「痛い、痛いよぉ」
気絶した伊丹の体は現在こんな事を仕出かした本人に手伝ってもらい城内へ運び出すと窮屈なヘルメットなどを脱がせ、ロゥリィに膝枕されている状況だ。そして俺は涙を流し、現在進行形で流れ出ている鼻血を鼻にハンカチを突っ込む事でとりあえずは止めた後、はわわと煩い赤毛の人を他所に俺は倒れた伊丹への簡単な診察を始める。まずは閉じられた目を開き瞳振の有無の確認。その後は俺と同じ様な出血や首の骨が折れてない事、頭部全体に何かしらの外傷の有無を確認をした。けれどどれも異常は無く、唯一あったのは額にあるたん瘤ぐらいなので異常は無いだろう。ッホ、良かった。伊丹さんったら単純に気絶してるだけだわ‥‥‥‥ってか鼻痛てぇ。
「イオナぁ、俺の鼻どうなってる?」
「曲がってる。こう、右にぐっと」
「ッゲ、マジ?」
何だかテュカが倒れた伊丹へと水をぶっかけながら赤毛の人に非難してるみたいだけど知らん。だからこっちへ助けてぇーって感じで見られても庇いだて出来ないからな。
「治療する」
「自分で出来るから遠慮する……遠慮するからその徐々に徐々にと近付いてくるの止めない?」
「大丈夫虹像。私には過去、貴方を治療した経験もある。安心して任せて欲しい」
そろりそろりと近づいて来るイオナ。多分意地でも俺の曲がった鼻を修正したいんだろうけど絶対イオナに任せると酷い目に遭うって予感がする俺はその無防備なオデコへ人差し指を添える。子供っぽい動きをしてるイオナはその人差し指で突っかかり、その場で停止した。ムムムっと頑張ってこちらへ歩こうとするけど……フハハハ、我の鋼鉄の指は例えイオナであろうと突破出来ないのだぁ!!!
「邪魔」
「指ぃッ!?」
俺の人差し指をグワンっと曲げて退けたイオナは俺の曲がった鼻を掴む。きめ細かな若い女の子特有の柔らかな肌の感触が俺の鼻を包んだ結果、俺の心はドキドキと鼓動を強めていた。あ、コレは恥ずかしいとかそっち系では無く、単純に恐怖でドキドキしてるんだゾ。それにイオナに対しては絶対にそんな風には見られ──―
「そい」
「──―痛ったぁぁぁぁぁ!!!」
「あ、曲げ過ぎた」
ポキっと鈍い音が俺の鼻から響くと同時に激痛が走ったので俺は思わず声を上げる。何度か鉛弾を食らった事があるからある程度痛みには馴れてるけど顔に関しては別だよ別、俺の痛みに対する許容限度はオーバーだって。ってかイオナ、今曲げ過ぎたって……オイオイオイ止めろ。修正する為に逆方向へ曲げるは止めろ、止め──―
「修正」
「うご!? うぅ、だから痛いってぇ」
修正が終わったのか手を離したので俺は思わず両手で鼻を抑える。くっそイオナめ、荒治療にも程があるだろ。お返しにと空いた片手で彼女の髪をぐちゃぐちゃにしてやるけど"オォー、スウィート"っとか言って喜んでやがる。ご褒美でも何でもないんだけどなぁ……
痛たたたたぁっとこれからどうやってイオナにやり返してやろうかと考え出した時、クイクイと誰から服を引っ張られる感覚が。
「グーゾ―グーゾ―」
「何だレレイ。今の俺はどうやってあの純粋無垢の相棒を懲らしめてやろうかと考え────」
「伊丹が起きた」
レレイに促されたので倒れている伊丹の方へ目を向けると彼女の言う通り丁度目が覚めていたようで上半身を起こしている。見た感じ何処もおかしい様子は無く、キョロキョロと周りの様子を把握しようとしてるのが分かる。その後、無線へ話しかけているようだった。
「で、誰が状況を説明してくれるのかな?」
無線が終わったであろう直後そう問う伊丹。周りを見渡し、俺へも視線が来たので俺は自然と皆が目線を向ける人物へと目を向ける。俺達をこんな目に遭わせてくれた赤毛の女性へと。皆の視線に晒される赤毛の女性はなんとも情けない表情へと変わっていきこう、ほのぼのとした雰囲気がこの場所を支配したのだった。
「さてさて、コレからどうなるかね……」
俺が鼻に大怪我を負い、伊丹が気絶より目覚めた時から時間が過ぎて夕焼け見える時間帯。俺達はあの赤毛の女性、帝国第三皇女ピニャ・コ・ラーダの要請によりこのイタリカの街での防衛戦をする事となった。細かい内容は伊丹と一緒に同行させたイオナに任せてたから俺自身知らないのだがこの眼前に広がる悲惨な惨状はどうやら一か月ほど前から繰り広げられているらしく大義名分の元、伊丹率いる第三偵察隊が次の防衛戦へ参戦する事が決定したとか何とか。別世界の日本人は偉くお人好しな人が多いんだねぇ。俺がいた世界なら利点を見いだせず問答無用で皇女殿下の要請を断りそうなものを……ま、前に402に見せてもらったこちらの日本が辿った歴史を見るに自衛隊に所属している兵隊達は戦いを知らない、平和な世の中で育った人間ばかりなので仕方ない部分もあるか。
「イオナぁ、AP999式持って来たよな?」
「ない。艦長が村で持ってたのが最後」
「オォージーザス! 神は死んだぁッ!」
「虹像、神ならそこに居るぞ」
そう言ってイオナが指さすは伊丹と話すロゥリィ。いや、確かにあの人も神みたいなもんだけど何方かと言うと死神だろ? 死んだ方じゃなくて死を呼ぶ方じゃん。他人の命を問答無用で奪うほうじゃん、怖すぎだろ。仕方なしにサブとしてイオナに預けてた別の銃を手に取る。
「もっと良い武器を用意したらよかったなぁ」
「あっちの世界では一応最新式の武器。……確かにヒュウガと一緒に作った物と比べたら劣るが」
黒い拳銃を受け取ると手早くマガジンを出し、弾倉内に弾丸が入っているかを確認。その後シリンダーの中に異物が無いかをチェックした後、コッキングしてシリンダー内に弾薬を送り込んで再度コッキングさせ弾を取り出し、弾倉へと戻した。その後、イオナがチェック中にナノマテリアルで製作したガンフォルダーを身に着けてそこへと仕舞った。お、予備の弾倉は6本か、今回の戦いは長期戦になるかな?
「チェック完了っと。イオナ、いつも通り防御は任せるぞ」
「ガッテン。地上での守りは任せろ」
ドンっとない胸────おっとイオナさん、その振り上げた拳を下げましょう。きっとそれで世界は平和と成ります、えぇそうです。このことが切っ掛けで世界が平和に。そうです、それでいいのです……ッホ。ま、まぁとりあえずイオナはポンっと自信アリげに答えてくれる。懐かしいな。過去、俺が地上でのゴタゴタに巻き込まれてた時はイオナがクラインフィールドで何時も鉛弾の雨から守ってくれてたっけ……ガトリング数門から放たれる雨霰、怖かった思い出しかないぜ。
「そんじゃ伊丹さんに俺達が担当する持ち場でも聞きに行くか」
「ならその間、私は防壁作りに協力してくる」
イオナはそう言って階段も使わずに城壁から飛び降りた。まぁ、イオナはメンタルモデルですし心配はないだろ。ってか俺ってば一応客人扱いなのに何で戦闘に参加する事になってんだろなぁ……ま、いいけど。そんな疑問を抱きながらも俺はロゥリィとお話ししてる伊丹さんの元へ足を運ぶんだけど……そこではロゥリィが何ともキラキラとした楽しそうな表情を浮かべながら回り回ってまるで踊るかの如く心の底から笑っていた。
「恐怖! 全身を貫く恐怖をあのお姫様の魂魄に刻み付けるのね!!!」
「い、いや。それは違うくて……あ」
そして俺と伊丹さんの目と目が合うぅ~瞬間、俺が恐怖の表情に染まってるのだと彼は気付いたぁ♪
「い、伊丹いや伊丹さん。貴方ってそんな怖い人だったのか……」
「いや千早さん、それは誤解──―」
「いやー! サイコパスいやぁー!!!」
俺は走り出しそして伊丹さんはそれを追いかける。今ここに、伊丹のイメージを賭けた無駄な追いかけっこが幕を開けるのだった。結果? うん、流石は腐っても陸の男。海の男たる俺は勝てなかったよ……トホホ。
そして月灯りが夜を照らし静粛が漆黒の夜を包み込んだ夜中過ぎ、戦いは始まった。