儚き少女とホロライブ 作:配信機材 N
第1~2期生:高校三年生、数人例外あり。
第3期生:主人公の同級生、高校二年生。
第4~5期生:高校一年生。
この小説では上記のような設定になっています、深くは考えずにまったりと読んでいただけると嬉しいです。
静かに意識が浮上するのを感じ、瞼を開くとゆっくりとした動きで枕元に置いたスマホへと手を伸ばす。
「んっ、ふ・・・ふぁ・・・」
眠たげに開いた瞼でスマホを見つめながら目的の事柄へと辿り着き、確認を終えると掛け布団からのそりと抜け出して締め切られたカーテンを開く。
「曇時々雨・・・準備、しなきゃ」
窓の外に広がる暗い雲を眺めながら、次の行動へと移るために小さく呟いて自室を後にする。
自室のある二階からゆったりとした足取りで下りてくると、お手洗いと洗顔を済ませてリビングへと向かう。
「今日はお弁当を作って、それから・・・今日の時間割は、なんだっけ?」
この後の予定を口にしながら使い慣れたエプロンに身を包んだと同時に、来客を知らせるインターホンの音を耳にして動きを止める。
「? あっ・・・連絡するの、忘れてた・・・」
再度鳴ったインターホンの音を聞き流しながら、テーブルに置いてあるスマホに手を伸ばすと同時にガチャガチャッと玄関の鍵を開ける音へと変化する。
「まだ準備できてないけど・・・まぁ、いっか」
ボンヤリとそう呟きながら玄関が勢いよく開かれる音と再び鍵がかかる音、そしてズンズンとこちらに向かってくる足音を聞きながらこの後の出来事を思い浮かべて苦笑を浮かべる。
「こんるし~!鈴ちゃん、今日は太陽が顔を出さないそうなのです!一緒に学校へ行きましょう!それと・・・どうして連絡、くれなかったのですか?」
エメラルドグリーンの髪を揺らしながらリビングに姿を見せた小柄な少女は、そう口にして赤い瞳を怪しく輝かせつつ髑髏を思わせるオーラを放っていた。
少女の雰囲気を目にしても尚特に焦った様子を見せず、いつものことだとばかりに落ち着いた声色で返事をする。
「約一週間ぶりの悪天候だから、すっかり忘れてただけだよ・・・るーちゃん」
名を呼ばれたことでオーラを霧散させた少女は、今度はプクッと頬を膨らませてから口を開く。
「忘れていたのなら仕方ないですけど、前回もそう言ってなかったですか?」
「そんなこと・・・あった、かな?」
小首を傾げてそう口にすると、少女はあからさまなタメ息を吐いてから手に持っていたカバンをソファに置く。
「今からお弁当を作るんですよね?るしあも手伝うのです!」
「んっ、ありがとう・・・」
いつの間にかエプロンを身に着けて包丁を手にする少女にお礼を述べてから、入れるおかずを考えながら調理を開始した。
『
色素の薄い白金の髪を揺らす乳白色の白い肌を持ち、淡い紅色をした瞳を動かしながら懸命に作業をこなしている。
幼馴染の名前は『神楽乃 鈴蘭』、生まれながらに太陽の下に出ることのできないアルビノ少女である。
「・・・っ?るーちゃん?」
視線に気付いた鈴蘭の問うような声に、るしあは何でもないと横に首を振ってから調理を再開する。
「(料理もそつなくこなせて、特例として自宅での勉強を許された特待生で、るしあよりも少し背が高いけど小さく見えるほど華奢な身体に、触れれば消えて無くなりそうな儚げな可愛さ・・・正直独占したい、けどそんなことしたら周りが大変なことになるのです・・・我慢、がまっ―――)」
「?」
「(―――んぶっ・・・)スゥー・・・」
固く口を真一文字に結ぶるしあに気付いた鈴蘭が不思議そうに首を傾げる姿に、横目でそれを確認したるしあは感情が漏れ出ないように必死に耐えながらおかず作りを継続した。
弁当と''三人分,,の朝食を作り終えた鈴蘭とるしあは、テーブルに向かい合うようにして座ると一緒に手を合わせる。
「「いただきます」」
声を揃えてそう口にしてから朝食に手を付ける二人、そこでふとリビングの扉へと視線を向けたるしあは視線を鈴蘭に戻してから言葉を紡ぐ。
「一応聞いておきますけど、あくあさんは?」
「んむ、んっ?たぶんまだ寝てると思う、昨日はおんらいんげーむでふれんどと徹夜してたみたい」
ある意味で予想を裏切らないメイドの様子に「あー・・・」と納得したような声を漏らするしあ、すると今思い出したかのようにハッとした鈴蘭が言葉を続ける。
「そういえばあくあさんが『ご主人もやってみる?ほら、ロボ子さんから特別性のメガネ貰ったんだよね?』って言ってたんだけど、この眼鏡って特別なの?」
懐からメガネケースを取り出した鈴蘭がそう口にすると、呆れた表情を向けるるしあと視線が交差する。
「鈴ちゃん・・・ロボ子先輩の話をちゃんと聞いてなかったのですか?」
「聞いてたけど、私の目に合わせてくれるんだよね?」
鈴蘭の言葉にるしあは頷きを返し、それを受けた鈴蘭は嬉しそうに頬を緩ませる。
ちなみに鈴蘭にメガネを渡した『ロボ子』とは彼女たちの先輩に当たる人――ではなくロボット――で、アルビノである鈴蘭のことを気にかけて特注で製作したものである。
曰く――
「鈴蘭の目はアルビノ特有の弱視と眼球振盪、それと羞明があるからそれらを補助できる機能が付いてるよ。例えば弱視だと見るものを判断して自動でルーペやオペラグラスの効果を付与するセンサーが、眼球振盪には左右の揺れを軽減する効果があるんだ。羞明に対しては光を抑えるためにサングラスの役割もあるんだよ、それとパソコンやスマホを見る時にもセンサーが感知して自動で見やすくしてくれるんだ・・・あっ、あとブルーライトカット機能も付いてるからね」
――とのことである。
鈴蘭はロボ子の言っていたことを思い出して「・・・あっ」と声を漏らし、るしあは目を細めてジトッとした視線を向ける。
「だ、だって私パソコンなんて触らないから・・・関係ないと思って頭の片隅に追いやってたの」
そんな言い訳を口にしながら視線から逃れるように朝食に手を付ける鈴蘭に、るしあはいつものことかとどこか達観したような気持ちを懐きながら口を開く。
「じゃあ、思い出したついでにあくあさんの誘いに乗るのですか?」
それなら自身も便乗しようかと考えるるしあだが、鈴蘭は少し首を傾げて考える素振りを見せてから首を横に振る。
「うぅん。あくあさんのやってるのを見たことあるけど、私には難しそうだったから遠慮しておこうかな」
三人組で銃を手に
「ですよね、知ってたのです」
「あぁいうのは見てる方が性に合ってるから、今度あくあさんがやってるのを眺めてようかな」
緊張で過呼吸になるメイドの姿を幻視したるしあであるが、それはそれとして二人っきりにするのは癪なので声をあげる。
「だったら、るしあも一緒に眺めたいのです!いいですよね、鈴ちゃん?」
「うん、大丈夫だよ。お昼くらいにあくあさんにメッセージを送っておくね」
今度は違う意味で過呼吸になるメイドを幻視したが、嬉しそうに笑みを零す鈴蘭の姿に照らされてすぐに霧散した。
朝食を摂り終えた鈴蘭は片した食器を軽く水洗いしてから食器洗い機に入れ、寝間着から制服に着替えるためにるしあに一言告げてから自室へ戻る。
るしあはそんな彼女の背中を見送ると「ふぅ・・・」と小さく息を吐き、ソファに腰掛けてから置いていたカバンを足に乗せて中を漁る。
中から取り出したスマホの電源を入れると、待ち受けには鈴蘭とのツーショットが表示される。
「~♪」
嬉しそうに鼻歌を歌いながら通知などがないかを確認していたところで、ドタドタと慌てたような足音が近づいていることに気付いて顔を上げる。
「こんあくあ~っ!はぁ、ふぅっ・・・な、なんとか間に合っ「てないのです」―――うひゃあっ!?るるるっ、るしあちゃん!?」
リビングの扉を勢いよく開けて姿を見せた紫髪に水色のメッシュの入った少女は、独り言のように呟いたはずが返事があることに慌てた様子で視線を彷徨わせる。
「おっ、おはようるしあちゃん・・・きょきょ、今日もいい天気だねっ」
「今日は一日中雲が広がっていて、時々雨が降るそうなのですよ?」
過呼吸気味になりながらもどうにか返事をしたあくあだが、ニッコリとした笑みを浮かべるるしあの言葉によってさらに挙動不審になって辺りを見回すように視線を向ける。
「えー、あぁー・・・そっ、そう!ご主人に用事があるんだったー、だからあてぃしご主人の部屋にっ―――」
「今、鈴ちゃんはお着替え中なのです・・・覗く気ですか?」
「―――っ、スゥー・・・ゴシュジンハヤクコナイカナー」
笑顔を張り付けたまま細められた瞳を怪しく光らせながら言い知れぬ圧を放つるしあに、明後日の方向へと顔を向けて打開策を考えながらモゴモゴと言い淀む。
「・・・?二人とも、どうかしたの?」
何とも言えない空気を漂わせていると件の少女が着替えを終えてリビングに顔を出し、それにいち早く気付いたあくあは彼女に駆け寄ると盾にするように後ろに回り込む。
「ご主人ーーっ!!待ってた!すごい待ってたよ、あてぃしはーーっ!!」
「っ?え?本当にどうしたの・・・?」
鈴蘭の腰に手を回して抱き着きながら泣き叫ぶあくあに、鈴蘭は訳が分からず困惑した様子でそう声を漏らした。
彼女に抱き着いて泣き叫んでいるのは『
住み込みという名目で神楽乃家に滞在しているが家事全般が得意ではないようで、逆に鈴蘭のお世話になっている模様。
「そういえば、今日はいつもより早いね。何かあったの?」
取り乱していたあくあを宥めた鈴蘭は、いつもより早起きなことに疑問の声を漏らす。
「えっ!?えぇー、っとあのー・・・なんていうかそのー、ご主人の顔が見たくなったー・・・なんて」
歯切れの悪い物言いに首を傾げる鈴蘭だが、特に追求したりせずに先程るしあと話していたことを思い出す。
「そうだ、今日帰ってきたらあくあさんがやってるげーむを見に行ってもいい?」
「っ!うん!いいよ、全然っ!何なら毎日来ても大丈夫だからっ!」
鈴蘭の発言に目を輝かせて肯定の返事をするあくあに、鈴蘭はホッと安心したように息を吐いてからるしあに視線を向ける。
「大丈夫みたいだよ、るーちゃん」
「えっ」
「よかったのです、それじゃあ放課後お邪魔しますね?・・・フタリッキリニハサセナイノデス」
「でもご主人のご両親って共働きで会社で寝泊まりしてるからいつも二人っ――アッイヤ、ナンデモナイデス」
言葉を言い終える前にハイライトの消えた瞳を携えた真顔のるしあを視界に捉え、そっと目を逸らしながら消え入りそうな声でそう呟いた。
「それじゃあ、いってきます」
「いってくるのです!」
学園へと登校するいつもの時間が迫ってきた鈴蘭とるしあは、玄関で靴を履くとリビングに向けて声をかける。
「いってらっしゃい、ご主人!る、るしあちゃんもっ」
リビングの扉を開けて顔を出したあくあは、片手に朝食の食パンを持ちながら挨拶を返す。
「あっ!ご主人、日焼け止め塗った?それと日傘も忘れずにね!」
「うん、ありがとう。ちゃんと塗ったし日傘も持ってるよ、あくあさんもげーむばっかりしちゃダメだよ?」
「ワッ、ワカッテルヨー」
明らかに目を逸らすあくあに微笑ましさを感じて口元を緩ませる鈴蘭に、ムッとしたるしあは玄関を開けて腕を引っ張るようにして彼女を外に連れ出す。
「鈴ちゃん、行きますよ!早くしないと遅刻しちゃうのです!」
「? るーちゃん、急にどうしっ――わわっ・・・」
そんないつもの光景を眺めながら玄関の扉が閉まるまで手を振っていたあくあは、るしあの様子に苦笑を浮かべつつリビングへと戻る。
「・・・よしっ」
気持ちを切り替えるように小さく呟いたあくあは朝食を食べ終えると、食器を片付けてからスマホを確認して頬を緩ませ、一階にある自室へと戻っていった。
ちなみに鈴蘭の忠告を受けながらもゲームに手を出してしまったあくあは、帰ってきた鈴蘭に注意を受けてしまったがその姿が可愛らしすぎてつい顔を綻ばせてしまうのだった。
いつもの通学路をのんびりとした足取りで歩く鈴蘭は日傘を差して手足をUVカットの素材で出来た手袋とストッキングで覆い、それを補助するように死霊を使って薄い膜を作り微弱な紫外線すら防いでいる。
「いつもありがとう、るーちゃん」
「これ位なんてことないのです、鈴ちゃんのためですから」
お礼を述べる彼女に笑顔を持って返したるしあは優しく手を握り締めて笑みを深め、その様子につられて鈴蘭も頬を緩ませる。
「だ〜れだっ?」
突然聞こえてきた声と自身の首に回された腕と後頭部に感じる柔らかな感触に、鈴蘭は驚いた様子もなく口を開く。
「マリンだよね?おはよう」
「サラッと当ててきますねぇ!?」
逆に驚愕した声を上げた抱き着いた人物は、二つに束ねた赤い髪を揺らしながら鈴蘭の同級生である『
「Ahoy!相変わらず鈴蘭は驚いたりしませんよねぇ」
「え?そう、かな?」
自覚はないんだなぁと思いながらキョトンとした表情を浮かべる鈴蘭に、微笑を浮かべるマリンは隣に立つるしあへと何ともなしに視線を向ける。
「・・・」
「おぉう・・・るしあ、顔が怖いですよ?いや、本気で」
目を見開いてジッと自身へと視線を向けるるしあに、マリンは頬を引き攣らせながらもそう声をかける。
「っ?」
マリンの視線を追うようにして鈴蘭がるしあに顔を向けるが、その時にはすでに笑顔を浮かべるるしあの姿があるだけだった。
「鈴ちゃん?どうかしたのですか?」
「・・・?うぅん、なんでもないよ。それじゃあ早く行こっ?」
ゆっくりと歩き出した鈴蘭の後ろ姿を眺めながら、何かを思い付いたような表情をしたマリンは彼女に駆け寄る。
「鋭いのかそうでないのか、鈴蘭は分からないですよねぇ・・・あっ、船長が日傘を持ってあげますよ!」
「むっ!それはるしあがやるのです!」
「? 二人ともありがとう、でもこれくらい大丈夫だよ?」
るしあとマリンの気遣いに小さな笑みを携えた鈴蘭がそう返し、尚も食い下がる二人と談笑を交わしながら通学路を進むのだった。
学園の校門を抜けた彼女たちは靴箱で上履きと外履きを履き替え、自分たちの教室のある二階へと向けて階段を上る。
「そういえばるしあ、ノエルたちにはもう伝えてあるんですか?」
「バッチリなのです、っと言っても天気で大体察していると思うのです」
るしあの返しにたしかにと肯定の頷きを返したマリンは、日傘を両手で持ってのんびりと階段を上る鈴蘭に視線を向ける。
「はぁ、ふぅっ・・・いつも思うけど学校の階段って、考えてるより長いよね・・・はふぅ」
あまり運動をしない彼女には階段の上り下りは苦行らしく、瞳を潤ませながら頬を上気させて荒くなった息を整えている。
「・・・マリン、顔がだらしないのです」
「―――ハッ!?ちょっと船長お手洗いに・・・」
「何するかはあえて聞きませんしイかせない――間違えたのです、行かせないのですよ」
「るしあだって多少は思ったんじゃないですかぁ~?オラッ!正直に答えなさいっ!」
「しっ、正直興奮――って!何を言わせるのですかっ!?マリンのバカ!!」
「別に船長は悪くなっ――いったぁっ!?」
「・・・?(二人とも、いつも通り仲が良いなぁ)」
るしあとマリンのやり取りを眺めながら、ボンヤリと考えつつ息を整え終えて頬を緩ませていた。
他の生徒で賑わう廊下を進んで自身の教室へと辿り着いた鈴蘭が戸を開くと、雑談を繰り広げていたクラスメイトたちがチラッと視線を向けてからまた雑談へと戻る。
「あ!鈴蘭っ!おはまっする~!」
「おはよう、ノエ――わぷっ」
そんな中で鈴蘭の姿を確認した白銀の髪をした少女?は、側まで駆け寄ると挨拶を交わしながら彼女を抱き締める。
「ん~♪久しぶりの鈴蘭の抱き心地は、最高だねっ!」
「こんぺこ〜、久しぶりって・・・昨日も抱き締めてたぺこだよね?」
「こんぬい〜。まぁ、そこはノエルだから」
その豊満な膨らみで鈴蘭を抱き締めながら頬擦りする『
「一日経ってるってことは、久しぶりってことだよ!」
「ほらね?・・・あ」
「えぇ・・・あ」
ノエルの予想通りの反応に得意げな表情のフレアと呆れたような声を漏らすぺこら、だがあることに気付いて揃って声をあげる。
「? フレア?ぺこら?どうしっ「ノエル?」――あ」
後ろに立つフレアとぺこらに意識を向けていたノエルが正面に顔を向けると、黒いオーラを放ちながら目を見開くるしあの姿を視認する。
「ぅえっ!?るしあ、顔怖いよ!?ほ、ほらっ・・・笑顔笑顔!」
「・・・」
「え、こわっ・・・」
ノエルの言葉を受けて口角だけを上げたるしあの表情に、ノエルはドン引きした表情を浮かべながらたじろぐ。
「んっ、ぷは・・・っ?あれ?何この雰囲気・・・?」
「なんでもないのですよ、鈴ちゃん。早く席に着くのです、ほらほらっ」
「? うん、そうしよっか」
周囲に目を向けて疑問符を浮かべていた鈴蘭だが、るしあの提案に特に追及することなく頷いて自身の席へと向かう。
鈴蘭の席は一番前の教卓の側で、彼女を囲うように右にるしあでその後ろにマリン、左にノエルでその後ろにフレア、そして鈴蘭の後ろにぺこらの五人が座っている。
「鈴蘭と一緒に授業受けるの久しぶりだから、団長とっても嬉しいなぁ・・・今ならしっかり授業が受けられそう!」
「脳筋おっぱいお化けには無理なのです」
「るしあの言葉に棘しかないんだけど!?うぇ~ん!フレア~!」
「よしよし、自業自得だから甘んじて受けようね」
「フレアも何か棘がある!?」
「ぺこらー、今日の一限目って何でしたっけ?」
「国語ぺこ、相変わらず記憶力がないぺこだね~」
「誰がBBAだってぇ!?」
「まだ言ってねぇぺこだよっ!」
周囲が賑やかなことに自然と口元を緩ませる鈴蘭はカバンから教科書などを取り出し、机の中に仕舞おうとしたところで何かに気付いて動きを止める。
「? あっ」
その何かを手で掴むと鈴蘭は正体に気付いたらしく、教科書を机の中に詰め込むとクルッと後ろに振り返ると今まさに押し切られそうなぺこらに声をかける。
「ぺこら」
「んぐぐぐっ・・・!な、なんぺこか!?今ちょっと手が離せないぺこ!」
ぺこらの返事を聞いて少し考える素振りを見せる鈴蘭だが、すぐに答えに辿り着いたのかハッと閃いた表情を浮かべる。
「それじゃあ、ここに置いておくね?ぺこらの私物だと思うけど、違うんだったら教えてね」
「何でぺこらの私物が鈴ちゃんの机にっ―――」
鈴蘭がそう口にして手にしていた何かをぺこらの机に置き、るしあは疑問を口にしながらその何かへと視線を向けて・・・ピシリッと動きを止める。
そのことに気付いたノエルとフレアが視線を向け、押し合い圧し合いをしていたぺこらとマリンも周りの空気が固まっていることに気付いて視線を向ける。
「「「「―――っ!!?」」」」
「あ”っ・・・こっ、これぺこか。しっかしこれを見ても動じないとかどうなって―――」
ぶつくさと呟きながら回収しようとぺこらが震える手を伸ばしたが、本能的に危険を察知してバッと手を引っ込める。
――ズドンっ!!
その瞬間に凄まじい音と共に何処から取り出したのかと疑問に思うようなメイスを振り下ろしたノエルによって、ぺこらの机と一緒に何かも粉砕される。
「あっ、あぶねぇぺこだよ!なにするぺこぉっ!!」
「ハッ!?だ、だって今の・・・完全にゴキ―――」
「言わなくていいのですっ!」
ぺこらの言葉に慌てた様子で返すノエルに、るしあは聞きたくないとばかりにそう叫ぶ。
「っていうか・・・鈴蘭、あれを素手で掴んでましたよね?」
「そこはほら、鈴蘭だから」
「?」
マリンの口にした素朴な疑問にフレアはこれが答えとばかりに返答し、当の本人はけたたましい音を立てて砕けた机に気付いて首を傾げていた。
音を聞きつけてやってきた先生にノエルが一頻りお叱りを受けた後、空き教室から使われていない机を取ってくるように言われたためにトボトボと教室を後にする。
「あぁ、そうだ・・・神楽乃さん」
「え、はい?」
突然名を呼ばれた鈴蘭は不思議そうに返事をしながら先生へと顔を向けると、彼女の机の上に一枚の紙が置かれる。
「
先生の口にした癒月先生とは学校の保険医である『癒月 ちょこ』のことで、鈴蘭が学校に来る時はいつも健康状態を確認するために問診票の提出を求めている。
たまに自らが教室を訪れることもあるらしい。
「んっ、はい」
彼女の返事を聞いた先生は微笑みを浮かべながら教卓の前に立って号令を促す、それにより朝のホームルームが始まり、少しするとノエルが机を提げて戻ってくる。
「持ってきたよー!んしょっと」
「白銀さん、何があったか知らないけど・・・机を壊すのはやめてね?あとこのメイスは放課後まで預かっておくからね」
「ぅぐっ・・・はーい」
ぺこらの前に机を置いたノエルは先生の言葉に項垂れながら返事をし、ションボリとした様子で席に着いたところで向けられる視線に気付いて顔を上げる。
「ノエル、元気出してっ」
視線の正体は隣の席の鈴蘭で、元気づけようとしているのか胸の前で握り拳を作って励ますように声を上げる。
「うぅ~っ・・・頭撫でてくれたら元気出る」
突き出されたノエルの頭と言葉に薄く笑みを浮かべた鈴蘭は、壊れ物を扱うような優しい手つきで髪を梳くように撫でる。
「・・・んふふぅ♪」
自身を気遣うような優しい撫で方をする鈴蘭に、ノエルはこそばゆい感じを受けながら自然と口元を緩ませる。
「はーいっ!ホームルーム始めまーすっ!」
教室中の視線が彼女たちに向いているのでそう声をあげる先生に、ノエルはハッとして頬を朱に染めて、鈴蘭はキョトンとした表情を浮かべて疑問符を浮かべていた。
ちなみに彼女の影から光の失った淀んだ瞳でノエルを見つめるるしあの姿があったが、恥ずかしさで顔を明後日の方向へと向けているノエルは気付くことはなかった。
問診票を書き終えた彼女が先生に手渡すとホームルームも終わり、この日の授業もつつがなく進んで昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。
「お昼ぺこ~!」
「ノエルは、まぁ・・・残念だったね」
両手と声を上げてイスの背もたれにもたれかかるぺこらと前の席に座るノエルに呆れた視線を向けるフレア、そんな声を聞いて視線を隣に向けた鈴蘭は机に突っ伏して幸せそうな寝顔を浮かべるノエルを確認する。
「思った通りなのです、鈴ちゃん。ノエルは放っておいてお昼ごはんにっ「お昼っ!!?」――したかったのです・・・」
るしあの言葉に呼応するように飛び起きたノエルは、周りを見渡してからパチクリと瞬きをする。
「・・・っ?時間が、消し飛んだ・・・!?」
「寝落ちしただけだから、それよりもノエル。早く食堂に行かないと牛丼無くなっちゃうよ?」
「ぁっ!たしかに・・・団長先に行ってるね!席も確保しておくから―っ!」
言い終えるが早いかすぐさま立ち上がって教室を飛び出して廊下を駆け抜けるノエル、鈴蘭はそれを見送ってから自身のカバンから弁当箱を取り出してるしあたちに顔を向ける。
「それじゃあ船長たちも行きますか、今日の日替わり定食はなんでしょうね?」
「さすがにそれは分からないぺこ、行って確かめるしかないぺこね」
「脳きっ―――ノエルを待たせるのも悪いですし、早く行くのです」
るしあの意見に頷いて返した面々は、食堂に向かうために教室を後にする。
「・・・ふふっ」
「? 鈴ちゃん?どうかしたのですか?」
るしあの問い掛けに鈴蘭は微笑みを浮かべたまま、小さな頷きを返してから口を開く。
「うん、やっぱり皆と過ごすのは楽しいなって思っただけ・・・っ?るーちゃん?」
「(いつも思うのですが、不意打ちでそういうことを言うのはどうかと思うのです。いえ別に嫌というわけじゃなくてとても嬉しいのですが、こっちも我慢の限界というものがあってですね。部屋から出さずに独り占めしてずっと愛でたくなってしまうのです、むしろ鈴ちゃんはそれを望んでいるからそういうことを言うのですか?それならそうと言ってくれればいつでも―――)・・・・・・ハッ!?鈴ちゃんが可愛すぎてつい、気持ちが溢れそうだったのです」
「? ありがとう・・・?」
不思議そうに首を傾げながらお礼を口にする鈴蘭に、るしあは口角を上げてニッコリとした笑みを浮かべる。
「るしあ、耐えてますね」
「いつものことぺこ」
「ノエルだったらすでに抱き締めてそうだよね(私も耐えられるか分からないけど)」
鈴蘭とるしあのやり取りを眺めながら、少しだけ羨ましい気持ちになった三人は彼女たちを促して食堂へと急ぐのだった。
続きは未定です。