終結プログレス 作:カモカモ
結婚。
今は意味合いが変わりつつあるが、それでも自分の実家ー斎賀家では、まだまだ一人前の証のようにとられたりする。結婚して、子供を、跡継ぎを作って、家を存続させる。そうして始めて、安心できる、らしい。
といっても、一昔前のように良い家柄の者と結ばれなければならない、みたいな堅苦しさはなくなっているのも事実だ。現に、妹の恋心は、家をあげて全力で応援している。
もっとも、姉の応援は、余計なお世話過ぎるとおもうが。現に昨日も、姉は妹の部屋から叩き出されていたらしい。確実に自業自得だろう。
そんなことを考えていると、
「さあ、そろそろ観念しなさい、百。いずれの方も、条件、家柄共に問題ないはずです」
「だから、私はお見合い何てするつもりは」
「だまらっしゃい。そもそも、聞きましたよ。あっちの世界で悲願を達成したと。それならば、以前ほど忙しくはないはずです」
斎賀百は、姉の仙から一息に捲し立てられて、一瞬言葉に詰まる。
まさか、あっちの世界での事を、把握されているとは思っていなかったのだ。
「だが、忙しさはそう変わっていな」
「それに」
ピシャリと姉が言い放つ。
「百。あなたは、約束をたがえるのですか?」
「ぐっ」
以前、といっても一月程前の事なのだが、リュカオーン討伐の大詰め段階で今回のようにお見合いを持ち込まれて、その時は目標達成までは、と言って断ったのだ。
「あなたは、確かに目標達成したら姉さんのお願いは、何でも聞くと言いましたね?」
「まて、そうは言ってないぞ」
「些細なことです」
かなり大事なことだ。この姉に、何でもなんて言うとどうなるか分かったもんじゃない。
「見合いをするとは、確かに言ったが……あ」
思わずそう反論すれば、姉はニヤリと笑った。
「おや、そう言えばそうでしたね。ならば、この釣書から一人選びなさい」
やられた。DITF法を使われた。
姉がしてやったりの顔で、五冊分の釣書を渡してくる。逃げ場はどこにもない。
斎賀百は、深刻に痛みだした頭を押さえた。
昨今、ゲーマーという人種は、そこまで異端な者と見られることは少ない。ただ、それでも旧時代の遺産のような家同士の見合い何てものを、現役で行うような家柄では、やはりゲームという「遊び」に対しての評価は低いと言わざるを得ない。だから、ただ一人趣味欄にオンラインゲームと記されていた男には、若干の興味を持った。
「姉さん、これで」
「分かりました、先方と話を進めます。ところで百、あなたしっかり選んだのですか?」
その質問を、背中で聞き流しながら、百は居間の襖を開ける。背後で、姉がため息を吐く気配を感じた。
◆
自慢ではないが、百は百戦錬磨のお見合い熟練者である。その培われた経験から生まれた特技は、破談に持ち込むことである。
我ながら酷いなと、苦笑した。
(百、何が面白いのですか!)
(おっと)
姉に見咎められて、あわてて表情を取り繕う。
お見合い百戦錬磨の斎賀の女達は、唇の動きを読む程度の能力を有するので、百と姉の今の会話は相手方には悟られてないだろう。
「いやはや、お綺麗なお嬢様ですね」
口許だけで、そのお世辞に返事をしながら、
(このあと、これを即座に終わらせれば、恐らく19時にはログインできる……今日は指揮官が私含めて二人……しかし、草餅のやつも今日は予定があるとかで、遅れる可能性があると言っていてな……だが、ライブラとの交渉もあるからな……別働隊をもうけるか)
思考をあっちこっちに飛ばしていた。
あとは、若いお二人でタイムに突入した。
ここからが、百の破談持ち込みTA(タイムアタック)が始まる。といっても、難しいことは何もない。なぜか、百がつまらなさそうにしていると、相手が萎縮して破談になるのだ。
それはそれで、思うところがないわけではないのだが、まあまあ便利なので改善しようとは思わない。
特に、今日の相手はそんな百に話し掛ける勇気もなさそうなので、あと二時間もすれば斎賀百はサイガー100としてあっちの世界に飛び立てるだろう。
だが意外にも、
(おや?)
相手に動じた様子が見られない。普通の相手なら、この時点でもう顔色が悪くなったりするのだが。
そして、意外と度胸がある今日の相手は口を開いて、
「今日の夜は、ライブラとの交渉に、俺は行かなくても大丈夫ですかね、団長?」
「誰だ貴様」
割りと本気で睨み付けた。
団長と呼ぶということは、黒剣のメンバーか。いや、しかし、そんなことが起こるのか。クランメンバー同士が、偶々見合いをすることになるなんてことが。
百は、警戒を強める。百の中で今日の見合い相手が一気に、危険人物へと格上げされる。
返答次第では。だか、相手は両手をあげて、
「ちょ、ちょっと待ってください、冗談ですから!草餅です!というか、釣書見た時点で、ちょっとは察しているものと思っていました!」
「は、草餅?」
そう言えば、今日の相手方の名はなんだったか。確か、漢字は久佐持丹月。くさもち。草餅。
なるほど。
「……草餅、貴様ネーミングの理由が安易すぎないか?」
「……それ、団長が言います?」
百はそっと目を反らした。
「偶然って恐ろしいな……」
「そうですね……まさか、一番上に積んであった釣書が団長のだったなんて……」
中身すら見ていなかったらしい。相手の方が、百より不真面目だった。似たり寄ったりではあるが。
「待てならば貴様、どこで私だと気づいた?」
「最初の自己紹介と、あと殺気ですかね」
「ほう……つまり貴様は、私が常時殺気を放つような女だと思っていた、というわけなんだな?」
「失言でした!」
再び、彼は両手をあげる。降参の意を示しているのだが、どうしてかおちょくられている気がしてならない。
そして、百達はリアルエンカウントしたことを幸いに、色々と打ち合わせを始めることにした。
「それで、今晩どうしますか?」
「ああ……ライブラとの交渉、私の代わりに行ってくれないか?」
「だめっすよ、それは普通に」
「なら、命令だ」
「どんだけ行きたくないんすか……」
「なんだ、貴様も私と同じ口か」
「そうですね……忙しいって誤魔化してたら、いつの間にかリュカオーン討伐成功について知られていて……」
「一体どこから入手してきたんだ……」
「さぁ……?」
「なあ草餅、お前今後の見合い避け用の簑にならないか?」
「あー、あれば便利っすね」
「じゃあ、進めるか」
「そうしますか」
「それじゃあ」
「せいぜい末長く」
「「よろしくお願いします」」
その日、サイガー100は結局あっちの世界にはたどり着けなかった。前向きな返事を姉にしたところ、検査入院を勧められたためである。
一体、自分をなんだと思っているんだあの姉は。
なお、ライブラとの交渉は足元をみられまくったらしい。