「光り輝く空飛ぶ青い箱舟に鉄の逸物……?」
伊丹達と共に資金を手に入れる為、イタリカへと向かっていた虹像達行動した時よりいくつか日を遡り、炎龍撃破後の時まで戻る。
イタリカの近く町の多くの人が賑わう酒場にて住民達とは不相応な騎士達がその一角を占領していた。彼らの目的は聖地アルヌスを占領する異世界人たちの隠密調査。その為村々を周り、率いられる騎士達は本心では来たくも無い汚らしい酒屋へ足を運んでいた。そしてその集団の中心たる赤毛の女性、帝国の第三皇女たるピニャ・コ・ラーダは先ほど聞かされたコダ村から逃げて来たと話す女給の言葉に疑問を浮かべていた。
一瞬の沈黙を得て、騎士達は話を続ける。
「そ、それにしても立派な者達です! 緑の服の傭兵団……異郷者とは言え炎龍を追い払ったその実力と心映えならば是非にでも味方に迎えたいと思いますよ。いかがでしょう姫様?」
ピニャの従者であるハミルトンは女給の話を聞き、そうピニャコラータに問うと彼女は手を付けようとしていた肉を置き、酒へと手を伸ばす。
「余はその者達が使っていたという炎龍を追い払った武器に興味がある」
隠密調査に出る直前聞いたある議員曰く、アルヌスを占領している者達は見た事も無い不思議な魔法の武器を使うと言う。パッパパっと言う音を聞いたが最後、遠くにいる歩兵が血を流して死んでいた……なんて非現実な話と彼女が話す内容とで符合するモノを感じたからだ。
「それに誇張表現だとしても光り輝く空飛ぶ青い箱舟とは……何かあるな」
御伽噺と片付けるには具体的過ぎる内容。話を聞くに炎龍へ突っ込んだと言う突如現れたその光る箱舟は鉄の逸物が炎龍へと当たるのを援護していたと考えられる。非現実的な武器を使う者達の事だ、そのような物が実際にあっても不思議じゃない。彼女らの論議はその後も続き時は戻り、そして現在。彼女らは立ち寄ったイタリカの街にて剣を取り、民の為、血を流していた。
「ノーマ! ハミルトン! 怪我は無いか!!!」
異世界出兵に続き連合諸国のアルヌスへの出兵。元々内輪揉めにより少なかった兵達が殆ど出兵した為に常駐兵がほとんど居なくなった都市にて今ここにイタリカへの襲撃が行われていたのだった。敵は元は数十人程度だった賊。しかし戦いに敗北し、敗残兵と化した兵達が合流した事により総勢数百人規模となった死や財宝を求める賊達は軽々と街を占領し略奪行為を出来ると考えていたが話はそう上手く行くハズも無く、襲撃時に丁度ピニャ率いる騎士達が街へと訪れていた為に戦える住人を指揮しコレを撃退。多数の犠牲を出しながらも街を一時的にとは言え守り切ったのだった。
「はぁはぁ、なんとか、生きてまーす!!!」
座り込み、声を上げるハルミトンの近くには剣を地面へと突き立て、杖のように体を支えながら立つは騎士ノーマ。彼はピニャの言葉に答えるように腕を上げるがその様子には気力が無い。それもそのはず、彼らの周りには賊や守護兵の遺体が複数ある。その事を考えるに壮絶な戦いがあった事は想像に難く、その証拠に彼らの体にはいくつもの生々しい傷や鎧にはいくつもの矢が刺さっていた。 今にも倒れそうな二人だが、一応の無事に安堵の息を吐くピニャだったがもう一人の騎士、グレイ・コ・アルドことグレイの姿を見て何だか呆れの感情を抱く。
「姫様、小官の名が無いのはいささか薄情と言うモノですぞ」
「グレイ、貴様は無事に決まってるだろう、だからあえて問わなかったに決まってる」
「それは小官の実力が正しく理解されてると喜んでいいのでしょうか?それとも問う必要もないと判断されて悲しんでいいのでしょうかな?」
「その両方だ」
「なら笑いましょう、ハッハハハ」
豪快に笑うグレイ。しかしその姿に返り血は見られず、彼の直剣の刀身に血液さえ付着して無ければどこかに身を潜め、隠れていたと疑ってしまうほど体力気力共に溢れ大丈夫とういう様子だった。流石は一般兵からの叩き上げで騎士補まで登り積めた歴戦の戦人だとピニャは思ったが、彼が強い事は周知の事実なので特にそのような事を言葉にする事もせず、そのままハルミトンを起こすと共にイタリカ中心部の屋敷へと足を運んだ。その途中ハルミトンはこういい出す。
「何故自分達はこのような場所で盗賊を相手に戦っているのか」
っと。その言葉に戦いでの疲労で肉体的にも精神的にも限界を迎えつつあったピニャは思わず柄にも無くハルミトンへ声を上げてしまった。
「仕方ないだろ! フォルマル伯爵領に大規模な武装集団が侵入したと言うから、てっきり異世界の軍隊かと……ッぐ!」
本来は今頃アルヌスの丘へ到着していたはずっとピニャは頭の隅で考えてしまう。しかし異世界の軍隊が等々侵攻を始めたという可能性も捨てきれなかった故の結果である為、連合小王国軍の敗残兵混じった盗賊を相手にする事は仕方ない事だと割り切って考え……られると良いなぁ。
自身の指揮が甘かったや元々の守護兵の数が少なかった事も起因して今回の戦いは本当にギリギリの戦いになってしまった。農具などを手に取り、一緒に戦ってくれた住民達が居なければ既にこの場所は陥落していたと想像に難くない。犠牲者を多数だした事により、元々少なかった兵達も今では両手で数えられる程度しか生き残っては無い。
「三日だ。本隊に使いを出した、三日で援軍が到着する」
こう言葉にするが実際に援軍がイタリカへと到着する時間など彼女には分からない。実際はもう少しかかってしまうだろう。相手は敗残兵とは言え元は正規兵。訓練も碌に受けたことの無い住民達が束になっても次の攻勢、耐えきれる保証など何処にもない。
「援軍が来たら勝てる。だから皆、頑張ってくれ!」
勇敢な者も多数死んでいった結果、士気も一日で下がるところまで下がってしまっている。
だが、彼女にはどうやっても士気を上げる方法が思い付かない。それもそのはず、だってこの戦いこそ彼女率いる薔薇騎士団もといピニャ自身の初陣なのだから。
ピニャが屋敷へ戻り、客間にて体を休め、眠っていると突如として全身を冷たい水の感触が襲った。
「何事か!」
思わず跳ね起きその事について咎めようと考えるが直ぐに今が緊急事態なんだと思い出す。メイドから手渡された布にて顔を拭い、濡れた服や鎧を身に着けると駆け付けて来たグレイに事情を聞いた。だが、彼の表情は珍しく煮え切れない表情を浮かべていた。
「果たして敵なのか味方なのか……小官には計りかねます。とにかくおいで下され」
報告のあった都市の城門に駆け付けてみると兵士や武器を手に取った住人達がチラチラと強固に閉ざされた城門を見ている。そしてその中でハルミトンだけが除き窓にて外の様子を見ていた。
「姫様、こちらを」
困惑したような様子のハルミトンに促され、先ほど彼女が見ていた覗き窓より外を見ていると目を疑うようなおかしな物がそこには存在していた。
「なんだアレは」
「木甲車、ですかね?」
「いや、違うな。アレは鉄だ」
ハルミトンが言ったような攻城兵器のような外見をした緑色の何かが三つ。だけどもそのどれもがピニャの記憶にある木甲車とは似ても似つかぬ形であり何よりアレは別の何か、恐らく鉄で出来ていると分かる。
「ノーマ!」
「敵影、他にありません」
訪ねたい事が分かったようで直ぐに答えを返す。
「何者か! 敵でないのならば姿を現せ!!」
城塞の見張り台にて立って居るノーマの誰何の声が頭上で響いた。どんな反応が返って来るかとピニャも兵士も住民達も息を呑んで待つ事しばし。ふと、木甲車に似た何かの後ろの扉が開いた。
「あの杖、リンドン派の正魔術か」
そこから出るは十三から十五ほどの少女。身に纏っているローブや杖を見るに魔術師だと言うのは一目で分かる。そしてその杖に使われているのはオークでくすんだ長杖を見るにリンドン派と呼ばれる派閥の正魔術師であることは明白だった。ならば歳がいくら若かろうと攻撃魔法や本格的な魔法戦闘も熟すはず。その事からもし戦闘になった場合、かなり厳しい戦いを強いられる事となる。その可能性にぶち当たり、ピニャは彼女らしくもない舌打ちしてしまう。
「な、エルフまで……」
次に出て来るのは見たことも無い衣装を身に纏う十六前後の娘。だがその耳や金髪碧眼を見て一目でエルフ族の人間だと分かった。
まずい……エルフは例外無く優秀で、非常に強力な精霊魔法の使い手だと聞く。特に風の精霊を駆使した雷魔法に関しては強力なモノだと一撃で一軍を壊滅出来るほど強力だと知られている。リンドウ派の魔術師と精霊魔法使いのエルフ。その両者が揃っている今、例え騎士団を率いているとしてもまず戦場では出会いたく無い組み合わせだ。油断している今だったらまだ相手取る事が出来ると攻略法をピニャは考えるが、次に出て来た人物を一目見てそのような考えを捨て去る事となる。
「ッ!?」
フリルを重ね、刺繍に彩られた漆黒の神官服を身に纏ういたいけな少女。
「あ、あれは……ロゥリィ、マーキュリー」
死と断罪と狂気。そして戦いの神エムロイに仕える使徒。本来早々出会えるはずの無い人物の姿がそこにはあった。
「ほお、あれが噂の死神ロゥリィですか?」
「見た目に騙されるな。あれで齢九百歳を超える化け物だぞ」
自身の父が収める皇帝の姿形すら無い昔から延々と生き続けている不老不死の亜神、それが使徒である。眼前に佇むロゥリィでさえ十二使徒と呼ばれる同類の中では二番目に若い事を考えるにその化け物さが分かるだろう。
魔術師、エルフ、そして使徒。もしこの三人の組み合わせが本当に敵なのならピニャ自身、すべてを捨て去り逃げ出す方法を考えようとも思ってしまった。
「む、まだ出てきますな」
グレイの言葉に離していた目線を戻すともう一人、少女が出て来る。見た目は魔術師と同じ十三から十四ほど。身に着けて居る青を基調とした衣服こそエルフと同じで見た事の無いモノだったが他の三人と違い、特徴的な部分がまるで無かった。その事に疑問を浮かべそうにもなるが一緒に見ていたグレイは別の反応を見せる。
「なッ!?」
「どうしたグレイ!」
目を見開き、その少女をまるで信じられないモノを見たかのように見つめる。だが彼は動揺した様子から落ち着きを取り戻すとゆっくりと目を離し、両目で目を抑え、覗き窓から目を離した。
「い、いえ。きっと気のせいです……なんでもありません」
何でもないと話す彼だが、その様子は先ほどと違い明らかに異常。それれがあの少女に起因してるのは明らかだった。だからこそ長く付き合って来て滅多に見られないそのグレイの表情を見て何かを感じた彼女は行動に移す。
「話せ、グレイ」
ピニャが問い質すと何度か目を左右に揺らし迷った後、グレイは観念したかのようにゆっくり語り出す――――
「私が若い頃、それこそ帝国兵として志願する前の話です」
――――自身が体験した過去の出来事を……
「ある時私は父の気まぐれで碧海にあるある港町へ向かいました」
「碧海と言うと帝都の近くの海である」
「はい、そこです。そこで泊りがけで遊ぶ事となった私達ですが……その時の私は若かった。その場所散々遊んだ日の夜の事です。昼間遊び足りなかった私は1人、両親の目を搔い潜り宿屋を抜け出して砂浜へと向かいました。月明りに照らされ、幻想的な砂浜は当時の私にとってどんな光景よりも美しいモノでした。そんな中で遊び、やがては疲れて丁度休んでいた頃、砂浜で寝ていた時にふと沖合にて目にした人物と言いうのが――――」
「……彼女と言う訳か」
「はい。雰囲気が見るからに常人じゃないと一目で分かるほどに神々しく、そして可憐でありました。様々な経験を積んだ今だからこそ分かりますが彼女は恐らく亜神……ですね、間違いありません」
「亜神……」
死神ロゥリィと同じ亜神。しかしピニャの記憶にある十二使徒の記録の中にはあのような少女の姿は無い。それに加え死神ロゥリィから感じ取れるような圧倒的なオーラもあの青色の少女からは感じ取る事が出来ず、化け物とは言い難い。
「して、彼女の名前は」
「終始彼女は名乗る事は無く、海へと姿を消しましたので分かりません。しかし出会ったのはそれっきりでした。しかし小官はそれでも彼女の所在が気になり、帝都にある全ての書庫にて何かしらの文献が無いモノかと探し回りました。しかし手掛かりは一つたりとも見つからず、結論としてその時の出来事は今の今まで夢か何かだと考えおりました。しかし―――」
「今回その人物を目にして驚いた……っと」
「そう言う事です、姫様」
「つまり相手は魔術師に加えエルフ、そして亜神が二人と言う訳か……」
「と、言う事にもなりますね。今からでも白旗でもあげますか?」
「それも良い考えだと思うがまだ敵だと決まった訳じゃない。ここは――――」
ピニャは思わずそこで言葉を止めてしまう。何故なら何一つ思いつかなかったからだ。確かにこの四人は賊かもしれない。けれどだとしたら何故1日目の攻防戦にて姿を現さなかったのか、何故今姿を見せたのか、と彼女の中で様々な考えが巡り渡って結論が出ない。そんな状態のまま、とうとう城門の通用口の戸が外から叩かれた。その瞬間、息が止まる。時間が無いまま彼女は等々この問いの答えを出す。勢いだ。勢いで有無を言わさずに巻き込んでしまえば何となる……かもっと。
「よく来てくれた!」
そして彼女は通用口の戸を力ずよく勢いをつけて開け放ち、グパーンっと効果音が響くかの如く開け放たれ。
「ハンブランビッ!?」
「ギャプランッ!?」
途中妙な感触と鈍い音、そして小さな悲鳴が響き渡った。その音を聞きふと我に返り、こちらへ向かって来ていた四人を見ると彼女達は通用口を開けた自身ではなく揃って下を向いていた。それに釣られ、ピニャ自身も下へと目線を映すとそこには男が二人倒れていた。片方は白目を向き、もう片方は赤く出血しているであろう鼻を抑えている。
やがて彼女達の冷ややかな目線がゆっくりとピニャへと注がれる。
「……もしかして妾が、妾がやったのか?」
「「「「うんうん」」」」
魔術師にエルフ、亜神と亜神と思わしき人物はその問いに揃って頷く。
「は、鼻ガァァアアアアァアアアアアア!!!!」
そしてその場にて最後に響き渡るは気絶した男とは別の黒い服を身に着けた男の悲鳴だけであった。