黒い瞳の同胞 〜イシュヴァール殲滅戦〜   作:リリア・フランツ

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第七話 一矢

グンジャが陥落した。

あの国家錬金術師が1人で。

そう、たった1人で。

グンジャを守っていた武僧の7割が戦死。

戦いに参加していた一般人の義勇兵にもかなりの被害がでた。

…はっきり言っちゃえば完全に勝敗は決まったようなものだ。

私個人的には納得いかない。だけど「これ以上犠牲者を出すよりは…」という意見が多いのも事実。

私もちょっとだけ諦めを感じ始めていた。

 

だけど。

まだ終わらない。

何故なら。

イシュヴァール「殲滅」戦なのだから…。

 

 

グンジャから落ち延びて逃げ回る人達にもアメストリス人は一切容赦をしなかった。

本当に、殲滅。

突然現れた壁に行く手を阻まれ、背後から銃弾を浴びせられる。

決死の覚悟で挑んでも突然の爆発によって吹っ飛ばされる。

大人子供男女一切関係無し。

イシュヴァール人とわかれば殺される。

…地獄だった。

 

で、私はというと。

まだ戦っていた。

この時の私には「戦う理由」なんて大それたモノは一切無かった。

ただ、殺す。

憎いから殺す。

アメストリス人だから殺す。

…この時の私はひどい眼をしていたんだと思う。

本当に、ひたすら。

アメストリス人兵士を惨殺していた。

 

いま、私は聖地の中心の西側にいる。

アメストリス人が勝手に「西区」などと呼んでいるあたりだ。

ここには比較的大火力を持つ国家錬金術師がいない。

だから私や生き延びた武僧はここで戦線を維持していた。

 

銃弾を避けて正面から斬り込む。

ライフルを手にした兵士を2、3人斬り捨てる。

その後、左右から武僧が飛び込んでアメストリス陣営を混乱させる。

あちこちで悲鳴をあげるアメストリス人。

武僧によって首を折られる。

私は死んだ兵士が持っていた手投げ弾の安全ピンを抜き、放り込む。

一斉にイシュヴァール人は離脱。

アメストリス軍は爆破によって更なる混乱に陥った。

 

とりあえず夕方になり、戦闘も小康状態になった。

私は前線から離れて北に向かった。

そこにイシュヴァール人の生き残りが集まる集落があるのだ。

 

「スー姉ちゃん、お帰り」

「今日はどうだった?」

「勝ったの?ねえー」

この子達はみんな親無し。殲滅戦で両親をアメストリス軍に殺された子ばかり。

つまり、私と同じ。

なんだか気があったというか…今では「お姉ちゃん」になってる。

「はいはい。みんな早く寝なさいよー」

そんな会話をしながらも…感じる視線。

…大人達が私をどう見てるかは私もわかっている。

容姿だけ見ればほぼアメストリス人の私。憎しみの対象とされることも多い。

前線に立ってアメストリス軍と戦っている事実が無ければここには居られないだろう。

実際に石を投げられたり罵声を浴びせられることもしばしばあった。

「よう、混血」

少し落ち込み気味だった気分がさらに悪化した。

そう。あの武僧のおっさんも生き延びているのだ。

「何よ、おっさん」

「西側はどうだ」

「…一進一退ね」

「そうか…こっちは散々だよ」

…はっきり言ってイシュヴァールはいま劣勢だ。

「おっさんが足引っ張ってんじゃないの」

「お前こそ足引っ張ってんじゃねえのか」

私の顔を見ていたおっさんの視線が下がり。

「…こんなこと言ってる場合じゃねえな」

ふっと息をついた。

「…何よ」

「お前がいるとこに明日あたり国家錬金術師がくるらしい」

 

国家錬金術師が…くる。

あのおっさんは口は悪いけど情報は的確だ。

「………」

何となく考え込んでいると、目の前に誰かがいた。

「…スー」

「…ん?」

イリージャ。私と同じ親無し。2つ下だ。

「俺も戦場に出たい」

「…またその話?師父には聞いたの?」

「ダメだダメだの繰り返し」

そりゃそうよ。

「なら諦めなさい」

「嫌だよ。俺だってアメ野郎をぶっ殺したい」

「師父の決定は絶対よ」

「なあ、スー。俺も連れてってくれよ。頼むよ」

小さく溜め息をはいて。

「ダメ!」

と一喝。その場を離れた。

…気になる。けど。

振り向いたらダメ。

ただスタスタと歩く。

すると。

後ろから私の胸を鷲掴みする手。

思わず悲鳴をあげてしまった。

そして逃げる足音。

「イリージャ…いつか泣かす」

思わずイシュヴァラに誓ってしまった。

 

次の日。

あのおっさんが言っていたとおり、国家錬金術師が現れた。

一気に戦線は後退。

私が来た時にはイシュヴァール側は全滅しかかっていた。

 

私が降り立った辺りには何故か無数の剣が突き立っていた。

そして無数に転がる武器の類い。

「ほっほ。また現れおったわ」

目の前にアメストリス人がいる。白髭を生やした老人だ。

「この銀の錬金術師ジョリオ・コマンチに戦いを挑む愚か者がまた現れおったわ」

手を地面につける。何か光が…?

「女子供とてイシュヴァール人ならば容赦はせぬ!」

突然無数の飛剣が私を襲った。

不意に横跳びに避ける。

危なかった。

…これが奴の錬金術!

「ほっほ。避けよったわ」

何がおかしいのか、常時ニタニタしている。

…気持ち悪い!

「いま斬り捨ててやるわ!そこを動くな!」

錬金術が途切れた瞬間を狙って一気に間合いを詰める。

兜割り!

が、弾かれる。

「剣と剣の勝負。それも一興」

錬金術師はいつの間にか剣を握っていた。

そのまま接近戦に持ち込む。

剣での戦いは明らかに私が有利だった。

数撃の後、相手の剣を弾き飛ばす!

よし、殺った!

「おのれぇ!」

また何かの光。無数の槍が私に殺到する。

「………!」

血が迸った。

 

迂闊だった。

不意打ちとはいえ、足に手傷を負った。

これでは満足には戦えない…!

「ほっほ。このジョリオ・コマンチを追い詰めるとは」

相変わらずニタニタしながら近づいてくる。

「しかし惜しかったな」

私の目の前にきて、剣を振り上げる。

私は眼を瞑った。

………。

………。

…あれ?

…私…生きてる?

ふっと眼を開ける。

そこには。

「う、うがああ!お、おのれぇぇぇ!」

左足から大量の出血をして蹲る錬金術師と。

「へ、へへ…アメ野郎に…一矢報いて…やったぜ…」

口から血を吐いて倒れるイリージャがいた。


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