黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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第二話 相棒

ランファンと別れた私はすぐに準備に取り掛かった。

相手はキング・ブラッドレイ。アメストリスの最高指導者でありながら、おそらくは最強の剣客。

そして「お父様」と呼ばれる黒幕。その配下のホムンクルス。

どれだけ準備しても足りないかもしれない。だけどやるしかない。

必要と思えるものは全て揃えよう。

私は知り合いの非合法の武器商人の元へ急いだ。

 

手投げ用のナイフ。

シン製の爆薬。

即効性の猛毒。

予備の軍刀。

いままで稼いだお金の大半を注ぎ込む。

もう時間がない。相場なんて無視で上等なものを買い漁る。

 

大体の手配を終えた私は次の準備を始めた。

準備とはいっても簡単だ。単なる人探し。

闇ルートの情報屋に大金を渡したらすんなりと居場所を教えてくれた。

 

小一時間早足で歩いてセントラルの郊外にでる。

城壁を囲むように並ぶスラムの一角。他の小屋よりはやや大きな造りの建物に汚い字で「BAR」と書かれていた。

その酒場に入り、奥の酒樽の上に視線を向ける。

 

…いた。

 

とりあえずグースカ寝てるそいつの頭に軍刀の鞘をおもいっきり振り下ろした。

 

酒樽から落ちて転がり回るそいつの背中を踏む。

相当痛かったのだろう。半泣きの状態で私を睨んだ。

「…何しやがる!」

その時の私は随分と目付きが悪かったと思う。

でも仕方ないじゃない。

この馬鹿のせいなんだから。

「何しやがる、じゃないわよ。なんであんたがここにいるのよ、イリージャ!」

 

イリージャ。

イシュヴァール殲滅戦のときに私が守っていた悪ガキ。

そして…私を守ってくれた悪ガキ。

 

戦後、しばらくはクセルクセス遺跡のスラムにいたらしいけどすぐに飛び出したらしい。

それからは私と似たり寄ったりの生活をしていたようだ。

 

「スー姉」

また鞘を振り下ろす。

「痛ぇ!」

「その名前で呼ばないの!」

「わかったよ…」

イリージャは頭を押さえつつ。

「で?何の用だよ」

私はイリージャの横に立て掛けられた銃を見ながら。

「それ、玩具じゃないわよね?」

「あったり前だっつーの!」

その子供っぽい反応に思わずニンマリしてしまう。

こいつ、昔と変わってないわ。

 

情報屋の話ではイリージャの射撃の腕は確からしい。

さすがに「鷹の目」には及ばないらしいけど。

 

「イリージャ、あんたを一人前の戦士と見込んで依頼するわ」

「な、何だよ?いきなり」

「私と手を組んで」

「は?」

「ある男を殺したいの。ただ相手は強大なの。私一人では…まず勝てない」

イリージャは銃を手元に寄せて構えた。

「スー…じゃなくてルージュでも勝てない相手?そんなのいるのか」

構えた銃を窓の外に向ける。

「いるわ」

じっと照準をあわせる。

「イシュヴァール人にとって最強最悪の相手が」

轟音と共に火を吹くイリージャの銃。

こちらを注視していたアメストリスの秘密警察らしき奴に当たった。

「…まさか」

「キング・ブラッドレイよ」

 

外に出ると男が一人踞っていた。

腹に命中したのだろう。大量の血を流していた。

「さて。テメエは何者だ?誰の差し金だ?」

イリージャが凄む。私から見ると迫力の欠片もないように見えるけど大丈夫かしら?

「…イシュヴァールの負け犬が。吠えろ吠えろ」

「…あ?」

イリージャの表情が消えた。

「お前らみたいな負け犬はおとなぐぎゃあああ!」

イリージャが殴りかかるより速く。

私の軍刀が男の舌を切断していた。

「何か喋りたい?」

大量の血を吐きながら何かを訴えている…みたい。

「無駄なことしか話せない舌ならいらないかと思って…悪いことしちゃったわね」

まだ何か訴えている…もういいや。

「ついでに死になさい」

今度は脳天に軍刀を叩きこんだ。

 

血を振り払って軍刀をおさめる。

「どうする?あんたももう巻き込んじゃったみたいだけど」

「…ああ。そうみたいだな…」

空を見上げてからイリージャは。

「いいぜ。組んでやるよ」

不敵に笑った。

 

「…よろしく」

…駄目だ。

イリージャ見てると笑えてくる。

背伸びしてるようにしか見えない。


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