終結プログレス 作:カモカモ
◆赤色ハロウィン
久佐持丹月が外出から帰ってきたら、無言の同居人が玄関で腕を組んで立っていた。
「…………」
「………………」
一度扉を閉めて、部屋番号を確認。どう見ても、自分達の部屋だった。
「ふーーーーー」
きっと、自分は疲れている。そうにちがいないので、目元のツボを押した。
再度、扉を開く。
「………………」
「…………………………なにやってるんですか、百さん」
「なにって……ハロウィンに決まっているだろう、丹月。 因みに、結構今後悔の念が沸き上がってきている」
「そうですか」
ならやらなきゃ良いのに、と丹月は思う。
第一、これは。
「……赤ずきんですかまさか」
「そうだ、見たままだが」
「見たまま……?」
見たままだと、赤ジャージ女がその上に赤いケープで頭に頭巾、当然こちらも赤である、を被っているというある種シュール極まりない状況なのだが。
「俺じゃなきゃ、泣いてますよこの光景」
「どういう意味だ」
言葉通りである。
「なんでまた、こんなことを」
「ハロウィンということで仙姉さんが、夜なべして」
「あっ、もういいです」
いつものだった。
「この場合、俺の配役はどうなるんですかね」
「ほれ」
示されたのは、ザ・コスプレ量産品な狼男コスチューム。
「まあ、ベタなラインですね」
「それで、丹月。 トリック・オア・デッド」
「殺意、高っ」
「当然だろう────。 赤ずきんは、狼殺しのプロだからな────」
「話の要点ねじ曲げすぎでしょ、プロなのは通りすがりの狩人さんですよ」
そんなじゃれ合いをしつつ。
普通にトリートって言ってくれれば、良いのにな、と思う。
珍しく、立ち寄ったケーキ屋で、せっかく一緒に食べようと購入した限定スイーツがあるのだが。
「ほれ、丹月。 トリック・オア・デッド」
「選択の余地無さすぎですよ。 ──デッドで」
「デッドでいいのか!?」
まあ、きっと。
この後に二人で食べる、スイーツは美味しいだろう。
なんとなく、そう思った。
「頚骨をずらすのが、一番手っ取り早いのだが」
「あっ、まって、この人ガチで殺れる人だった!」
◆多言語ファスナー
「ファスナーがしまらん」
同居人たる斎賀百の言葉に、久佐持丹月は頭に鈍い痛みを覚えた。
「チャックが上がらん」
「連続で言われなくても、わかりますよ」
赤いジャージの胸元には、斎賀という文字が縫い付けられている。正真正銘、百が高校時代から着用を続けている体操服である。
それを着用し始めてから、今まで色褪せはしているが大きな損傷はなかった耐久力は素晴らしいものがあるのかもしれない。
しかしながら、残念なことに、今日を持ってその使用記録は途絶えてしまうのかもしれない。
あろうことか、ジャージをジャージ足らしめるジッパー部分が、下から半分以上閉められなくなってしまったのだ。
「これは……ラーリェンのせいではないな。──草餅め」
「なんで、俺のせいになるの。 あと、その、ラーリェン?ってなに?」
ラーリェンとは、中国語圏の単語であり。
「ドイツ語で言うところの、ライスフェアシュールスだ」
「日本語で説明してほしいなあ」
「YKKがトップシェアだな」
「普通にチャックって言ってくださいよ。 なんで、多言語での言い回しに詳しいんですか」
なぜYKKでわかるんだ、と返された。
大抵はわからないとわかった上でそんな迂遠な説明をしたのか、と返す。
「それで、お前のせいという点だが」
「だが?」
わずかににらまれる。これは、いわゆるジト目、というやつなのかもしれない。
「以前は、つっかえていなかったものが、つっかえるようになったからだ」
つっかえているもの。
すなわち、チャックを閉めるのを阻害する程度には盛り上がったもの。もっといえば、ジャージの下のシャツも、押し上げているもの。
……なるほど。
「事実無根、だったらよかったな…………」
「草餅め」
「俺が悪い…………まあ、うん、俺が悪いですね、はい」
「分かれば、いい」
ジジジと、百は上半分もチャックを上げた。
「…………上げられるじゃねえか! さっきまでのやり取りはなんだったんですか!」
「茶番だな」
「自分でいわないでくださいよ」