黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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第四話 抗戦

脱出した私は一時的に近くの岩山で様子を見た。

2〜3日アメストリス軍の動向を伺ってみたけど…どうやら動く気配はない。

このまま進駐するつもりらしい。一度戻りたかったけど…仕方ない。

数日の間にかき集めた食糧や必需品を革袋に放り込むと、アメストリス軍に見付からないよう岩山から離れた。

「バイバイ…サンドウォール」

…かならず…戻るよ。

 

 

それから数日間、サンドウォールの近くの集落を転々とした。

だけどほとんどは攻撃を受けた後だった。

相手は軍隊。武僧ぐらいじゃなきゃ抵抗もできない。

惨たらしく殺されたイシュヴァール人(特に子供)を見る度…自分に何か…今までにない感情が湧いてくるのを感じていた。

 

そして。

サンドウォールを脱出してから1週間。

 

私は父さんの知り合いの家に転がりこんだ。

その家は元々宿屋を経営してた家で、父さんがよく使ってた。で、私も面識があったのだ。

なんと言っても私の外見。アメストリス人と間違えられるのもいつもの事。

その度重なる面倒を思うと知り合いというのは有り難かった。

「んぐ、んぐ…ぷはー、うまい」

「これこれ。こんな綺麗な女の子が…はしたないよ」

おばさんに限らずイシュヴァール人は敬虔なイシュヴァラ教徒だ。結構うるさい。

「ごめんなさい…久々のお水だから」

私は不真面目なイシュヴァラ教徒なんです…。

「それにしてもよく無事で…」

「うん…でも父さんと母さんは…」

「…そうかい…」

私の話を聞いたおばさんはイシュヴァラ教の弔いの言霊を唱えてくれた。

「ありがとう」

「それにしてもアメストリス人の奴らめ…天罰が下ればいいのさ」

その言葉を聞いて、肝心なことを思い出した。

「そういえば。アメストリス軍の情報聞いてない?」

「聞いてるよ。あと数日中にはこの辺りに達するらしいね」

「早く脱出しないと」

「心配しなさんな。ちゃんと準備はしてるさ」

近くの荷物を指差してニタっと笑う。やっぱおばさんは頼もしい。

「今夜は泊まっていきな。なんなら私らと来るかい?」

願ってもない。私は好意に甘えることにした。

 

久々に浸かる湯船の気持ち良いこと…生き返るよ〜。

「………」

だけど…父さんと母さんはもういない。

久々に緊張感から解放されると…感じる喪失感。哀しみ。悔し涙しか出てこない。

そして…沸々と沸き上がる殺意。

ここ数日、私の内を徐々に埋めていく黒々とした憎悪。

アメストリス人を切り裂いた感触が全身に伝わる。

「………」

それを快感としか感じられない自分が怖かった。

 

濡れた髪を拭いていると外で物音が聞こえた。

…覗き?

急いで下着を身に付けて近くに立て掛けてあったカタナを握る。

裏窓を伺おうとしたとき、扉が荒々しく開いた。

「スーちゃん!急いで支度しな!」

おばさんが血相を変えて怒鳴った。

「!…まさかアメストリス軍が!?」

「斥候の連中がこの辺りに来てるらしいんだ!」

私は着替えながら気配を探る。

…近くに数人の気配。不味い!アメストリス人だ!

「おばさん!隠れて!」

そう叫ぶと急いで伏せる。

瞬間、銃声が轟いた。

 

数分後。

銃声が止んだ。

さっきまで平和な日常だった空間は一気に黒々とした戦場に変わった。

「…一体なんだってんだい!」

おばさんが毒づく。

「とりあえず物陰にいて」

「スーちゃん?」

私はカタナを握る。またあの「感触」が全身を駆け回る。

何故か笑みが浮かぶ。やっぱり私…変だ。

だけど…。

「………」

おばさんが何か叫んだ気がした。だけど私は飛びだした。

 

一気に詰め寄ると一閃。

肩口から脇腹まで切り下げる。

血を吹き上げる兵士を横目に隣にいた中年の胸に一突き。よし、2人目。

建物の陰に2人の気配。銃声!

横飛びに避ける。1、2発カタナで弾く。火花が散った。

驚愕の表情を浮かべるアメストリス人。そりゃそうか。銃弾を剣で弾くなんて普通は無理よね。

…大爺様が私をシンに留学させた理由がようやく解った。

 

シンでの先生だったフー爺様が言っていた。

「気配とは人の存在。つまりは空気の流れ。人が動けば空気も動く。その流れを全身で感じることじゃ」

修行の相手をしてくれたランファンの言葉も浮かぶ。

「…太刀筋を見ていては駄目。見えたら斬られる。見る前に避けること」

当時はムチャだ!と思った。でも、今なら…!

 

「…遅い!」

そう呟いてまた1人切り裂く。

残りは1人。若いアメストリス人だ。

私を見てガタガタ震えていた。

「た…頼む…命だけは…」

涙を流して私に懇願している。私はすぅ、と眼を細めると。

「あなたにはイシュヴァラの慈悲は必要ない」

カタナを振り上げる。

「あの世で我が同胞に詫びなさい!」

アメストリス人は2つに分かれて倒れた。

 

 

カタナの血をアメストリス軍の軍服で拭う。

緊張を解く…。

が、束の間!後ろに1人!

カタナを向けた先には。

おばさんがいた。

「…おばさん!危ないよ!」

「び、びっくりしたよ…アンタ、強いんたね」

内心ホッとした。

ちゃんとアメストリス人とイシュヴァール人の気配の違いが解ること。

そして…おばさんが私を見る目が変わっていないこと。

「とりあえずここから逃げよう」

「そうだね。急いで仲間を集めるよ」

 

しばらくして数十人のイシュヴァール人が集まる。

大半が民間人。だけど大丈夫。

武僧もいるし、私がいる。

絶対にこの人達を死なせない。

そのかわりに。アメストリス人を死なせる。

イシュヴァラの慈悲の及ばない暗闇に落としてやる…。

 

 

私たちはアメストリス軍の本隊が到着する前に脱出した。

数回の戦闘があったけど死者は出なかった。

そして私たちは大僧正の元へ向かった。


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