賭場の熱、バ場の熱 作:ナカヤマフェスタ実装を待ち望む者
バシンッと雀卓の上に叩かれる白の牌。
「ツモ」
1人の老いた男と、若い男3人が卓を囲んでいた。
「っ……またか! じいさん手が良いな、ほれ!」
「あぁ……良い。間違いない。それと、この卓が終われば儂は帰るとするぞ」
「おっと、勝ち逃げされちゃあたまんねぇ!」
若者たちは実に楽しそうに賭け麻雀というものを楽しみ、老人は楽しむ者たちの姿を見て楽しむ。
「(良い……燃えよ若人。この賭場は、金を賭けて争う。儂がかつて立った青芝の上よりも、熱い焔を感じる時こそが至高よ)」
そう考えながら、流しで打っていく。どうも対面の様子がおかしい……聴牌だろう。そう考えた老人はここらで綺麗にほぼプラマイなしにして帰るつもりで、読みの振込みとしての中の字牌打ち。
「おっ! ロンだぜ、よっしゃ!!」
「む、やるではないか」
無論、そんなつもりは表には出さない。気持ち良く賭けというのはやるべきで、気持ち良くというのはだいたいの場合プラマイゼロが望ましい。そんな持論を老人は持っていた。
「……ふ、今日の儲けぶんが持っていかれたわ……差し引き二千円ってとこか?」
「へっ、プラマイゼロは相変わらずだなじいさんよ。ま、お疲れ様」
「あぁ疲れたとも。それではな」
この隠れた賭場から出よう。そのために立ち上がり、出口へ歩む中で、1人の若者とすれ違う。
「待て、新参か」
老人が呼び止めたのは見たことのない顔だったからでもあるが、同時に見るはずのないものが頭にあったからでもある。
「その通りだ。だからなんだ」
「気が変わった……向こうの卓でひとつ勝負と行かんか、知らぬウマ娘」
「……ナカヤマフェスタ。私はナカヤマフェスタだ」
ニット帽から飛び出したウマ耳。ジーパンに開けられた専用の穴からの尻尾。まさしく、ウマ娘だったからだ。そんなウマ娘が、この賭場にいる。怪しいと思わないわけではないが、それ以上にどれほどやれるものかと勝負師のよくないところが出た形だ。
そうして、ナカヤマフェスタと名乗る彼女と連れだってポーカーの卓へ向かう。何が良いかと問うたところの答えが、
「ポーカー。テキサスホールデム」
であったから、よかろうと頷いたためである。
座り、チップを取り出し、ディーラーにそのうちのいくらかを手渡す。ディーラーが頷いて、手早くポーカーを準備し出した。
その間、少しは話そうと向こうはしてくれたのか、いくらかの問いを受ける。無論返さないわけにも行かないので返していく。
「……アンタは、ここに私がいるのを怪しんだか」
「無論。だが、それ以上に気になってもいる……やれる奴、と儂の勘が言っているからには、気にかける意味もある」
そう返すと、ナカヤマフェスタは頷いた。自分がやれるのは当然だ、と言わんばかりだ。それを口にするためか、次の問いのためか、彼女は口を開いた。
「なるほどな……いい勘をしている。じゃ、相当長いのか」
「歴か。……仕事をやめてからだな、浸るようになったのは」
思えばあの女には相当目を肥やされた。その後の怪物の登場まで含めて。
「なにをしていた……いや、そこまで聞くのは違うか」
そんな心遣いまで見せる彼女だったが、自分にとっては恥じる過去ではない……少なくとも、今はそう思っている。恥じる過去だと思ったから数年前の己は事実上の辞職となっている休職をしたのではないのかと思いつつ口を開いた。
「ふん、隠すことはない……トレーナーだ」
「なに? ……トレーナー、だと? まだ、資格はあるのか」
「その食いつき。まだ未デビュー、トレーナーもなしか」
「そうだ。何故かは……まあ、今にわかるだろうな」
ポーカーの準備が終わったことを二人にディーラーは示していた。
勝負は伯仲している。
ブラフ、素直な突撃、分の悪い賭け。そういったものすべてを目の前のまだ若い少女が駆使しているからこその現状の均衡。
「これで終わりにしようぜ……オール・イン」
それもこれで崩れる。男の手は、スペードのキングにスペードのエース。盤面は3枚時点でハートのジャック、クローバーの4を友としてクローバーのエースを輩出していた。
負けの目は薄い。仮にキングを引けば、なお良い。相手がツーペアなら不味いことになるが、ツーペア以上のなにか起こることは恐らくなかろう。それこそ、薄い目のひとつ。故に、ここは乗ってやるも一興……そう思った。
「……面白い。乗った……オール・イン・コール」
あとは2枚を残すのみ。伏せた2枚を表向きへ、そのまま投げるように手札を表向きで場に。
「これは……」
「驚いたな」
ナカヤマフェスタの手は、ハートのキングにハートのエース。盤面に新たに現れた2枚のカードは、ダイヤのエースにクローバーのキング。
両者フルハウス。引き分けというやつだ。
「うむ……結果としてブラフではなく良い手だったというわけか。まさか同手とは思わんが」
「全くだ……こういうことがあるのが面白い」
男はそこで、ナカヤマフェスタにひとつ語りかける。
「担当がつかん理由、確かに分からんでもない。お前さんリスクが、リスクを抱えて挑む賭けのヒリついた熱が好きなんだろう。違うか?」
「……あぁ。そうだ。私の担当なんざ、命がいくつあっても足りやしない……そう言ってたな、周りの奴らは」
「こんなところで賭けにひりつくよりも、やはり走りたいだろう」
「それも、そうだ。ウマ娘としての本能が言う。レースの熱を望んでる。分の悪い戦いほど私は燃えられる……そう叫んでる」
男は、この戦いの中でひとつ決意を定めていた。
「じゃあ、儂についてくるか」
「は……?」
「お前、走りたいんだろ? だが、トレーナーがいないんだろ? いいだろう、儂が見てやる。トレーナー資格は未練ととある奴の強情のせいで更新し続けていた……アイツも早く儂など忘れれば良いものを」
男の長台詞はほぼはじめてである。だが、ナカヤマフェスタはその言葉すべてを噛み締めて、確認のように呟く。
「いいのか? 私はトゥインクル・シリーズに賭けて出れるタマだと思うのか!?」
「仮に分の悪い賭けだったとして、負けてやる気はない……なにより、ナカヤマフェスタ。お前には賭ける価値がある」
「なにを、見出だした」
「その苛烈な焔は判断力と闘志を両立させる……故に、儂の元で鍛えんとするなら、心技体揃えさせてやれると、そう確信している」
男は、自信を漲らせていた。先程までの、無気力な姿は消え失せた。老人、老人と告げられていたのは、ひどく老け込んだ顔と長い長い髭のせいだ。だが、その目に光を灯し、立ち上がってナカヤマフェスタと対するそれは、もはや老という言葉に値しない。
「……そこまで言うなら、やってやる。やってやろうじゃあないか」
「ほう、お前の燻った炎……儂に預けてくれるか」
「勿論だ。大きな賭けだが……これは、悪くない賭けだな」
話をまとめた男はナカヤマフェスタと共に賭場を出て、トレセン学園に足を運ぶことにした。トレセン学園のトレーナーフォームへ連絡を入れておく。
『復帰する』
返信は即座に、理事長秘書から。承知した旨と、詳しくは後々聞くという旨を記したメールが届いた。
「向こうも認めてくれたようだな。では名乗ろう、ナカヤマフェスタ。儂は
「なっ……な……」
「くはは……その間抜け面を見れただけで一儲け、一儲け」
ナカヤマフェスタが驚きに瞠目し、絶句するのを男は実に楽しそうに眺めているのだった。
感想、評価いただければ励みにもなるのでどうぞよろしく願います。
一話の長さについても、もっと長めがいいとか短めがいいとかそういうところは手探りです。今回は3066字となっておりますから、それを基準にしていただければと。