黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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外伝 二話 戦友

随分旅をしてきたと思う。

決意した復讐を果たす為の旅。

復讐に必要な情報はできる限り集めたかった。

その為に闇を選んだ。

 

闇を歩く、ということは生半可なことではない。

仲間に裏切られたことは何度もあった。命の危機なんてザラだった。

女としてのプライドを踏みにじられたことは数えきれない。

女であることは武器にもなり、弱点にもなり得ることは嫌というほど学んだ。

 

…私はもう…。

光溢れる場所へは戻れないだろう…。

 

 

そんななかでも信頼しあえる戦友とも出会えた。

 

そう、もっとも信頼しあえた戦友…。

 

 

 

あれはイシュヴァール殲滅戦から3年ほど過ぎた頃。

ダブリス近くの闇市場で始末屋をしていた時のことだ。

仕事の付き合いから親しくなったマーテルと飲んでいた。

私たちは組織の裏切り者の後始末を済ませた帰りにダブリスのメインストリートから少しはずれた場所にあるバーに繰り出した。

ただでさえ血生臭い仕事の後だ。酒はいつも以上に進んだ。

「マーテル、元軍人なんだ」

「まあね。結構いいトコまでいってたのよ」

アメストリス軍…だったのね。

「…へー…てことは…イシュヴァールにも…?」

「ざーんねん…私は南部戦線にいたからイシュヴァールには行ってないわ」

少しホッとした。

「ルージュはどこの戦線にいたの?」

「え?」

「あんた程の使い手がそうそういるわけないよ」

うーん…こういう会話は想定してなかったわ…。

「あー…えと…シンに。シンにいたの」

「シン?」

「そう、シン。あっちの王族の警護なんかを…」

「ふーん。随分と修羅場潜ってるみたいだったけど…警護ねえ…」

「あはは…シンも結構血生臭いから」

ニヤリと意味ありげに笑って。

「そういうことにしといてあげるわ」

そういって私の過去をネタにし始めた。

主に、男をことを。

…この日、私は初めて記憶を無くすまで飲んだ。

 

うーん…。

あたりが明るい。

…。

頭痛い…。

…。

…寒。

目を開くと、そこは見慣れた天井。

よく泊まるマーテルの部屋の天井。

私酔い潰れちゃったのかな?

「マーテル…ゴメン、水ちょうだーい」

起き上がって気づく。私なんにも着てないじゃない。

吐いちゃったのかな?

「マーテル?」

とりあえず着るものを探して部屋を出ると。

「………」

「………」

大きいのと、小さいのがいた。

 

思わず問答無用で張り倒した男2人。よく聞けばマーテルの仲間だったみたい。

「イテテ…」

小さいほうが恨めしげに私を睨む。

「何よ…代価としても安いもんじゃない」

「そういう問題じゃねえんだよ!」

「まあ確かにいいも」「鈍牛は黙ってろ!」

いいコンビみたい。

「よかったわねー、私だったらあんたら殺してたよ」

マーテルがケタケタ笑いながら茶々をいれる。

「ていうかあんたら何の用?」

「何の用って…マーテル、忘れてないか?」

「…?なんだっけ?」

「あのなあ…」

チラチラと私に視線を向ける小さいの。

…はいはい。わかりましたよ。

「私、外の空気吸ってくるわ」

そういって席をはずした。

 

マーテルの部屋を出て屋上に向かう。

私はため息を吐いて軍刀に手をかける。

「何の用?おチビくん」

「チビ言うな!」

髪を逆立てて怒る。小さいほうだ。

「じゃあ何て呼べばいいの」

「…ドルチェットだ」

「…ルージュよ」

屋上についてから握手を交わした。

階段登るときに散々足の長さを見せつけてやったからドルチェットくん、ひきつってた。

 

何も会話がないまま時間が過ぎる。

ドルチェットは煙草を燻らせている。

私はさっきから気になっていたことを話した。

「いい剣ね」

「…んあ?」

「そのサーベルよ」

ドルチェットが腰にさしている剣。それはあまりにも「カタナ」に似ていた。

「ああ、これか。シンからの密輸品に紛れ込んでたのさ」

自慢気に「カタナ」を示す。

「不思議な剣だ。何をしても欠けもしない。今じゃ俺の大事な相棒だ」

「あんたさあ…イシュヴァールには?」

「?…いや、行ったことないが…」

私の…カタナじゃないか。

「それね、東洋の島国のサーベルよ。カタナっていうの」

「へー…カタナか」

私は少し笑ってドルチェットの顔を覗く。

「…?」

気のせいかもしれないけど…父さんに似てるかも。

「今度難しい仕事があるの。手伝ってくれない?」

 

 

それから私はドルチェットとよく仕事をするようになった。

深い仲にもなった。

しばらくして別れはした。けど、最高の戦友だった。

私がドルチェットとマーテルの死を知ったのは随分先の話だ。

 

…また、仇が増えた。


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