黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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外伝 四話 信頼と約束

数年前のことだ。

私はある麻薬組織の用心棒として働いていた。

アメストリス国内では流通していない安価な麻薬を調達するためにクレタとの国境に来たときのことだった。

 

 

アメストリスとクレタとの国境には巨大な峡谷が広がっている。

その峡谷にある妙な街、テーブルシティ。その下の谷底に広がる貧民街が取引の場所だった。

 

(ひどい臭い…)

イシュヴァール人のスラム街でもここまでひどい場所はない。

昼夜を問わず上空から降ってくるゴミ。それがここの住人の命を脅かし…住人の糧となる。

(ゴミの山を漁る子供達か…)

何か金目の物のがないか探してまわる住人。私には彼らが同じにしか見えなかった。

必死に明日へと命を繋ぐイシュヴァール人と…。

 

クレタの秘密警察の気配はない。

取引も無事に終了したようだ。

(今回は楽な仕事だったわ)

血を流すことがなければそれはそれで良いことだ。

早く帰って一杯飲みたいな…。

 

ピーーー…

 

…笛?

秘密警察が今頃嗅ぎ付けたか。

ふん。もう遅いわ。

さて、さっさと引き上げて…。

 

ターン!ターン!

 

…?

こっちじゃない…。

 

 

 

「逃げろー!秘密警察だー!」

まずい!見つかったわ!

「ジュリア、こっちだ!」

ミランダに手を引かれて階段を駆け上がる。

 

ターン!ターン!

 

銃声!

 

キャアア…。

 

あの声は!皆が!

「!」

私はミランダの手を振り払って戻った。

「ジュリア!戻りなさい!」

ミランダの声を無視して駆け戻る。

階段を下りて角を曲がると。

「…!!」

血を流して倒れてる仲間と。

下卑た笑いを浮かべたクレタ兵がいる。

「!!」

私は声が出せなかった。

その間にクレタ兵の銃が私に向けられる。

引き金が引かれる。

 

その時。

 

銀色の閃光が数本煌めき。

クレタ兵は何が起きたかわからない顔でバラバラになった。

「大丈夫?」

その声の主を見上げると。

アメストリス人の女性が立っていた。

 

「ジュリアを助けてくれたことは礼を言うわ」

ミランダは銃を構えたままアメストリス人の女性と距離をとる。

「ミランダ!この人は…」

私が何か言おうとするとアメストリス人の女性が何かを呟いた。

聞いたことのない言葉だった。

けどそれを聞いたミランダの表情が変わった。

「それはイシュヴァールの…」

 

それがアメストリス人の女性…ルージュとの出会いだった。

 

 

それから半年ほどしてから、ルージュはまたやって来た。

数人のイシュヴァール人と一緒に来たルージュはミランダ達と何か話していた。

そしたら皆、喜んでた。

どうやら武器が格安で手に入るルートがつながったらしかった。

これでまともに戦うことができる、て皆大騒ぎだ。

そんな喧騒のなか、私はルージュと直接話をする機会があった。

「あら…ジュリア…だっけ」

私は無言で頷く。

それからポツポツと会話を交わし。

私は一番の疑問をぶつけてみた。

「なんで私達にこんなに良くしてくれたの」

ルージュはそれを聞いて少し悲しい顔をした。

そして。

「抵抗することができる貴方達が…羨ましいから…かな」

と呟いた。

 

そして私とルージュは友達になった。

 

「もしジュリアが助けが必要になったら、私は必ず駆けつけるわ」

そういってルージュは谷から去っていった。

 

 

 

私は新聞を見ていた。

『テーブルシティにて反乱が発生』

『犯行は反政府組織【黒蝙蝠】が関与か』

『テーブルシティは占領され、新生国家ミロス建国を宣言』

…ジュリア、やったわね。

私は新聞をゴミ箱に捨てると、歩きだした。

 

全ての決着の場、セントラルへと。


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