黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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第四話 生きる理由と戦う理由

ダーン!

 

ブリッグズ兵の放った弾丸はブラッドレイには当たることはなかった。

 

「…よし」

 

しかし、ブリッグズ兵の銃声と重なるように放たれたイリージャの弾丸は見事にブラッドレイの肩に命中した。

そのままブラッドレイは堀へと落下していった。

 

「イリージャ、ありがとう」

 

私はイリージャにウインクすると空中へと身を踊らせた。

近づく水面を見つめながら。

 

「やっと…ブラッドレイを」

 

軍刀を握る手に力をいれる。

 

 

 

約束の日当日。

私はマスタングに再会した。

「…生きていたか」

「…おかげさまで」

そんな味気ない挨拶のあと、私はブラッドレイの情報を求めた。

マスタングから聞いた情報は2つ。

東部への視察のこと。そして鉄道爆破による暗殺計画のこと。

(今から追っても間に合わない…)

でも。

(ブラッドレイがそれぐらいで死ぬかな…?)

もし、ブラッドレイが生き延びて。

向かうとしたら。

『お父様』のいる場所。

「…中央司令部にいくわ」

 

…私はマスタングと別れた。

去り際に何か言っていたような気がしたけど。

正直どうでもいい。

私はマスタングの恩に報いるために来た訳じゃないから。

 

ただ。

あの日に…イシュヴァールが終わったあの日に。

決着をつけるために私はここにいるんだから。

 

 

私はイリージャと共にブリッグズ兵に扮して中央司令部にまぎれこんだ。

正門にブラッドレイが現れたという話を聞いて急いで移動。

そして堀の壁にぶら下がっていたブラッドレイを発見したのだった。

 

 

「ぶはあ!はあ!」

ギリギリのところで水面に顔を出して空気を貪る。

ブラッドレイを追いかけて狭い水路に入ったまでは良かったんだけど。

途中で急な流れに体を持っていかれて…散々流された。

「はあ…はあ…」

とりあえず寝っ転がって息が落ち着くのを待つ。

しばらくすると。

 

バチャッ

 

近くで水音が聞こえてきた。

 

「!…」

握りっ放しだった軍刀の感触を確かめ。

立ち上がる。

 

通路をしばらく進むと。

全身びしょ濡れの男がたっていた。

両肩と腹部からの出血。

そしてこの鋭い眼光。

きっとイシュヴァールの渇いた大地を見下ろしていた眼光。

間違いない。

 

やっと。

やっと。

辿り着いた。

 

「おつかれのようね、大総統閣下」

 

「今度は…誰かね」

 

「スー・モヌゥフと言えばわかるかしら」

 

「…イシュヴァールの亡霊といったところか」

 

「…敵討ちなんて殊勝なものじゃないわ」

 

「ならば、なぜ私の前に立ったのかね」

 

「簡単よ。自分の為。自分が…私が…イシュヴァール殲滅戦に決着をつけるため」

 

「それを敵討ちと言うのではないのか」

 

「…ふん。そうね。何でもいいわ。理由なんてどうでもいい」

 

「…」

 

「私が生きる為には…あなたを乗り越えないと駄目なのよ…」

 

「ふむ…生きる為、か」

 

「あなたを倒して…戦う理由を無くすことが…私には必要なのよ」

 

「そうかね…だが私にも生きる理由がある…」

 

『戦う理由』と『生きる理由』がぶつかる。

それは。

永い永い約束の日のほんの少しの間。

 

「だから。私が生きる為に。ブラッドレイ…死んでもらう」

 

私は。

軍刀を抜いた。


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