恋椿の花が咲くころに~コイせよオトメ~   作:幽美 有明

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命短し

 命短し恋せよ乙女。

 先人の言葉にこんなものがあるらしいけど。先人の教えってやつはどうしてこうも正しいんだろうね?

 女の美しい時は短いから、早く恋をしろってことなんだろうけどさ。まあ、女に限った話じゃないかもしれないけど。男はまあ、年を重ねると出る味もあるかもしれないし?

 私は女だから分からないけどさ。

 授業と授業の間時間。隣の机の子と話すのは当たり前のこと。内容が甘いのは少し当たり前ではないかもしれない。

 

「椿《つばき》ちゃん、それで先輩がね」

「ラブラブで何よりー」

「もう、ちゃんと聞いてよ」

 

 友人のコイバナ、いや惚気?

 それを聞くたびに私は思う。恋ができていいなーと。幸せそうでいいなーと、私は常々思うんだ。

 私も年頃の女なんだから恋をすればいいじゃないかって。えり好みしなきゃ、思春期の男子なんて簡単に彼氏にできるでしょって。極論を言えばそうかもしれない。でも、私には恋をする余裕も時間もない。恋なんて無駄なことに費やしてる時間は私にはなかった。

 無駄は、言い過ぎた。生物が繁殖する過程、人間の繁殖過程で言えば。恋は、恋愛は、愛は。必要なことだ。

 まあ、恋も恋愛も愛もない状態で生まれる子供だっているだろうけど。少なからずほとんどの人間は恋をして幸せになる。

 そのあとのことは、知らないけどね。結婚して浮気されるかもしれない。付き合ってる時に浮気されるかもしれないし。結婚して公開するかもしれないし。

 でも、恋はいいものだと。心では理解していても、頭がそれを否定する。

 

「最近は何とかして先輩を部屋に誘い込もうとしてるんだけど、先輩のガードが固くて」

「部屋で勉強教えて欲しいとかは?」

「もうやって駄目だったのー」

 

 恋愛よりも優先されることとは何か。人が生きていく過程の中で、子孫繁栄より優先されるであろう事柄は何か。

 私はそれを多分知っている。

 

「頑固だねその先輩も」

「そうなの! 未成年だからって軽いキスしかしてくれないし」

「それって、未成年じゃなくなったらしてくれるってことじゃなくて?」

「そうなの?」

「私に聞かないでよ」

 

 生きること。それが恋愛感情よりも優先されること。もし、命の危機を感じながらも恋愛感情を優先する人が居るなら、多分その人はおかしくなっている。己の命より、愛する者の命を優先するのは。生きるということに反していると私は思う。もちろん異議は認めるけど。

 

 私が恋をしない。出来ない理由は。生きなきゃいけないからだ。それ以外に今の私にできることはない。例外があるなら、生きていく中でこうして惚気話を聞くことくらいだ。そうすることで、私は疑似的に恋ができる。

 でも、その先に待っているのは。切なさと妬みと羨ましさだけだ。私にはできないことを、私が夢見るしかできないことをしている。彼女たちへの嫉妬。その感情が嫌で、でも話を聞くことがやめられない。

 結局私も人間で、乙女なんだと思う。それどころか、私の方がおかしいのかもしれない。

 

「椿ちゃん、卒業したら先輩にすごい事期待してもいいのかな」

「さーね。その時にならなきゃわからないでしょ。大人にならなきゃ」

 

 私は大人になれるのだろうか。

 それは精神的な成熟と言う意味もあるけど、肉体的な意味もある。私は成人を迎えられるのだろうか。それまで生きて行けるか、私には正直解らないから。

 約束された生は存在しない。でも、何となくの未来を予想することはできる。私はその未来が少し先から真っ暗で何も見えない。

 

「早く大人になりたいな。子供のままじゃ、先輩を支えることもできないし」

「普通は涙が支えられる方なんじゃないの」

「そうだけど、先輩って色々抱え込むから支えたいの。男の人ってみんなそうなのかな」

「さー?」

 

 男のことを聞かれても私にはわからないし。女である自分の事すらもわからないし。人生全てがわからないことだらけだ。未来なんてもっともなことだし。

 

「涙は自分の未来がどうなってるか、想像したことある?」

「うーん、妄想はしたことあるよ。先輩と結婚してイチャイチャするところ」

「楽しそうね」

「楽しいよ。未来はどうなるか分からないから、楽しいの」

 

 未来に対する不安も恐怖も。愛の前では些細なことなんだろうか?

 

「不安はないの?」

「あると言えばあるけど。先輩と一緒なら乗り越えられる気がするんだ」

「惚気ね」

「だって、本当にそう思ってるんだから仕方ないじゃん」

 

 涙が言葉にしなくてもわかる。目がそう語っているから。一人で歩む未来より、二人で歩む未来なら。どんな困難も乗り越えられるって。

 少しだけそれが羨ましい。

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

 授業開始のチャイムだ。先生が教室に入って来た。

 

「またあとでお話しようね」

「惚気じゃないのがいわ」

 

 でも、次の話も多分惚気話だ。

 

 

 

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