終結プログレス 作:カモカモ
◆点数集めマッサージ
「うん?」
リビングに一枚のカードが落ちていた。一体なんだろうか、と久佐持丹月が手に取ってみると何かのポイントカードのようであった。
「んー」
随分年季が入っているようで、うっすらと店名の印字が薄れているが、按摩と書かれているのがぎりぎり見えた。
なるほど、マッサージ。そして、丹月のものではないとなれば。
「めずらしく目覚めたんだな丹月」
確実に同居人のものだろう。
「毎日目覚めてるんだよなあ。 おはようございます百さん」
「ああ、おはよう」
今日も今日とて、ジャージ姿の彼女は大爆発を起こしている頭をボリボリ掻きつつふわりとあくびをする。
「寝癖すごいことなってる」
元々、触角のようなものが前髪に横たわるようにして生えている百だが、それが今はピンと前を向いていた。
「別に、誰かに見られる訳じゃないから構わないだろう」
「俺が見てるんですけど」
「今さら、お前に見られたところで何か問題が?」
あるかないかで言えば、全くもってないのはないが。
「触ると刺さる」
触角により、手を跳ね返される。
「触るな」
そう言いつつ、百は丹月の手を払いのけない。
「そういえば」
触角で遊んでいたせいで、本題を忘れていた。
「これ、百さんのですか?」
「……ああ、私のものだな。 ここに落ちていたか」
「マッサージとか行くんですね」
百は手渡されたカードを玩びつつ、
「学生の頃からな……」
「なんかやけに哀愁漂ってますけど」
勉強のしすぎとかだろうか。
「百さんの場合、俺みたいに徹夜で連日ゲームしてたとかじゃないだろうし」
「勉強ではない、な。 その頃から、物理的に重みを感じるようになってだな……」
「あっ(察し)」
物理的な重み。
「あー、言ってくれれば、肩揉みとかのマッサージくらいならやりますよ?」
「へんたいくさもちめ」
「冤罪がすぎる!」
◆跳ね飛びカップラーメン
三分。
それは、神が与えた時間。
これを長いと感じるか、短いと感じるかは人それぞれであるが、斎賀百にとって三分待つということは呼吸をするかのように当然の行為である。
「偉そうに言ってますけど。 普通にカップラーメン作ってるだけですよね……?」
「そうだが?」
なにか問題でも、と言いたげに見つめてくる目に久佐持丹月は肩をすくめる。
「しかしだ、丹月。 そもそも、カップラーメンとは、もとはいわゆる袋麺を食べる際にどんぶりを用いる文化がない人たちも食べやすいようにと開発されたものだ」
「なにか始まった……」
「そして、この三分というのは、不快を覚えずにギリギリ待てる時間、ということで設定されているんだ」
この女性は、その聡明な頭脳にカップラーメンの知識を詰め込んだのか……、と丹月は戦慄する。
「と、学○の学習漫画に書いてあったんだが」
「○研かあ……」
「しかし、こう考えると、あながち神によって与えられた時間というのも間違えではないだろう?」
「そうかなあ……」
そうかも……、と丹月が思考の迷宮に追いやられていると、ピピピと百の端末が鳴った。タイマーを設定していたらしい。
「まあ、私のマイブームは、2分半なんだが」
「三分の力説はなんだったの」
◆
ずぞぞぞぞぞー、と麺をすする音が響き渡る。
「百さん」
「ん?」
「ネギ、ついてるよ」
「ん、ああ」
ずぞぞぞぞぞー、と麺をすする音。
「取らないのか……」
丹月は呆れつつ、手をのばす。
指先に、柔らかな感触が返ってくる。ネギは無事に取れた。
無事に取れたが。
「ぴ………………!?」
「あれ? 百さん。 百さーん?」
百、完全停止。
これが、斎賀の女が持つ恋愛クソザコ遺伝子が為す恐ろしき呪いであることを、丹月はまだ知らなかった──。
「待って、百さん息してますか!?」