恐ろしい怪物を打ち倒した僕達は、病院に向かう......事は無かった。
「.....これ、骨が変に繋がらないかな」
「私の"治癒"はそんなやっつけじみた仕事をするようなものじゃない。当然、完璧なものさ」
「それなら良いんですけど.....服はどうにもならないな」
別に拳銃もどきを生み出すような珍妙な魔術ばかりを操る訳ではないというのがスカーレットの談だ。実際に彼女の魔術を受けて身体の痛みは急速に引いていた。
「色々と疑問はあるだろうが、まずはその服を脱いで体も洗うべきだね。外に出た時にどうなるかは不確定だが、見えずとも、あからさまに不健康だ」
「えっと、洗うというと......」
「この家でもシャワーくらいは浴びられる。水は止まっていないはずだ」
「......分かりました」
それはどうかとも思うが.....正直、痛みが引いてから死体が体にこびり付いているという現実を前に吐きそうになっていたので、助かる。
「代えには......うん、サイズもそう変わらないし、これを着れば良いだろう」
そう言ってスカーレットは自分を......というより、自分の服を指差す。まさか──
「それを着ろってことですか?ええと、スカーレットさんが今着ている服を?」
「ああ、都合の良い事に私は今男装している。つまり、本来男性が着るものを着ている訳だ。女性用の替えの服はあるから、君が女装をしたいと言うならそちらを渡すけれど.....」
「.....僕に女装癖はありません」
「ならこの服は風呂場に置いておこう。ショーツは要るかい?」
「女装癖は無いと言ったはずですよね?」
「ふぅむ、男装した麗人の服をそのまま着た場合、それは女装となるのかな。これは案外面白いテーマかもしれないね」
「.....」
「やっぱり似合うじゃないか。私の目に狂いは無かったようだ」
「......まぁ、はい」
如何にも知識人風な服を纏ったスカーレットが、揶揄うような口調で僕の服装を褒め称える。結局僕は彼女の意見を飲み、ホームズじみた服装になっていた。
「こんな話をするのもなんですけど、僕、スカーレットさんの事助けましたよね?」
「ああ、そうだね。君のお陰で私は負傷する事なく、あの存在を打ち倒せた。感謝しているし、私の代わりに負傷させてしまった事を申し訳なくも思っている」
スカーレットの目は....驚くべき事に本気だった。本気で感謝しているらしい。
「......だとすると、この仕打ちはあんまりじゃないですか?」
...単に話のネタのようなものだったが、動揺して引き摺ってしまった。
「ふぅむ.....時に見旗君。私のような美女の使用品というものは、ある層においては明確な価値を持つ。違うかい?」
あまりにも突拍子の無い話だが.....なるほど、確かに彼女の容姿は一般的に見て十分以上に美しいものだ。
「それは.....まぁ、否定出来ませんが」
そう、否定は出来ない。否定は出来ない、が....何か、とても、嫌な予感がする。
「ほら、君もその中の一人だろう?」
「はい?僕が?」
「...君は人の心理を読む事は得意でも、こういう時に自分の心を隠すのは不得手だよね。そもそも行動から透けていたじゃないか」
不味い、いつもとは違う動きをしていたらしい.....いや、待った。そもそも僕が彼女をそんな目で見ているという話からして心外だ。僕は──
「沈黙は肯定と見做そうか。何しろ君には大きな借りを作ったのだから、こまめに返済していくべきだろう?」
「......あー......」
スカーレットの発言には確信が伴っている。この事にはもう触れない方が良いだろう。大きな借りと言っても、彼女の性格ならすぐ踏み倒す....はずだ。きっと。
「それは、もう良いとして.....その、一つ聞きたい事があるんですけど」
一つ、この場に居る内に聞くべき事があるが、聞けるような状況ではない。咳払いをし、空気を切り替える。
「ここにある死体、どうするんですか?」
「君はどうしたい?」
「...えっ?」
まさか、逆に聞き返されるとは思わなかった。スカーレットの事だから展望はあるだろうと思っていたが。
「ふむ......そうだな。先ずは何故"こう"なったのかについて話すべきか」
一転して変わった雰囲気の中で、スカーレットは説明を始めた。