希薄人間と緋色の探偵   作:鮫肌猫

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Case1 津島有栖 2

その...霊写アプリって、知ってますか?えっと、心霊写真風の加工が出来るとか、そういうのじゃなくて、本当に"心霊写真を撮れる"アプリなんです。私も信じていませんでした。ただ、たまたまそういうアプリを見つけて、面白そうだから使ってみようかな、って......

 

最初は楽しんでたんです。普通の、幽霊らしい幽霊以外にも小人とか、犬とか、色々な種類の幽霊が居て「最近のアプリはクオリティが高いな〜」なんて考えていました。

 

ただ、途中から違和感を感じ始めたんです。私の入れたアプリには幽霊の音声を聞く、っていう機能もあったんですけど、そのバリエーションが異常で。こういうのって普通、声優さんが必要じゃないですか。だから、声の種類には限界があるはずなのに、幽霊達はみんな声が違うんです。

 

機械音声みたいな感じでもありません。みんな生きているみたいに嘆いてて.....あっ、もちろん幽霊だから死んでるんですけれど、そのくらいリアリティが凄かった、というか。

 

......すいません。うまく説明できなくて。

 

とにかく、その事もあって段々気味が悪くなって。だからアンインストールしようかと思ったんですけど。その前に、一つだけ確認したい事がありました。

 

私、自分の家でだけはこのアプリを使った事が無かったんです。家で幽霊を見るのって、なんか嫌じゃないですか。でも、分からないままっていうのも、なんか嫌で、最後に家の中を写してみたんです。そしたら.....

 

 

 

──目が合っちゃったんです。今までとは桁違いに大きくて、ぐちゃぐちゃの化物と。

 

思わず悲鳴を上げて、そのまま携帯も落としたけど。その落ちた携帯から声が聞こえました。なにか、恐ろしい声が。

 

私はすぐに携帯の電源を切って、アプリもアンインストールしました。なのに、それからは家に居ると変な事ばかりが起こるようになったんです。私の頭に目掛けて物が落ちてきたり、何もない所で転んだり......

 

極め付けは悪夢でした。誰かが血を出して倒れてるんです。それが私には凄く恐ろしくて、悲しくて......起きた頃には毎回汗をびっしょりとかいていました。

 

最近はネットカフェで寝泊まりをしています。ずっとこのままというわけにもいかないけど、もしもまた自分の家に帰る、なんて事になったら......

 

 

 

 

「ふむ」

 

津島さんの話を聞き終えたスカーレットは少し冷めたコーヒーを飲み干す。

 

「つまり、君は見てしまったモノをどうにかして欲しい、と」

 

「...はい」

 

コクリと頷いた津島さんに、スカーレットは笑みを向ける。親切そうにも見えるが、単に彼女の興味を引いたというだけだろう。

 

「分かった、受けよう。話を聞く限りにおいては、興味の唆られる依頼のようだ」

 

「そ、そうですか」

 

津島さんが"そこが大事なのか"と言いたげな雰囲気を醸し出しているが、そうなのだ。困った事に、彼女にとってはそこが最も大事なのだ。

 

「どうぞ」

 

僕が二人にコーヒーを出すと、津島さんが幽霊でも見たかのような目でこちらを見る。どうやら僕は彼女の視界にも入っていなかったらしい。なるほど、居ないはずの人間がいきなり現れたとなれば驚きもするだろう。悪いことをしてしまったかもしれない。

 

「さて、依頼を受けるに当たって一つ聞きたい事がある。君に同居する家族はいるかい?」

 

「あ...いえ、居ません」

 

「──よろしい、それだけ聞ければ充分だ。では津島君、家に案内してくれ」

 

スカーレットは無造作に積まれた荷物の中からショルダーバッグを引っ張りだし、僕に目配せする。付いて来いという事だろうが、彼女にはもう少し待つという事を覚えて欲しい所だ。

 

「えっ...本当に、それだけで大丈夫なんですか?アプリの事とか.....」

 

「ああ、そのアプリの事はどうでもいい。真偽も含めてね。とどのつまり、君の家に行けば知りたい事は全て知れるのさ」

 

 

 

 

津島さんの家は街の中心を少し外れた場所に建っていた。予想外にも彼女の家は大きな一軒家であり、小さい庭や車すら持っているようだ。その津島さんはというと、この場には居ない。家に近付く事を嫌がった彼女は、僕等に鍵を預けて途中で帰ってしまった。

 

「......やはりか」

 

家を見たスカーレットがそう呟く。どうやら何かに確信を持ったらしいが、家を見るだけで何かが分かるものなのだろうか。

 

「何かを理解出来たのなら何よりですけれど....僕は何をすれば良いんですか?」

 

「見旗君は私に付いてきてくれ。ただし、幾つか注意しておこう」

 

スカーレットが真剣な顔になる。彼女のこういう顔は珍しい。重要な事なのだろう。

 

「まず、私達が何も見つけられなかったら窓を割ってでも即座に撤退する事。私が消えた場合も同じだよ」

 

「...スカーレットさんが消えるような状況は想像したくないですね」

 

「おや、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」

 

これに関しては間違いなく本心と言える。この手の現場では対怪奇現象の専門家と言ってもいいスカーレットが隣に居るという事自体が精神安定剤のようなものなのだから。

 

......単純に、彼女に死んでほしくないというのもあるけれど。

 

「次に、"恐ろしいもの"を見つけたら直ぐに私に報告する事。勿論私から離れたら駄目だ。悪いが、こうなる事は寧ろ望ましいからね」

 

「つまり、家の中ではスカーレットさんと離れてはいけないと?」

 

「そういう事になる。私の為にもね」

 

少し気にかかる言い方だが、単独行動をしないというのは基本的な事だろう。

 

「まあ、分かりました」

 

「物分りの良さは君の美徳の一つだ。さぁ、行こうか」

 

スカーレットが鍵穴に鍵を差し込む。ガチャリ、と。音を立てて、扉の鍵が開いた。

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