黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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第六話 一つの結末

確か…ルージュと言ったか。

私に勝ったイシュヴァール人は。

 

私に初めて土を着けたイシュヴァール人。

あれとの戦いは…いやはや、新鮮だった。

両腕を砕かれても立ち上がり、最後は口で軍刀を振り抜きおった。

首に刃物を突き付けられた時は…私でも“終わり”を感じた。

 

しかし。

あのイシュヴァール人は…そのまま倒れた。

…笑みを浮かべたまま。

 

死んだかどうかまでは確認していないが。

もし死んだとしたのなら…満足して逝ったのだろう。

 

 

それがとても羨ましく感じた。

 

 

だが。

私も。

満足して死ぬことができそうだ。

 

なんという因果だろうか。

あのイシュヴァール人と同じように。

両腕を失い。

軍刀を噛んで戦う蛮行を私が体験しようとは。

 

だが。

愚かだとは思わん。

とても。

…清々しい。

 

 

「…王たる者の伴侶とはそういう者だ」

 

私は自分で話している自覚はある。

しかし私の心は此処に無かった。

…死ぬ間際にしては浮わついている。

私の中にあるのは。

 

「む…」

 

私の最後に。

 

「くだらぬ問答をしているうちに敵を打ち損ねたな、娘よ」

 

真に望んだ戦い。

 

「用意されたレールの上の人生だったが」

 

その相手となった名も無きイシュヴァール人。

 

「おまえ達、人間のおかげで」

 

そして。

 

「まぁ」

 

私の人生のなかで。

 

「最後の方は」

 

唯一。

 

「多少」

 

敗北を教えてくれた。

 

「やりごたえのある」

 

あのイシュヴァール人。

 

「良い人生であったよ」

 

名は…。

 

「…」

 

確か…。

 

 

 

ルージュ…。

 

 

 

 

 

これが…満ち足りた…。

 

 

“死”か…。

 

 

 

 

 

…。

……。

………。

 

「…」

 

 

…う…。

 

「…い…」

 

…うぅ…。

 

「…いて…」

 

…手…手が…。

 

「…痛い!」

 

…あれ?

…??…。

 

「…生きてる?」

 

私…。

確か、ブラッドレイを追い詰めて…。

意識が途切れて。

 

「なんで?」

 

え?えぇ?

理解できない。

普通、止め刺すでしょ!?

 

「…クソ!ふざけんな…痛」

 

痛いけど…追わなきゃ。

もう一度痛い思いをしながら立ち上がる。

 

「まってなさいよ〜…痛」

 

そして追いかけた。

 

 

 

明るい場所に出る。

そこにはランファンと、二人の倒れている男がいた。

一人はイシュヴァール人だ。顔が見えないけど…多分スカーかな。

もう一人は…。

 

…。

 

…クソ野郎!

 

「ランファン」

 

「ルージュ…」

 

「あなたが殺したの?」

 

ランファンはなぜか悲しげな顔を左右に振った。

 

「なんて言うか…時間切れみたいナ…」

 

時間切れ…ね。

 

あーあ。

本当に嫌なヤツ。

なんて満ち足りた顔してんのよ。

 

「あーあ…」

 

「ルージュ…なんで泣いてル?」

 

「…なんでだろね」

 

 

 

 

悔し涙、だよ。

 

クソ。

ホント、嫌なヤツ。


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