黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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終章 涯てにあるモノ
第一話 約束の日


もうすぐ日食が見られるらしい。

世界的に見れば珍しい現象ではない。だけどアメストリスで見られるのはかなり久しぶりみたいだ。

しかも皆既日食。今回見逃せば一生見られないだろう。

天体なんてものにほとんど興味がない私でも胸が踊る。

………。

できれば…。

 

イシュヴァールの地で見たかった…。

 

 

血生臭い日々とも少しだけお別れ。

今回の皆既日食はセントラル付近が一番よく見える…という噂を信じ、私は久々にセントラルへと足を向けた。

ヒューズさんの墓参りに半年ほど前に来て以来だ。

…グレイシアさんとは…会ってない…。

会えない…ていうか…今の私は…見せられない。

グレイシアさんは光の中にいるべき人。闇にまみれた私には…眩しすぎる。

 

せっかく息抜きにきたはずのセントラルは私に重い現実しか与えてくれなかった。

…やっぱり郊外でみよう。

 

「スー…」

その時。

捨てたはずの名前を呼ぶ声が聞こえた。

私は腰の軍刀に手をかけ間合いをとる。

「!!!」

背後にも気配を感じた私は振り向きがてら居合を放つ!

 

ギイン!

 

金属がぶつかる音が響く。

「待テ」

なんだか聞き覚えがある声。

ポニーテールの女が私の刃を防いでいた。

機械鎧の腕が私の軍刀を握る。

「私だヨ、私」

妙な訛りの女の顔が私の記憶と一致した。

「…ランファン…」

 

イシュヴァール殲滅戦以来の久々の再会だった。

できれば酒場で酒を酌み交わしたい。そんな想いから誘ってみたけど。

「………イヤ」

人見知りのランファンにはやっぱり拒絶された。

「変わってないわね、ランファン」

 

人がいない裏通り。

崩壊しかけた家の屋上で話すことにした。

「スー、あなたの噂は聴いてル」

「…あんまりいい噂じゃないんでしょ」

ランファンは視線をまっすぐ私に向けた。珍しい。

「今はそんなことはいい。話を聴いテ」

「ハイハイ…だから何よ」

「私と来てほしイ」

 

ランファンたちが泊まる宿に向かいながらこれまでの経緯を聞いた。

「………」

「スーの力が欲しイ。お願い、手を借りたイ」

「ちょ、ちょっと待って。ちょっと待ってよ!」

私は頭を振る。

「ホムンクルス?お父様?何を言ってるの?」

「信じられないのはわかル。けど信じてほしイ」

正直、ランファンに担がれてる気がして仕方ない。

だけどランファンはそんなことする娘じゃない。

いや、だけどこんな突拍子もない話…。でもランファンは…。

あ〜〜もう!ワケわかんない!

 

「スー、いい?あなたの目的も果たせル」

少し混乱がおさまった私にランファンが言った。

…目的?

「今回の件には間違いなく軍上層部がからんでル」

「…軍…上層部?」

…。

目的…。

…。

 

キング・ブラッドレイ…!

 

「…私はランファンが言ってることは信じることはできない」

ランファンが俯く。

「スー…お願イ…」

私は…昔の私じゃない。

「ランファンが何をしようと知ったことじゃない」

私は一度言葉を切り、息を吸い込む。

「私の目的はただ一つ…キング・ブラッドレイの首よ!」

そして歩き出す。

「ランファン…私ができることはそれだけよ」

 

 

 

「スー…それでもいイ。私たちは…仲間ダ」


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