黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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外伝 鮮血の道標
外伝 一話 祈り


線路を走る振動がこんなに心地よいものとは思わなかった。

セントラルから乗車してから現在、全く汽車に飽きない私は…まだ子供なのだろうか。

 

私はいま東部へ向かっている。

東部なんて言うと頭に浮かばないわけがない…イシュヴァール。

いまはアメストリスによって完全に閉鎖されているらしい。

全てあの時のまま…いま聖地は静かに眠りについている。

 

そんな複雑な思いを振り払って窓を開ける。

機関車の黒煙の向こうに目的地が見えている。

ロックベル先生の出身地、そして眠る場所。

リゼンプール。

 

「リゼンプール、リゼンプールだよっと」

なんかやる気を感じられない駅員の声を聞きながら駅構内を見回す。

(ロックベル先生のお墓って…どこだろう)

とりあえず駅長さんらしい女性を見つけて道を訪ねる。

「そこでしたら…」

紙に詳しく道を書いてもらう。

「ありがとう」

歩きだそうとすると。

「あ、待って…ロックベル先生の実家はご存知?」

と声をかけられた。

これも巡り合わせ…か。

 

墓場よりは近い、ということなので先にいくことにした。

二階建てのこざっぱりした家の前に黒い犬が寝ている。説明された通りだから…ここよね。

へえ、ロックベル先生の実家って義肢装具師なんだ。

「わうっ」

黒い犬の歓迎(?)を受けながらドアをノックした。

軍刀で犬と距離をとる…犬って苦手。

「はいはい…お客さんかね」

喋りながら出てきたのは小さいおばあちゃんだった。

「あ、はじめまして…ロックベル…さんのお宅ですよね?」

「ああ、そうだよ…見たところ義肢が必要そうには見えないが…何の用だい」

 

「そうかい、イシュヴァールでね…」

ピナコさん(サラさんの義理のお母さんみたい)に案内されてお墓に向かっている。

一応イシュヴァール人だとは言えないので

「内戦に巻き込まれて怪我した時に治療してもらった」

と説明した。

「はい…噂で亡くなられたと聞きましたので」

…実際は違う。私は助けることができなかった。

でも、言えない…。

「酷い…戦いだったからね」

ピナコさんの言葉で戦場になった聖地が過る。

「はい…酷い…とても酷い…戦いだった…」

思わず涙が…やば…。

「…あんたも辛かったんだね」

なんとか堪えて。

「はい…でも大丈夫。うん、大丈夫」

良かった。笑顔で答えられた。

 

2つ並んだ墓石。

いまはどんな気持ちで眠っているのだろうか。

「親より先に逝くなんてね。とんでもない親不孝者だよ」

ピナコさんの呟きを聞きながら私は屈む。

片方しかない瞳を閉じて静かに花束を捧げた。

(ありがとう、ロックベル先生)

ただただ、感謝。

 

「もう行くのかい」

「はい、汽車がでちゃいますから」

「泊まっていかないかい?」

思わぬ申し出に少し戸惑いながらも。

「…ありがとう。でも、急ぐから」

「…そうかい」

少し残念そうなピナコさんに心が痛む。

「また来たら寄りなよ」

振り返って笑う。

「はい、ありがとう!」

 

「…やれやれ、そんなに急ぐ必要もないだろうに」

久々に賑やかな夕食になるかと期待したんだが、仕方ないね。

「ばっちゃん」

「ウィンリィ、お帰り」

「…お客さんだったの?」

あの子…ルージュと名乗った娘さんの後ろ姿を見送りながら。

「そうだよ…」

夕飯の準備の為に家へと戻った。


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