時は遡り伊丹がピニャの要請を受け、それを無線にて報告した直後にまで遡る。アルヌスにて構える陸上自衛隊特地方面派遣部隊本部では左官級の幹部自衛官達と外部協力者である少女二人が集まって怒号にも似た激論が行われていた……何故かゲームをしながら。何か切っ掛けさえあれば殴り合いにも発展しそうな雰囲気であるにも関わらず、全員が全員コントローラーを手に持ち門の向こう側で傑作として売り出されている超大乱闘スマッシュヒーローズで遊んでいる様は正に狂気にも似た何かだ。そんな部下達の様子を眺める狭間は思う、何故このような事になったのか……っと。
事の始まりは門の向こう側、この特地にて溜まりに溜まった鬱憤を持った打撃部隊である戦闘団達が精神的に追い詰められ、地味なはずの訓練が次第に殺伐とし外部協力者によって狂気の沙汰とまで言われるほどのハードトレーニングを熟していた頃だ。
門の向こう側たる日本の防衛省の都合で戦闘師団たる第一と第四戦闘団はこちら側に派遣されて以降訓練しか行っていない。攻勢に出る計画もまだ立てられていない為に当たり前のことではあるがそれでも戦闘師団の団員達は他の師団と比べて役に立ってない、何も出来ていない鬱憤を着実に溜めていたのだ。そんな鬱憤している中、隊員達の耳に【ドラゴンを相手にして住民達を救った】だの【生き残りのエルフを救った】だの【まるでSFから出て来た潜水艦を拾って来た】などなど……某偵察隊の活躍が入れば彼らの中で溜まりに溜まっていた鬱憤を爆発させるのは必然であった。これがもし本土にいて、平和を満喫している間ならまだ耐えられたかもしれない。けれど本来この場所、門の向こう側であるここは戦場のはずだ。なのに虎の子であるはずの自分達が何もしない、もしくは出来ないこの状況は隊員達にとって強いストレスとなる。そしてそのストレスの影響は訓練の様子に強く表れる事となる。
通常の訓練行為のハズが陸上自衛隊の中で精鋭部隊と分類されるレンジャー部隊すら顔色が真っ青になるほどの模擬弾飛び交う交う実戦さながらの切羽詰まった戦闘訓練。同様の精鋭部隊たる空挺部隊ですら行わないだろう高速移動中での超低空で行う安全装備なしでのエアボーン。などなど、普段の訓練の様子からでは考えられない厳しい訓練が行われていた。
これだけならまだ来るべき戦いに備える為と理解も出来た……が、某偵察隊が連れて来てしまったSFの如き超技術を持つ外部協力者が介入した事により変貌する。模擬弾が死にはしないが死ぬ思いをする事となるビームに、エアボーンがパラシュート無しでの空挺降下へ。彼、彼女らのもたらした超技術は着実に彼らに変化をもたらし狂気を宿し始めた。そして今、鬱憤を爆発させる切っ掛けとなった某偵察隊の援軍要請によってその狂気とまで言われていた訓練は日の目を見る事となる。
援軍要請の内容はシンプルに言うとこう。
イタリカと言う街が敗残兵の混じった大人数の盗賊共に襲われている。市代表である帝国第三皇女、ピニャ・コ・ラーダ氏より当方に治安維持の協力要請を受けた。しかし当方では戦力が足りないのでそこに住む住人達を救う為、至急援軍を送ってほしい。
との事。それを耳にした幹部自衛官達は色めき立った。それはもうあまりの嬉しさにこの話を耳にした訓練中の自衛官達が思わず天に広がる青空へと模擬弾を打ち上げ、ビームで撃たれ死ぬ思いをするほどには大騒ぎとなった。住民達を救うと言う大義名分の元、スカッと叩き潰す事を許された生きる的が現れたのである。コレは訓練の成果を生かす──もとい、欲求不満を解消するチャンス。こうして決定権のある狭間陸将の元に左官連中どころか多くの幹部自衛官が半長靴を多数に響かせ集まり、怒号の如き詰め寄ったのだが……此処で最後に登場した人物よって鶴の一声が響く。
「多人数で詰め寄ってはハザマが対応できない」
「此処はコレで勝ち残った者のみ意見を許そう」
訓練に参加した自衛官である人間が殆どその狂気の訓練に参加した人間だった為にその命令には逆らえず結果、急遽集まった多くの佐官や幹部自衛官によるゲーム大会が開催されたのである。そして現在、勝ち残ったメンバーである4人と外部協力者たる2人が狭間の目の前で対戦をしながら激論を交わす。【第一戦闘師団】からは団長の加茂一等陸佐と団員の柘植二等陸佐。【第四戦闘師団】からは団長の健軍一等陸佐、団員の用賀二佐。そして外部協力者である【蒼い鋼】からはイ400とイ402の6人が今ここで対戦する。勝ち残った者のみ狭間への意見が許される為、少女二人以外は真剣な眼差しで画面を見つめ、たどたどしい手付きでコントローラーを操る。そして第一回の勝利者は第一戦闘師団チームである加茂一等陸佐と柘植二等陸佐であった。
「是非、自分達にやらせてください!」
「自分の第101中隊が特増強普通科中隊として既に編成、完熟訓練が完了しています! 呼集も済んでいます。許可さえ頂ければ直ぐにでも出動可能です!」
柘植はこう言うが隊員にとっては迷惑な事である。実際に出るかも分からないのに呼集をかけられ、今頃蒼き鋼によって齎された技術によって改良された特殊装備を身に着けた完全武装の隊員達が営庭にて整列し、今か今かと出動の命令を待っているかと思うと可哀そうな事である。
お次の勝利者は第四師団チームの健軍一等陸佐、団員の柘植二等陸佐。
「第一師団ではダメだ!」
この瞬間、殺気立った加茂一等陸佐の拳が正確に健軍一等陸佐の顎を捉えるが緑色のシールドが彼を守り事無きを得る。ちなみに狭間は目を見開いた。
「陸上移動ではどうしても現場まで時間が掛かる! その点俺達の第四師団ならば空を飛び、迅速に現場へと到着できる。ぜひ俺ら第四戦闘師団を使ってください!」
柘植二等陸佐が続いて加茂一等陸佐に映画のような見事な回し蹴りを放つが、またしても謎のシールドに防がれる。ちなみに色はピンク。そして狭間は誰もそれに対しツッコミを入れないこの状況に目を丸くする。
「大音量スピーカーとコンボと、ワーグナーのCDは既に用意してあります!」
「パーフェクトだ用賀二佐」
「感謝の極み」
褒めたたえる健軍一等陸佐に胸に手を当て頭を下げる用賀二佐。そしてそのタイミングで何かしら攻撃を仕掛けるのかと思いきや第一師団の二人は何もすることも無く、逆に二人してパチパチと拍手喝采を送る第一師団の二人。その事に対し狭間は右手の親指と人差し指で目元を抑えマッサージ。そしてこう考えた。こいつら、本当にどうしちゃたんだろう……っと。見ない内に第一師団の二人はえらく攻撃的になっているし、第四師団の二人はまるでキルゴア中佐の霊に取り憑かれたの如く脳みそが腐った発言を口にする……段々と頭が痛くなってきたような気がした。
「現場ではうちの艦長も巻き込まれている」
「私達からも援護を出す」
そんな中での蒼き鋼所属である少女達の発言。ちなみにゲーム画面を見てみると彼女達が操っていたキャラは他のキャラを捻り潰し、圧勝していた。彼達の言う援護がどのようなモノなのか想像も付かない……っが、何か言っておかないと大変な事になるだろうと何だか悪い予感する。しかしひとまずは目の前で第四回戦を繰り広げる隊員達を他所へやる為にこの件を速やかに処理した方がいいだろう。
「第四戦闘団の出動を命じる。今は速度が必要だ、それが現実的な選択だからな」
しかし、この時の狭間は知らなかった。そのような考えがまだまだ甘いものだと言う事を。予想する展開であるAH-コブラとUH-1Jヘリの大編成が低空飛行を行い、搭載している大音響スピーカーからワーグナーの旋律を響かせながら盗賊達を殲滅している光景であろう光景がストレス発散の為に提供された異世界の技術を総動員した装備を使い、地獄のような戦闘訓練を連日繰り返している彼らにとって目的としているモノではない……っと。
戦闘団を乗せた大編隊は登りつつある朝日を横目に夜空を飛び去る。目指すはイタリカ。伊丹や虹像が戦う、血で血を拭う戦場の地。