしゃと頭を撫でる手。この時から、君が大好きだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「わかったわかった。今はやめないから勘弁してくれ」

 

「……本当?」

 

「ホントウ。オレ、ウソツカナイ」

 

「確かにね……嘘だったら酷いよ?」

 

 数時間のお嬢ちゃんの説得の末、俺が折れた。アーツで部屋が熱されて熱いはずなのに嬢ちゃんの目は氷点下。ブレイズじゃなくてブ○イザードに改名しろよ。

 

「なんでそんなに俺に執心気味なんだ。俺なんかしたか?」

 

「……あれだけ人の心に入り込んでわからないの?普段は察し良いのに?」

 

「いや、全く分からん」

 

「はぁ……これだからカクヨウはダメなんだよ」

 

 何ぃ?聞き捨てならんなぁ?

 

「んだとコラ。大体なんでかを言わないそっちに問題があるだろ。ハッキリ言えハッキリ」

 

「い、言えるわけないでしょ!?君馬鹿じゃないの!?乙女に何言ってるの!大体君こそこれだけアピールしておいてなんでわからないのさ!」

 

「わからねーもんはわからねーだろうが。まったく……あの頃の可愛い可愛いお嬢ちゃんはどこへ行ったんだ」

 

「今は可愛くないってこと?」

 

「は?いやめちゃくちゃ可愛いだろ」

 

「……そういうところだよ」

 

 あっ、そっぽ向いて部屋から出てった。なんなんだ最近の若いのは。あれか、思春期か。遅くね?




 カクヨウ
・年齢不明、経歴不明、種族も不明。出身は極東とは言っているがオペレーター名にもなっている極東の鶴洋地方は数百年前に戦争の惨禍で消えた土地。
 ロドスにはバベル時代から在籍。
 戦闘方法は至ってシンプルな極東の剣を使った接近戦。だが、頭のおかしい耐久と自己判断でゴリ押しするのでチームワークは皆無。ロドスでは主に殿とボス格とのタイマン耐久に使われる。
 絶望的に女心に疎い。人の心あるのかレベル。ブレイズにこんだけ人生の楔打ち込んで「俺なんかした?」とか平気でほざく。

 ブレイズ
・小さい頃からカクヨウにお世話されて男性感がぐっちゃぐちゃにされたかわいそうな子。かわいい。
 カクヨウが幸せになりたくない的な発言しすぎて病んだ。10割あいつが悪い。

 ドクター
・性別不明、種族不明、経歴不明。カクヨウには正体が昆虫かAIかなんかだと思われてる。
 カクヨウによってアーミヤとケルシーにスカジの水着に鼻の下伸ばしてたって言われて死にかけた。
 カクヨウ並みに女心に疎い。機微だったらアーミヤとケルシーが何故怒ってるか分かるし対策も打てるからね。
 
 シルバーアッシュ
・過去の恩と高い能力を評価してカクヨウを引き抜きたい人。でも雑に引っこ抜くと芋づる式に『重くて』『強い』女がいっぱいくっついてくるから手が出せない。カクヨウによって埋まりかけていたプラマニクスとの溝がまた深まりかけた。
 
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