黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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第三話 前日

ランファンから聞いていた「約束の日」は明日だ。

あれからイリージャと共に入念に準備を進めた。

あれからはアメストリス側に気付かれることなく来れた…と思う。

たた…話に聞く「お父様」の存在が本当だったとすると…隠しきれるわけがない。

それだけに相手の反応の無さが余計に不気味だった。

 

「…これで終わりにしましょ」

汗を拭いながら私はイリージャに言った。

「まあ、フォーメーションはこれしかないだろうしな。明日に備えて早めに切り上げるか」

木の上から飛び降りてからイリージャが答えた。

水を飲みながら私は歩き始める。

「私、これから行くとこがあるんだけど…あんたはどうする?」

隣を歩くイリージャは少し考えてから。

「…俺はパス」

と言って反対の道へ行ってしまった。

「…気を使わせちゃったわね」

苦笑しながら先を急いだ。

 

私は軍の墓地へ来ている。

当然、あの人に会う為だ。

「久しぶり…ヒューズさん」

持ってきた花束を置く。

しゃがみこんで私は黙祷を捧げる。

「私…明日で全ての決着をつけるわ。生き残れることは…ないと思う」

立ち上がって空を見上げる。

「もしもヒューズさんのところに行くことになったら…今度は戦わなくてもいいよね」

久々に。本当に心から。

「その時はデートしよ」

…笑えたような気がした。

 

 

久々に主人に会いに来た気がする。

あの日から…胸に空いた大きな穴が塞がることはない。

まだ若いんだから…等と言われて再婚を勧められることもあるけど。そんな気は更々ない。

ぼんやりと考え事をしながら主人が眠る場所に来てみると。

「…?」

最近では珍しく花束があった。先客がいたみたい。

「…誰か…わかりませんが…ありがとうございます」

主人を忘れずにいてくれて。

 

 

次は近くの共同墓地。

隅のほうに草に覆われて誰も近寄らない区画がある。

伸びた雑草を刈り取りながら進む。

そこにただ石を乗せただけの粗末な墓があった。

「久しぶり…おちびちゃんにヘビ女」

石にお酒をかける。

「一緒に酒飲んだのいつだったっけね…」

少し残ったお酒を飲み干す。

「多分…明日中にはそっちに行くわ。そしたら…」

少し間をおいて。

「また飲みましょう」

 

 

スー姉…じゃなくてルージュが去ってからしばらくして、俺は粗末な墓の前に立った。

「よう。確かスー…じゃなくてルージュの元彼と飲み友達だよな」

持ってきた度の強い酒を振りかける。

「悪いけどな、ルージュはまだそっちには行かせないよ」

酒を全部かけると空になった瓶を置いて花を飾る。

「すまんが今はこれで我慢してくれ。全部終わったら立派な墓を建ててやるよ」

 

 

ついに、夜が明ける。

 

始まる。

 

約束の日が。


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