クソ、ブラック企業め!   作:白痴の蝸牛

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チェン

「我做不到。罗多斯辞职」

 

「……なぜ炎国語?そしてまた言っているのか?」

 

「だってさあ!1ヶ月経ってやっとトレーニングできると思ったらまた禁止令出たんですよドクター!?マヂ無理……ロドスやめょ……」

 

 俺の名はカクヨウ。ちょっと本気でトレーニングしたら再び運動禁止を命じられた哀れなオペレーターだ。

 

「スカジと本気の戦闘をしてシミュレーションルーム内を更地にした君が悪いだろう。設備は壊す、大怪我はする、ケルシーに使用が禁止されている方法でアーツは使う。禁止令で済んでいるだけ寛大だと思うべきだよ。大体ロドスの船が物理的に傾くほどのパワーをぶつけ合う戦闘シミュレーションってなんなんだ」

 

 しゃーないやん久しぶりに楽しかったんだから。気づいたら瓦礫と俺の血で辺りがめちゃくちゃだったんだ。怪我もアーツの後遺症も放っときゃ治るし。

 

「へっへーん」

 

「褒めてないぞ」

 

「知ってる。そんなことよりやっぱりスカジは良い戦士だ。俺の持ち得るだけの技術と戦略をほとんど使い切ってなお受けたダメージは額を浅く切るぐらいってンだから痺れるね。

 初見殺しの技を出そうが策に嵌めて動きを止めようが力だけで全部ひっくり返してくる。駆け引きも糞もない純粋な暴力!『当たるか当たらないか』の思考でこんなに強いやつは見たことねえ!

 リミッターを外した俺の腕力で防御してもその上から全身を圧し折らんばかりのあの馬鹿力!最ッッッ高!最高だぜスカジ!愛してるぞマジで!興奮してきたな、再戦だ!今回はケルシーセンセに止められて出せなかったが、次は奥の手まで全部出し切ってやる」

 

「やめてくれ。君が全力を出したらスカジも全力を出してしまう。ただでさえ彼女は手加減が苦手なのだから次はロドスが傾くどころか真っ二つに割れるぞ」

 

 興奮のあまり座っていたソファから勢いよく立ちあがる俺にドクターは相変わらず馬鹿を見る視線を飛ばしてきやがる。

 

「少し静かにしないか馬鹿者。貴様は怪我の治療中という名目で仕事を免除されてはいるが、だからといってドクターの仕事を妨害するのは看過できん」

 

 冷めやらぬ興奮に熱される俺と、暑苦しい馬鹿に呆れ半分の冷ややかな視線を向けるドクター。いつも通りの空気の中に馬鹿を見る目がもう一つ。

 

「んあ?居たのかフェイゼ」

 

「居たのっ……!?貴様ッ!今日のドクターの秘書は私だ!最初から部屋に居ただろうが!」

 

「そうでしたっけドクター?」

 

「ああ。ずっと僕の隣で仕事をしていたよ」

 

 フェイゼか。マジで気づかなかった。こいついじると面白いんだよな。

 

「ふーん。どうでもいいや。でさぁ、ドクター。話の続きなんですけどよ、」

 

「おいカクヨウ!どうでもいいやとはなんだ!もっとなにかあるだろう!」

 

「え?何が?」

 

「本当に私の存在を認識していなかったのか!?そんなに興味が無いのか!?」

 

「うん」

 

「〜〜〜ッ!もっとなんか、こう、あるだろう!私を労う言葉が!」

 

「ねーよ。静かに仕事してろ。……でさ、やっぱりスカジと同族ってことはグレイディーアとスペクターも全力だと相当強いと思うんだよな〜!よし、今度ロドスのオペレーターで天下一武闘会開こうドクター!」

 

「貴様ァ!この*龍門スラング*が!そこに直れ!叩っ斬ってやる!」

 

 うわははは。ペン圧し折りやがったコイツ。やっぱ期待を裏切らない煽り耐性の低さだな。

 

「まあまあ落ち着いてチェン。カクヨウも煽らない。チェンは怒ると手が付けられないんだから」

 

「手がwww付けられないwwwファーwww聞きましたかおチェンさんwwwもうすぐ2×歳なのにあなた手が付けられない女だそうですよwwwだから年齢イコール彼氏がいたことない期間なんですよwww本当に男に手を付けられたことがないもんなぁ!?www」

 

「ヒュッ」

 

「ーーーーーーーーーー殺す」

 

 ぎゃはははは、今の顔ホシグマとスワイヤーとユーシャに見せたかったな。まあここらでやめとくかドクターが「ヒュッ」って声出したし。一応無抵抗で殴られとこ。

 

……フェイゼさん?赤霄はやばくないですか?シャレにならないってマジで。それで斬られたら痛いからほんとお願いぎゃああああああ!

 

 

 

 

 

 

「あああああああ!やめろフェイゼ!わかった!俺が悪かった!マジで悪かった!なんでもする!なんでもするから許してくれ!」

 

 振り下ろされた赤霄を白刃取りで受け止めながら全力謝罪。笑いたきゃ笑え、女の年齢イジって死にましたとか地獄で笑いもんだコンチキショー。

 死なねぇけども!だとしても無様すぎる!

 

「……なんでも?」

 

「ああ!なんでもする!」

 

「………なんでも」

 

「……チェン?ダメだよ」

 

「……わかっているドクター、皆まで言うな。それにこの男はその手の事ははぐらかしてなかった事にするからな。それに私もそうやって繋ぎ止めるのは本意ではない。……しかしだな。その、邪な考えが出てきてしまうのは仕方がないんだ」

 

「……2人とも何の話してんだ?」

 

「ええいうるさい、ならば今日の夜は空けておけ。飲みに行くぞ」

 

「まあ今日は暇だしお前がそれで良いなら構わねーけどよ……俺酒弱いの知ってるよな?」

 

「お前だからだ」

 

「?どういうこっちゃねん」

 

 酒弱いやつと一緒に酒飲んで何が楽しいんだ?

 

「……気づいてあげなよカクヨウ。チェンは今決死の思いで君をデー「ああああああ!!!」……すまなかった。僕が言うべきではないね」

 

「?????

 まあ酒飲むなら他にも誘うか。ブレイズの嬢ちゃんとかーーあの、おチェンさん?アーツ反応出てますよ?なんで怒ってるんですか?怖いから睨まないで下さいいやマジで」

 

「……あの黒髪のフェリーンはダメだ。絶対に。なんだ、その、奴は酒癖が悪いだろう。店に迷惑をかけたくない。誘うなら他の奴、それも男にしろ。女は絶対に誘うな」

 

「男?ミッドナイトかエンシオの旦那ぐらいしか一緒に酒飲まねーんだけど。てか野郎と酒飲んで楽しくないだろ、パラスちゃんとかの可愛い子と一緒に飲みたいね俺は」

 

 ガン!

 

「何何何何!?なんでペン投げたフェイゼ!?おい刺さってる!壁に刺さってるぞコレ!?」

 

「私という、女が、居ながら、可愛い子と、一緒に、飲みたいだと?何をふざけたことを抜かしているんだ貴様」

 

「え?だってフェイゼ可愛くないじゃん」

 

「ヒュッ」

 

「……………は?」

 

「嬢ちゃんより暴力的だし?ケルシーセンセとおんなじぐらい愛想ないし?パラスちゃんと違って無理に酒飲まそうとするし?この前とか手伝ってやるからお前も書類仕事をしろとか言って嫌いなことやらせるし?」

 

「………」

 

「その『こいつ正気か』みたいな視線は何ですかドクター。まあ何だ、フェイゼ、ちょっとばかし取っ付きにくいとこどうにかしないと本当に男できんぞ?」

 

「カクヨウ」

 

「ん?」

 

「チェンを見てみろ」

 

「フェイゼを?……あッちょっごめんフェイゼ!泣くな!」

 

 顔を両手で覆って肩を震わせている。ガチ泣きじゃねーか!フェイゼそんなに彼氏欲しいのか!?

 

「許さない……もうフミヅキさんに『カクヨウに心に消えない傷を付けられた』って言いつけてやる」

 

「ヤメロォ!それイェンウもキレるじゃねーか!あの人らキレたらおっかないんだからマジでやめてくれ!」

 

 鼻声でそんなん言われたら100%曲解するじゃねーか!やめろ!

 正直あの人たちにビビってフェイゼに男が寄ってこないとこあると思う。肩書き的にも実力的にも。

 イェンウなんか普段は飄々としてるくせにフェイゼが関わると途端に焦るし感情的になる。しかもフェイゼが近衛局からロドスに移ったときからその面が顕著になってるし。

 フミヅキちゃんはフェイゼ関連の色恋沙汰なんてもう怖いとかそういうの飛び越えて修羅になる。夫婦揃って天災よりおっかない。

 

「なあドクター頼むよ!フェイゼを止めてくれ!龍門とロドスが戦争するハメになっちまう!」

 

「君のイタズラの尻拭いにロドスを巻き込まないでくれカクヨウ。有事の際は君の両手両足を縄で縛ってイェンウ氏に引き渡すことにするよ」

 

 クソ、ドクターが裏切りやがった!100%自業自得だけど!

 

「………可愛くないって言った」

 

「バッカお前は可愛い系じゃなくて美人系だろ!なんなら可愛い上に美しいだろうが!」

 

「………私より他の女が良いのだろう?」

 

「わかったから!誰も誘わないから!あーあーなんかお酒飲みたいなー!具体的には凛としてて種族が龍で水着がよく似合う可愛くてカッコ良くて美人で剣士なガールとサシ飲みしたい気分だなー!」

 

「ほう、言ったな?」

 

……ぬが。こいつ嘘泣きしてやがった!サシ飲みしたいって言った瞬間手を外して悪い笑顔でこっちを見てやがる。ハメやがったな!?おいドクター笑ってんじゃねぇ。

 

「フフフ……慌てる君の姿は面白いな。フミヅキさんに弱いのは相変わらずか」

 

「マジで焦ったぞお前……」

 

「元はと言えば君のイタズラが度を越しているのが悪いだろう。君だから許すが、同じことを他の男に言われていたら本当にどうしたかわからない。命拾いしたな」

 

……確かに俺が悪いけどこのドヤ顔はムカつく。いかんな、フェイゼと喋るとどうしても意地悪したくなっちまう。

 

「……へぇへぇ。じゃあ店に予約取っとくわ」

 

「最初から聞き分け良くそうすればいいんだ。……この店だ。頼むぞ」

 

「おー、いい感じだな。内装もメニューもおしゃれだな。フェイゼも今度一緒に行こうな!」

 

「ああ、今度私も……今度?まてカクヨウ貴様、なんの話をしている?」

 

「え?だって今日は凛としてて種族が龍で水着がよく似合う(であろう)可愛くてカッコ良くて美人で剣士なガールのタルラちゃんと飲みに「本当に殺されたいのか貴様」

 

 わーお目がマジじゃん。おもろ。

 

 

 

 

 

 

 

「やはり酒も料理も美味いなここは」

 

「本当だ、美味い。これなら酒が飲めなくても口寂しいことは無いな」

 

 昼のしょーもない争いから7時間後。俺らはフェイゼに勧められた店に来ていた。

 

「何を言うんだ、今日は飲みたい気分なんだろう?とことん付き合ってもらうぞ」

 

「………フェイゼお前そういうとこだぞ」

 

「フン。男なぞ欲しいとは思わん、君がいるからな」

 

「え〜?友人関係優先かよ〜?フェイゼが初恋でどんな堅物を好きになるのか密かに楽しみにしてるんだぜ?……なんだ?信じられないもの見る目してるけど?」

 

「……いや、別に……なんでもない」

 

 深い深いため息と共に少し悲しげな顔を見せるフェイゼ。……なるほど、俺を酒に誘った理由が分かったぞ。

 

「なあ、フェイゼ。……初恋なのか?」

 

「!?ななななな何を!?」

 

 間違いない。フェイゼは今恋してる。しかもピュアっピュアな初恋だ。

 

「皆まで言わなくていい。察してる」

 

「……気づいてくれたのか?」

 

「ここまでお膳立てされりゃあな。……何だ、やめといた方がいい。愛する人を作っても揺らがない。妥協しない。きっとなんもかんも押し殺して、信念を通すまで止まらない。そういう男だ。それでも……愛せるか?」

 

「……ああ。心の底から愛している。他の男なんて考えられんさ」

 

「敵は少なくないぞ」

 

「望むところだ」

 

「そうか……で、ドクターの好物だけどよ、あいつ意外とオムライスとかハンバーグみたいなガキっぽいの好きなんだ、作ってやれるとポイント高いぞ!」

 

「……何の話だ?」

 

 え?何の話ってそりゃあねぇ。

 

「ドクターの好物だよ。胃袋掴みゃあ、ライバルたちにも差をつけられるってことよ!アーミヤちゃんにケルシーセンセ、スカジにテキサスにエクシアetc。全員強敵だがよ、こいつら自炊のじの字も知らねえんだ。まあエクシアはアップルパイ焼けるけど。安心しろフェイゼ、アーミヤちゃんには悪いが俺はお前を応援してるぜ」

 

 フェイゼの初恋がドクターって話だろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー!フェイゼにも春が来たか!でもあのタラシなら納得だな!今日は奢らせてくれ!」

 

「ーーーーー」

 

 この男は何と言った?

 私が?ドクターに?恋?

 なんなんだ 何の話をしているんだ

 私の告白を受け入れたんじゃないのか?

 

 いつもの下らない意地悪か?また私を弄んでいるのか?違う、違う、違う。

 だって。こいつが私に見せているその顔は。この純粋な笑顔は。

 鉱石病に感染して絶望する私を慰めたときの顔だ。ウルサスの中枢から私が生きて戻ったときの顔だ。タルラと私が分かり合えたときの顔だ。ーーーお前に、恋をした理由だ。

 

 恋。いつからだ。私はこいつにいつから恋をしていた?

 

 あの時、この時、その時。わからない。区別がつかない。どれだ。どこだ。私を突き動かす激情の源泉は。

 甘くて、苦くて、酸っぱくて、辛い。こいつと共にあった私の味覚は、こいつの言葉だけで急激にその味を不透明にしてしまった。

 いやだ、いやだ。取らないで。私の希望を取らないで。それがないと何も見えないんだ。生きる意味を見いだせないんだ。

 

 浅ましく手を伸ばす。灯に集る蛾のように。

 

「カクヨーーーーー」

 

「ーーーんあ?フェイゼちょっと待っててくれ、ケルシーセンセから電話だ」

 

 ピリリリリリ。カクヨウの持っている携帯機器からコール音が鳴っている。

 

「あーはいもしもし?俺っす。はい、はい。今っすか?フェイゼと外に飲みに来てます。……え?治療中だから酒は飲むな?マジっすか!?えー……まあ、俺そんな飲めないんで多めに見てくださいよ。ちょっと祝い事があるんですわ」

 

『少し外すわ』というジェスチャーをした後、カクヨウは席を離れてしまった。

 

「あっ……」

 

 私の指先が空をきる。つられて出てきた生娘みたいな声はあまりにも無様で滑稽で笑えてくる。

 

「……ははっ、」

 

 そこからは早かった。堰を切ったように感情が溢れ出した。

 

「はは、ははは、は、……うううう〜〜ッッ!」

 

 他の客や従業員に聞こえないよう声を押し殺して泣いた。

 好きな男に見向きもされなかった。これ以上の恥などあるはずがないのに。塵ほどにも役に立たないプライドが、私に声を上げさせることを許さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「はいはい、りょーかい。わかってますって。そろそろ帰りますよ」

 

 ケルシーセンセからの業務連絡とありがたーいお説教を内心辟易しながら聞き流すこと30分。やっと通話を切ることに成功した。

 

「ったく、本当に話長えや。敵わん敵わん。フェイゼは……っと」

 

 突っ伏して寝てる。あちゃー、潰れてんなこれ。最近ストレス溜まってたのか?

 

「おーいフェイゼちゃんや。放置してすまんかったけどそろそろ帰ろうや。ケルシーセンセが明日に響くぞってよ」

 

「……カクヨウ?」

 

 泣き腫らして赤い目と潤んだ瞳。こりゃ重症だな。深酒しすぎだ。

 

「おうよ。歩けそうか?ちょっと待っててくれ、支払いすませてくーーんむ!?」

 

 おぶってやるか、と考えていると襟を引っ張られてフェイゼにキスされた。………はい?

 

「……おチェンちゃん?あんたなんばしよっとね!?こんなーーんむ!?」

 

 抗議の声を上げたらまたキスされた。………はい?

 

「カクヨウ。私のカクヨウ。すきだ。だいすきだ。愛している」

 

「……フェイゼ。酔いすぎだ」

 

「酔ってなど……いないぞ」

 

「どこがだ。ふらふらじゃねーか全く」

 

 店員さんからの目が痛い。なんだその生温かい目は。叩っ斬るぞテメー。

 

「……そんなにも私が嫌いか?」

 

「嫌いなら一緒に飲まないだろ」

 

「……そうか。じゃあ好きか?」

 

「ああ。好きだよ」

 

「なら相思相愛だな」

 

 まて、なぜそうなる。話が飛躍しすぎだ。これだから酔っぱらいは!

 あっちょやめろ!首に腕を回すな!またキスしようとするな!

 ああクソ、なりふり構ってられん!

 

「店員さん!はいこれお代!お釣りはいらねぇ美味しかったです!」

 

 情緒不安みたいな喋り方をしながら支払いを済ませ、フェイゼを抱きかかえ店から飛び出す。妙に生温かいありがとうございましたという声を背に受けながら。二度と行けねぇじゃねーかこの店。ちくしょう。

 

 

 

「カクヨウ、カクヨウ」

 

「……何だ?」

 

「呼んだだけだ。ふふふ……カクヨウ?」

 

「……何だ」

 

「ちゅー」

 

「……………」

 

 何してんだ。首筋を吸うな首筋を。

 気の迷いか、慣れない酒の飲み過ぎで混乱したか。万が一にも本気ってことはないだろうが……ないよな?

 

「フェイゼ、俺はお前のことが好きだ」

 

「!そうか。本当か?」

 

「ああ。でもな、俺はお前たちとは生きられない存在なんだよフェイゼ。俺はテラの大地にへばりつく汚れだ、亡霊だ。今はこうやって時間を分かち合えても、根っこで理解し合える日はやってこない。

 

 この温かくて優しい毎日に決別する日はいつか来る。あの日、あの時の決断の罰だ。俺はお前たちを、この幸せを忘れない。忘れないまま、この幸せを永遠に失って生きていく。

 

 腐って蛆の集るかつての幸せに涙して、孤独の中であの日の決断を呪って後悔して赦しを乞う生きていく。愛されて死ぬなんて許されない、許さない」

 

「……なんで、そんな悲しいことを言うんだ?」

 

「お前が明日には忘れてるからだよ」

 

「なに……?…カク……ヨ………ウ………」

 

「おやすみフェイゼ」

 

「私……もおま、えを……幸せに……」

 

「……」

 

 アーツを応用してフェイゼの意識を閉ざす。いつものフェイゼなら抗えた程度の出力だが酔いの回った今なら大した抵抗もできないだろう。

 

 生きる意味なんてもう大分前から見いだせない。こいつらに先立たれて残されたくない。きっと覚悟している以上に痛くて辛いのだろう。

 怖い。恐ろしい。寒い。痛い。死にたい。死ねない。今死ぬなんて許されない。もっと苦しまないといけない。疲れた。失う以外に方法はない。ああ、もう。

 

「……早く死にたいな」

 

 雑踏と雑音にまみれたロドスまでの道のりを、死にゆく者のように歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なあ、フェイゼ。背負いすぎじゃないか?』

 

 ーー誰だ。……カクヨウか

 

『やっぱりここに居たな。帰ろう。みんなが待ってんぞ』

 

 ーー……すまない。先に戻ってくれ。しばらくここに居たいんだ

 

『……はぁ。考えすぎなんだよ、お前。使命だの自身の在り方だの感染者だのスラムだのタルラだの』

 

 ーーお前に何がわかる!私の、私の何がわかるんだ!

 

『わかるさ。臆病で頑張り屋の優しいチェン・フェイゼ。俺らは同じ過ちを犯した者同士だ。辛かったな、苦しかったな、救える人を見殺しにするなんてやりたくなかったよな。今は休め。考えるな』

 

 ーーそんな、そんな思考停止が許されるか!犠牲にしてきた人たちはどうなる!彼らの怒りは!理不尽に踏みつけられた悲しみはどこへいく!

 

『じゃあどうすればそいつらは龍門を、いや、お前を許す?死人に何て言って欲しいんだ?』

 

 ーーそれは、

 

『いいか、フェイゼ。死人は死人だ。悼む気持ちを捨てろとは言わん。けどよ、生者が死者に囚われて生きることなんてできやしねぇ。しちゃいけない』

 

 ーーそれでも、それでも私は!

 

『そうだ。それでこそお前がお前足る理由だ。自慰と心が叫ぼうが、偽善と自身をなじろうが、それ以上にお前はお前の正しさを信じ続ける。「それでも」と理不尽に抗おうとする。お前が踏みつけた人以上に、お前がお前を許さない。だからお前は美しいんだフェイゼ』

 

 ーー………

 

『それはこの世界で人間1人の在り方としてはあんまりに辛くて苦しい道だ。だから頼れ。仲間を。ホシグマを、スワイヤーを、俺を』

 

 ーー……そんなもの、心が屈したのと同義だ。自身の罪に耐えかねて他人に縋り付くなど、

 

『屈することの何が悪りぃ?人の心は自責の念に塗れて生きていけるほど強くないのは当たり前だ』

 

 

 良く、ある日の夢を見る

 あの日、カクヨウに恋をした日

 レユニオンとの全てが終わり、雨が降る龍門のスラム街でイェンウに粛正された住民を悼んでいたときの夢だ

 

 

 

『相変わらず頑固なやつだ。めんどくせぇから分かりやすく言ってやる』

 

 ーー何を、

 

 顔も合わせずスラムの街を見ていた私の両肩に手を置いたカクヨウは、自分と向き合うように私の体を回し、私と真っ直ぐ視線を合わせる。

 

『お前が傷つく姿を見て、お前を愛する人たちは何て思う?』

 

 ーー……その言い方は卑怯じゃないのか?

 

『だろうな。だけど言ってやらんとお前は永遠に見えないフリをするからな。少しは自分を許してやれ、フェイゼ』

 

 ーーダメだ。ダメなんだカクヨウ。……お前ならわかるだろう?私が私を許したら、それはもう私じゃない

 

『……はぁ。言ってもダメか。ならよ、』

 

 ーーっ、あっ

 

 カクヨウがそのまま胸に私を抱きとめる。

 

『俺がお前の背負ってるものを勝手に背負う。お前が何と言おうが構いやしねぇ。チェン・フェイゼという人間の人生を、俺が勝手に幸せにする。逃げても、隠れても見つけ出して幸せにしてやる』

 

 ーーぁ、

 

『お前はもう、独りじゃないんだ』

 

 

 なんともまあ、ありきたりな口説き文句だ。B級の恋愛映画でもここまでクサいセリフは出てこない。

 でも。

 そんな言葉が嬉しくて。また私は何度目かもうわからない、君への恋に落ちたんだ。

 

 

 

 

 ロドスの一角、オペレーターの自室。特に目立つような物が置いていない殺風景な部屋のベッドで私は目を覚ました。

 

「……あいつの自室か」

 

 部屋の主の物事への興味の姿勢がそのまま反映されたようなこの部屋には覚えがあった。カクヨウの自室だ。

 

「おう、起きたか」

 

 こちらに背を向けて机に座っていたカクヨウが私に気づいて声をかける。先日破壊したシミュレーションルームの始末書を書いているようだ。愚痴がひどい。

 

「昨日は世話になったようだな」

 

「全くだ。いい歳の女が酔い潰れるまで男と飲むんじゃありません!何が起こるか分からんだろーが」

 

「……私は君なら構わないが?」

 

「お前に手だしたら二度と龍門に足を踏み入れられなくなるっての。昨日帰ってきてお前を部屋に戻そうとして、カードキーの場所知らないから仕方なく俺の部屋で寝かそうと思ったらシラユキちゃんずっと隠れて監視してたからな?『手を出したら殺す』ってオーラだったよアレ。主人に似てほんとおっかないんだからもう」

 

「シラユキが。余計なことを」

 

「フェ〜イ〜ゼ〜?お前が悪い男に引っかかりそうだからフミヅキちゃんに言われなくても自己判断で見張ってくれてるんだろうが。あとでお礼言っとけよ?」

 

「フフ。そうだな。悪い男に引っかかってしまった私を見て気が気でないだろうなシラユキは」

 

 おぼろげだが、昨晩の記憶はある。飲みに行って、想いが伝わったと思ったらそんなことはなくて。惨めな気持ちを晴らすように泥酔するまで飲んでカクヨウに抱えられて帰ったのだったか。

 惚れた人に体重を預ける喜びと微睡みの中、最後に聞こえたのは『死にたいな』という言葉だった。理由はわからない。だけどその声の主は紛れもなくカクヨウだった。

 それが聞こえたとき、心が締め付けられるようだった。私に向かって俺を頼れなんて言っておいて、自分の罪は独りで背負うのか。

 私の幸せはお前と共に歩むことなのに、お前は私と歩んではくれないのか。

 ーー誰かに抱えられる暖かさを知った私を、またあの寒くて苦しい孤独に戻そうというのか。

 

「カクヨウ」

 

「あん?どうした?」

 

「お前は私を勝手に幸せにすると言ったな」

 

「……ああ。言った」

 

「なら、私も勝手にお前を幸せにする。お前を孤独になどするものか」

 

「ーーああ、ありがとうなフェイゼ。なら、お前が幸せになることだ」

 

「……馬鹿者」

 

 カクヨウの表情は窺い知れない。ただ、ペンは動いたままだ。

 

 私は何度お前を好きになるのだろうな。千か万か、那由多の先か。結ばれたいとは思う。友ではなく女性として愛して欲しいとも思う。だけど、こんな面倒くさい女よりほかに素敵な女性を見つけて欲しいとも思う。でも、そうなってしまったら私の心は壊れるのだろうな。

 

 なんともまあ、面倒で理解不能な感情だ。恋焦がれているのに、心の底から欲しているのに見栄を張って全然大丈夫なふりをする。……なんだ。私らしい恋じゃないか。

 

 

おまけ

 

「?カクヨウ、首のそれは虫刺されか?」

 

「ん?いや昨日お前が吸ってきたんだよ。ちゅーちゅーちゅーちゅー吸いやがって、半日経っても消えないぞ」

 

「……!?!?!?!?!?」

 

 思い出した。思い出してしまった。甘ったるい声でカクヨウの首筋を吸った記憶を。

 

「でもあのときのフェイゼは可愛かったな、もっとああいうとこ出してけばいいのに」

 

「………忘れろ」

 

「ん?何て?」

 

「忘れろ!!!!!」

 

「やーだよ。スワイヤーとホシグマに話してやるぜ。ユーシャにも言っちゃおうかな〜!」

 

「な!?貴様ァ!」

 

 人生最悪の恥が更新されてしまった。いとも簡単に。

 やめろ。本当にやめろ。私を憤死させる気か!

 

「てか、さっき購買部向かってる途中に普通に人に見られたしな。みんなこれから天災が起きるみたいな顔してたけどなんかこれに意味あんのか?」

 

「……………は?」

 

 いろいろ誤解してギャン泣きしたブレイズが部屋まで突撃してくるまであと30秒ーー

 ベッドに座っているチェンを見てさらに誤解を深めるまであと35秒ーー

 お互いに『こいつだけには譲れない』と直感し激突するまで後1分ーー




 冒頭の炎国語はGoogleの中国語翻訳に適当に突っ込んだら出てきたんで中国語・炎国語博識ニキネキはどうか叩かないで。

 チェンは絶対恋愛クソ雑魚。学生時代に勉強と武道の二つしかやってこなかったせいでプライベートでの異性との距離感がわからない。
 惚れたら絶対チョロくなるしなんでも言うこと聞きそう。心を通わせたあとにいきなりビンタして泣いて謝ると脳がバグって従順になるよ。
 喧嘩しても別れ話切り出せばこっちが悪くても絶対謝ってくる。そんな女。かわいいですね(黎明卿並感)
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